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ぬらりくおの嫁 その捌

 ぬら孫 リクつら連載。
 
 20話いかないといいなぁ、と思って書いています。
 ・・・・・いかないといいなぁ。


 化猫横丁には数多の店が犇めいていて、大通りはいつも妖怪で賑わっている。
 今宵、その通りを、赤い羽織の男が歩いていた。
 夜闇に映える白銀の髪に、すらりと着こなした墨染の着流し。涼やかに整った面立ちには、鋭さと甘さと妖しさが同居している。炯々と輝く紅眼は、冷たく沈黙したままの紅玉などよりは、黒い帳で閉ざしても尚その向こうで赤々と燃える太陽などに、例えるべきだろう。矛盾極まりない形容だが、『闇夜を照らす陽』とでも評したくなる。
 男が纏う闇と光には、全ての妖が畏れ焦れるに違いない。
 不思議なのは、明らかに人目を惹きそうなこの男に、通りを行き交う妖怪たちの誰も目を向けぬこと。男は、するりするりと、隙間を潜り抜けるようにして混雑した通りを進む。
 誰よりも、自由に。
 やがて、男は、立派な設えながらも庶民的で親しみが持てる店の前で、足を止めた。そして、誰にも見咎められぬまま、ひょいと中に入っていく。

 その店の名は、『妖怪穏御食事処 化猫屋』と言った。






 さてさて、たった今、店の玄関を潜った妖怪が誰かなどは知らぬ奥座敷の面々は、酒で喉を湿らせつつ、話をどんどん盛り上げていく。
「えーと、それから後は、どんな感じだったんで?」
 猫目をわくわくきらきら輝かせながら先を促すのは、童顔の愛嬌でたいがいのことを乗り切ってきた、化猫屋店主にして化猫組組長である良太猫。
「ああ。えーとな、リクオの百鬼は、先頭に立つは、もちろん、関東総元締奴良組若頭奴良リクオ、それから、側近衆とオレ。その後ろに、さっき話に出た天狗だの、納豆小僧だの、豆腐小僧だの、3の口だの、猩影だの、邪魅だのが続いて、更に後ろに遠野衆、て感じで弐條城の門まで来た。門番は、お約束っぽい口先ばっかの巨漢の鬼で、案の定、リクオの蹴りで堀に落とされて終わり」
 丁寧に説明をしてくれるのは、粋でいなせで、情に厚いせいでちょっと暴走しやすくもあるが、実は目端も利く、薬鴆堂堂主にして薬師一派の頭領たる鴆。
「あっけないですね」
「いや、一応、堀担当の河童が、ミズチ玉でトドメは刺していたよ」
 フォローしたのは、奴良組有数のイケメンと名高く、気の利きようがいっそ小憎たらしいと女性に評される罪な男、首無。
「次に現れたのは、サトリと鬼一口だったわね」
 話を続けたのは、奴良組において大人の色気と恋話とおさんどん担当の、毛倡妓。
 以上の面子(と、廊下で盗み聞きしている猫娘)は、京での大戦の話を楽しんでいた。
「サトリってぇと、心を読むとかいう」
「そうそう。ぬらりひょんて妖怪の有利なとこは、敵の認識を惑わせることじゃねえか。だが、サトリにはこれが利かなくてな」
「じゃあ、どうやって倒したんで?」
「陰陽師の娘が、己が行使できる式神を全部同時に召喚してぶつけて、攻撃が来るのがわかってても避けらんねぇ状態にして、リクオが祢々切丸で一刀両断」
 鴆がここまで話したところで、良太猫がはっと息を飲んだ。
「あ!今、オイラ、大事なことに気づきました!」
「ん?」
「オイラ、その、陰陽師の娘のこと、話してもらってないです!その娘が、祢々切丸を作った花開院の血筋の娘で、リクオ様と同じ学校に転校してきたことぐらいしか、オイラは知りやせんぜ」
 奥座敷の中で、京都での戦いに参加していないのは、良太猫のみ。
好奇心が強い良太猫はかなりの情報通だが、それでも、その場におらねば集められる情報には限りがある。だからこそ、三代目関連の情報を得る好機、と目を爛々と輝かせて鴆に詰め寄った。
