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古今妖魅考 その肆 朧車

 ぬら孫 1妖怪1ネタシリーズ(リクつら前提)ss。

 鬼灯の冷徹(鬼灯様も好きですが、水鏡はどちらかというと白澤派です)読んでたら思いつきまして。 



 お客さん、どちらまで?
 いえいえ、そんな。遠慮なさらず。
 ちゃあんとご自宅の前までお送りしますよぅ。三代目から頼まれたんですからねっ。


 はい。アタシは、奴良家御用達を務めさせていただいている、幸運な朧車です。
 他の仕事もちょいちょい受けてはおりますが、組合に奴良家から連絡があったら、他の仕事の最中でもない限り、アタシが行かせてもらっております。


 ふふっ、恥ずかしながら、そんなに年期は長くないんですよ~。
 元はアタシの先輩が奴良家御用達だったんですが、10年ぐらい前に寿退社することになりましてね。旦那様が幽霊船なんで、浮世絵町へ通うのが難しかったんです。で、その後任として、アタシに声を掛けてくださったんですよ。
 でもねぇ、なにしろ、天下の関東妖怪総元締の奴良家ですから、アタシ、びびっちゃいまして。
 最初はね、アタシなんかにそんな大役務まらないからお断りしよう、てそう思ってたんですよぅ。
 ですが、先輩が、二代目に、ええ、鯉伴様に会わせてくださって・・・・・・・・・頭がクラクラして、はっと気がついたら、後任を引き受けておりました。
 いや、もう、ぬらりひょんのお血筋の色気は、百鬼を魅了なさるのも頷けるぐらい、半端ないですよ。ホント。
 鯉伴様は、普通に挨拶して、普通に「よろしく頼むな」とおっしゃってくださっただけなんですけど、あの声で!あの流し目で!あの男っぷりでそんなの言われたら、血が滾らない妖がいますか!?


 ・・・・大きな声を出してしまって、申し訳ありません。
 話をしていたら、あの時の興奮が蘇ってきちゃって。つい。
 でも、お客様も三代目をご存知なんですから、アタシの気持ちわかっていただけますよね?
 

 三代目は、今は、夜のお姿なんて二代目によく似た凛々しい男前になられましたけど、幼い頃は、それはもうお可愛らしかったんですよぉ~!
 今でも、昼のお姿はお母様の若菜様に似ていらっしゃいますけど、あの頃はもう、ぱっちりした大きな目が女の子みたいで!
 ・・・・でも、中身は、結構腕白で、悪戯っ子で、強情な所もおありでした。ですけど、あんまりお可愛らしいから、何でも言うこと聞きたくなっちゃうんですけどね。



 え?
 その頃のリクオ様がどんなふうだったかって?
 
 いえ、そんな、主様のぷらいべーとを暴露するわけには・・・・・まぁでも、もう昔の話ではありますしねぇ。


 ・・・・お客様が内緒にしてくださるなら、お話してもよろしいですけど。
 ちゃんと、内緒にしてくださいましね?
 


 そう言えば、こんなことがございました。

 あれは、アタシが奴良家にお勤めするようになったばかりの頃のことです。

 ある日、まだ幼いリクオ様が、夕方に、こっそり本家を抜け出されたことがありまして。もちろん、大事な大事な若君様ですから、本家はもう大騒ぎになりました。
 リクオ様といつも一緒にいた守役の雪女さんなんか、自分が買い物に行った隙に抜け出されたんだから非は無いはずなのに、責任を感じたのと心配が極まったので、探しながら、もう、わんわん泣いちゃって。
 でもね、結局、本家妖怪総出で探した中で、リクオ様を1番最初に発見したのは、この雪女さんでした。



::::::::



