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Hush-a-bye, baby

 ビィトで、ビィトとキッスとポアラ。
 ふわりと頬を撫でる風は、薔薇の香を含んで甘い。
庭園にも先日の襲撃の爪痕は確かに残っていたが、だがしかし薔薇はさほど被害を受けてはいなかった。
この屋敷を覆うように植わっている薔薇は、このご時勢には珍しいほどよく手入れがされてあって、この家の権勢が保たれていることを見る者に教える。領主すら失われた土地でこれだけの薔薇は珍しく、この薔薇もこの街も、あの気丈な女性が1人で切り盛りしているのかと思うと、尊敬の念を感じずにはいられなかった。
私、この家が好きだわ。
口さがない奴らは人類が危機に面しているこのご時勢に薔薇を手入れする彼女を呑気な女だと罵るかもしれないけれど(先日そんな声を聞いた)、でも、この薔薇は人々の心を和ませてくれるし、私たち人類にはまだ薔薇を愛でるだけの心の余裕があることの証明にもなっている。多くを纏める立場に立つならば、例え虚勢であっても余裕を見せることは必要だ。それがわかっている彼女は十分に有能なのでしょう。
なら、キレイな顔立ちに反比例して物言いは時に辛辣だけど、確かな信念を持った有能な男性であるクルスとお似合いね。だったら、私たちは憂いなく、クルスをココに残して旅立てるわ。
心中でそう呟きながら廊下を歩いていくと、スカイブルーの袖口から伸びた細く白い指で薔薇の花びらを撫でている人影が見えた。キッスだ。柔らかい淡黄色の髪を薔薇の香を含んだ風に遊ばせている様は、甘いめの綺麗な顔立ちと相まって、まるで花の妖精・・・・・・・・・時々あの子が生まれてくる性別を間違えたような気がするのは、きっと私だけじゃないわね。こっそりとため息を吐いた後、声をかけた。  
「キッス、ミルファ知らない?」
「ミルファならさっき買い物に出かけたよ。後、ハウスにも寄ってくるって。晩ご飯までには帰ってくるらしいけど」
 詩心のない私ですら妖精に例えそうになった神秘的な雰囲気は、話しかけるとすぐに失せた。キッスは表情が豊かだ。懐っこく微笑む。
「あちゃー。出かけちゃったのね」
 さっきメイドさんに用意してもらった鋏と破れたカーテン(こないだの襲撃で破れた)と洗濯バサミを抱えたまま、私も庭に下りてキッスの隣に立つ。
「どうしたの?」
 小首を傾げて覗き込んでくる姿は小動物を連想させる可愛らしさで、出会った頃の気障っぷりの面影もない。もっとも、女性一般に対する言動に気障がかったところがあるのはおそらく彼なりの処世術なんだろうと理解してからは、私は彼の気障なとこが全然気にならなくなったので、どっちでもいいんだけど。
ここ最近のキッスの、私に対する態度というのは、何と言うかこう、「警戒を解いた」というよりも「懐いた」という方がきっと正しいと思う。だから私も、同年代の男子というよりは弟でも相手にしてるみたいな気持ちになる(私は一人っ子だけど、ビィトと一緒に育ったからね)。もしくは、妹かもね(ちゃんとすごいとこもカッコいいとこも知ってるけど、異性として意識できないのよね。なんでだか)。
・・・・・この人、私が今思ったことそのまま言ったら「どうせぼくは女々しいよ。ポアラやミルファの方がずっと漢らしいよ」とか言って落ち込んじゃうんだろうなあ。
「ちょっと髪切ってもらおうと思ったのよ。ほら、今日天気だし、鋏貸してもらったし」
 だから、考えてることなんておくびにも出さずに、にこやかに会話を続ける。
「切るの?」
「うん、毛先を揃える程度に切りたいの。ほら、昨日天撃の練習した時にちょっと髪焦がしちゃったのとか気になって」
 今日は、久しぶりにゆったりと過ごせそうな日だ。不動巨人ガロニュートは滅びて、その噂を聞きつけたのか魔物共も壊れた門に近づいては来ない。本日の門の見張りはアーク戦士団で、我々ビィト戦士団はオフ日。だから、ビィトはクルスにクラウンシールドの使い方を習っていて、ミルファは買い物。スレッドの姿は見えないけど、きっとどこか人のいないところで特訓でもしているんでしょう。
 激動の毎日にぽっかりと出来た平和な時間なので、私も戦闘中は気にも留めないはずの髪の長さが気になった。バンダナで留めてはいるけど、あまり伸びると邪魔なのよね。
「そうだね。じゃあ、ぼくが切ろうか?」
 せっかくの平和な時間を満喫したい気分を察してくれたキッスは、穏やかに微笑んだ。
「キッスが!?」
「失礼だな、ポアラ。ぼくはビィトとは違うよ?」
 ビィトの腕前を思い出して一瞬焦ってしまったけれど、よく考えてみるとキッスがビィトほどひどいということはないだろう。せっかく善意で言ってくれてるわけだし。うん、まあ、大丈夫でしょう。
 納得した私は頷く。
「じゃあ、お願いするわ」
「かしこまりました、お姫さま」
 そう言ってキッスが差し出してきた手の上に鋏を乗せた。まったくもって気障な台詞だと思うけれど、なんでかな、以前と違って私は全然嫌じゃない(慣れたのかしらね)。




