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ぬらりくおと秘密の部屋

 ぬら孫 リクつらss。

 バレンタインの話です。
 くれぐれも、予告編を先にお読みくださいませ。

 ところで、最近知ったのですが日本の18禁アニメは海外で、『HENTAI』と呼ばれているらしいですね。で、江戸時代から触手エロや女体化や男の娘や下剋上などのエロが存在する日本はHENTAI満載の国であると、誤解、・・・・いや別に誤解じゃないな、文化が爛熟すると変態性も出てくるのが当然なわけだし、うん、我らの文化は成熟しているのだ、というわけで、そう認識されているらしいです。

 ・・・・・えーと、わたしが何を言いたいかわかりますか?つまり、『リクオ様は日本男児である』と言いたいわけです。
 
 では、発言の意図を理解してくださった方のみ、以下へお進みくださいませ。

〈2/14 AM0:47〉


 白。
 ただただ清く儚く、そして毅いこの色に、オレは、物心ついた頃から魅了されている。
 西行は死に場所に桜の下を望んだが、オレは、この命が潰える瞬間は雪の中で迎えたいと思う。儚くも毅い白に、柔らかくオレを抱きとめてもらえたら、どんなにか幸せだろう。
 人生の始まりの記憶がこの雪白なのだから、最期も同じがいい。真っ白な雪に抱かれて旅立つならば、浮世の艱難辛苦も全て受け止めた上で、善き生であった、と閻魔の前で言えるから。言ってみせるから。
 
 だから、オレの白雪よ、どうか、オレの想いを受け止めてくれ!



「カッコいい言い方なさっても、ダメです」
 オレの白雪こと雪女のつららは、渾身の口説きをあっさりと却下した。いつもなら流されてくれそうなもんなんだが、今日のつららは、かなり手強い。
 だがそれも、自業自得なのかもしれねぇ。
「リクオ様、この部屋は、この衣装は、デジカメは、お酒に混ぜてらしたお薬は、どういうおつもりですか?」
 つららの眼差しは、背筋が凍るほど冷たかった。






〈2/12 PM20:10〉

 
 バレンタインデー、それは、恋人たちの日。
 日本のバレンタインデーは商業主義によって導入され繁栄してきたのだが、これはこれでいいもんだと思う。つららは毎年チョコレートを手作りしてくれて、オレはつららのチョコを楽しみにしていた。
 だがしかし、初恋が叶った(強引に叶えた、とも言う)今年は、もっとスペシャルなプレゼントが欲しい、と思ってしまうのは無理もないことだろう。人生で最も煩悩力溢れる年頃の男としては。
 可愛い、本当にすげぇ可愛い、小動物の愛くるしさと、童女の無垢さと、オレの全てを受け入れてくれる包容力と、淑やかな所作と、男を魅了し虜にする雪女の畏れとを持ち合わせたつららが、ついに、真の意味でオレのもんになったんだからな!祝言こそまだ挙げてねぇけど、実質、つららはオレの嫁だろ!
 若い男として期待するのは当然だし、総大将が世襲制になってる奴良組としてもOKだと思う(後継者問題的に)。
 というわけで、オレは、黒田坊にバレンタインのコンセプトについて相談しつつ、実行する場所についても思い悩んでいたわけだ。
 何を着てもらうかはまだ検討中だが可愛くエロい恰好をしたつららを、絶対に他の奴に見せたくない。お楽しみの最中の声も聞かせたくないし、邪魔が入らんようにしたい。だが、日本家屋はオープン過ぎるし、うちは住人が多い。皆、オレとつららの仲を知ってるから、よもやバレンタインデーに野暮な真似などすまいが(誰も祢々切丸の錆にはなりたくねぇだろうしな)、前回のまさかの勇者ゆら登場のように、想定外の横槍が入る可能性は、否定出来ない。
 可愛い声が効きたいからつららの口を塞ぎたくはないが、つららが助けを求める声を上げたら誰か現れるかもしれん。牛頭丸程度なら斬って捨てて続きをするが、さすがのオレも母さんとかが現れたら、困る。
 う~ん、やはり、明鏡止水で外に連れ出すか?けどなぁ、妖怪のナリじゃ人間のホテルは利用できんし、化猫横丁の連れ込み宿なんかは口が軽そうだからなぁ。かといって、今年の冬は記録的に寒いんだから、さすがに外は辛いよな。
 と、疾しいことを考えていたせいか無意識に明鏡止水を発動しながら、どこに行くでもなくぐるぐると廊下を歩きまわっていたオレは、ふと気がつくと、見覚えの無い戸の前に立っていた。
 えーと、これは何の部屋だっけ?
 物置きみてぇな簡素な引き戸だが、この家がいくら広いとはいえ、ここで生れ育ったオレが知らねぇ部屋があるはずがねぇんだ。だが、見覚えは無い。
 ・・・・どういうことだ?
 鵺を倒すまで戦いの日々を過ごしていたオレは、この戸が誰ぞの罠であるかもしれんと気を引き締めて、祢々切丸を懐から取り出し、明鏡止水を発動したまま、戸を開けた。奴良組に悪意持つ妖怪がこの戸を媒介に己の畏れの世界と繋げているとか、御門院の残党の技で結界で覆った部屋に誰かを潜ませている、とかそんなんじゃねぇかと思ったんだ。
 だが、扉を開けて、オレは拍子抜けする。 
 今時珍しいほどの日本家屋である奴良家の一室なのに、天井からはシャンデリアがぶら下がり、畳の上にはペルシャ絨毯。クローゼットと、大きな姿見と、ソファと、ローテーブルと、本棚。ソファの上にはクッションまで置いてある。
 なんだこりゃ?
 あんまり予想外だったんで、思わず足を踏み入れると、なんだか懐かしい感じがした。自分の匂いがするというか・・・・・いや、違う、親父の気配を感じたんだ。
 この部屋が、戸が、隠されていたのは、親父の妖術なのか?『ハリーポッターと秘密の部屋』ならぬ、『ぬらりくおと秘密の部屋』か?
 すっかり警戒心も解けたオレは、クローゼットの扉を開けて・・・・・・驚愕した。
「んなっ!?」
 そこに入っていたのは、服。ああそうだ、クローゼットに入ってんだから、そりゃあ服だよな。
 だがしかし、服の種類が問題だった。
 大日本帝国の軍服(男物で大きなサイズ)・タキシード・モーニング・燕尾服、ここまでは、ああこれが親父が着てたコスプレ衣装か、と納得できた。親父がこういうの着てた、という話は聞いたことあったからな。
 だが、問題は、それ以外の服だ。
 セーラー服・ブレザーの女子制服(ミニスカ)・コルセット・ガーターベルトとストッキング・ナース服・スチュワーデスの制服・チャイナドレス・レースクイーンの衣装・チアガール・ミニスカサンタ服・・・・・・・
 そして、本棚に詰まっていたのは、外国人に『日本人は触手エロが好き』という偏見を持たせた葛飾北斎の『蛸と海女』に始まる数多の春画と、コスチューム物のエロ本(セーラー服率高し)・・・・・・・
 オイ親父ぃぃぃ~~っ!!てめ、何してんだよっ!!
 息子として情けないような、男としてもうむしろ褒めてやりたいような、なんとも言えん気持ちと虚脱感に見舞われたオレは、絨毯の上に膝をつく。
 親父は、人に見られたくねぇ物をこの部屋に詰め、どうやったのかはしらんが、部屋全体に明鏡止水を掛けたんだろう。だから、術を相殺できる明鏡止水の使い手以外はココに入れなかったし、そもそも存在に気づかなかった。
 母さんも、たぶん、この部屋のことは知らんだろうな(爺は知っていそうだが)。
  