「リクオ様、どうして、お一人でこのような所にいらっしゃるのですか?皆が心配しておりますよ。さぁ、帰りましょう」
 山の麓のバス停は、薄汚れた蛍光灯が一つぽつんと燈っているだけで、とても暗い。
 だから、そんな場所でリクオの姿を見つけてたつららは、その瞬間、駆け寄って抱きしめた。そして、ひとしきり泣いた後、リクオの小さな手を握って、そっと引っ張る。
 本当ならば、リクオの行動を叱らねばならないのだろうとわかってはいたが、泣き過ぎて溶けるかというほど心配していたつららは、今はもう、誰よりも何よりも愛しいリクオが無事でいてくれたことが嬉しくて嬉しくて、うまく叱れる気がしなかったので、それは、当主である初代にお任せしようと思って、屋敷への帰路を急ごうと思ったのだ。
 しかし、リクオは、つららの手をぎゅっと握り返しはしたものの、その場を動こうとしない。
「若?」
「ヤだ」
「リクオ様?」
「ボクは、帰らない。このまま帰ったりしないからね」
 俯いたリクオは、唇を尖らせていた。
 リクオは、大人に囲まれているせいか、妖怪の血が混ざっているせいか、年の割には聡い子供だ。甘やかされたお坊ちゃまとして悪戯も我儘も多いが、それを通せる範囲もまた弁えていた。
 自分の家族と側近は、何をしても言っても、結局は許してくれるし愛してくれる。本家住まいの妖怪も同様。貸元相手だと、場合によっては、それが通らぬ場合もある。幼稚園の友達には好かれているが、彼らは、家の者ほど寛容でも愛が深いわけでもない。他所の大人は、基本的に、自分の悪戯や我儘を許容はせぬ。
 人の心にもするりと入り込む妖怪ぬらりひょんの血のせいか、リクオは、好意による線引きを意外なほど明確に察知していた。半ば以上、本能で。
 なので、自分の守役であるこの情深い雪女は、誰よりも何よりも自分を愛していてくれて、自分に甘いのだと本能的に理解しているから、手を繋いだまま駄々を捏ねるのだ。
「リクオ様、皆が心配しています。それに、もう夜です。お腹も空いたでしょう?何かご用がおありなら、明日また・・・・・」
「やだっ!つららまで、そんなこと言うの!?つららは、わかってくれると思ったのに・・・」
 

:::::::::


 
 他の妖怪たちは、まだお小さいから、とリクオ様の生活圏内を探していたのですけれど、1番のお気に入りでお屋敷ではいつもお傍に侍っていた雪女さんは、だからこそ思いついたことがあって、他の皆とは違う場所に探しに行ったんですって。
 小学校よりも向こうにある山の麓のバス停まで。
 なんでそんな場所まで行ったかというと、昨夜、一緒に、アニメの映画を観たので、もしや、と思ったそうです。
 リクオ様と雪女さんが観たアニメ映画というのは、あれです・・・・あ、名前ど忘れしちゃった。出てこない。あの、ほら、森の妖精的なでっかいもふもふのアレとか、まっくろくろすけとか出てくる。いや、千尋じゃなくて。ハクみたいな美形は出て来ないし、エロ系暗喩も盛り込まれてない、もっと牧歌的な、日本の昔の田舎っぽいやつ。ほら、お父さんと妹と、入院してるお母さんがいて・・・・・あ、わかってもらえました?
 そうです。それ。それを観て、リクオ様はバス停に向かったんですって。でっかい蓮の葉を持って。


 
:::::::::



「リクオ様、もしや・・・」
「猫バスはいるよ!絶対に!ボク、猫バスに乗りたいんだよっ!」
 リクオがそう叫んだ瞬間、つららは、眩暈を感じた。
 まぁ、でっかい蓮の葉を持っているのを目にした時に予想は出来ていたのだが。
 あの名作アニメ映画は、これまで何度もテレビ放映されている。だから、昨夜、以前に観たことがあるつららは、画面よりも初めて観るリクオの反応に注意を払っていたのだが、リクオは夢中になっていた。
 リクオは、こういう作品が大好きなのだ。
 妖怪がうようよいる、むしろ、母以外の人間がいないこの奴良屋敷で暮らす幼いリクオにとっては、幼稚園に人間の友達もいるとはいえ、家族同然の妖怪たちの方がずっと身近な存在である。
 だから、人間が妖怪の存在を否定するような作品は好かないし、人間と妖怪が互いを憎み合っている作品は哀しくなるし、妖怪と人間が上手に共存できている作品は嬉しくなる。
 昨夜の映画に現れた人外の存在は、不可思議な生き物だが悪どころか善良だったし、主人公の姉妹に受け入れられ、礼まで言われていた。だから、リクオは嬉しくなって、そして、とてもあの映画が気にいったのだった。
 猫バスの存在を信じたくなるほどに。
 ・・・・何故、タイトルになっているアレではなく、猫バス?
「・・・・えーと、リクオ様は、トトロじゃなくて猫バスがいいんですか?」
 疑問を感じたつららが尋ねると、リクオはあっさり頷いた。
「うん。飛んでるトトロにしがみつくの大変そうだし。猫バスは、妖怪なのに乗り物なのがいいよねっ!」
 リクオは、世間一般の子供より、空を飛ぶこと自体への憧れは少ない。
 鴉天狗や三羽鴉に抱えられて空を飛んだことは何度もあるので、さして有難味を感じていないのだ。今回、猫バスが気にいったのは、リクオ的に親しみが持てる『妖怪』という要素が、男の子の大好きな『乗り物』と合わさっていたからだろう。
「・・・・でもね、さっきからずっと待ってるのに、猫バスが来ないんだ。幼稚園の皆は、猫バスなんていないとか言うけど、嘘だよ。いるもん。ねぇ、つらら、ボク、何か間違えたかな?猫バスは、おっきな蓮の葉っぱを持って人がいない山の方のバス停で待っていたらいいんだよね?猫バスはどこの組員?やっぱり化猫組?」
 リクオは、妖怪屋敷のお坊ちゃまなので、妖怪に対する知識が普通の子供より豊富だ。だから、百物語が終わった後に現れる青行燈などのように、『一定の条件が満たされないと登場しない妖怪』がいることも知っている。 
 だからこそ、映画と同じようにすれば猫バスが現れるはずだ、と誤解をしてしまったのだった。
「・・・・リクオ様、猫バスはうちの組にはいないんです」
「えっ、そうなの!?じゃあ、関東の妖怪じゃないんだ。うーん、遠いとこにいるから、まだ来てくれないのかなぁ」
 なんと答えたらいいのか困ったつららは言葉を濁したのだが、リクオは頑ななほどに猫バスの存在を信じているらしい。
 どうしてそんなことになっているのか、つららには推測できた。



