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戦う男

 ドラゴンボール。ラブコメ。

 愛を得るための戦いがある。愛を守るための戦いもある。
 この日、この時、この場所にも、そんな戦いがあった。







「思うんです。女性にばかり家事を押し付けるのは間違っているし、料理って創造的な仕事だな、と。どれほど探求してもまだ頂上は見えない、偉大な文化ですよね。料理って」
 うん。その意見は間違ってないわね。食べることが大好きなあんただから、真剣に本気で話してるのもわかってるわ。眼がマジだしね。
「それに、僕は幸いにして、誰かのために心を込めて手作りした料理の温かさ、単なる技術だけじゃない+αの美味しさを知っています。お母さんの料理が美味しいのは、技術の素晴らしさだけじゃなくて、お父さんや僕や悟天に美味しい物を食べさせてあげたい、喜んで欲しい、という気持ちが最高の調味料になっているんだと思うんです。感傷だと言われるかもしれませんけれど、少なくとも僕にとっては真実です」
 あー、あんたイイ子ねー。今のはチチさんが聞いたら喜ぶわね。多少マザコン気味かもしれないけど、夫がアレだったせいで苦労したチチさんは息子に報いてもらうべきだとも思うし、それにこの子はなんだかんだ言っても意思は強いし最終的に己を押し通す気概があるわけだから、母親に優しいのも母親の功績を認めてるのも家族想いなのもいいことよねー。ていうか、その上で彼女ラブを両立させてるしね(なかなかの手腕よね。天然のくせにね)。
「それに、僕は、努力はいつか何らかの形で報われるのだと信じています。いえ、直接的に願った通りの結果が得られるという意味ではなく、別の形で報われる、ずっと未来になってこの時の努力が今の己の土台になっているのだな、と理解できるという意味で。だから、真剣にがんばることは、決して無駄ではないと信じています。たとえ失敗したとしても、その経験が僕にとって何らかの糧となるはずなんです」
 おお、強い。さすが、4歳から戦場に立った男はそこらの同い年の少年と気構えが違うわね。そうよね、あんたはいろんな経験を乗り越えてきたんだもんね。幼い頃から余りに強過ぎたからうっかり失念しそうになったこともあったけど、普通の地球人の少年ならまだ守られていていい歳(あんたの父親でさえ戦ってはいなかった年)に、既に一人前の戦力として頼りにされてたものね(ゴメンね。まだ幼かったのにあたしたち大人が守ってあげなくって、ゴメンね。悔いてる。子を持つ親となった今は)。そりゃあ強くなるわけよね。
 でも・・・・・・・強過ぎね。
「だから、僕は諦めない。今回は失敗かもしれないけれど、僕はこの経験を糧にして前へ進んでみせます。僕の願いを叶えます」
 拳を握り締めてそう力説した孫悟飯は、近頃稀に見るほどの、青年の主張大会に推薦してやりたいほどの好青年だった。言っている内容だけは。
 いや、悟飯君は誠実で真面目な好青年だ。それはわかっている。あたしは、今はもう滅んだ星の血を持つ男たちの中で、ある意味では彼を1番信用しているかもしれない。だってこの子、無茶しないし(基本的には)、イタズラもしないし(真面目だから。その代わり時に冗談通じないけど)、話通じるしね。
 でも・・・・・・・今は話通じないけどね。
 それでも、またこみ上げてきた吐き気に耐えて、あたしは彼を説得する言葉を紡ごうとした。それが、彼の父親孫悟空を人界に導いたあたしの役目なのだ(そう、全ての冒険の発端はあたしなんだ)、と己に言い聞かせながら。
 本来ならこんなのあたしの役じゃないと思うのだけれど、真っ先に彼を諌めるべき両親は、やはり真っ先に犠牲になって意識不明の重体。弟の悟天くんは身体的被害はさほどではないらしいけど精神的衝撃が大き過ぎたらしく、リビングの隅でシクシク泣き続けている。その親友であるあたしの息子トランクスは、トイレの住人になって出てこない。夫ベジータは、強健を誇るサイヤ人の血に掛けて倒れることだけは堪えたものの、リビングの壁に寄りかかって呻いている。父さん母さんと居候のウーロンは、青い顔してソファに横たわったままピクリとも動かない(救急車呼ぶべきかな)。真っ先に被害にあった孫家に引き続き、このカプセルコーポ家も壊滅状態だった。
 宇宙で5指に入るだろう男たちのうち、孫悟飯を除いた全員がもはや戦闘不能状態だった(それどころか生死が危うい。特に最初の被害者孫君が)。
 全ての悲劇を巻き起こした、恐るべきアイテム。ソレは、まだ悟飯君の手の中に残っていた。
 そのアイテムとは・・・・・・・・・・手作りお菓子。
 勤勉で実直で誠実で家族想いなのに彼女も大切にする、成績優秀で運動神経抜群(ていうか人類の規格を遥か超えてるけど)の孫悟飯君。割と顔可愛いし背高くてガタイいいし、ということで天然と大食いを愛嬌として許容してしまえば完璧に近しいかもしれない素晴らしい好青年である彼の、手作りお菓子。
 ソレは、余りに恐るべきアイテムだった・・・・・・・・・・・・・・