 
 

 かなり酷い虚脱感を味わったオレだが、やがて、気を取り直した。
 この部屋がいかに便利かに気づいたからだ。直前にオレが悩んでいた場所の問題は、この部屋を使えば解決するはずだ。
 いや、それどころか、これまではデータの流出が恐ろしくて決して出来なかった、つららのエロ写真の撮影が可能になる!
 万が一にも他の男に見られるわけにはいかんから、携帯にデータを入れて持ち歩くなんて芸当は出来んが、プリンターと印刷紙をこの部屋に持ち込み、ここで撮ってここで印刷してデータもここに置いておいて、この部屋の中だけで楽しめばいい。
 例えば、チョコペンとかでつららにエロい落書きをして、それを写真に残しておくことも可能になるわけだっ!
「親父、さすがだぜ!イイもん残してくれて、ありがとうな!この部屋は、必ず、オレが受け継ぎ、有効利用してみせるからな!」
 この部屋が今後のオレの人生に齎す幸福を考えて、オレは、顔がにやつくのを抑えられなかった。





〈2/14 AM0:50〉


 日付が変わるや否や、2時間ほど前にうちを出てったばかりのはずなのに、鴆がやってきた。頼んだ品を携えて。
 鴆に頼んだのは、飲んだ直後に30分ほど深い眠りに落ち、その後数時間は、しゃべれるが身体は痺れて動けなくなる、という素敵な薬だ。
 オレの要求はかなり難易度が高かっただろうから、14日の夕方にでも持って来てもらおうと思っていたのだが、鴆は、なんと、2月14日の0時ちょうどに持って来てくれた。
 オレの義兄弟は頼れる男だと知ってはいたが、ここまで仕事が早いとは!
 感嘆するオレに、鴆は、白い粉薬を差し出す。
「何かに溶かして飲むのがいいだろうぜ。コレをどうするかは、お前の自由だ・・・・」
「おぉ!鴆、ありがとうな!」
 鴆が差し出した薬を喜んで受け取り、いそいそとつららを探しに行く。つららは、台所で何か作業をしていた。
 オレは、寝る前に呑みたいから酌をしてくれ、と強請って、つららを自室に連れ込み、まぁまぁお前も飲めよ、なんて言って、薬を溶かした酒(鏡花水月って便利な技だ)を勧める。つららは、最初は遠慮していたが、何度か重ねて勧めると、盃に口をつけてくれた。
 オレは、しめしめ、と目を細めて・・・・・・・・・現在、大きなソファの上に仰向けに転がって、白バニーガールスタイルのつららに、見下ろされているわけだ。
 何が起こった?
 オレの計画では、事前に秘密の部屋に衣装とチョコペンとデジカメは用意しておいたので、つららが薬で眠ったらそこへ連れ込んで、着替えさせるつもりだった。
 だが、事態はオレの計画通りには進んでおらず、場所は秘密の部屋で、つららは白バニーガール姿だが、ソファの上に寝転がって痺れているのは、オレの方。
「10時頃に鴆様がお帰りになる時に、わざわざ台所まで私を探しに来られて、お話をしてくださいました。信じ難い、信じたくないお話を。そして、0時少し前にもう一度私の前に現れて、お薬を渡して、こうおっしゃったんです。『これが、例の薬だ。お前に託す。リクオを信じてぇお前の気持ちは、わかるぜ。だから、オレは、リクオには砂糖を渡す。この後リクオがお前に飲ませる物が、もし甘かったら、・・・・・現実を受け入れろ』、と」
 つららの口から鴆の名が出てきて、オレは冷や汗を流した。まさか、鴆がオレを裏切るとは思わなかった・・・・
「裏切られた、みたいな顔をするのはお止めください。情けない。鴆様は、立派な任侠の男ですよ。ですから、盃を交わした義兄弟に嘘を吐いたりはなさいませんが、義兄弟が道を踏み外すのを見過ごしたりも出来なかっただけです。よく思い出してください、リクオ様、鴆様は、一言も『嘘』は吐いていないはずですよ?」
 つららに言われて、オレは、鴆の言動を思い出す。
 オレが薬のことを頼んだ後、鴆は、やけにしつこく計画について尋ねてきた。オレは、協力してくれるのだし、と秘密の部屋のことまで話した。そして、部屋の所在地と、オレと一緒ならば部屋の戸が認識できるだろう、ということも説明した。
 鴆は、「薬は用意する。明日渡す」とは言ったが、「誰に」渡すのかは言わなかった。さっき、オレに白い粉状の物を渡した時も、「これが頼まれてた薬だ」なんてことは言ってねぇ。・・・・・うん。嘘は吐いてねぇなぁ。
 仁義に悖る行いは出来ん気質の義兄弟は、オレにもつららにも逃げ道を用意してくれてた。オレが渡された砂糖を使わなかったら、万事は無かったことにする。オレが使おうとしたら、つららに反撃の余地を与える。そんな形で。