「あー、オレも、実は、あんまり知らねぇ。花開院っつーのは、代々命懸けで京都を守って来た使命感の強い陰陽師の一族で、役人関係にも顔が利くらしいとか、奴良家が妖との間に子が成せぬ呪いを狐に掛けられたように、本家男子が早世する呪いを掛けられてて、分家から養子をもらうのが当たり前だから、なんか血縁関係がごちゃごちゃしてそうだ、てことと、その娘の名前はゆらで、単純だが悪ぃ奴じゃねぇ、ていうぐらいしか知らん」
 つきあいも面倒見も良い鴆は、詰め寄った良太猫を嫌がらず、ぽんぽんと宥めるようにして肩を叩きながら、自分が知っていることを話してやる。
「・・・・わりとよくご存じですね」
「いや、戦いが終わった後で、オレら皆そこんちに泊めてもらったんだが、その娘に、『あんたが妖怪のお医者さんやったら、頼みがある』て言って、妖刀を使い過ぎたせいで妖気にあてられた挙句鏖地蔵にとり憑かれてた男と、本家男子とやらのとこにつれて行かれたんでな」
「鴆様、働き者ですねぇ。他の奴らなんて、飲んだくれてましたのに」
 その夜、誰よりもたくさん飲んでいた上に、花開院家の蔵からこっそり秘蔵の古酒を持ち出して飲み干した女が、にこにこ笑いながらそう言うので、隣の首無は少し呆れた顔をした。
「いやいや、オレはそーいうとこで役に立っておかねぇとな。それに、とり憑かれた男の方は診たが、本家男子とやらは、相手が嫌がったんで診てねぇし」
「鴆様、花開院本家男子というのはそれはもしや、下駄を脱いだら目線の高さが変わる、世界が破滅したみたいに不機嫌な顔をした男ですか?」
 追加で注文した湯葉と茶蕎麦の白味噌仕立ての椀を啜りながら、首無が問う。
「たぶんそれだ。何だ首無、なんか恨みでもあんのか?」
「初対面がリクオ様にオイタをしてくれたシーンだったので、好感を持つのは難しいですね。ですが、有能な男だと認めてはおります」
 話題に上がっているのは、ゆらの実兄たる花開院竜二。
 彼は、才はゆらや魔魅流には及ばず、愛想も全く無いが、土蜘蛛の邪魔さえ入らなければ弐條城にて鵺封印に成功していたであろう男だ。足りぬ力を策によって補おうという視点は、産まれもった己が才を伸ばすことに注力する妖怪にとっては、珍しい視点である(鴆には馴染みのある視点だが)。妖怪は、特殊な技能を持つが故にその技能頼みになりがちで、なかなか、こういう視点で物を考えられる者がおらぬのだ。
 故に、竜二は、弐條城での策は結果として失敗に終わってしまったが、今後の鵺との戦いの際には、きっと役立ってくれることだろう、とリクオの側近衆などから期待を寄せられている(本人の知らぬところで)。
「そうね。ああいうのは、味方に1人はいて欲しいタイプよ。あんなに若いのに、冷徹なぐらい冷静な男で、戦局がどう転んでも、陰陽師の仕事は螺旋の封印を再度施すこと、ていうのを覚えてて貫いてたわ」
 毛倡妓が口にした言葉に、首無は頭を怪訝そうに頭を傾ける。
「え、そんなに若かったか?」
 首無は、竜二と直接言葉を交わした覚えこそ初対面時ぐらいだが、前線では、その姿を何度も目にした。首無が見た限り、竜二は、常に冷静で誰に対しても偉そうであったので、歳の頃は二十代半ばなのだろうと勝手に思っていた。
「若いわよぅ。猩影と同じか1つ上ぐらいよ、あの男」
「俺の見立ても、そんなもんだな」
 女のプロと言っていい吉原の太夫(元)と『妖怪のお医者さん』に言われて、首無は、まだ少し納得がいかない気分がするものの、己の認識を改めることにする。
「あんなに、態度がでかくて、生意気で、上の者を敬う気もない、可愛げがない小僧がいるとは・・・・」
 首無は、かつて、まだ尖っていた頃の己(それでも竜二より年上)が、主に対してけちょんけちょんの言い様をして随分な態度であったことなどすっかり忘れた様子で、ぽつりと呟いて椀を啜った。