::::::::::




 幼稚園に通うようになってすぐ、リクオ様、『かるちゃーしょっく』を受けたんですって。
 ほら、リクオ様は、お祖母様もお母様も人間ですけど、家の中にいるのもやってくるお客様も、みーんな妖怪でしょ?
 その上、遊び相手は家の中にいくらでもいるから、幼稚園に通うまで、お外で人間のお友達を作ることはなかったらしくて。
 だから、初めて同じ年ぐらいの人間の子供たちと近く接して、彼らが妖怪の実在を信じていないことを知ってしまって、驚いたそうなんですよ。
 昔はねぇ、頭の固い学者さんやらならともかく、小さな子供が妖怪がいないと思ってるなんてあり得ませんでしたけど、今はほら、情報化社会とやらで、子供はじいさんばあさんよりもテレビからいろんな話を知るでしょう?だからねぇ、大人ほど頑なじゃないにしても、賢しげに「妖怪なんかいやしない」とか言う子もいるらしくって。
 それで、リクオ様は、悔しいような悲しいようなお気持ちになられたらしいです。
 きっと、この時も、幼稚園のお友達も昨夜のアニメ映画を観ていて、話題になったんでしょうね。それで、誰かが、「猫バスなんていない」とでも言ったんでしょうよ。
 だから、リクオ様は、ちょっと意地になってらっしゃったんだと思います。



:::::::::




 さて、困ったのはつららである。
 猫バスはあのアニメのオリジナルなキャラクターなので、『妖怪』ではない。今後何十年も経って都市伝説的に語り継がれることがあれば、人面犬やトイレの花子さんのように猫バスなる妖怪も発生するかもしれないが、今は、『個の作品のキャラクター』として人々に認知されている存在だ。
 だが、リクオは、妖怪の血を引いているからか年の割には敏い子供だが、今回は、幼稚園で否定派と口論でもしたらしく意地になっているから、説明しても納得すまい。
 それに、つららは、妖怪と親しみ愛してくれているからこそ、妖怪を否定する言葉に傷つき悔しがってくださる我らが若様のお気持ちをなんとか慰めて差し上げたかった。
 奴良家の妖怪たちが、幼稚園の友達の前に姿を現すわけにはいかぬ。だからこそ、せめて、今は、猫バスの実在を信じる幼い主のお心を守りたいと、つららは思った。
「・・・・リクオ様、皆が、リクオ様を心配して探しに出ています。皆を安心させる為に、電話をしてきてもよろしいでしょうか?」
「ボク、猫バスが来るまで帰らないからねっ!」
 語気荒くリクオが言う。つららはリクオの目の前で屈んだ。
「ええ。わかっています。ですから、皆には言っておかないと」
 そして、目の高さを合わせて頭を撫でると、リクオの機嫌も少し直ったようだ。
「・・・・それならいいよ。どこ行くの?」
「ここは電波が弱いようなので、少しだけ席を外しますね。すぐ傍にいますから、誰かがやってきたら、私を呼んでくださいね」
「猫バスが来たら、つららを呼んであげるよ」
「ええ」
 にこにこ微笑みながらそそくさとその場を去ったつららは、カーブを曲がってリクオから声が聞こえない位置に移動すると、急いで本家に電話を掛けた。




