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ぬらりくおの嫁 その玖

 ぬら孫 リクつら連載。

 良太猫空気読む、の巻。


 さっきまで和気藹々としていたはずの化猫屋の奥座敷は、今、なんだか重苦しい空気が漂っていて、静かだった。
 廊下で盗み聞きしている猫娘は、壁に押し付けている耳の先っぽがむずむずしてきたのだが、部屋があんまりにも静かな為に、身動ぎすると己の存在を悟られてしまいそうで、じっと耐えていた。
 近くの部屋に料理を運ぶ者でも現れたら、その物音に乗じて耳を掻こうと思っているのだが、そんな時に限って、誰も通りがかってくれない。
 だから、彼女は、部屋の中にいる自分の親分に願いを託す。良太猫の親分、なんとかしてください、と。
 化猫組の良太猫は、気風の良さで有名だった先代の姐さんの息子だが、喧嘩はからきしの彼が、何も、それだけの理由で組を継げたわけではない。
 決して武闘派ではなく、繁華街にて客商売に精を出す化猫組では、化猫屋が総元締の奴良本家の総大将のお気に入りであることもあって、腕っ節よりも、空気を読んで場を纏め導く能力が必要だった(荒事ならば本家に頼ればいいので)。武闘派にはお調子者の幇間と謗られもするが、幇間の技能こそが夜の街を収めるには必要なのだった。
 正直な話、良太猫より腕の立つ組員もいるのだが、良太猫は、そのあたりにおいて、皆に認められているのである。
 だから、猫娘は心中で呟く。
 親分、なんとかして~!






 そんな己の子分の願いなどは知らずとも、この場に落ちた重い沈黙を破ったのは、やはり、生来の幇間として場の空気に耐え切れなくなった良太猫だった。
「あのっ、オイラ、ゆらって娘について尋ねてたんですが」
 この一言で、やっと、雰囲気が変わる。
「ああ。そうだな。呪いは解けてるかもしれねぇんだし、可能性の話だけで、暗くなってちゃいけねぇな」
「ごめんなさい。変なこと言っちゃって。えーと、ゆらって娘のことね。なかなか威勢がいい子よ。それに、面白いわ」
 繋いだ手を強く握り返してから離した毛倡妓は、顔を上げて笑みを浮かべた。
「面白い?」
「あの娘にはリクオ様が妖怪だってバレてるんだけど、バレる前より、バレた後の方が、余所余所しさがなくなって、昼のリクオ様とは普通にお友達になった感じがするのよ。だけどね、夜のリクオ様に対しては、対抗心というか素直になれないというか、そうね、『ツンデレ』気味な態度を取るのよ。それで、昼のリクオ様は、正体がバレたから、かえって伸び伸びと接してらっしゃるわ。隠したり嘘をついたりしなくていいから、楽なんでしょうね。夜のリクオ様は、・・・・うーん、何というか、リクオ様は女性全般にお優しいけど、その娘には、半分ぐらい男扱いみたいな態度を取ってらっしゃるわね。からかい方とかが」
「例えば、どんな?」
「あたしじゃなくて、つららが見た光景なんだけど、その娘に正体がバレた夜、リクオ様を庇おうとしてその娘が怪我をしたってんで、うちで治療してたのね」
「ああ。あの、下駄で身長嵩増し男が現れた日だな」
「・・・首無、あいつのことよっぽど気に喰わないのね。でも、必要な人材なんだからもめるのは止めてよ。あ、ごめん、良太猫、話が逸れたわね。えーとね、治療した後、その娘、木の上に登ったリクオ様を見つけて、自分もその枝に登って、何か話してたんですって。つららはね、何を話してたのかはわかんなかったけど、その娘は術を構えてたらしいのよ。で、遠目でそれを見たつららが慌てて駆け寄ろうとしたら、リクオ様が、その娘を池に蹴落としたらしくって」
「ほー。敵じゃねぇ女に、リクオがそんなんするたぁ珍しいな」
 この話は初耳だったらしく、鴆は目を丸くした。良太猫も、耳をピンと立てて驚く。
「前にうちの店につれてきた人間のお嬢さんには、そんなじゃありませんでしたぜ」
 2人の驚き様に、首無は苦笑した。
「他の人間のお嬢さん方にも、リクオ様は丁寧に接してらっしゃいますし、妖怪の女にだって気を遣ってくださいますよ。まぁ、うちの屋敷の妖怪は、悪戯はされましたがね」
 首無は、リクオが妖怪の男や人間の男に気を遣ってくれるのかは、口にしなかった。良太猫はそれに気づいたが、あえてスルーしておく。
「あら、でも、男衆はともかく女衆は、今のリクオ様からそんな悪戯をくらったことはありませんよ。リクオ様のお友達の遠野衆には、雪女の冷麗と座敷童の紫もいますけど、やっぱり、池に蹴り落とすようなことはしない感じだし」
 毛倡妓は、リクオは、遠野衆のイタクと雨造と土彦は男友達、淡島は基本男友達だが身体が女になっている時は若干気を遣う、紫は(紫の方が年上に違いないのだが)年下の女の子のような扱い、冷麗は気に入っているらしくかなり扱いがいい、という印象を持っていた。
 そして、リクオが冷麗を気に入っているのは、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの逆で、冷麗個人の資質もさることながら『雪女』というのがポイントが高いのだろうと推測している。
 毛倡妓の話を聞いた良太猫は、『男衆はともかく』って、とも思ったが、やはり、スルーを貫いた。
「そのゆらって娘は、リクオにとって、『女友達』というより『気の置けない男友達』に近いのかもしれねぇな。まぁ、確かに、単純熱血猪突猛進系で、毛倡妓の言う通り、威勢がいい奴だったしな」
 ゆらという娘は、『妖怪のお医者さん』に頼み事をした時にまっすぐこちらを見たな、と鴆は思い出す。リクオと同じ年ならばそろそろ女の匂いがしそうなものだが、あの娘からは、年頃の娘の華やかさや媚や甘えなどの代わりに、童女のような真摯さと少年のような清涼感を感じた。
 人間としてのリクオも気に入っている鴆としては、リクオが人間にどのように受け入れられているのかは気にしている。心無き者は必ず存在してしまうが、リクオの周りにはイイ奴が居て欲しいと思っていた。
 なので、鴆は、京都遠征以降、初めて正体がバレた相手が花開院ゆらであったことは、リクオにとって『善いこと』だったのだろう、と判じることにした。
 初代と十三代秀元は、四百年の歳月を経ても友誼を保っているそうだ。リクオとゆらならばそのようになれるかもしれない、と未来に思いを馳せた鴆は、生姜あんの煮奴を含んだ唇に、そっと笑みを刷く。
 その頃には命短き己はもう滅しているだろうけれど、子孫の破軍で呼び出されたゆらに再会できたら、きっと、リクオは喜ぶのだろう。
「だからこそ、サトリや鬼一口を倒せたんですから、それは長所ですよ」
「へぇー。リクオ様のお友達に、そんな娘さんがねぇ」
 いろんな意味で言葉を飲み込んだりしつつも、場の空気が戻ったことに安堵した良太猫は、にこりと笑った。



【もちろん、まだまだ続く】
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