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奴良リクオの嫁 その拾参

 ぬら孫 リクつら連載。

 以下に、続きを入れておきます。


 今宵も繁盛している化猫屋。
 奴良組の皆様もこの店をご愛用で、1階の椅子席には、関東大猿会の猩影親分、独眼鬼組の一ツ目入道の親分も、料理に舌鼓を打っていらっしゃるし、奥座敷にも大事なお客様がお越しだった。
 先程までは、給仕が終わった後もこっそり廊下に居残って聞き耳を立てていた猫娘だが、今は、一刻も早くこの場を立ち去りたいとばかりに、注文の品を卓上に並べると、そそくさと奥座敷から逃げていく。
 先程の席ならば、もし、猫娘の盗み聞きが発覚していたとしても、さほどの大事にはならなかっただろう。
良太猫の親分と鴆の親分は、融通が利くし何より前回やらかしてしまった負い目があるだろうから、見つかっても多少咎められる程度で済んだはず。真面目な首無の兄さんからは説教されるだろうけれど、彼は女に甘いのでさほどひどいことにはなるまいし、その前に彼が酔い潰れてしまっている可能性もあった。毛倡妓の姐さんは面白いことが大好きなので、むしろ、猫娘に話に加われと言ってくれそうだ。
 だから、猫娘も盗み聞きなんかが出来たのだ。話題も、恋の噂話、なんていう軽い物だったし。
 しかし、先程死ぬほど驚いて肝を冷やした上に、お優しく気さくなお人柄だと知ってはいてもこの関東一円を治める総大将たる御身に対して、盗み聞きなどはもう出来ない。そんな、恐ろしいことは。
 三代目は、同じ屋根の下に暮らしているというのに、今宵はわざわざ、腹心の部下に相談する為に足を運んでこられたのだ。何か、余程大事な、切迫した相談事があるに違いない。
 そんな重そうな話を聞きたくない猫娘は、これ以上は最低限の給仕以外で奥座敷には関わらぬようにしようと思いながら、離れを後にした。
 