 バレンタインデーに女子がチョコを意中の男子に渡すという風習は完璧に企業の創作だったけれど、もはや定着している馴染みの風習だった。けれど今年は更に新しい趣向が盛り込まれていて、『好きな女子からチョコをもらった男子はホワイトデーに手作りお菓子を返す』というのが流行らしい。近年の家事平等分担制を反映した、なかなか素敵な趣向だと思った。あたしも、最初は。
 まさか、この、罪がなく見える流行がこれほどの惨劇を生み出すだなんて、誰に予測が出来ただろう。
 災厄は、1時間ほど前に訪れた。
あたしは前日、チチさんと電話で話をしていて、「うちの悟飯ちゃんはビーデルさんからチョコもらったらしいだ。なんか、今年は男がお菓子作ってお返しするのが流行りらしくってよ、悟飯ちゃん、今台所で張り切っててな」なんて話を聞いた時には、「へえー、さすが悟飯君ね。ビーデルさんも幸せ者ねー。うちのベジータにも、お菓子を作れとは言わないけど、その心根を見習って欲しいもんだわ」なんて返していた。チチさんも、「だべなー。悟飯ちゃんはええ夫になるべ。悟空さと違ってな」なんて言って笑っていた。それが前日のこと。
 そして、今から2時間ほど前に孫家から電話が掛かってきた。掛けてきたのは、悟飯君。あたしは前日の会話の中に出てきた手作りお菓子が気になっていたのでそちらに話題を振ると、悟飯君は上機嫌でこう言った。「お母さんブルマさんにも話しちゃったのか。そうなんですよ、昨日は1日お菓子作りしてました。本に載ってるの片っ端からいろいろ種類作ってみたから誰かに味見して欲しいんですけど、そちらにお邪魔してる悟天を迎えがてら持っていっても構いませんか?味見してくれません?」、と。声は朗らかで一片の曇りもなかった。
 だからあたしは、愚かにも迂闊にも、「いいわよ。むしろ大歓迎。楽しみだわ」なんて言ってしまったのよね。ああ、2時間前のあたしのバカバカバカ。
 でもね、悟飯君は賢い子だから、そもそも我が家を味見要員としてターゲットにしていた気がするのよね。だって、「でも、味見なら孫君がしたがるんじゃない?それに、料理上手なチチさんの方があたしより的確なアドバイスできそうだし・・・・」と言うと、「お父さんには最初に味見してもらいましたよ。で、今食べ過ぎちゃったらしくって寝転がってます。お母さんはお腹空いてなかったみたいで1つしか食べてくれなくて。まだまだいっぱいあるんですよね」と返してきた。この言葉の真相は、『見た目がまともだからって油断して一気にたくさん食べた孫君は、その昔ムカデの丸焼きとか普通に食べてた超絶頑丈な消化器官の持ち主だというのに、ダウンした。普通の地球人のチチさんは、当然1つでダウンした』という状況。
 悟飯君は、賢い子よ。『嘘』と『隠し事』の違いを理解できるぐらいには、賢いわ彼。そうよね、悟飯君は1つも嘘なんてついてない・・・・・・・・・
 ただ、悟飯君の手作りお菓子は生死が危ぶまれるほどにマズい!!、という事実を言わなかっただけだものねっ!
 というわけで、孫家に引き続きカプセルコーポ家も全滅状態。あたしはテーブルに突っ伏した状態で起き上がることができない。家族も全敗。どんな凄い敵ですら、これだけの面子を一気に潰したりできないはずよ。すごいわ、悟飯君の手作りお菓子。最終兵器と呼ぶべきかもしれない。

