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『ノルンの空言』   ウルドは囁いた

 鋼の錬金術師。ハボラス。


 

 囁きはするりと闇に溶け、濃密色の闇の中で拡散する。
 凝らずに、溶けて往く。
 闇はその優しい腕でこの人ならざる身をも包み込み、母のごとき慈愛をもって正義の名の元に暴虐を尽くす光から匿ってくれる。
 見ないで。言わないで。
 悲しいのは好きじゃない。
 真理に拠って成るこの身の真実を暴かれたくないなんて滑稽だけれど、恥じてはいないはずなのに、時折無性に悲しくなってしまいそうな時があるから。
 見ないで。言わないで。
 だから、分厚いカーテンを引いた人工的な闇が満ちる部屋で明かりを求めて手を伸ばそうとするその手を、そっと封じた。
「見ちゃダメよ」
 唇のすぐ隣にキスを落としながら囁くと、明かりを求めようとした骨ばった大きな手の動きが止まる。
 いかに夜目の効く人間でも、この暗さでは表情すら判別しきれない。輪郭も見えないほどの闇を、わざわざ用意した。
 あなたに抱かれるために。 
「どうして?キレイなソラリスを見たいよ」
 煙草の匂いがする唇が熱情と恋慕を篭めて囁くけれど、囁きは闇に溶けて往く。密やかに心に滑り込んでくるけれど、世界に刻まれたりはしない。
 いずれこの手を滑り落ちていくと定められている、刹那の甘さ。
 悲しみの予感によって引き立てられるその甘さは、幾度味わっても飽きない。仮初の恋が終わる瞬間に舌に蘇るその甘さは、大好物。いつか涙を流すことができるのかもしれない、なんて儚い夢を見ることができるので、とても好き。
 だから、あなたとこの甘さを分かち合いたいのだ。過ぎ行き二度と戻らない、この時を。
「ダメよ」 
 理由など教えてあげずに、その頭を胸にかき抱く。胸の谷間にあなたの鼻先が当たるのがくすぐったい。クスクス笑いながら、ピンピン撥ねてる髪を撫ぜる。
「ダメよ、ジャン。いいコにしてて?」
 柔な胸部の皮膚に熱い舌を這わせながら、あなたが問い掛ける。
「いいコにしてたら、ご褒美ある?」
 大きな手に揉みしだかれて脂肪の固まりが形を変える。性急に蠢く指が、這う舌が、視覚以外の全てでこの躯を確かめようとする。
「ええ。イイことしてあげるわ」
 少しだけくぐもった声で耳元にそう囁いたら。
「なら、いいや」
 満足そうな声が聞こえて、鎖骨の下に熱いキスが降りてきた。
 この身の真実が刻まれた紋章の、ちょうどその位置に。



「・・・好きよ、ジャン」
 ひどく愛しいような気がして囁いてみたけれど、そんな囁きはベッドが軋む音にかき消される。
 囁きは闇に溶け、そして還らず。


 

 還らず。




【end】

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