 この後、自分が何に巻き込まれるかを、知らずに・・・・・・







「リクオ様、電話が通じなかったのに、どうして私がここに居るとわかったんですか?」
 いつも通りにこやかにほほ笑む首無は、だがしかし、冬なのに、背中がぐっしょり汗で濡れている。
「納豆小僧が、化猫屋に飲みに行ってる、て教えてくれた。お前と毛倡妓だけで飲んでんなら、押しかけるなんて野暮な真似はしねぇが、良太猫の誘いで鴆も一緒だ、て聞いたからオレが邪魔してもいいかと思ってな。迷惑だったか?何の話してたんだ?」
「ふごぉっ」
「鴆様っ、大丈夫ですか?」
 鴆が酒に噎せた。すかさず、良太猫がその背中を摩る。
「邪魔だなんてそんな!滅相もありません!イイ男はいつだって大歓迎ですよぉ!あたしたち、化猫屋のメニューの話してたんです。今年のボジョレーはどうだとか、サーターアンダーギーは美味しいからお持ち帰り可にすればいいとか、クリスマス特別メニューはどんなのがいいか、とかそんな話を。そうだわ!リクオ様、そのお酒美味しいですか?」
 花の吉原で花魁にまで上り詰めた毛倡妓は、さすがに腹の据わった女である。胸の谷間に汗が伝うのを感じながらも、なんとか話を逸らした。納豆小僧を明日おやつ抜きの刑に処すと決意しながら。
「オレの好みとは違うが、食前酒にはありじゃねぇかな。女に受けそうな味だ」
「じゃあ、良太猫。あたしもこれ注文するわ。で、イイ感じだったら、クリスマス特別メニューに女性客のみ食前酒サービス、とかやればいいんじゃない?」
「おお、ありがたいご意見ありがとうございやす。今時の集客は、女性のお客様のニーズを意識しねぇといけませんからねぇ。あ、リクオ様、首無の兄さんにご相談があるんじゃ?」
「ああ、そうですね。リクオ様、どんなお話でございますか?」
 鴆はまだ噎せているが、客商売でこの種の度胸を鍛えられた良太猫は、毛倡妓のフォローを上手く受けた。
 首無も、すかさずその流れに乗る。
 3人にじぃっと見つめられたリクオは、威風堂々とした夜姿には珍しく、ついと視線を落した。グラスを干してから、ぽつりと呟く。
「・・・・・・・・あのな、お前ら、最近のつららをどう思う?」
「ふぼぉっ!?」
「ああっ、鴆様っ!」
 やっとおさまったはずなのに、リクオが口にしたのがあまりにタイムリーな話題過ぎて、鴆がまた噎せた。良太猫がせっせと背中を摩る。
「鴆?お前、さっきからどうし・・・」
「つららですか?冬だから調子は良さそうですよ。最近のあの娘のマイブームは、ドーナツプラネットのチョコレートドーナツだって言ってました」
 リクオが鴆の様子を些か不審そうに見ていたので、意識を逸らそうと、毛倡妓は、わざとボケておく。
「いや、そういうのじゃなくて」
「ああ、そうそう。こないだ、ピーチジョンでお揃いの下着を注文したんですよー。あの子のチョコミントセットは、ミントブルーの地にチョコレート色のリボン、あたしのチョコレートボンボンはワイン色の地にチョコレートのリボンで。通販は、色やサイズが充実してていいですよねぇ。たくさん買うと送料無料になったりするし」
「チョコミントか・・・・・いやいや、オレが聞きてぇのはそういうことじゃなくてだな」
「次のお給料日には、花と蝶を組み合わせているシリーズもお揃いで買おうか、て話してるんです。花の種類は、薔薇・牡丹・椿・菖蒲・鈴蘭で、あたしは牡丹にしようと思ってるんですけど、あの娘は椿と鈴蘭で悩んでて。リクオ様、どう思います?」
「そうだな、オレは鈴蘭の方が・・・・じゃなくて!」
「元々真面目な働き者ですが、側近頭に任じられたことで、更にはりきってがんばっていますね」
 毛倡妓のボケですっかりリクオの気が逸れたのを確認してから、首無が話の方向を戻した。さすが、つき合いの長い2人だけあって、見事な連携プレーである。
「総会じゃあ出しゃばらねえようにちょこんと末席に座ってるが、茶が欲しくなったり酒が切れたりすると、いいタイミングで用意してくれて、この気配り故の側近頭任命か、と貸元衆にも評判は悪くねぇぜ。がんばってるよな」
 やっと復活した鴆が、良太猫から渡されたおしぼりで顔を拭きながら言うと、リクオは、眉を顰めて俯いた。
「・・・・・・・がんばり過ぎじゃねぇか?」
 いつもは甘く耳を擽る美声が、苦い響きを帯びている。
「リクオ様?」
 ボロを出さないことにのみ意識が向いていた一同は、リクオの様子がおかしいことに、やっと気づいた。気風が良くて大胆な夜姿らしくなく、今宵のリクオは何やら歯切れが悪いのだ。
「あいつ、朝から夜中まで働き過ぎだろ。冬だから夏より調子いいっつったって、限度があんだろ」
「一応、食事当番なんかは以前よりシフトを減らしていますが」
「・・・・・でもあの娘、可能な限り、リクオ様のご飯は自分で作ろうとするのよね。毎朝のお弁当以外にも」
 毛倡妓は、そっと溜息をついた。
 奴良本家で暮らす者は多いし、毎夜のように飲めや歌えやな宴会騒ぎになってしまうので、女衆の仕事は多いし、そもそも家事というのは終わりも果てもないものだ。だから、当番でない時にも手伝ってくれるつららは、女衆から感謝されていたが、毛倡妓は心配していた。
「そういや、リクオの部屋で飲む時は、いつも酌しに来るな」
 鴆も、眉を顰めた。
「えーと、どんな勤務形態になってんですか?」
 良太猫が首を傾げて尋ねると、首無が簡単に説明してくれた。
「現在のつららの仕事は、リクオ様の身の回りのお世話と、護衛と、食事当番と、錦鯉地区にシマを持つ荒鷲組の管理だな。あと、幹部格として総会があれば出席する」
「・・・・総会の準備と後片付けも手伝ってくれるわよ。あんたは出席しなくちゃならないんだからいいのよ、とは言うんだけど、あの娘真面目だからねぇ」
「リクオ様の身の回りのお世話ってのは、具体的に何をするんですか?」
「具体的には、朝はリクオ様を起こして、リクオ様のお弁当の用意、配膳、洗濯、部屋の掃除、衣類の管理、・・・・・」
「夜のお布団敷いたり、お部屋で勉強なさっている時はお茶とかおやつとか夜食とか持っていったり、お酒を飲まれる時はお酌もしてるわよ」
「ていうか、リクオの部屋を管理してんのは、あいつだろ。リクオ、お前、新しい足袋がどこにあんのかもわからねぇとか言ってただろ?」
「ああ、わかんねぇ。夏の水着とか制服の夏服とか夏布団がどこにしまってあんのかもオレは知らねぇし、半襟つけるだの何だのも全部あいつ任せだ。あいつが傍にいねぇと、オレは、1日も経たねぇうちにかなり困り出すぞ」
 そこまで聞いて、前回つららの働きぶりを耳にしていた良太猫は、詳細に語られた予想以上の仕事量にしおしおと耳を垂れた。
「・・・・・・・・・・オーバーワークかと思いやす」
「前々からそんな気がしてたけど、そうよね、働き過ぎよね・・・・・」
 側近の中の女同士としてつららを気遣っていたつもりの毛倡妓も、改めて見つめ直してみた仕事量に、目を閉じて唸る。
「頑張り屋にも限度ってもんがあらぁなぁ・・・・・」
 鴆がつららを目にする時はリクオの傍らにいることが多いから、鴆は、つららに、いつ見ても朗らかに笑っている印象を持っていた。疲れた顔など見た覚えはない。けれど、それこそが問題であろう、と、鴆は口をヘの字に曲げた。
「だが、休めと言ってもなかなか聞かないからな・・・・・・・」
 首無は、ゆくゆくは鴉天狗の役職を継いでくれと言われて、現在はリクオの側近以外に明確な役職はないながらも、各所の仕事を手伝いながら本家全体を見ている。だから、当然、つららの仕事量が多過ぎることには気づいていて、本人に向かってもう少し休めと口にしたこともあった。しかし、つららは、落ち着かないと言っておとなしく休んではくれないのだ。
 4人がつららの仕事状況に思いを馳せて困惑したところで、リクオは顔を上げた。
「そうだ。だから、オレはお前らに相談してぇんだ」



【つづきます】
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