 で、オレが砂糖入りの酒を飲ませたから、酌をしているつららは、反撃してオレに薬を飲ませたんだろう。その後、氷でそりやスケボーでも作ってオレを乗せて、鴆が教えておいた秘密の部屋に来たんだろうな。中に、本当に白バニー衣装があるのかどうか、確かめる為に。
 それで、中を見たら、白バニー衣装一式と、デジカメと、チョコペンがあった、と。・・・・なるほど、怒るはずだ。
「嘘つきなのは、リクオ様だけです。リクオ様は、お誕生日の件で私に謝ってくださった時に、『もうしないから許して』とおっしゃいましたよね?」
「・・・・・悪ぃ。許してくれ」
 白魚の指で頬を抓られたオレは、早々に降参して謝った。だが、つららは指を離してくれない。
「嫌です。あなたは、昔っから、どんなに叱っても全然懲りない悪戯っ子で、今は、昔よりもっと困った方になっています。許す理由はありませんし、安易に許してはリクオ様の為にならないと思います」
「・・・・・ハイソウデスネ」
 悪戯な男子というのは、好きな女に1番ちょっかいをかけてしまう。その為に、生まれてからずっと側にいてオレの1番のお気に入りだったつららは、誰よりも悪戯の被害を受けていた。だから、つららの言葉には多大な説得力があって、オレは、反論することも出来ねぇよ。
 あ~、白バニーガール姿のつららが目の前にいるのに何もできねぇなんて・・・・・・いや、まぁ、考えようによったら、この恰好のつららに頬っぺた抓られて叱られるのも、ちょっと美味しいような気はするが。
 そう、つららは、今、オレが用意した白バニースタイルだった。
 バニーガールはいろんなバリエーションがあるが、オーソドックスな形を選んだ。耳は白。襟も白で、リボンとカフスのボタンが水色。レオタードは白で、ふわふわのしっぽももちろん白。ハイヒールも白。そして、ストッキングは、こだわりのバックライン入り網タイツ!
 白バニーコスのつららは、なんつぅか、白ウサギみてぇっつうか、子ウサギみてぇっつうか、雪ウサギみてぇっつうか、大変非常に愛らしいのに艶っぽくもあって、そのギャップがすげぇクる。
 正直眼福なので、このまま叱られてバレンタインが終わったとしても、目的の何割かは果たせたということになるだろう。 
 オレの嫁(予定)、マジ可愛いよなぁ。美味そうだよなぁ。
「リクオ様、反省していませんね?」
「いや、そんなことねぇぜ」
「視線が不埒ですよ?」
「・・・・・・」
 確かに、普段なかなか拝めない華奢な肩とか鎖骨とか、細い二の腕とかレオタードに包まれた胸元とか、バックラインが堪らん脚とかを舐めまわすように見ているオレは、反論出来ずに黙った。つららの脚は細いが、柔らかい肉に包まれた上での細さだから、ちょっと圧迫して網タイツの細かい網目が食い込むとこ見てみてぇなぁ、とか心底思ってる。その後、網タイツをそこだけ噛み切って、淡く網目の痕が付いた部分を舐めてみてぇなぁ、とかも心底思ってる。最終的には、網タイツをあくまで脱がさず、だがしかし必要な個所は破って、レオタードをずらして、いわゆる着衣ずらし挿入をヤリてえなぁ、とそりゃもう心底思っているとも!
 ・・・・・・・いや、計画失敗したし、つららを怒らせたから無理だって、わかってるけどな。
 だから、この眼福が1秒でも長く続いてくれるように祈りながら、デジカメに保存できない分記憶に焼き付けておこうと思って、食い入るように見つめておく。
 あーあ、有言実行の義兄弟の痺れ薬がこれほどの効き目じゃなかったら、絶対に触ってんだけどな。膝の上に乗っけてしっぽモフってんだけどな。そんで、相手がウサギなだけに狼になってんだけどな。
 だがしかし、現実のオレは、実はめちゃくちゃ努力してんだが、鵺と戦った時並に畏れのポテンシャルを上げようとしてんだが、どうにもうまくいかん。指1本動かせねぇ。
「・・・・本当に、悪い子。悪い子には、おしおきです」
「えっ」
 そう言ったつららが、でかいソファに寝転がるオレの上に、そう、よりによって腰の上に馬乗りになってきたから、オレは驚いた。
「どうですか?重いでしょう?」
「・・・・いや、軽いけど」
 会話しながらも、オレの目はつららに釘付けだ。いや、だって、バニーに乗っかられるとか男の夢だろ?ロマンだろ?それが、惚れた女で、この可愛くも慎ましいつららから乗ってくれてんだぞ?
 なんだコレ?夢か?それとも、天国か?