 それぐらい、本当に、本当に、ものすごかった。凄まじかった。
 見た目はね、普通なの。ちょっと歪だったりするのが手作り感出てて微笑ましいと思ったわ。トリュフ(に似た最終兵器)も、ガトーショコラ(に似た最終兵器)も、生チョコ(に似た最終兵器)も、フォンダンショコラ(に似た最終兵器)も、チョコレートムース(に似た最終兵器)も、その他諸々の手作りお菓子も、外見はマトモだった。けど、味がね。味が・・・・・・・・・・・・
 ピリピリと舌を刺す、毒を盛った?と問いかけたくなるような不吉な苦味。べたりとこびりつき胸を塞ぐ不快な甘味。悪寒を伴う強烈な酸味。炭の味と生焼け部分の気持ち悪さが絶妙なバランスを保つ食感。ツンと鼻に突き抜ける異臭。
 食物としての限界を軽く超えている手作りお菓子(という名の最終兵器)を口にすると、頭が事態を察するよりも早く身体が拒絶反応を示した。こみ上げてくる吐き気、背中には冷たい汗が伝って、手足は震えて力が入らない。視界は暗くなって、涙目になり、耳の奥で音がこだましてくる。・・・・・凄まじい。
 なのに、こんな危険物を作成した当の本人はやけに呑気だった。
「ボク、昨日作ってる最中に味見し過ぎて味覚が麻痺しちゃって、味がわかんないんですよね。だから教えてもらおうと思ったんですけど・・・・・・とりあえず皆に食べてもらった分が失敗だったようなのは理解できました。けど、まだ何種類か残ってるんですよね。もしかしたらこの中には成功作があるかもしれない・・・・・ビーデルさんに食べてもらえるレベルの成功作が。うん、やっぱり次は亀ハウスにお邪魔しよう!」
 戦闘民族サイヤ人の血を引き、常人とは比べ物にならないほど頑健な消化器官を有しているはずの自分の舌が1日経っても麻痺している、とはどういうことか聡明な悟飯君なら察せられてもいいはずなのに、初めての恋に手加減なしでのめり込んでいるらしい彼は、その事実が意味するところを汲み取るつもりはないようだった。そして、希望に満ちた明るい顔で新たな犠牲者を増やすことを宣告する。
 止めなくちゃ。
 この、暴走する恐竜よりずっと恐ろしくやっかいで迷惑な子を、何とかして止めなくちゃ。絶対に、そのうち人死にが出るわ。ええ、きっと。




 使命感に駆られたあたしは、眩暈と気持ちの悪さと戦いつつ、何とか口を開こうとした。その時。
 壁に寄りかかって呻いていたはずのベジータが、覇気がない(顔色も悪い)様子ながらも音もなく悟飯君の横に立っていた。ベジータは顔色が悪く(紙のように白いわ)立っているのも苦しそうなのに、それでも気力を振り絞って、一瞬でスーパーサイヤ人2になる。そして、「ああそうだ、もし亀ハウスでもダメだったらカリン塔に行ってカリン様とヤジロベーさんに味見してもらうという手がまだありましたね」なんて悪夢の計画を語ってる恐るべき人間兵器の腹に拳を叩き込んだ。
 グハッ、と呼気を漏らして油断していた悟飯君が昏倒する。
 すごい!えらいわベジータ!!
 あんたのおかげで多くの人が救われたわ!あたし、妻として誇らしいわよ!
 そう褒め称えたくてあたしがテーブルからノロノロと起き出すと、超化を解いたベジータはふらりと揺れた。
 ベジータッ!?
 あたしが叫ぶ直前に、超スピードで現れたピッコロがベジータを支える。
 え?ピッコロが何でココに?
 不審そうなあたしの視線に気がついたピッコロは、苦い物でも噛んだみたいに顔を顰めた。一瞬消えた意識を取り戻したベジータがピッコロの手を振り払い、ふらふらと向き直る。あたしを背に庇う形で、ベジータはよろけながらも構えた。
「何をしに来た、ピッコロ?」
 ベジータの声が低い。体調は絶不調ながらもベジータの闘気は本物だった。鋭い眼差しで突然現れたピッコロを睨む。空気がピリピリした。ベジータは戦闘態勢だ。
それでやっと、あたしは、ベジータが何を危惧しているのかを理解した。ピッコロは水以外を食さないナメック星人だ。だから、悟飯君が作り出してしまった最終兵器の威力をよくわかっていないのかもしれない。それで、愛弟子を庇いに来たのかも。もしそうならば、何とかしてピッコロを説得しなければ。悟飯君を野放しにしておいたらヤバいということをわからせなくちゃ。
あたしはベジータに加勢すべく口を開こうとした。だが、その前に微妙に顔を逸らしたピッコロが、こう言った。
「悟飯はこちらで預かろう。神殿に『眠りの間』という部屋がある。この部屋に入れられた人間は、約1週間目覚めない」
 今日はホワイトデー5日前。今日から1週間後には、ホワイトデーは完璧に終了している。
 意外なことに、ピッコロの言葉は愛弟子に味方するものではなかった。わけがわからない。ベジータが眉を寄せて問うた。
「・・・・・・・何故だ、ピッコロ?」
「ここに来る前に悟飯は神殿に寄っていてな・・・・・・・ミスターポポが100年ぶりに熱を出して倒れた。今、デンデがつきっきりで癒している。オレは、師として悟飯を諌めるべきだと判断した。食え、仙豆だ。人数分持ってきた。先にパオズ山に寄ってきたが、孫は久しぶりに閻魔様に会ったと言っていた。頼む、早く食ってくれ。オレは悟飯にこれ以上罪を犯して欲しくないんだ・・・・・!」
 悲痛な声だった。ピッコロが弟子の悟飯君を大切に思っていることは、誰もが知っている。自分が被害に合う可能性がないのだから、このはた迷惑な人間兵器を盲目的に庇うかもしれない、と思われたほどに。
けれど、悟飯の師であるピッコロは正しい選択をした。
 おかげで、世界に平和が戻った。 