「あの、その、『いつも不機嫌に見える』『冷静な』『年の割に老け顔の』『本家男子』は、何なんすか?」
 京都遠征組が盛り上がった話題がわからない良太猫は、素直に質問する。
「ゆらっつー娘の実の兄らしい。他にも兄弟がいたが、それは、狐の呪いで死んじまったそうだ」
 鴆の説明を聞いて、良太猫がふむふむと頷いた。
 ふう。
  紅を刷いた唇から、細く長い溜息が洩れる。
「・・・・・・狐の呪いって、解けてんのかしらね?」
 飲み干したジントニックのグラスを卓に置いて、毛倡妓がぽつりと呟いた。小さな、だが、やけに耳につく声音で。
「姐さん・・・・?」
 良太猫が首を傾げる。
 指先でグラスの縁のライムを突いている毛倡妓は、長い睫毛を伏せていた。深緑の瞳に、濃い翳が落ちている。夜毎の宴席では笑顔で杯を重ねる女怪の瞳は、しかし、よぅく見ると、人が足を踏み入れぬ深い深い森の奥のような、そんな色をしていた。
 うっかり覗きこんでしまった良太猫が、はっと息を飲む。
人間が、森の空気が爽やかで清々しいなどと口に出来るのは、そこが『人の手により整備された森』だから。禍津神を封じた禁足の森に対しては、そんなことは到底言えぬ。地獄と通じるその森は、鬱蒼と茂る枝葉で陽を遮られて昼なお薄暗く、原初の畏れに満ちているのだから。
 禁足の森、それは、不用意に足を踏み入れた愚か者を、奈落の底へと誘うのだ。
「お前、羽衣狐が地獄へ堕とされたのを見ただろう?」
 首無が毛倡妓の方に顔を向けると、彼女は、そっと俯いた。
 そして、廓で育って、悲劇を、絶望を、闇を、地獄を、堕ちて逝く女たちをたくさんたくさん見過ぎたその瞳を、愛する男にだけは覗きこまれないように伏せたまま、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「見たけど、・・・・・そもそも、長く生きてきても戦いには不向きで霊格が高いだけだった羽衣狐を、生まれ変わる度に強くなる転生妖怪にしたのは、地獄へ突き落したその親不孝息子でしょ?なんで、あれだけ愛してくれて自分を産みなおしてくれた母親を地獄に堕としたりしたのかわけわかんない、と思ったけど、もしかしたらさ、もう千年近く地獄にいた息子にとっては、地獄は安全な隔離場所で、転生体から抜けて無防備だった母親を滅されないように隔離した、のかもしれないじゃない。それなら、呪いが解けてないかもしれないわよ。・・・・嫌な話だけど」
「そんな・・・・・」
 首無は、毛倡妓の話を否定したかったが、あいにく、否定できるだけの材料が見つからなかった。鴆も同じことに気づいて、眉を顰める。
「・・・・そうか。だったら、その本家男子とやらを、ちゃんと診とけばよかったな。そしたら、呪いが残ってんのかどうか、わかったかもしれねぇ。オレは、てっきり、呪いは解けたもんだとばっかり思ったから、安心しちまって、無理強いしてでも診るこたねぇかと思っちまった」
「鴆様は悪くありませんよ。ボクも、呪いは解けたものだと思っていました。だが、今の話を聞いてしまうと・・・・」
「あたしの杞憂だったら、本当にいいんだけど。そうじゃなかったら、その花開院竜二も、たぶん次の当主になる花開院ゆらも、つららも、皆、気の毒で・・・・」
 毛倡妓は陽気な女だ。花火に例えられる奴良組妖怪の中でも、一際、楽しい話や面白い話が大好きで、時に自分の手で煽ることすらある。
 だが、そんな彼女の中に、昏いモノが無いのかと言えば、それは違う。
 彼女が育った華やかな廓は、だがしかし、裏側では、この世に具現した地獄のようですらあった。売られてきたその日から、女郎は人ではない。悲劇など日常茶飯事で、見慣れ過ぎて記憶にも残らぬ。禿は、どんなに幼くとも皆、己は、我が身を切り売りするこの世の地獄に生きて、死しては淫奔の罪とやらでやはりあの世の地獄へ堕ちるのだ、と知っていた。金襴緞子で飾り立てても、女郎など、行きも帰りも真っ暗闇だ、と。
 だから、妖へと変じた彼女は、奴良組を愛した。人の理より解放され、闇夜に火の花を咲かせる妖たちを、それを善しする気風を慕った。故に、今の彼女は、日々が楽しいと、幸せだと、未来を楽しみだと、胸を張って言える。