「えい!えいえい!どうですか?痛いでしょう?」
「・・・・いや、痛くねぇけど」
 次につららがやったのは、オレの手を取って、指先にかぷかぷ噛みつくこと。といっても、甘噛みだから痛くねぇ。犬猫に指を噛まれる方がずっと痛いだろう、これじゃ歯形も残らんだろう、という力加減だ。噛まれた指先が、ベルベットみたいに滑らかな舌先に触れて、背筋がゾクっとする。
「っ」
 あっ。ヤベぇ。勃った。
 これ以上つららを怒らせまいとさっきからすげぇ我慢してたのに、痺れ薬はココにだけは作用しとらんから(どんだけ有能なんだ、鴆)、舌の感触で勃っちまった。
 いや、だって、これは不可抗力だ。仕方ない。バニーガールにペロペロしてもらうとか、男の夢だろ?ロマンだろ?つららにそんなつもりがなかろうと、期待しちまうだろ?
「っ!?」
 腰の上に乗っていたつららは、自分のアレな部分に当たるアレな存在に、もちろん気がついた。顔を赤くしてこっちを睨む。
「反省の色が見えませんよ!もっとおしおきしますよ!えいっ!」
 つららは、オレの着流しの胸元をバッと肌蹴ると、その上にぴったりとくっつくように上体を倒してきた。
「どうですか?冷たいでしょう?」
 レオタードの布地は薄いから、つららの冷気が伝わる。なので、冷たいか冷たくないかと言われると、もちろん冷たい。だがオレは、寒暖に強い妖怪の姿だったし、何より、勃たせるぐらいに血が熱くなってるから、つららの冷たい肌が心地よいぐらいだった。
「冷てぇけど、気持ちいいぜ」
「・・・・・リクオ様の嘘つき。真冬に雪女とくっつくなんて、冷たいだけのくせに」
「オレは嘘つきだが、お前とくっつくのが気持ちいいのは嘘じゃねぇよ。小っちぇえ頃から、1年で1番寒いはずの雪の日には、お前にまとわりついて離れなかっただろ?」
 つららは雪女だから、雪の中が1番居心地がいい。滅多に雪が降らない東京で暮らすつららは、だからこそ、雪が降った日は上機嫌で、雪からチャージした畏れが溢れそうになっていた。普段は可愛いドジっ娘なのに、雪の中で舞うつららは、それはもう妖しくて艶めかしくて。
 ガキでも、男は男。すっかり魅了されたオレは、他の男への牽制も篭めて、雪の日は普段以上につららにベタベタくっついて、しつこいくらいに舞をせがんでいた。
「それはそうかもしれませんけど・・・・・リクオ様、翌日、風邪引いちゃってました」
「ガキで、弱っちかったからな。でも、今は、夜だし、この日の本に並ぶ者無き魑魅魍魎の主だ。お前の畏れには負けねぇよ」
「鴆様のお薬には負けてらっしゃるようですけど?」
「・・・・それは言うな」
 オレがぶすっと口を尖らせて拗ねると、つららはくすくす笑った。
「リクオ様、他国のことはいざ知らず、ここ日本では、バレンタインデーというのは、女の子が、普段伝えられない気持ちを託したチョコレートを渡す日ですよ?殿方が女の子を好きにする日ではありません。だから・・・・・私はちゃんとチョコを用意してたんですよ?」
「・・・・・悪かった」
 切なくなるほどの恋情を湛えた金の瞳に覗き込まれたオレは、素直に反省した。
 いつまでだって、いくらもらったって、足りねぇし飽きねぇけど、それは強欲ってもんだよな。つららは、こんなに、つららが出来る限りでオレに尽くしてくれてんのに。
 今、こうやって口ではオレを叱りながらも、オレが用意した白バニーの恰好してくれてんのは、オレを喜ばそうとしてくれたってことだ。普段露出度が低いことこの上なくて、温泉シーンが描かれてもバスタオルで覆った上にタオルでカバーして脚は見切れてるなんて鉄壁ガードになりそうなつららだから、バニーガールなんて恥ずかしいに決まってる。けど、オレの為に耐えてくれたんだよなぁ。
 おしおき、てのも口実で、これはサービスしてくれてんだよなぁ。
 オレは、やっぱりやりたいことはやりたいんだが(思春期男子の性)、こんだけがんばってくれるつららを見たら、つららからの愛情を実感しちまったら、なんだか胸がいっぱいになって、気持ちだけはやらんでもいいと思えるようになった。惚れた女が、恥ずかしいのに耐えるほどに、これだけオレを想ってくれてる。それで十分じゃねぇか、と。
 ・・・・・・・・思いはするんだが、どうにもこうにも下半身が言うこと聞かんな。空気読まずにギンギンになってるぞ。落ち着け、息子。
「本当は、去年みたいに学校でお渡ししようかと思ったのですが、こうなると後でというのも変な感じですから、今渡してしまいますね」
