コンテントヘッダー

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
コンテントヘッダー

ぬらりくおの嫁 その肆

 ぬら孫 リクつらss。
 
 まだ毛姐さんのターンです・・・・だから、そろそろ止めないと、首無。
 妖怪穏食事処化猫屋は、今宵も大繁盛。
 なにせ、陽気な江戸妖怪相手の居酒屋だから、個々の個室には多少の防音措置があろうとも、廊下はかなり騒々しい。
 だから、毛倡妓姐さんの語りに魅せられた猫娘は、今や、一言たりとも聞き漏らさぬようにと、部屋の戸口の柱にぴったりと猫耳をくっつけてしまっている。
 親分の粗相を防ぐつもりの彼女自身が、既に不審人物となり果てていた・・・・・・

 そんなに熱心な視聴者の存在を知らぬままだが、禿として幼少より源氏物語を嗜み、青本や洒落本を読み耽り、後にはハーレクインにハマり、昼メロのみならず深夜の海外ドラマも網羅した毛倡妓(最近のお気に入りは、シンデレラ現代版のような深夜の海外ドラマ。展開はベタベタだが、そこがいい)の語りは、まだまだ留まるところを知らぬのだった。





「・・・・ここから、どう収拾つける気だ?あと、牛頭丸がさすがに気の毒じゃないか?」
 毛倡妓が語る物語に、素面の首無は、揚げ出し豆腐をつつきながらツッコミを入れる。
「牛頭丸はいいのよ。なんかそんな感じの役回り、て気がするじゃない。あいつ、何気にあたしらよりずっと年上なのに、あんなツンデレで進歩ないんだもの」
 毛倡妓は、別に、牛頭丸が嫌いなわけではない。牛鬼に対する忠節や馬頭丸への仲間意識などはちゃんと伝わるから、キツい所はあるが良い所もあるし、何より、雪女をからかう為だけに錦鯉地区に足を延ばすなんて惚れているからだ、ということもわかっている。牛頭丸が、顔を合わせる度に雪女をからかうのは、素直になれないだけなのだ。
 だが、惚れてもいない男のツンデレなんて、女にとっては面倒くさいだけだ。素直に優しくしてくれる方が、便利な分、よっぽどマシである。それに、それこそ我が主のように思春期真っただ中の少年だというのなら、男のツンデレも可愛いと許容も出来るが、少年のようななりをしていても毛倡妓よりよっぽど年上なのだと知っているから、からかって泣かされた雪女を何度も宥めることになった毛倡妓としては、いい加減成長したら?と言いたくなるというもの。
 毛倡妓は、形としては同僚ではあるが、気持ちでは雪女の姉のようなつもりでいるので、度々雪女を泣かせた牛頭丸に対しては、些か辛口である。
「・・・・・ふっ。ぐすっ。あ、あの、この後はどうなるんすか?」
 感情移入しやすい良太猫は、己の妄想より緻密に語られた物語にすっかり引き込まれ、ぐすぐすと鼻を啜りながら続きを促した。袖でごしごしと目元を擦りながら、鴆も隣でこくこくと頷いている。
 首無は、情に厚いは任侠者の美徳とはいえ組を抱える親分ともあろう者の涙線の緩さに些か呆れたが、毛倡妓は、熱心な視聴者の存在に張りきった。
「ふふふ~♪それはね・・・・・」




::::::::