仙豆のおかげで回復したあたしたちは、意識を失った悟飯君を担いで飛んでいったピッコロの後姿を見送った。
 頼んだわよ、ピッコロ。世界平和はあんたの手に掛かってるんだから。
 あたしはふと、無類のお菓子好きでサイヤ人よりも更に丈夫な消化器官を所有しているはずの魔人ブウ(ビーデルさんちの居候)ならこの味見につきあってくれたかもしれない、と思ったが、この悪夢の手作りお菓子のせいでブウが悪に目覚めそうな気もしたので黙っていることにした(また地球を巻き込んだ戦いになったら困るわ)。
 あたしのパパとママとウーロンは身体が回復してもショックは大きかったので、今は自室で休んでいる。まだシクシク泣いていた悟天君(尊敬する大好きなお兄さんのことだから、衝撃が大きかったのね)は、トランクスに手を引かれてリビングを出て行った。喧嘩もよくするけれど無類の仲良しの2人だから、悟天君はトランクスに任せておいて大丈夫だろう。きっと、慰めてくれるはず。
 だから、あたしの隣に立って一緒に空を見上げていたのはベジータだった。ずっと険しい顔をしていたベジータが、口を開く。
「もし今度があったら、オレはカカロットとフュージョンしてあいつを止める・・・・・・」
 決意に満ちた口調だった。あんなに孫君とフュージョンするのを嫌がっていたベジータが自分からこう言い出すのだから、どれだけ本気かよくわかる。戦いが終わり悟飯君は普通の生活を送っているから、今では日々トレーニングに明け暮れるベジータの方が力は上だろう。勝つのは無理じゃない。けれど、それは殺すことも辞さない場合だけだ。ベジータはもう昔のベジータじゃないから、人を殺す痛みを知っているし、悟飯君を『仲間』として受け入れているとも思う。だから、感情の箍が外れるとすごい力を発揮する悟飯君を殺さずに止めようと思ったら、フュージョンで圧倒的力を得るしかない。
 ああ、ベジータは己の苦痛(フュージョン嫌がってるのにね)よりも、あたしたちを守ることを選んでくれた・・・・・・
 あたしの胸が熱くなる。逞しく頼りがいのある夫の肩にこつんと頭を乗せて、あたしも言った。
「世界一の大企業カプセルコーポの社長として宣言するわ。あたしが生きている限り、二度と『ホワイトデーには手作りお菓子でお返しを』なんて流行を許さない。そして、、あたしが死んだ後でもトランクスがきっとあたしたちの意思を継いで地球を守ってくれるわ。・・・・・ねえベジータ、あたしたちは負けないわよね?」
 あたしの決意もまた本気だったが、それでもまだ不安が拭えなくて(悟飯君は粘り強い子なのよ)語尾を震わせると、ベジータがぐっと抱き寄せてくれた。そして、力強く言い放つ。
「もちろんだ!」
 あたしはベジータに抱きついた。ベジータはあたしを強く抱きしめてくれた。
 あたしたちは、しばらくの間ずっとそうやって、『彼』が眠る神殿に続く空を見上げていた。
 空は、青く澄み渡っていた。





 愛を得るための戦いがある。愛を守るための戦いがある。
 愛故に、戦いは無くならない。
 さあみんな、愛ある限り戦いましょう!


【おしまい】

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