 ソファの向こう側に手を伸ばしたつららは、雪の結晶をあしらったラッピングの箱を取り出した。
「リクオ様に開けてもらうはずでしたが、指1本動かせないご様子なので、私が・・・」
 そう言って、しゅるりとリボンを解く。オレは、なんだか、ドキドキしてきた。
 小せえ頃からずっともらってるし、今年は特に絶対もらえる確信があったってのに、例年よりずっと心臓がうるさい。オレがバニーの色とかを論じてた頃に作ってくれたんだろうな、リボンはオレが解いてやりたかったな、とか思ったら、つららがいじらしくて堪らなくなった。
 なのに、自業自得でつららを抱きしめてやれねぇとは、と自分の愚行を悔やむばかりだ。
「トリュフですよ。リクオ様、はい、あーん☆」
「ん」
 つららが差し出したのは、ホワイトチョコレートでコーティングされたトリュフだ。口の中に入れると、外側のホワイトチョコは甘くて、でも、中の洋酒とオレンジピールで風味をつけたガナッシュは甘さ控えめで、絶妙のバランスだ。甘ったる過ぎ無くて、香り高くて、美味い。
「つらら。美味い。もう1個食わせてくれ」
 子供みたいに強請ったら、オレの上に乗っかったままの雪ウサギは、くすくす笑いながら細い指で次のトリュフを摘む。
「もう。リクオ様ったら、甘い物に目が無いんですから。はい、あーん☆」
「ん」
 2個目のトリュフは、見た目はさっきのと一緒なのに、中のガナッシュが違っていて、フランボワーズの風味がついてた。甘酸っぱくて、これも美味い。
「つらら、これも美味いが・・・・もしかして、1個1個全部、中身が違うのか?」
「そうですよ。後、ピスタチオと、コーヒーと、紅茶と、抹茶と、キャラメルがあって、コーティングがブラックのビターチョコなバージョンが全種あります。全部で14個ですよ。ふふふっ、がんばっちゃいました」
「!」
 オレが褒めたのが嬉しかったのだろう、つららはキラキラと目を輝かせて柔らかく笑う。オレは、こみ上げてきた感動で言葉を失った。
 だって、中身が7種もあるんだぞ。つららは、日々の仕事も忙しいはずなのに、オレを楽しませようと7種類も違う中身を用意してくれたんだ!
 わかっていたはずのことだが、それでも、つららの健気さを、深い愛を再確認して、胸が詰まりそうだ。
「・・・・・つらら、なぁ、お前、本当に可愛い女だな。お前に愛されるって、幸せなことだな。抱き締めてやりてぇのに腕が動かん自分が、情けねぇよ」
「リクオ様、反省しました?」
「した。お前のこともっと大事にせんといかん、と思った」
「ふふふ~。でも、許しませ~ん☆」
 歌うように囁いて、つららは、ちゅっと音立てて頬に口づける。
 ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。
 キスは、唇の端ギリギリを掠めながらも、唇を重ねてはくれない。
「つららぁ」
 強請るように甘えた声で名前を呼んでも。
「だ~め。ダメです。悪い子には、おしおきです」
 つららは取り合ってくれない。少し意地悪なその様が新鮮で可愛らしくて、重ならない唇がもどかしくて、身体の内側でジリジリと熱が高ぶる。いつもだったら、こんなに血が熱くなったら、明鏡止水を使ってでも問答無用でつららを浚って、そのひんやりした柔らかさで熱を鎮めてもらうのに、今は何も出来ねぇ。
 つららに翻弄されながら、名前を呼んで懇願するだけだ。
「つらら、なぁ・・・・・・」
「ダメですよ~」
 普段オレの我がままに振り回されてばかりのつららは、珍しく優位に立っているのが嬉しいらしくて、ずっと笑顔だ・・・・つららの笑顔は、雪女なのに天使みてぇだと常々思ってんだが、今はちょっと小悪魔が入ってんな。可愛いしそそるが、ちょいと小憎たらしい。
 つららは、ローテーブルの上に残りのチョコレートを置くと、今度は、オレが用意しておいたチョコペンを手に取った。
「リクオ様ばっかり食べるのも不公平ですから、私もチョコをいただきますね」
 そう言うと、さっき肌蹴たオレの胸の上にチョコペンで何やら文字を描く。
「・・・・・なんて書いてんだ?」
「『EAT ME』です。アリスの本を読み聞かせたのは私ですから、英語苦手ですけど、これぐらいは知ってるんですよ」
 やがて、書き終わったつららは、出来栄えに満足したように頷いた後、ソファの後ろから携帯電話を取り出した。
 おいおい、まさか・・・・
 パシャッ。
