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ぬらりくおの嫁 その柒

 リクつら連載。

 ・・・・ジャンプが無い週って、寂しいなぁ。



 今夜も繁盛している、妖怪穏食事処化猫屋。
 その2階の比較的安価な個室に、元は鞍馬山の大天狗の部下であり、現在は奴良組三代目配下となっている天狗たちの姿があった。
 奴良本家の妖怪は、皆、陽気で気のいい奴らなのだが、闇深い鞍馬の山中で長く過ごしてきた天狗たちには、そのノリについていけぬこともあり(三代目の嫁予想トトカルチョとか、心底驚いた。こんなの京都でやってたら関係者全員惨殺されただろう)、時折、こうして外に出て仲間内で飲むことを息抜きとしていた。
 自分たちを鷹揚に受け入れてくれた三代目には感謝しているし、これからは慣れていかねばと思うものの、長い間偏屈爺さんの元で言葉端にも気を使いながら過ごしてきた習慣はなかなか抜けないし、根が不器用で真面目なので、鷹揚でフレンドリーな空気に、かえって疲れてしまったりするのだった。
 そんな彼らの元へ、頼んだ覚えもないお銚子が何本も届けられた。店員にどういうことか尋ねると、店主からのサービスだと言う。
 慣れた土地を離れて苦労していなさるだろう天狗さん方に、三代目を盛りたててくださる感謝を籠めて、と店主が言ったそうな。
 彼らは、江戸妖怪の人情に感動してむせび泣き、三代目への忠誠と、化猫屋を今後も贔屓にすることを誓った。

 彼らは知らない。
このサービスは、人情というより、先日彼らが、「あの時は鼻の頭まで蚊に刺されて、弐條城の決戦中痒くて堪らなかった」などと話していたのを聞いてしまった良太猫が施した憐れみ故であることを。