:::::::::




「というわけだ。よろしく頼む」
 奴良組イケメン番付(非公式)ではいつも上位につけている首無の兄さんから頼み事なんて、普段なら胸が踊ったでしょうけど、この時ばかりはアタシもドン引きでした。
「いえいえ。無理ですって!」
「いや、イケるだろう。大丈夫大丈夫」
「他人事だからって適当なこと言わないでくださいよっ!朧車に化猫とり憑かせるなんて前代未聞ですよっ!」
 そう、この夜、アタシが呼び出された用件はそれだったんですよ。
 雪女さんから若様のお気持ちを説明された本家の皆は、『我らがアイドルである若様のお願いを叶えてさしあげたいっ!』と心が一つになってしまったんですって。常識やら何やらすっとばす勢いで。
 ・・・・・・アタシが思うに、本家の皆さんってのは、普段から総大将一族のあり得ない程の色気を浴びてらっしゃるから、総大将一族関連では感覚が麻痺してらっしゃるところがあるんですよぉ。日々ファンクラブのノリっていうか。
 だから、無理だろうが無茶だろうが『お願い』されたら何としても叶えようとしてしまうんですよね~。
 それで、『猫バス』的な代物を用意するにはどうすればいいか、と皆で考えた結果が、コレだったわけなんですよ。
「前例がないからといって、不可能ということにはならないだろう?我々は、この平成の世に我ら妖怪を慈しんでくださるお優しい若様のお心をお慰めしたいんだ。お前も、この気持ちはわかってくれるだろう?」
 優しい手付きでアタシの右の轅(朧車って牛のいない牛車なわけですけど、牛車には前方に長く出てる二本の木があるでしょ。あれですよ、あれ)をするすると撫でながら、切なく微笑んだ首無の兄さんがおっしゃいます。
 ああんっ、そんな顔反則ですよぅ!
「気持ちは、アタシも、そりゃあ同じですけど。イイ年こいて猫耳つけるのはちょっと・・・・」
「大丈夫。きっと可愛いよ。とり憑かせる化猫のジジは、猫又になってまだ日が浅く人型に変じたこともないから、お前が受け入れてくれるなら、うまいこと、猫耳と尻尾と髭が出るだけの変化にできるだろうし」
「ですけどぉ・・・・」
「お前が頼りなのだ」
 するり、と左側の轅を撫でた手に驚いてそちらを見やると、奴良組イケメン番付で首無の兄さんと順位を競っている特攻隊長黒田坊さんがいらっしゃいました。
「我らとて、我らでどうにか出来ることならば何とでもする。だが、この件に関しては、お前に頼るしかないのだ。なぁ、朧車、お前の今宵一夜を我らに貸してはくれんか?」
 出入りとなれば鋭く眇める眼を切なく緩めて、黒田坊さんはするすると轅を撫でながらおっしゃいます。
 あんっ、その声と手付き、反則ぅっ!
「頼むよ、朧車。ね?」
「な?」
 両側から、奴良組が誇るイケメンに優しく撫でられてそんなこと囁かれた日には・・・・・・ 
 
 こうして、アタシは、『猫バス』コスプレをすることになったのでした。





:::::::