 止める間もない素早さで、チョコペンで落書きされたオレの姿が撮影される。
「おい、つらら」
「これも、リクオ様がなさろうとしていたことですよね?チョコペンとデジカメは、こういう用途の為に用意していたんですよね?」
「・・・・・・」
 本当に本当の自業自得で抗議する資格など一切ないことを思い知らされたので、オレは黙った。う~ん、マジでまだ怒りが溶けてねぇなこりゃ。
 流され易い性格でオレに弱いつららだから、多少の悪戯ならこんだけ謝りゃ許してくれそうなもんだが、今回は、①前回の謝罪を嘘にする懲りない所業・②罪も無い鴆を巻き込んで苦悩させた事・③コスプレさせて着衣エッチだけではなく撮影までしようとしていた事・④つららなりにバレンタインのプランがあっただろうにぶち壊したこと、が相乗されて怒りが持続しているようだ。
 こうなると、もう、オレは、大人しく怒りの吹雪が収まるのを待つ以外に何もできねぇ。
「リクオ様ったら、嘘つきで、我儘で、意地悪で、本当に悪い子。悪い子には、おしおきですよ~」
 そう言うと、つららは、ソファの上で仰向けに寝転がってるオレの身体を脚で挟んだまま、尻を高く上げてチョコペンの文字を舐め始めた。
 ぴちゃ。ぺちゃ。
 いやらしい水音と、滑らかな舌の感触。小さな白い花みてぇな髪の匂いと、胸の上で髪が揺れるこそばゆい感覚。つららが身動ぎする度にふりふり揺れる、美味しそうな尻とモフモフの尻尾。
 男の夢でありロマンであるシチュエーションながらも、指1本動かせないとあってはもはや拷問だった。何もできねぇから、オレは、視覚も聴覚も触覚も嗅覚も、つららに釘付けだ。
 つららがチョコペンを全部舐め取った後で顔を上げた時、オレは、恥ずかしながら涙目になっていた。
「つ、つらら、あの、悪ぃんだが下の方も・・・・・」
 口で、なんて贅沢は言わねぇが、出来ればストッキングに包まれたその足とかで、さっきから臨戦態勢に入ったままの愚息の面倒を見てもらえねぇもんだろうか。
 どうしようもなく切羽詰まってきたので、恥も見栄も捨ててそう懇願しようと思ったオレは、オレの身体に跨っていたつららがソファを下りたので、驚いた。
「つ、つらら?」
「ふふふっ☆」
 妖しい笑みを浮かべて、つららはソファの裏側に回る。そうすると、ソファに寝転がっているオレは背もたれが邪魔してつららの姿が見えねぇ。
 しゅるり。するり。
 聞こえてきたのは、衣擦れの音。おいおいおい、ソファの裏で、白バニーつららが生着替えやってんじゃねぇのか!?
 ちょっとでも、せめて上体を起こすだけでもなんとかならんかと、気力を振り絞ってみたんだが、やっぱり身体は動かなかった。毒の類には抵抗力がある方だと思うんだが、ぴくりとも動かねぇ。
 祖母譲りの超回復力も封じ込める薬って、・・・・・オレの義兄弟の有能さには涙が出そうになるぜ。
「リクオ様、反省しましたか?」
 やがて、いつもの白振袖に戻ったつららが、脱いだ衣装を手に持って、ソファの影から現れた。
「した。これまでで1番反省した。オレが悪かった。本当に悪かった」
 オレは、精一杯の誠意を篭めて、つららに謝る。
「リクオ様、大好きです。つららは、リクオ様を、一生、お慕いしておりますとも。ですが、それでも、やってはいけないことはあると思いますよ。仁義は守らねばなりません」
「ああ」
「わかっていただけたのなら、良かったです。残りのチョコレートも、食べてくださいね」
「ああ」
 つららは、穏やかな笑みを浮かべていた。だからこそ、ここで対応を間違えてはならない。オレは、出来るだけ神妙に頷く。
「では、リクオ様、どうぞごゆっくり。私は、大切な方に直接渡してバレンタインデーを一緒に過ごしたいので、今から、その方の元へ行きますから」
「はァッ!?」
 ちょっと待て!それはどういうことだ?オレをこのまま放置するってことか!?手渡ししたい『大切な方』って誰だよオイ!?
 そう言いたいのに、驚きと衝撃が強過ぎて、かえって言葉が出て来ない。
 その隙に、つららは、再び手に取ったチョコペンで、オレの両の頬に何やら文字を書いて携帯で撮影し、手に持った衣装に必殺技の呪いの吹雪・雪化粧を喰らわせて粉砕した後、すたすたと戸口に向かって歩を進めた。
「まっ、待てよつららっ!」
 正気に返ったオレが叫ぶと、つららは振り返って、こう言った。
「・・・・・リクオ様、ハッピーバレンタイン」
 そう、最初に見せた背筋が凍るほど冷たい眼差しでオレを見つめながら。