「えーっ!?それ、ホントの話なの、良太猫?天狗らのでまかせじゃなくて?」
「天狗たちとは京都での宴席で近くの席に座ったが、ボクは、そんな話は聞いたことがないぞ?」
「いや、あちらさんは、今はリクオ様の百鬼になったっつっても、元は京妖怪じゃないっすか。それで、からっとしてて、お祭り事や面白い話が大好き、恋話もかなり好き、ていうか、主の恋愛は皆で楽しく見守る主義、な奴良組と違って、京妖怪は、もっと上下関係厳しいというか、下の者が興味本位で上の者の噂話をしているのを聞き咎められたらヤバい、みたいな空気があるらしくって、話していいもんかわかんなかったみたいで」
 世には『天狗になる』なんて言葉もあるのに、鞍馬山の天狗たちは、かなり細かいことに悩む性質だった。外見のせいで、ちっともそうは見えないのだが。
「うちは、そういうの全然OK、どころか、どんとこい大歓迎、なのにねぇ。京妖怪って、ストレス多そう」
 奴良家にも当然序列はあるが、下の者に噂されたぐらいで上の者が目くじらを立てるのは粋ではないとされているので、小物たちはのんびりと噂話を楽しんでいる。
総大将が妻帯していた期間は、毎日、誰かしらが本日の総大将夫妻ネタを語っていたが、視点に愛があるので、初代も二代目も気にはしなかった。
「いや、ここ9年ぐらいは、新しい羽衣狐の器が美しいこともあって、上も下も皆羽衣狐フィーバーで、すごい盛り上がって楽しそうだったらしいですよ。・・・・ハブにされた鞍馬山以外は」
 鬼童丸や茨木童子などは厳密には鵺派だったので騒ぎには加わっていないが、鵺を直接知らぬ妖怪は羽衣狐に心酔しており、此度の転生体は特に麗しかったので、組織全体がファンクラブのような有様だったそうだ。写真集に抱き枕におっぱいマウスパッドに、と公式グッズも多々あったという。もっとも、非公式グッズを作成・販売・購入した者は死刑という厳しい規則もあったらしいが。
 それでも、奴良組の総大将ラブ熱と引けを取らぬほどの、熱いファン活動が行われていたという。
 そんな中、自分たちの頭領である大天狗が忘れられて拗ねているからと言って、他派閥との交流も許されず、グッズも手に入らなかった天狗たちは、大変つまらなかったでしょうねぇ、とミーハー気質な毛倡妓は同情した。
「明日の天狗のご飯は大盛りにしとくわ」
「へぇ~、オレが働いてる間に、そんなやり取りがあったとはねぇ。リクオもやるじゃねぇか。だから、治療もあらかた終わって、決戦前の腹ごなしって集合した時には、雪女の態度が戻ってたわけか」
「決戦前に飯食ってたんですか?」
 羽衣狐との決戦は、千年に渡る羽衣狐の野望を砕いたとして、ちまたでは『千年魔京の戦い』などと呼ばれたりもしている大戦である。その前の食事とは、軍隊の野戦食のようなものだろうか。
「おう。オレとリクオは、鞍馬山で修行してる時に案外しっかり食ってたが、他の奴らはちゃんと食ってなかっただろうしな。腹が減っては戦はできぬだ」
「納豆とかはちゃんと食べてたみたいよ。あいつら、ああ見えて案外古株だけあって、メンタル強いから」
 毛倡妓がそう言うと、真っ先に闇に堕ちそうになっていた男が、隣で、そっと目を逸らしてストローを噛んだ。
「食糧とか、どっから持ってきたんすか?人間の店で買ってきたとか?」
「ううん。うちから持ってきた奴。牛鬼様がリクオ様と鴆様を修行に連れてった後、あたし、飛び出してった首無を追いかける前に、納豆とかに頼んどいたの。一回宝船に戻って、要る物持ってきて、て。そしたら、気が利く豆腐小僧が、材料だけじゃなくて、鍋とか包丁とか調味料とかも持ってきてくれたのよ。だから、土蜘蛛が暴れて折れた枝とか集めて、火を熾して、ご飯作ったわ。あ、人間の店で買った物あったわね。どうやったんだか知らないけど、小鬼が、前日、嵯峨のおぼろ豆腐と湯葉を買ってくれててさ。あれ、美味しかったわ~」
 女が男に比べて現実的な生き物だと言われるのは、こういう所なのだろう。毛倡妓は、情熱的な女なので究極的には恋を選ぶが、あの時、愛する首無の危うさを案じつつも、皆のご飯の心配はしっかりしていたのだった。
「・・・・・わりに、ほのぼのしてますね」
 良太猫の脳裏に浮かんだ情景は、敵地に乗り込んだ兵士の侘しく慌ただしい栄養補給というより、妖怪キャンプと言うべきものだった。夜の世界の頂上決戦直前だというのに、京の都が魔都となるか否かの瀬戸際だというのに、驚くほどに緊迫感が、無い。
 その自覚はあったのだろう。首無は苦笑する。
「まあね、点呼とか、陰陽師たちとの連絡とか、リクオ様のお召し替えの時とかも必要だったしね」
「お召し替え、て・・・・」
 リクオは、良太猫が知る限り、着流しに羽織姿が標準の衣装で、出入りの際も同じ格好だったはずだ。だが、天下分け目の決戦では、何か、戦装束のような物があったのだろうか。
「ああそうか。良太猫、あのな、土蜘蛛の攻撃で、リクオの奴、着物が破けてたんだよ。百鬼の主がビリビリに破けて砂埃やら血やらで汚れた着物で敵陣乗り込んでくなんざ、カッコ悪ぃだろ?」
「ああ。そうだったんですか」
「そうよ!皆で、お揃いの羽織で討ち入ったんだから!」
「気合い入ったよなー。陰陽師に、人間は外出禁止の布令を出させたから、朝っぱらから京の通りをみーんなで練り歩いてよぅ」
「ああ。若・・・いや、もう若じゃないな。三代目は、ご立派なお姿だったよ。ボクらも皆、誇らしくて」
 妖は、天地を巡る気が凝ったモノ。だから、人間以上に、気の持ちように左右される。
 土蜘蛛の襲撃を受けた際は、圧倒的な力を見せつけられ、己が大将を守れず、仲間を目の前で浚われた上に、大将が修行で不在になってしまって、奴良組の妖怪たちの士気は、すっかり下がってしまっていた。
 だが、我らが大将が新たなる必殺技を習得して帰還し、浚われた仲間を助け、大妖怪土蜘蛛を倒した姿を見たことで、下僕たちの士気は最高潮に高まっていたはずだ。
 昼なお暗い、暗雲立ちこめる古都。常ならば車が行き交う大通りを、意気揚々と練り歩く異形の者たち。それは、古の絵師が描いた絵巻の再現ではなく、新しい歴史を紡ぐための行進で。だからこそ、妖怪たちは、この道行きが死出の旅路かもしれぬと知りながらも、誇らしげに顔を上げて歩いて行くのだ。
 花火のように華やかに輝けるならば、短く散るもまた一興。愛しいその背を守れたならば、この身が滅びたとて我が勝利。我が身、我が命、我が魂、主様の剣となりて盾となりて、たどり着いたが地獄でも、我には極楽と笑いながら。


 笑いながら、奴良組の百鬼は夜行するのだ。


【つづく】
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