 奴良屋敷の北端の日陰の部屋に、一組の男女の姿があった。
 白い振袖の小柄な娘が、武者姿の若者の肩に頭を預けている。仲睦まじい恋人同士のような構図なのに、流れる空気が違っていた。袖で顔を隠した女は背を丸めて小さくなって俯き、若者は細い肩を抱いてやることもできずに、痛ましげに目線を伏せている。
ぽろ。ぽろ。ほろり。白玉が、畳の上を転がってゆく。
「今更嘆くなんて、おかしなこと。わかっていたはずではないの?窓の向こうの人の世の温かさに焦がれて軒先に侍った氷柱は、されど、春が来れば溶け去るのみ。ぽたぽたと羨ましげに滴を零して、愚かしくも己が身を削って、・・・・触れられずに溶けてゆく。花が綻び実を結ぶ盛りの春に、なんで氷柱が在るものか。冷たいこの身で、温かいあの方に添える道理が在るものか。愛されるわけが、あるものかっ!・・・・・嗚呼、嗚呼、わかっていたはずなのに」
 聞く者全ての胸を穿つ悲痛な慟哭に、真面目一辺倒で不器用な黒羽丸は返す言葉がない。
 主の婚姻は、もはや成ってしまった。貸元傘下全てに、この人間の娘が三代目の妻である、と知らしめてしまったのだ。今更取り返しはつかない。何より、新婦の腹には主の子が宿っている。
 だから、忘れろと、諦めろと言うべきなのかとも思うが、先代の例を見ればわかるように、雪女は一途な女怪。諦めて忘れられるのならば、とうにそうしているだろう。できぬから、これほど嘆いているのだ。我が身を擦り減らすようにして。
 黒羽丸は、涙と共に溶けてしまいそうな雪女に掛ける言葉の一つも思いつかない自身の武骨さを歯がゆく思って、奥歯をギリリと噛み締めた。
 主の決定は絶対。恋の道は道理が通らぬもの。そうわかっていても、これまで我が身を省みずに、慈愛も忠節も恋情も全て捧げて一心に尽くしてきた姿を知る者としては、この雪女を選んでやって欲しかった、と思ってしまうのだ。
「つらら」
 ふいに、障子の向こうから声が掛ったが、雪女はピクリとも反応しない。黒羽丸は、雪女の代わりに返事をしようとする。
「毛倡妓、今、つららは具合が悪くて・・・・」
「うるさい。入るわよ」
 勝手知ったるなんとやら、雪女とは普段から単なる同僚というよりは叔母と姪のように近しくつきあってきた毛倡妓は、黒羽丸の言葉などあっさり無視して、部屋に入って来た。そして、小さく俯いて泣いている雪女の前に座ると、ぐいっと頭を胸に抱き寄せる。
 雪の肌にも霰の涙にも吹雪の吐息にも些かも怯まずに、赤子を寝付かせる時のように背中をぽんぽんと叩きながら、優しく髪を撫でてあやしてやる。
 そうすると、氷の欠片のように固く強張っていた雪女の身体から力が抜けて、豊かな胸にそっと身を預けた。
 毛倡妓の胸は黒羽丸の武骨な鎧よりも柔らかく温かかったから、その分、何かが溶けて崩れたのかもしれない。長い睫毛を伏せた雪女は、小さな声で呟いた。
「ふ・・・・ふ。馬鹿みたい、でしょ?みっともなくて、ごめん、ね。リクオ様と、・・・・カナ、様には、言わないで、ね?」
「そうね。馬鹿みたいよ。みっともないわよ。誰もかれも、ね。あんたもリクオ様もカナ様も、黒羽丸もあたしも、ね」
 雪女が口をきいてくれたこと、意外にちゃんとした内容だったことに内心安堵しつつ、毛倡妓は僅かに口元を歪めた。彼女は、この健気な雪女の想いが報われなかったことが、悔しくて仕方がないのだ。
「毛倡妓・・・?」
「つらら、あんた、これからどうするつもり?」
「どうするも何も、どうしようもないじゃない?私は、側近頭として、リクオ様のお傍で、未来永劫・・・・・」
「奪っちゃったら?」
 自身を嘲るような口調の言葉を、毛倡妓が遮った。雪女の身体が、ふるりと震える。
 瞠目してまじまじと見つめてくる黒羽丸など一切無視して、毛倡妓は言葉を連ねた。声は、毅く揺るぎない。
「惚れたはれたに、正当だの善悪だのありゃあしないのよ。惚れた相手に愛されてる奴が勝ちってだけよ。みじめでみっともなくて滑稽で情けなくて、卑しくて未練がましくて、浅ましくってバカバカしくってさぁ、それでも欲しいのが恋ってもんじゃあないの?雪女は、雪に還るまで一つの恋を一途に貫くってんなら、今が地獄でこの先も地獄しかないってわかってんなら、足掻きなさいよ。誰を踏みつけにしてでも」
 毛倡妓は、後に妖に変じたが、元は、遊里で育った女だ。