〈2/15 18:00〉


 夕方、化猫組の親分である良太猫は、久々に奴良家を訪れていた。
「やっぱ、気になるしな」
 昨日はバレンタインデー。飲食業にとっては大事なイベントであるので、妖怪御食事処化猫屋の店長でもある良太猫は、大忙しだった。チョコレートをやり取りしてイイ雰囲気になった男女の密会や、チョコレートがもらえなかった為に山ほどうまい棒を買い占めた悲しい戦士たちの集いなどで、店は満員。おまけに、2種の全く逆のベクトルの人種がいるので、酒が入って自制心が落ちた状態でトラブルが生じたりしないように、いつもの何倍も客あしらいに気を使った。
 だから、開店前の昼に一度、開店してからもう一度、閉店間際に更に一度、奴良組三代目として名実共に魑魅魍魎の主であるリクオが、わざわざ店に足を運んで、注文もせずにキョロキョロしていたのに、満足に構うことが出来なかった。
 宿敵も倒したし後の仕事は後継者問題、と公言しているリクオのことだ、バレンタインデーなのだから、娶る予定の女と睦まじく過ごしているはずなのに、一体何があったのか?
 そして、もし組の一大事ならば、総大将1人で動いているなどおかしなことではないか?
 と疑問を感じた良太猫は、何度も本家住み込みの妖怪に電話を掛けて事情を聞こうとしたのだが、何故か、誰もが口を濁すばかり。
 故に、良太猫は、今日は店は下の者に任せると決めて、事情を尋ねにやって来たのだ。
「ごめんください。お邪魔しやす」




 良太猫は本家住まいではないが、本家の雰囲気が好きだ。
 本家の住人というのは、ぶっちゃけて言ってしまうと、生まれつきのアイドルである総大将一族と、ファンクラブ会員№が2桁レベルの取り返しのつかないファンのような本家住まいの妖怪たちなのだが、だからこそ醸し出される楽しげな雰囲気が好きだった。   
 だが、今宵はどうしたことだろう?
 何やら、空気がいつもと違う。具体的に言うと、女妖怪と男妖怪の間に微妙な溝が生じているような気がするというか。
「毛倡妓の姐さん、あの、アレは・・・・」
「ああ。アレは気にしないで。放っておいて」
 良太猫が指差したのは、庭に建つ氷のオブジェ・・・・みたいなことになっている氷漬けの黒田坊入りの巨大な氷柱である。毛倡妓は気にするなと言うが、あの大きさを気にしないのは無理だろう。
「いや、でも・・・・」
「止めとけ、良太猫」
 腕っ節は弱いが気はいい良太猫は、顔見知りのあんまりな有様を捨て置けずに言葉を重ねようとしたのだが、縁側に座っていた青田坊に遮られた。
「あの、一体、何が・・・・・」
「誰の仕業かは、言わなくてもわかるだろ?アレを作った女は、騒ぎを聞きつけて集まってきたオレたちを見渡して、こう言った。『この程度で済ませてあげることに、感謝して。私の温情がわからずにアレに加勢しようとするなら、そんな男は同罪と見なして諸共に、今度は、呪いの吹雪・雪化粧で凍らせて・・・・もぐわよ』、とな」
「ひぃっ!」
 聞こえた台詞の恐ろしさに、良太猫が猫耳の毛を逆立てて震えあがる。
 だって、もぐって言ったらアレのことだろう!?アレ以外にないだろう!?
 妖怪は大抵は人間より頑丈で、派手にやられたように見えても、畏れが弱い攻撃だったらすぐに回復するし、畏れが強い攻撃でも、適切な処置を受けて時間を掛ければある程度は回復出来る。
 だが、凍らされて根元からポキリと折られてアレがもげたら、もう一度生えてくるとは思えなかった。
 ぷるぷる震えながら良太猫が青田坊を見つめると、青田坊は、豪快な彼にしては珍しく、深いため息を吐く。
「オレはな、任侠の男だ。主の、仲間の、ダチの為なら、いくらだって身体を張れるさ。命だって惜しかねぇよ。相手がどんなに強大だろうと、オレは男を貫く!決して怯まねぇ!そう思ってたぜ。けどなぁ、『男』じゃなくなんのは、なぁ・・・・・」
 青田坊は遠い目をした。良太猫はもう涙目だ。
「い、いやでも、その時は怒ってたかもしれやせんが、普段はあんなに優しいお人じゃねぇですか!雪女なのにあったかい感じすらする、可愛らしいお人じゃねぇでやすか!」
「・・・・・・あの時のあの娘は、雪麗さんにそっくりだった。情に厚くて優しくて、でも、いざ敵とみなした相手にはどこまでも冷たくなれた雪麗さんに、ね。知っていたかい、良太猫?雪麗さんはね、昔、実際に、もいだことがあるんだよ?河童、お前は見てたよな?」
「・・・・・・うん。オイラ覚えてる。一生、忘れられないよ」
「ひぃぃっっ!」
 首無と河童の話があまりに怖かったので、良太猫はとうとう泣き出した。廊下の柱に抱きついてしくしく泣いていると、優しい手が、すっかり寝てしまった猫耳をそっと撫でてくれる。
「姐さん・・・・・?」
「わかってるわね、良太猫?うちの女衆は、若菜様も含めて全員、あの娘の味方なの。そして、男衆は、どうやら、みんなお利口さんのようなのよ。だから、ね・・・・・わかるわよね?」
「っ!」
 毛倡妓の声も手つきも、とても優しい。だがしかし、彼女の防具であり武器でもある豊かな黒髪は、不穏なざわめきを見せていた。
 深緑の瞳に氷のように冷たい光を宿しながら、毛倡妓は微笑む。
「わかるわよね?」
「・・・・・・・はい」
 