 シャキン、シャキンと鋏の音が庭に響く。
 私は庭の隅に椅子を持ってきて、破れたカーテンを洗濯バサミで留めてケープみたいに纏いながら、キッスに髪を切ってもらっていた。キッスは慎重で、メイドさんから霧吹きと櫛を借りてきて、濡らして丁寧に梳かしてから少しずつ毛先を切っていく。
 危惧する必要なないとわかると、人に髪を触られるのは気持ちが良かった。アンクルスにいた頃は母さんに髪を切ってもらってた。その時の気分を思い出す。
「キッスはビィトに髪を切ってもらったことがあるの?」
 いつもより柔らかい声が出た。だって、お日様の日差しも風も薔薇の香りもキッスの指先も心地良くて、なんだかうとうとしてしまう。
「二人旅だったからね」
 キッスの声も優しい。ま、キッスは(戦闘中もしくはスレッドと険悪な雰囲気になっているんじゃない限りは)いつも優しい声だし柔らかいしゃべり方をしてるけどね。うん、この子は優しい子だから。
「あいつの腕前は?」
「・・・・・・・ぼくが迂闊だったよ」
 その時のことを思い出したのかキッスは苦笑したけれど、声は存外に明るかった。ビィトの話になると、キッスはいつもそう。ビィトが寝る日、私はキッスと二人きりで話をしたりするけれど、キッスはビィトの話になると明るい顔をして楽しそうなのよ。ビィトを本当に好きなんだなあって、こっちにまで伝わってくる。とても頭のいい人なのに、そういうとこは子供みたいに素直。
「やっぱり」
「君も切ってもらったことあるの?」
「ないわ。私は、そんな危険な橋を渡りたくないから。ちなみにあいつ、自分の髪は自分で切ってるわよ。伸びてきたなと思ったら、鏡も見ずに、むんずと掴んで容赦なくチョキンって。アレを見ちゃうとね、絶対頼んだりする気になれない」
「ぼくは、ソレを見る前に頼んじゃったんだよね・・・・」
 キッスは頭脳明敏で天撃に対して天賦の才があるけれど、ちょっと運が悪い印象がある。間が悪いと言うか。だから、あのビィトに髪を切ってくれと頼んでしまったのはいかにも彼らしくて、私は笑いそうになるのをなんとか抑えた(笑ったら可哀想だわ)。
「・・・不運だったわね」
「うん。ま、髪なんてどうせ伸びるからまあいいんだけどさ」
 そう言ったキッスの口調は負け惜しみという感じでもなかったので少し振り向いて確認してみたら、やっぱり悔しそうな顔ではなかった。だからきっと本当に、「まあいい」んでしょうね。キッスって、類稀なほど綺麗な顔立ちしてるし(人の顔の美醜に疎そうなビィトでさえ、あんなに「顔がいい」を連発するほど)動作もどことなく優雅だし(テーブルマナーとか完璧にマスターしてるしね)黙って立ってたら神秘的にさえ見えるのに、案外身なりに構わない。自分の価値をよくわかってないようなとこがあるのよね。不思議。
 まあ、今はもう私たちがキッスの価値を、『それでこそキッス』なとこをわかって一緒にいるんだから別にいいけど、本当に本物の天才なんだからもっと自信持ったらいいのに、変な人ね(そこがキッスらしいとも言えるけど)。
 ホント、そんなとこが危なっかしくてならないから、あのビィト(3年程留守にしても、ちょっと晩ご飯に遅れたような態度)が「心配した」なんて言うのよ。だから私も、絆されちゃったのよ。そーいうの、ちゃんとわかってるのかしらね、この頼りない天才クンは。
 なーんて思いながら、私は、すっかりリラックスしてキッスに髪を任せていた。
 シャキン、シャキンと鋏の音が庭に響く。
 あー、気持ちいいなあー。




