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みずいろのみず

 鋼の錬金術師。ロイアイ。

 水の色って何色だ?
 とか唐突に話し始めるのは、もちろん貴方です。優秀な国家錬金術師の貴方は脳の配線が常人と異なっているらしく、脈絡が読み取れない話し方をすることもしばしば。
 私は、なんとかとなんとかは紙一重というアレかしら?などとこっそり思ってます。
 ココは見渡す限り乾いた土地で、水は配給品の中で貴重品で、佐官の貴方と言えども無尽蔵に供給されはしません。だがしかし、貴方は貴重品のはずの水を無尽蔵に使っています。酸素と水素から合成する、という錬金術師にしか出来ない方法で。
 というわけで、貴方がこっそり部下に水をわけ与えているせいで、貴方の部隊に属する部下は貴方に忠誠心が厚くなっていたりするのでした。上官がやられてもまた新しい上官が来るだけだと、下士官は皆わかっています。それなら、水をくれない上官より水をくれる貴方の方がイイですからね。
 他所の部隊にばれないように工作するのが面倒ですが、なかなかよいやり方です。
 というわけで、今日も貴方は、自分専用のテント内でこっそりと豪勢に水を使って、私に髪を洗わせていたりするのでした。



 シャンプーの泡が目に入ったら痛いとおっしゃる貴方のために、目の上にタオルを乗せて洗っています。美容院でよくある、椅子に座ったままのあの体勢です。
 しゃかしゃか。
 ポイントは、決して爪を立てず頭皮をマッサージすること。
 今夜は珍しく時間がある(といっても襲撃があったら頭が泡々でも出撃してもらいますが)ので、貴方はこんなことをして遊んでいるのでした。
 私はシャンプーしてくれと言われた時もちろんしぶりましたが、実は結構この行為を好きだったりします(貴方に告げるつもりはありませんが)。気持ちよさそうな貴方を見ているのは楽しいですし、頭を洗っている最中は貴方大人しいですし。何というか、そう、・・・トリマーな気持ち。この戦いが終わったら犬でも飼ってみようかという気分になります。
 そんなふうに割と幸せ気分に浸っていたら、貴方がちょっと苛立たしげな声を出しました。
 リザ、私の話聞いてるかい?
 はい、聞いております。
 私は従順に返事を返します。私が貴方の言葉を聞き漏らすなんてあり得ないってことを、貴方がいつまで経っても理解できていないのが不思議だなと思いながら。
 私はちゃんと貴方の言葉を聞いていますよ。いつも人の話を聞いていないのは貴方です、と胸中で呟きます。
 聞いているなら答えなさい。水の色は何色だと思う?
 貴方が返答を求めるならば、私は答えなくてはなりません。ですが、この問はちょっと難しい(貴方の問は、愚問であるか難しいかのどちらか二極です)。私は文学的造詣が浅くて色の名前をそれほどたくさん知りませんし、化学的造詣も浅くて錬金術師の貴方を満足させられる答えが返せるとは思えません。哲学とかはもうお手上げですし。
 少し困った私は、底の浅さを露呈する行為だと理解しつつも、律儀に返事をしました。
 ・・水色でしょうか?
 つまらない台詞。
 ですが、貴方は気分を害した様子は無く、頭が泡々で目の上にタオルという割とマヌケな格好で話を続けます。
 水色というのは、空を映した水の色だろう?だから、世間一般で言う水色とは、つまるところ空の色だ。純粋な水、私が水素と酸素から合成するような水には、色など無いのだよ。透明が正解だ。
 オトコノヒトというのは薀蓄を垂れるのを好む人種が多いようで、そんな薀蓄を聞かされたオンナノコの返事は決まっています。
 言われてみればそうですね。勉強になりました。
 そう答えて、泡を流すためにぬるま湯がたっぷり入った傍らのバケツを手に取ろうとしたら。
 くるりと体勢を変えて椅子から起き上がった貴方が、私の腕を掴んでいました。腕を封じられた私が、泡が垂れたらヌルヌルしますよ?と言おうとしたら、貴方は私の頬に唇を寄せて言いました。
 おや、私は間違えたようだ。これは、水色の水だね?
 私がさっきからずっと目から垂れ流している塩辛い水を啜りながら、そんなことを言う貴方はまったくもって癪に障る方です。
 透明ですよ。目が曇ってるんですか?
 こんなふうに返す私も、癪に障る女でしょう。
 なのに貴方はちっとも怒ったりせずに、私の瞼に優しいキスを繰り返します。
 水色の水だよ。海は空を映して水色だと決まっている。君の海から零れた水だから、これは水色の水。
 優しい貴方の優しいキスを振り払おうと頭を振ろうとしたら、貴方の手が私の頭を固定してしまいました。
 逃げる術も無くした私は、ただただ水を零すばかり。