 けれど、同時に、彼女は、悲劇が、悪しきモノが、昏いモノが、この世に在ることも忘れられないから。この夏に、山吹乙女の末路を知らされてしまったから。
 だからこそ、幸せな未来を望むからこそ、深緑の瞳は、聞きたくもないのに耳を塞げぬ悲劇の足音に、陰るのだ。
「姐さん、竜二とやらは呪いが解けてなかったら早世しちまうからわかりやすが、ゆらって娘と雪女はどうして?」
「ああ。そうか・・・・」
 説明される前に察した首無が、呻くように小さく呟き、卓の下で、そろりと隣へ手を伸ばした。
 そして、伏せた深緑の瞳を覗き込むなどという無粋な真似はせずに、連日家事に従事しながらも爪先まで整えられた指を、そっと握り締めた。いつの間にやら酒の火照りも忘れて冷たくなってしまった指先を、なんとか温めたいと願って。
「そうよ・・・・ゆらって娘は、自分が当主になって息子を産んだら、その子は必ず早く死ぬのよ。母親として、そんなの辛いに決まってるわ。そして、自分の次の当主にも、同じ辛さを味あわせるとわかっているのに、何もできないのよ。あの家、400年間ずっと、当主に連なる者を産む女は、この腹の子が男子だったならば己より早く死ぬのだろうな、と思っていたのでしょうね」
「それは・・・・」
 奴良家が受けた呪いの種類が判明したのは、鯉伴に娶られた山吹乙女がいつまで経っても子を孕まなかったから。
 狐の呪いの仔細は、このようにして経験でしか判ぜられぬ。
 ならば、『本家男子が早世する』呪いの仔細が判明するまで、どれほどの数の本家男子が死したのだろうか。
 十三代秀元の息子は、全て早世したはずだ。その後、養子に入った十四代目の息子も早くに死に絶え、それでやっと、呪いの内容が明らかになったのではなかろうか。
 そして、現代でも呪いは継続していて、この場の者は預かり知らぬことだが、竜二の上とゆらの下に産まれた男子は、既に果てているのだ。
 ならば、もしかしたら、この先も・・・・・・?
 毛倡妓が指摘した凄惨な事実に、そして何より、うっかり見つめてしまった深緑の瞳の陰りに気圧された良太猫が、しおしおと耳を垂れた。
「呪いが継続しててつららがそれを知った場合に辛いのは、妖怪のつららには、リクオ様の子供、四代目が産めないのが確実だから、リクオ様のお嫁さんにはなれないと思うだろうからよ。そして、好いた男の妻にはなれぬと承知で、いつか人間のお嫁さんを迎えるんだろうなと思いながら、想いを告げるなんて、あの娘はできないんじゃないかしら。それなら、最初から、言葉にせず、期待もせずにいる方がいいと、そう思うかもしれないわね」
「そんな・・・・」
 つららが一途にリクオに想いを捧げていることは、この場の誰もが(廊下で立ち聞きしている猫娘ですら)、理解している。だからこそ、良太猫の喉で言葉が絡まった。
 卓の下で首無の指を強く握りながら、毛倡妓は、夏からずっと頭の中にあった不安を口にする。
「リクオ様がつららを想ってくださっていたら、もっと辛い。リクオ様は聡い方だもの、口説き落としてつららを妻にしたって、呪いが解けていなかったら、山吹乙女様と同じ結果になりそうだと思って、きっと、ご自分の気持ちを口に出さないわ。妻にしなかったら、つららは、側近頭として未来永劫傍にいてくれるんだもの。恋を選ばなければ、他の全ては手に入る。それなら、きっと・・・・・」
 それ以上は、もう、言葉にはならなかった。だが、言葉になどせずとも伝わってしまう。
 リクオならば、そう考え、そうするだろう。
 幼い頃からずっと傍に居てくれたつららを、失くさずに済むのならば。
 彼らは、リクオの、優し過ぎるほどに優しくて、なのに、総大将の常に洩れず欲しがりで一度手にしたモノを手放せぬ性を知っていたから、もう、何も言えなくなってしまった。
 毛倡妓が瞼を閉じてしまうと、首無が繋いだ手を少し引いた。毛倡妓は抵抗せずに引き寄せられ、首無の肩に頭を預ける。首無は、唇を噛んで黙っていた。鴆は、蕎麦焼酎のお湯割りを一気に煽る。良太猫は、半纏の裾をぎゅっと握りしめた。

「~~っ」
 廊下では、猫娘が涙目になっていた。



【もちろん続く】
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