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あさきゆめみし

 NARUTO。サスサク。


 夢を見た。
 


 薄紅の雲の欠片が千切れて舞い飛び、空を染める。小さな欠片たちが集って世界の色を染め上げる様は、傲慢で儚い。
 ちらちらとひらひらと舞う花びらがこれほどまでに小さく薄く軽いものでさえなければ、もっと上手に憎むことができただろうと思う。儚くて弱いと知っているから拒みきれなくて、進入を赦してしまうのだ。淡い色の花びらは、儚さ故にふてぶてしい。
 なのに人はどうしてこれほどまでにこの花を愛でるのか。
 おそらく、散るからだろう。空を埋め尽くすほどに誇らかに咲き乱れると同時にはらはらと散り逝くから、伸ばした手をすり抜けて地に落ちるから、蕾が綻んだ一時を見逃してはすまないような気にさせられる。見てやらねば、咲いている間は。
 そうして、地に落ちた花びらは単なるゴミと化し、だが葉は青々と生い茂り夏を経て秋を経て冬を経て、またうっかり蕾などをつけて春に咲く。儚げなくせにしぶとい。
 その様の全てが似ているので、やはりココが相応しかろうと思った。
 背に負うた荷はやけに軽くて、薄紅の絨毯に足跡を刻み込めない。踏み躙ってやりたいのに、上手くはいかないものだ。どことなく悔しくて嘆息して空を見上げると、これまた素晴らしく晴れていて、蒼穹に薄紅が映える。ふわふわと花びらを乗せて舞わせる風は、柔らかく頬を撫でてくる始末。風には若干の冷気が残っていたが、日差しはじんわりと温い。道端の雑草も、空も風も日も花も、何もかもが春を主張して煩い。
 うららかとは正しくこの様を言うのだろうと思った。自分たちだけが、そのうららかな世界に馴染めぬ異物である。
 日は温いのに荷を負い続けている指先は氷の冷たさで、春の優しさに抗っている。荷は更に冷たく、背から体温を奪い続けていた。腐らぬようにと冷却の術を施してしまった己が、滑稽に思えてきた。ちゃんと見ればよかった。醜い黴で黒くなって悪臭を放ち腐れ逝く様を、蛆が湧いて皮膚を穿り内臓が爛れ逝く様を、しかと見届ければよかったのだ。
 負うた肩からぶらぶらと垂れている皓い腕に頬を摺り寄せると、ひんやりと冷たく硬かった。やはりここにだけは春の息吹も到達していない。可笑しくなって小さく笑みながら、歩を進めた。ココまで来ればもうどれでも同じようなものだが、どうせなら一番綺麗なのがいい。美しいことに力があると教えたのが、この腕だったのだから。
 奥の大樹はどしりとした風格と愛惜に満ちた風情で、他と隔する美を有していた。
 ああ、コレがいい。
 やっと目当ての物を見つけたことに安堵しながら、背の荷を静かに下ろした。同色の花びらの上に力なく広がる髪は今にも溶けて同化してしまいそうだったので、印を結ぶ手を早めた。まだだ。1人で逝くな。
 土遁の術は専門ではなかったが、それでも穴を掘るくらいのことならば造作ない。根を傷つけぬように注意して、十分な大きさの穴を掘る。掘る作業に熱中し過ぎたのか、過ぎた日の声が耳を掠める。この花の下には死体が埋まっていてそれ故に怖いほど美しいのだと教えてくれた、稚い声。今はもう聞こえない。それが少し残念だった。繰り返し繰り返し、用もないのに自分の名を呼んでくる声は、一時はあんなに疎んじたのに聞こえなくなると肌寒い。
 春風に耳を澄ますような愚行を行った後、穴は完成した。さて、とだらりと転がる肢体を抱えようとして、ふと気がついた。
 コレを返して置かねば。
 球体をそっと吐き出す。もはや届きもしないのにわけのわからない叫びが洩れそうになったので、口寂しさを封じるために口に含み舐めていた。決して傷つけぬように珍しいほど気を使ったおかげで、球体に損傷はなく、術をかけて腐敗を防いだので翡翠色も鮮やかなままだった。よかった。
 嬉しくて少し唇を緩めながら、ぺこりと凹んでいる目蓋を捲って、眼窩に球体を収める。肌が皓過ぎることだけが少し気に食わなかったが、周囲の花に紛れてしまいそうな薄紅の髪も翡翠の瞳も美しかったので、やはり術をかけてよかったのだと確信した。
 いつもいつも、お前は、怖いほどに美しい女だ。
 満開の花吹雪の中でも霞まない美しさにうっとりと満足をして、汚さないように注意して抱き上げた。瑕一つない玉のような肌の女と違って、薄く焼き焦げ片手の指先は炭化した上に腹から血を流し続けている我が身だから、女を汚さないように運ぶのも一苦労だ。失血と毒のせいでふらつきを抑えられないことだし。
 それでもなんとか穴に運び入れ、ふわりと優しく抱きしめながら、印を結んだ。土を被せねば。
 最期のチャクラを使い切ったらほどなくこの身もこの女と同じくらいに冷たくなるだろう。そうしたらもう置いていかれずに済む。2人で逝くのだから。
 薄紅の世界を見上げて、花の化身のような女の亡骸を抱きながら、薄く笑んだ。
 ひどく、幸福だった。