 今日初めてこの手で幼児を殺しました。何ら抗う術を持たない無力な子供です。掴まり立ちでやっと歩けるようになったばかりの子供。
 入り組んだ街路の奥で見つけた女が包丁を構えて(お粗末な構え方でしたが)向かってきたので、いつものように銃弾を叩き込みました。いつもの手順で女の死亡を確認して残り弾数を確認して、それで終わるはずでした。扉の向こうから物音が聞こえなければ。
 充分に警戒して扉を開け放つと、そこには怯えて引き攣った呻き声を漏らす子供がいました。やせ細った小さな子供。私ならば片腕で抱き上げることもできそうな、そんな小さな子供です。
 母親(でしょう、おそらく)を殺害した私に対して敵意を示すことすら出来ない、死の意味すら理解できない、いくつかの限られた言葉しか話せず、何かに掴まらないと立つことすらできない、本当に小さな子供です。
 子供は、曇りの無い澄んだ瞳に私を映して悲鳴を上げることすらできず、ただの屍になりました。私が、そうしました。
 『殲滅』とは、そういうことです。もちろん、知っていましたとも。
 貴方がたくさんたくさん、無力な人々をその人々の生活の跡すら残さないほどに灼き尽くすのを、斜め後ろから幾度も眺めてきましたとも。
 知っていましたとも。
 そして、わかっていませんでしたとも。



 ごめんなさい。私はまだ弱い。
 貴方を守るためにココにいて、貴方を守るためにココまで来たくせに、私はお話にならないほどに無様で弱いのです。
 貴方を守るためならなんでも出来てなんでもすると誓ったのに、自分自身のために誓ったのに、その誓いの通りに子供を殺せたのに、なのに水が止まらないのです。
 見ないでください。
 唇を噛み締めて言いました。か細い、迷子になって心細い幼い少女みたいな声になってしまったことは我ながら不覚です。
 見ないよ。ただ、水を飲ませておくれ。
 シャンプーの泡が垂れてきたから、貴方は本当に目を瞑っていました(そうですね、目に入ると痛いですから)。
 水ならば、バケツに何杯もありますよ。わざわざ塩辛い水を飲むことはないでしょう。喉が渇きますよ?
 瞼に頬に触れる貴方の生暖かい唇と舌を心地好く感じながらも、私はそんなふうに言います。実際の話、だいぶ変な構図ですから。貴方が他の部下の涙を啜るのは見たことありませんし、シャンプーの泡をたらたら垂らすヒトにキスされるのは私も初めてです。
 もう止めてくださいよ。貴方の顎から伝ったぬるりとしたシャンプー混じりの水が、私の顎から首に伝っていって、ゾクっとするんです。
 透明の水じゃなくて、君の、水色の水がいいんだ。
 ・・・・なんでそんなご満悦な声なんですかね、貴方は。
 前々から思っていたけれど、やはり貴方はちょっとアレですね。紙一重のどっち側なのか時々判別がつかなくなります。まあ、凡人の私には計り知れない深遠な思考があるのでしょうけれど。
 身体の力を抜いてみると、案の定、私の腕を掴む貴方の力が弱まりました。その隙をついて、私は素早く(女性士官は素早さが大切です)用意していた傍らのバケツをぶちまけました。
 貴方と私がびしょ濡れになるように。
 は?
 ビックリして状況を把握できていないっぽい表情の貴方は、中途半端に泡が垂れるびしょ濡れっぷりと相まって、不意打ちで洗われた子犬のようです。
 そういう絶妙な可愛らしさが貴方の真価だなーとぼんやり思いながら、私は次のバケツ(バケツはいくつも用意してあります。このテントには水がたっぷりあるのです)に手を伸ばそうとすると、貴方は慌てて私の腕を押さえて止めようとしました。
 その、慌てた様子と微妙に泡ってる頭とびしょ濡れの服が・・・・・・・・・・ああっ、可笑しい!
 こうして私は、やっぱりびしょ濡れで頬を濡らす液体がシャンプーの泡なのか水色の水なのか透明の水なのかちっともわからない様になりながら、声を上げて笑い出しました。 
 そうしたら、やはり貴方も可笑しかったらしく、二人で一緒に笑いました。
 何色だかわからない水に濡れたままで。



  
 ・・・・・・・・・・・・なんだかとても甘やかされた気がします。不本意です。
 以降は、水色の水など零さないように気をつけますので、このようなことはもうお止めください。
 笑いの衝動が収まった後でもっともらしく顰め面を作ってそう言いました。
  それから、泡塗れになった軍服を二人分洗って(貴方が錬金術で水分を蒸発させてくれたのでもう乾いてます)、濯ぎに使った泡だらけの水を、こっそりテントの裏手に捨てに行きます。
 テントの裏手には、小さな花が咲いていました。
 この乾いた土地では珍しいことです。きっと、貴方がテントで無尽蔵に使う水が零れて土に染み込み、その水を吸ってこの花は咲いたのでしょう。
 空を映したような清々しい色の花弁を持つ、小さな花。
 水色の花です。
 可愛らしい花を見つけた私は、少し微笑み、泡だらけの水を注ぎました。
 水色なんかちっともキレイじゃない。汚泥に塗れて畸形に歪みながらも濁った色で咲き誇るならば、その姿こそ美しい。
 だから私は、今宵も戦火で赫く焼け爛れた空に向かって祈るのです。
 どうか、この水色の花が生き残ってくれますように、と。
 泡で白く濁った水を、水色じゃない水を、水色の花にじゃばじゃばと注ぎながら、真摯に祈るのです。
 ちっとも水色じゃない空に向かって祈るのです。
 

 

 そして、水色の水を拭って、私は貴方の元へ帰るのでした。
 水色じゃない濁った水が美しい循環のシステムを蝕むことを、少しだけ望みながら。
 

【終】
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