「おーっ、ポアラ!何してんだ?キッスの髪切ってんのか?」
 と、庭の垣根越しに私たちの姿を見つけたビィト(特訓は終わったのかしら?それとも単に昼食を取りにきただけかな)が大きな声を出した。ちょっとビックリして(いきなりなんだもの)、キッスの髪を濡らしてた霧吹きを持つ手が止まる。
 さっき私はキッスに髪を切ってもらった(腕前はなかなか。うちの母さんより上手かも)から、お返しにキッスの髪を切ってあげることになったのよね。で、髪を濡らしてたんだけど。
「そうよ。私はさっきキッスに切ってもらったから、お返ししようかと思って。あんたも切ってあげようか?」
「おれはいいよ。まだ伸びてないし。あ、おれがキッスの髪切ってやろうか?」
 庭の入り口へ回る手間を惜しんで垣根を飛び越えたビィトは、つかつかと大またで近づいて来るなり傍らに置いていた鋏を手に取った。途端に、キッスの顔が引きつる(元の顔立ちは美形なのに、とっても表情豊かよね)。
「えっ!?」
「遠慮すんなよ。前にも切ってやったことあるんだし」
 ビィトはキッスが何に怯えているのか全く気がつかない様子で(ビィトらしい)キッスの髪に手を伸ばしたから、キッスは慌てて椅子に座ったまま私に縋ってきた。ビィトの手から少しでも遠ざかろうというふうに、私の腰に腕を回して、腹部に顔を埋めてくる。
「ポ、ポアラっ!助けて!」
・・・・・・・・・・なんかね。出会った頃の気取ってたキッスが同じことしてきたらエルボーと膝打ちのコンボを喰らわせたでしょうけど、すっかり懐いて子供っぽくさえ見えるキッスがこんなふうに縋りついてくるとね、・・・・・・どうも母性本能的なものがこみ上げてきて突っぱねられないわ(我ながら同年代の男子に対する態度じゃない気もするんだけど、キッスの態度も同年代の女子に対するものじゃない気がするのでどっちもどっちね)。
だから私は、傍若無人なビィトの手から守るようにキッスの頭を抱きかかえた。
「ダーメ。本日をもって、キッスの髪を切る係は私に決まったの。さっき約束したのよ。ね、キッス?」
「う、うん」
 敏いキッスはすぐに私の意を察して即興の嘘に合わせる。こくこくと頷いた。
 ビィトが、拗ねた子供みたいに口を尖らせる。
「ちぇーっ。キッスの髪やわこくて気持ちいいのに」
 その様子はとても子供っぽくて、七つ星の魔人を倒した戦士団のリーダーにはとても見えない。私のお腹に縋っているキッスも、魔人の脅威と言われるほどの知力の持ち主には見えない。二人ともまるで、小さな子供みたいで。
「後で好きなだけ触ったらいいでしょ。ほら、あんたはご飯でも食べてらっしゃい」
 なんだかお母さんみたいだ私、とぽかぽかした温かい気持ちでそう思った。
 ふわりと頬を撫でる風は、薔薇の香を含んで甘い。





 
 私は天才じゃなくて、根性だけはあるつもりだけど平凡な人間だ。出来は悪くないかもしれないけれど、でも本来なら『そこそこ』の範囲内に収まるぐらいのはず。なのに、あんたたちと一緒なら、私だってミラクルチームの一員になれる。奇跡を起こせる。
 私には特別なものなんて、何一つない。
 だから、全然特別じゃないありきたりの温かいものをあげるわ。
 私は、いつだって、何があったって、怯まずにあんたたちを受け入れてみせる。


 あんたたち、(いざって時はすごいんだから)時々は子供に戻ってもいいわよ。
私が面倒見てあげるからね!


【おしまい】
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