 眠りの砂ははらはらと頬を零れ落ち、返らず。
 薄紅の花が舞い飛ぶ様はひどく美しくうららかで、温い空気とあいまって居心地が悪い。
 酔客のバカでかい声は耳障りなだけで意味を判別できないし、ちょろつく幼児は目障りでしかない。
 淡い記憶の中でよい夢を見た気はしているが、春先の外で不用意に眠り込んだせいで冷えてしまって、心地良さと不快さを同時に味わっている。地に足がついていないような変な気分だ。指先が冷たい。こんなふわふわした気分は苦手だ。
 落ち着かないので、そもそもこんな似つかわしくない場所に出向く理由(任務だと言って騙して花見に連れてこられた)を思い出すと、天秤は不愉快にぐぐっと傾いたので、安心して不愉快になることにする。だいたい、騙されたことに腹を立てて場を抜け出して、奥の大樹に凭れてこっそり寝ていたわけだし。
 そう思うとこれ以上この場に留まる理由も思いつけなくて、このまま帰宅してしまおうと思う。バカ騒ぎは好きじゃないし、しぶといくせに儚さを強調するこの花も好きじゃない。
 だから帰ろうとして歩き出したのに。足が止まった。
 翡翠色の瞳を持つ花の化身が、唐突に天上から舞い降りてきたからだ。
「あっ!サスケくんみっけ!こんなところにいたのね。も~、探したんだから」
 バタバタと地に落ちた花びらを蹴散らして駆けてくる姿は、現にしかと根付いた見慣れた女のものだった。声も仕草もそうで、生命力に満ちている。
 その様を視界に納めた途端、大樹に凭れて寝ながら見た夢の内容を思い出した。ふいに、密やかに蘇る記憶。
夢の中の女は、美しく冷たかった。
 ひんやりとした肌。舌に残る球体の弾力。腹から滴る血が薄紅を穢していく。やがてこの指先はどんどん冷えて・・・・・・
 くっと喉の奥から変な音が漏れて息が乱れた。頭ががんがんしてきたので、ぐっと眉間に力を入れる。
「ナルトはもう食べ始めてるし、先生はもうお酒飲んじゃってるの。なんでか知らないけどいのとかリーさんとかも通りがかって、宴会っぽくなってて、だから早く戻らないとサスケくんの食べる分なくなっちゃうよ。一応ね、私とサスケくんの分は隠してきたんだけど、ナルトって食べ物のこととなると異様に鼻が利くから見つかって食べられちゃうかも。だから、早く!」
 そう言って手首を掴んできた指は、人形のように細く小さく整えられていたが、生温かくて。その事実にひどく動揺した。ぱしっと、叩く。
 怖いほどに美しくなどないただの女だと何度も何度も頭の中で言い聞かせるが、眼前の女は髪も目も夢の中と同じ色をしていて、どうしても重なる。奇妙に軽かった荷の感触を反芻してしまって、背筋が骨まで冷えた。その寒さに抗うようにして、周囲で咲き乱れている花と同化してしまいそうな色の髪を持つ女を、睨む。
 睨みつける。
「あ、ごめん。でもね、本当に早く帰らないと食べる物なくなっちゃうから、だから早く来てね」
 きつく睨むと萎縮した様子で一歩退き、身を翻した。ふわっと髪が揺れる。
 名前そのままの、桜色。
 花に溶けそうな。
 考える間もなく腕を伸ばして抱きしめていた。


「えっ、あ、あの、サスケくん?」
 困惑していることなど明白だったが、抱きつくというよりは後ろから羽交い絞めにするといった風に腕に力を篭める。痛いほど。この女の皮と肉と骨と血の全てが、熱くて動いてる事実を体感する。骨っぽいのに何故か柔らかい。甘い香がする。
 髪はやはり花と同じ色だが、これほどしっかりと捕らえられていては、花には還れまい。ざまあみろ。
「あの、あのね、・・・・えっと、早く行かないと本当にナルトが全部食べちゃうよ?そ、それに、皆サスケくんを待ってると思うし・・・・・」
 髪に鼻を埋めるようにして頭蓋に頬をぴたりとつけていると、声の振動が直接伝わる。春風に声を探した哀れな男に教えてやりたい。声は風の中ではなく、この身体から発せられるのだ。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて抗わず閉じ込められている、腕の中のこの熱。この熱が声を生むのだ、と。
「・・・・・で、でも、サスケくんがそうしたいのなら、ずっとこうしてていいから。ずっと。本当に。だって私本当にサスケくんのことが好きで、だから、だからね、サスケくんだったら・・・・」
 そう言って伏せた睫毛の蔭が映る瞳は、じんわりと潤んでいた。こんなに細くて弱っちくて腕なんか簡単にへし折れそうなのに、この女は恐ろしい。腕力や術なんかじゃ叶わない力を有している。その力で人を狂わせる。夢の中でマヌケに穴掘りをさせたり、現実でもこうやって抱きしめさせたりする。儚いふりなんかしてるくせに強くて、性質が悪い。
 満足かよ。人の頭の芯を蕩けさせて。力の加減を忘れさせて抱きしめさせて。髪の香に目を細めさせたりして。お前のせいで指先までもう熱い。耳元で、どくどくと血の流れる音がする。
 まったく、なんてひどい女なんだ?
「お前、ウザいよ」
 心底うんざりと呟いて更に腕に力を篭めると、怖いほど美しい女が小さく笑った。
 その笑顔に胸が詰まったので、この花が何故にこれほど怖いほどに美しいのかを考えるのは止めておいた。
 花の嵐の中で化身のような女を抱きしめる手を緩めぬまま、声に出さず呟く。
 怖い怖い怖い怖いから、近づかないでくれ。
 やっぱりこの花、嫌いだ。






「この花がこんなに怖いほど美しいのは、私とあなたの死体が埋まっているから」
 怖いほど美しい女が、稚い声で言った。



 いろはにほへとちりぬるをわかよたれそつねならむうゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしゑひもせす
 

【おしまい】
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