「まだかなぁ」
「そうですねぇ。遅いですねぇ」 
 リクオとつららは暗く人気の無い山の麓のバス停で、仲睦まじく手を繋ぎながら『猫バス』を待っていた。さっき首無からメールで連絡があったからそろそろ到着するはずなのに、とつららがきょろきょろとあたりを見回すと、街の方の空から何かが飛んでくるのが見えた。
「リクオ様、あれ!」
「あっ・・・・猫、バス?」
 期待で弾んでいたリクオの声が、訝しげな響きを帯びる。それも無理は無い。 
 それは、空を飛んでこちらにやってきた。
 見たことも想像したこともないような形をしている。
 フォルムの基本は朧車。ただし、前方に伸びた轅は猫の手(肉球あり)になっており、牛車ならば簾がある部分にくっついている顔は、猫髭が生えて、目も猫のように瞳孔が長い。全体的にふかふかの黒い毛皮に覆われていて、背面には二股に分かれた長い尻尾が伸びている。
 大きさは、猫バスより小さい。走行方法は、猫バスがたくさん生えた猫足であったのに比べて、それは轅が変じた一対の猫足はあるものの大きな車輪を回して空を駆けていた。
 猫バスは、猫にバスの機能を付与した存在だが、それは、朧車が猫コスプレをしたというべき存在だろう。
 微妙な・・・・・・・あまりにも微妙な代物だった。
「・・・・・つらら、あれ、猫バス?」
「えーと。あの。その・・・・あっ、首無!」
 猫バスと言うよりは猫朧車と言いたくなるそれはバス停の前で停車し、中から首無が出てきた。
「リクオ様、遅くなりまして申し訳ありません。ご所望の品を届けに参りました」
 首無は、あまりの微妙さに怪しんで腰が引けているリクオとつららの様子に気づかないかのように、優雅に一礼した。その所作にも、浮かべた微笑にも、一部の隙もありはしない。
「首無、あの、これ・・・・猫バス?ボクがアニメで観たのと違う気がするんだけど」
 あまりに堂々としている首無に気圧されて、リクオは少し言葉を濁す。
「ええ。違いますね」
 首無はあっさりとリクオの言葉を肯定してしまうが、つららは、首無の朽葉色の瞳の中に鋼鉄の意志を感じたので、口出しせずに見守ることにした。首無には、策があるに違いない。
「何故違うかわかりますか?」
「・・・・わかんない。なんで?」 
「リクオ様、一口に乗り物と申しましても、用途は多々ございますし、格もピンキリです。リクオ様がご覧になった映画の姉妹は、普通の人間のお嬢さんで、入院している母を見舞う為に猫バスに乗りました。その用途に、猫バスは相応しかった。ですが、今回は違います」
「・・・・・どう違うの?」
 リクオは聡明な子供だが何せまだ幼稚園児で、いつもリクオ相手にはにこにこしているはずの首無が真顔で説明しているので、実はツッコミ所満載な状況なのだが、何となく雰囲気にのまれてしまっている。
「リクオ様は、そんじょそこらの人間の子供とは違います。長じて後は我ら妖怪の頂点に立つお方です。そして、今回の用途は、『見舞い』ではなく『でぇと』です」
「でぇとぉっ!?」
 信頼して見守っていたら首無がとんでもないことを言い出したので、つららは叫んだ。しかし、今夜の首無はこれぐらいじゃ阻めない。 
 時々、頭に血が昇ると手段と目的が入れ換わってしまう彼は、先程朧車に色仕掛けをかましたことでわかるように、今夜はもう、既に止まれない所まで来ている。だから、真顔のまま己の理論を押し通すのだった。
「リクオ様、つららはお嫌いですか?好きですよね?つららは、ご家族以外で、リクオ様にとって『1番気に入りの女』ですよね?」
「うん」
 リクオはあっさり頷いた。リクオにとっては当たり前過ぎる事実なので、照れもせず。
「首無っ、あなたいったい何を・・・」
「つらら、リクオ様を好きか?もちろん好きだよな?この世の男の中で1番に」
「ふぇっ?そりゃあもちろん、リクオ様が1番ですけど」
 つららもあっさり頷いた。母性愛と忠誠心の全てを捧げ未来永劫お仕えするつもりなので、つららにとってリクオが1番であることは明白な事実だ。
「リクオ様、お互いを1番に思い合っている血の繋がらぬ男女が、何らかの必要性に駆られてではなく、2人の時間を楽しむ為にどこかに出かけることを、『でぇと』と申します。ですから、今回のリクオ様のご用は『でぇと』であると考えましたので、それ用の乗り物として、『猫リムジン』を用意致しました」
「『でぇと』は、猫バスじゃダメなの?」
「バスだと、他の乗客が乗ってきたり、客が多かったらつららと隣に座ることができないかもしれませんね」
「それはヤだ」
 リクオが述べていた希望は『猫バスに乗りたい』だったのだが、首無はそれを『つららと夜の空をドライブでぇとしたい』にすり替えてしまった。だが、つららと一緒に待っているうちに1人で猫バスに乗る気など失せて、つららと一緒に乗車するつもりになっていたリクオは、目的がすり替わっていることに気づかなかった。
「でしょう?その点、この『猫リムジン』ならば、座り心地はふかふか、飲み物もお菓子も完備。邪魔者がいないから、抱っこだろうが膝枕だろうが、イチャイチャし放題です」
「ちょっ、首無ぃっ!?」
「いいね、それ」
 つららは焦ったが、リクオは素直に喜んだ。
 抱っこも膝枕も家でいくらでもしてもらえるが、家だと邪魔が入る可能性は常にある。つららは食事当番などでリクオの側を離れることがあるし、小妖怪はいつでもどこでもチョロチョロしているし。それに、リクオが悪戯するとつららは泣きながら逃げてしまったりして、つららが案外逃げ足が速いので捕まえられなかったりするのだが、空の上の密室ならば逃げ場はあるまい。
 だから、でぇと中に、マフラーを取って、普段外気に晒されていない為に敏感な首筋に息をふーふーして擽ってやろう、などと考えついたリクオはご機嫌になって、つららの手を引っ張る。
「ほら、つらら、早く乗ろうよ」
「いえ、あの、でも、でぇととか、その・・・・」
「つらら、お前の『この世で1番の男』が手を引いてくれているのだぞ?何を躊躇うことがあるか」
 今や目標の完遂しか頭にない首無が、つららの背中を押す。