 廓の女は、人の形をしていても、人として扱われはせぬ。売られてきた女たちは、毎夜男に足を開いて、大門の外へ行くは許されず、病めばうち捨てられ、死んだとて墓穴に投げ捨てられ弔いの花の一つももらえぬ。
 そんな我が身一つも自由にならぬ囚われの身で、なのに、恋をする女がいた。ほとんどの場合、恋は女を幸せになどしてくれない。いや、むしろ、破滅させる。それは、年端もいかぬ禿とて知っていること。
 けれど、それでも恋を貫いた女はいたのだ。誓いの証に指を詰めて、柔肌に男の名を刻んで、心の臓に刃を突き立てて、人並みの幸せなど望めぬと知りながら、それでも。
 毛倡妓は、恋うた男を追いかけて吉原の外へ出た折に妖へと変じ、第二の生を得た。大門の内へ連れ戻されずに済んだ。しかし、既に幾度か出奔の罪を犯していた彼女は、妖怪にならず連れ戻されていたならば、それまで以上に激しい折檻を受けただろう。それどころか、他の遊女への見せしめに殺されたかもしれない。
 死ぬかもしれぬと知っていた。愛してもらえる保証などなかった。添うていけるなど夢見たこともなかった。
 それでも、会いたかった。恋しかった。苦界に沈んで未来などない身だからこそ、たった一つの恋に己の全てを捧げたかった。
 そして、いかなる奇縁か魔縁か、もう幾百年も惚れた男と添うてこられた。
 この世に、そういうことはあるのだ。
 他の誰が言ったとて、雪女の胸にこれほど響かなかっただろう。だが、他ならぬ毛倡妓が、ただ一つの恋を貫いて足掻いた遊女紀乃がそう言ったので、根雪のような頑なさが雪崩を起こす。涙に濡れた顔をくしゃりと歪めて、雪女は呟く。
「・・・・・・・リクオ様を不幸せにするのは、嫌よ。私、リクオ様を守るって、誓ったんだから」
 それは、雪女の唯一の誇り。命より大切な誓い。己の恋がそれを阻むならば、間違っているのは、不要なのは、我が邪恋なのだと雪女は思っていた。
 けれど、それは違うと毛倡妓は首を振る。
 誓いが光ならば、恋は水だと思えばいいのだ。どちらも、生きるに不可欠。両方を求めてよいのだ、と。
「幸せにしてやんなさいよ、あんたが。カナ様と、産まれてくるお子様を傷つけて、それをわかっていて尚、幸せだって言えるほど、あんたがリクオ様を幸せにしてやりなさいよ!」
 強い声だった。毛倡妓なりの真が籠っているが為に、言葉は、雪女の胸を揺さぶった。雪女は、涙が止まった瞳を瞬きもせずに、毛倡妓を見つめる。深緑の彼女の瞳に、些細な嘘や偽りなどはないか、と。そして、嘘も偽りも見つけられないから、更に困惑していく。
「毛倡妓・・・・・」
「男は黙ってな、黒羽丸。今日が地獄で、明日も地獄で、この先も地獄しかなくて、なのに、自分をそんな場所に突き落とした恋が手放せないと泣いたことがない輩に、正道だの魔道だの断じられる覚えなんざないよ」
 何を言えばいいのかわからないが黙っていられなくなった黒羽丸を、毛倡妓はぴしゃりと封じる。
 だが、言いながらも、毛倡妓は、これが悪なのだろうと知っていた。カナにとっては、紛れも無き悪。カナの腹の子にとっても、悪魔の所業に違いない。
 けれど、毛倡妓は、先代雪女の恋の顛末も見届けてしまった彼女は、カナがどれほど良い娘であろうと、自分だけはこの雪女の切ない恋を応援してやりたいと思うのだ。カナとその子を地獄に落としたって、この雪女の恋が叶って欲しいと、そう願うのだ。
 だから、囁く。唆す。
 雪女の恋が叶った時には、一緒に、カナたちに恨まれ呪われようと覚悟を決めながら。
「寝ちまいなよ。抱かれちまいな。それでリクオ様を籠絡できればよし。できずとも、惚れた男に抱かれたら、生涯の恋の形見にはなるってもんだろう?」
「私が、リクオ様と・・・・・」
 呆然と彷徨っていた黄金螺旋の瞳が、焦点を結んだ。そして、固く凍っていた白玉が、するりと溶けて・・・・


::::::::


【もちろん続きます】
スポンサーサイト
コンテントヘッダー

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

greatberryking

Author:greatberryking
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。