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月を取ってと無邪気に望むような年齢などとうに過ぎたその子供は

 十二国記。楽俊と陽子。



 卵に似てて美味そうに見えたから水面に浮かぶ月影を指差し、月を取って、と言うと父ちゃんは困った顔をした。

 お月様は食べられない。お月様は遠い遠い所にあって水面には影が映っているだけだ。だから取るのも無理だ。お月様には女神様が住んでいるらしいよ。

 ふうん、と呟いた。しっぽで水面を叩いて月影を揺らす。閭胥の話を聞くのは好きだったから神仙の実在は知っているが、一介の半獣には遠い遠い存在だった。見上げると、月は彼方で煌々と照り輝いている。

 この夜、お月様は遠くて女神様も遠かった。











 水面に浮かぶ月影を指差し、わたしはアレを潜り抜けて来たんだ、と彼女は言った。

 正確には海に浮かぶ月影の門。とても怖くてわけがわからなかった。寒くはなかったけど。だから、こっちに来てしばらくは水面に浮かぶ月を見るのが怖かった。

 そっか、と呟いた。欄干にもたれて雲海を眺めながら、しっぽを揺らす。夢にまで見た雁国に来て、雲海の上の王宮の客となり、慶国の女王と会話をしている。我ながら現実味がない状況だが、紛れもない現状だった。潮の香を嗅いでいるこの鼻は紛れもなく己の鼻だし、波音を聞いているこの耳も己の耳だ。決して、他人事ではない。傍らの彼女が他人事にさせてくれない。女王と半獣の距離なんて、たった2歩(短い鼠の足には3歩だが)分しかない。己が一介の半獣ならば、彼女だって一介の女王だった。それだけだ。

 まだ怖いか?

 ううん。怖くない。わたしはまだまだ物知らずだけど、人は自分にやれることをやるだけだってことはわかったし。それに、こっちに来たからイイこともあったんだし。

 イイこと?

 うん。楽俊に会えた。友達になれた。イイことだよ。

 水面の月影を見つめながら、彼女は囁いた。彼女はその身分に相応しく鮮やかな刺繍を施された絹の服を纏い、だが、戦う者の手をしていた。この手で剣を振るい、自らの命を守ってきたのだ。その手が、細かく震えていた。彼女は明日出陣する。初めて、人を斬るのだ。

 おいらにもイイことだな、そりゃ。

 3歩歩み寄り小さく力弱い鼠の手で、震える手を握った。彼女は握り返してきた。見上げると、月は彼方で煌々と照り輝いていた。
 この夜、お月様は遠くて、でも女神様との距離は零になった。







【おしまい】
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