 こうして、奴良家の三代目は、『猫バス』ならぬ『猫リムジン』で『初でぇと』をなさったのであった。



::::::::




 ええ。幼い若様は、『ドライブでぇと』を楽しんでくださいましたよ。

 雪女さんの膝の上に座って、あーんしてもらいながらお菓子を食べてらっしゃました。

 お腹がいっぱいになったら、雪女さんのマフラーを奪って首にふーふー息を吹きかけてましたね。で、くすぐったがった雪女さんが「いやぁっ、リクオ様お止めくださいっ!」て悶えても、「ダメ~」なんておっしゃりながら雪女さんの上に乗っかってふーふーして。他の者ならいざ知らず、幼い主を撥ね退けたり凍らせたりはできないから、雪女さんも逃げられなくて、とうとうくすぐったさのあまりに泣きだしちゃって。

 若様のご乱行の後、雪女さんは隅で膝を抱えて拗ねちゃってたんですけど、そうしたら若様は、「見てごらんよ、つらら。きれいなお月さまだよ。でも、ボクは、お前のその金色の目の方がずっときれいだと思うけど」なーんておっしゃって・・・・・・さすが、鯉伴様の息子さんですよねぇ。

 その後は、機嫌が直った雪女さんと、「つららはボクのこと好き?」「ええ!」「1番?」「もちろん!」「ボクもつららのこと好きだよっ」とか、「つららはいつもいい匂いがするね」「えっ、そ、そうですか?」「うん。ボク、つららの匂い好き」とか、「リクオ様っ、なんで私の帯をほどこうとするんですかっ!?」「帯が無い方が抱きついた時に柔らかくて気持ちいいもん。誰も見てないからいいじゃないか」「よくありませんっ!」「ねぇ~つらら~」「・・・そんな声出して頬ずりなさってもダメですっ」「つらら~~」「・・・・今だけ特別ですからね!屋敷ではしませんからね!」とか、それはもう、ベタベタイチャイチャしてらっしゃいました。

 最後は、雪女さんに膝枕してもらって星の数を数えながら眠ってしまわれて・・・・・あの幼さで、『初でぇと』を満喫していらっしゃったなんて、ホント、さすがでございますよねぇ。



 はい!お客様、目的地でございます。
 ふふ、すっかり話し込んじゃって、うるさくて申し訳ありません。
 お足もとにお気をつけて、お忘れ物ないようになさってくださいましね。



 え?
 今も三代目が『ドライブでぇと』をなさるか、ですって?

 いえ、それは、ここまで話しておいて何ですけど、現在の主のぷらいべーとを吹聴するのは、ちょっとねぇ。

 ですけど、まぁ、三代目はお一人で視察なさる時は蛇ニョロをお使いですけど、暑い夏の夜に暑さに弱い妖をお連れになる時は、ガンガンに冷房をかけた朧車をお使いくださいますよ。
 車内で帯を解くようなご乱行は卒業なさいましたけど、膝枕ぐらいならよかろうとお考えのご様子ですねぇ。
 
 いえいえ、これ以上はもう、朧車にも守秘義務がございますので。恥ずかしがった可愛いお方が溶けてしまわれたら、アタシが三代目にお叱りを受けてしまいますよぅ。



 ですので、内密にお願いいたします。
 
 ふふっ、お客様とアタシの秘密ですからね~☆





:::::::::



 『内緒』で『内密』で『秘密』な話が、世に広まらぬわけがない。
 こうして、この話が奴良組通信に載った翌日、リクオは、散々からかわれて恥ずかしがったつららから口を聞いてもらえぬことになるのだった。


【おしまい】

 
 
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