「リクオ様、失礼しやす。あの、コレ、イイ赤ワインが手に入ったんで、飲んでいただきたいなと思いまして。それじゃ、お忙しいところ、お邪魔しやした」
 チョコレートには赤ワインだろう、なんて気を効かせたつもりだった手土産を速攻で手渡して、すっかり心が折れてしまった良太猫は、速攻で退室しようとした。
 だって、怖い。
 不吉な宣告で男衆を戦慄させた雪女はすごく怖いし、それだけじゃなくて、14日の夜中に行方不明となり、昼頃に頬に『変態』とチョコペンで描かれた状態で現れ、たった1人で24時間以上雪女を探し回って、今、地獄の闇と業火を召喚したみたいな畏れを纏うこの主様が、良太猫は怖くて堪らない。
 君子危うきに近寄らず。触らぬ神に祟り無し。好奇心は猫を殺すというのなら、自分は好奇心など封印してみせる、と世渡り上手の良太猫は逃げ出そうとしたのだが、時すでに遅し。
 がしっ、と肩を掴まれた。鵺をも屠った大妖の力強い手で。
「ひっ!」
「・・・・・良太猫、お前んとこの組には、猫耳としっぽが生えてくるとかいう薬やら術やらが、きっとあるよな?たぶんあるよな?絶対あるんだよな?お前は気のイイ奴だから、来月の14日までに、オレにソレをくれんだよな?もちろんくれるよな?くれないはずがねぇよな?」
「・・・・・!!」
 身動きできない状態で数時間、つららの行き先と相手について考え続け、それから丸1日以上、心当たりの場所を探し歩いた(ゆらと竜二と秋房と秀元にも電話してみた)リクオは、蓄積し続けた不安やら焦燥やらが化学変化を起こして、この時、すでに人が変わっていた。
 魔王の目をしていらっしゃる、と良太猫は戦慄する。
 ちょっと色ボケな所はあるが聡明で責任感があって信頼に足るはずの我らが大将は、人と妖の境界を守りどちらの存在も愛して守ってくださる懐が深い主様は、この時、魔王に変じてしまっていた。
 良太猫は妖怪任侠で己の組を持っている立場だが、それは、腕っ節ではなく、交渉能力や商売の才を認められて預かった地位だ。当然、眼前の魔王様に敵うはずもない。
 そして、自業自得なんじゃねぇですか、とか、仁義どこ行ったんすか、とか、ツッコめるはずもなくて。
「なァ、良太猫?」
 だから、コールタールのような重苦しい闇を纏った主に、紅の瞳でひたと見つめられた良太猫が返せる言葉なんて。
「・・・・・・・・・・・・・・はい」
 他には、なかったのだった。

 良太猫の未来に、幸あれ。





 
〈2/14 12:00〉


「はぁ~い、つらら特製チョコレートパフェですよ~☆さぁ、お食べてくださいな!」
「んんっ、これは美味しいわっ!上質のチョコレートから出来たアイスの、いっそ禁欲的な薫り高さと、深いコク!ミルクアイスは生クリームの旨味を純粋に活かし、ピスタチオのムースはどこまでも上品で!微かにコーヒーの風味をつけたチョコソースが、全体をまとめ上げて、見事な協調を齎しているわ!完璧!これは完璧なチョコレートパフェよ、つららちゃん!」
「冷麗さん、気に入ってくださいました?」
「ええっ、もちろん!こんなに素敵なバレンタインのプレゼントをもらったのは、生まれて初めてよ!」
「いや、バレンタインって、女がチョコ渡す日だろ?普通、冷麗はもらわねぇよな?つぅかつららちゃん、こんな日にリクオと一緒に居なくていいのか?」
「喧嘩でもしたのか?俺らから連絡取って、リクオに迎えに来させようか?」
「淡島さん、雨造さん、私は、大切な先輩である冷麗さんにこのチョコレートパフェを食べて欲しくて、ここに来たんです。心配は御無用です」
「いや、でもなぁ・・・・」
「そうだぜ!気まずいなら俺らから連絡してやるから、喧嘩したんなら、こんなとこに来てねぇでちゃんと話し合って・・・・・・」
「淡島さん、土彦さん、お気遣いはありがたいですが、どうぞお構いなく。そして、男女のことに口を挟むなんて野暮な真似する方は、私、呪いの吹雪・雪化粧で凍らせて・・・・もいでしまうかもしれませんよ?」
「えっ!?も、もぐって、もしかして・・・・アレ?」
「ええ、アレを」
「「「っ!!」」」
「いらんこと言ってすいませんしたーっ!俺は今から、つららちゃんのパフェを喰うことに集中するぜ!あー、このチョコパ美味ぇなぁ!」
「ホントだな!マジうめぇな!」
「ああ、最高だな!」
「本当に美味しいよ、つらら。紫はね、トッピングのココアカスタードパイが特に気に入った」
「ふふっ、褒めてくださってありがとうございます。これからしばらく泊めていただくのですから、そのお礼の前払いだと思って、どうぞたくさん食べてくださいね」

「・・・・・」 
 仲間たちの喧騒から離れて1人木陰に佇むイタクは、深い溜息を吐いた。
 遠野の里は、本日も平穏である。
 



  
【おしまい】


 というわけで、このシリーズ、次回はホワイトデーに更新予定です。
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