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古今妖魅考 その参 橋姫

 ぬら孫 リクつら+首毛ss。

 せっかく妖怪マンガの二次創作なんだから、1妖怪をテーマに1作ずつ書いていこうのシリーズ。
 
【橋姫】

 京都の宇治川のほとりに住んでいた夫婦の夫が、竜宮に行ったっきり返ってこなかった。
 妻は悲しくて悲しくて、とうとう橋のそばで死んでしまい、橋行く人を襲う妖怪となってしまった。




::::::::::





 今宵は、今の暦で七月の七日、すなわち七夕の夜じゃ。
 しかしのぅ、昔の暦と今の暦は巡り方が違うものじゃから、七夕の夜に雨が降ることはよぅある。今宵も、ほれ、雨が降っておる。
 じゃが、かような悪天候も酒の肴にしてしまうのが、陽気と粋が信条の江戸妖怪というものらしく、小雨が降る中訪れた奴良屋敷は、宴の声が漏れ聞こえ、中庭には、昨今珍しいほど大きな笹がででんと聳え立っておった。
 短冊は定番の色紙に筆書きではなく、耐水性がありそうなつるつるの紙に油性まじっくあたりで書かれておる・・・・みな、本気じゃな。
 さてさて、この屋敷に住まう妖怪たちは、いかなる願いを星に託したのじゃ? 
 妾は、短冊に書かれた願い事を読もうと顔を近づけたが、そこで、飲み物を持ってきてくれた雪女に声を掛けられたので、断念した。
 まぁよい。夜は長いのじゃ。雨で滲まぬように工夫されておることじゃし、後で短冊を読む機会もあろうて。
 妾は、促されるまま、雪女と毛倡妓と共に、部屋に入って行った。




「つらら、今夜空いてる?よかったら、一緒に化猫屋に行かないか?良太猫が新作スイーツの試食して欲しいって言ってたから、ただで甘い物食べられるよ」
 奴良家の若きご当主であらせられる三代目のリクオ様が、己の下僕である雪女にこのように声を掛けたのは、もちろん、他意あってのことである。
 何故なら、あいにくの雨で星が拝めそうになくとも、今宵は七夕。まだ何も言葉では約してはおらぬものの、己の心の内では嫁にもらうと決めた女と二人きりで過ごしたいと思うのは、しごく当然のことであった。
「まぁ・・・・あ、でも、今日は無理です。文通してる友達が遊びに来るので」
 しかし、こちらもまた恋情を口に出してはおらぬものの、リクオのことを憎からずどころか、骨の髄まで愛してくれているはずの雪女つららは、誘いをあっさり断った。彼女の中では、七夕は恋人たちのイベントとしては認識されていないようだ。
 リクオは内心がっかりしたものの、心を隠すのが上手な昼姿であったので、そのような様は悟らせずに、穏やかに微笑む。そして、非常に気になるポイントをちゃんと確認した。
「お前、文通なんかしてたの?」
 つららが文通、と聞いて、一瞬、相手は同じ雪女である遠野の冷麗かと考えそうになったが、それならば先程のような物言いはしないはずだ。
 ならば誰だろうか、とリクオは気になって仕方がない。
 文通というのなら、相手は遠方に住んでいるのだろう。つららはリクオよりずっと年上だが、成人してすぐ奴良家で奉公を始めた為に、他所に知己は多くないと思うのだが。
「はい。去年の夏に京都に行った時に知り合いまして、気が合って。こっちに帰ってからも、ずっと文通してて、今夜やっと会えるんですよ~」
 去年の夏の京都へ行った時、というのは、羽衣狐との決戦の時のことであろう。激戦の最中によくもまぁ誰かと知り合う暇があったな、とリクオは思ったが、遠野で修行していたリクオの代わりに、京都旅行を敢行してしまった清十字団を守るべくつららと青田坊が先行して京都入りしていたことを思い出し、ならば、自分たちと合流する前に出会ったのだろう、と納得した。
 実際、つららがその相手と出会ったのは、『夜は妖怪研究なら昼は観光するよ!』と主張した鳥巻コンビに引っ張られて行った先でのことであった。
「その手紙の相手、か?」
「はい!」
 リクオが指差したのは、つららが抱えていた手紙だ。今時古風にも程がある和紙に筆書きの手紙で、つららの袖に隠れて差出人の名が半分隠れているが、最後の一字が『姫』であることは判別できたので、リクオはほっとした。
 この現代にこんな形態の手紙で、名が『~~姫』ならば、相手は、女性の土地神か女怪であろう。七夕は、女子の裁縫上達を祈願する行事でもあるのだから、その~~姫が七夕の夜に女友達を尋ねるのは理に適っていると言えようし、なにしろ相手は男でないことはわかったので、気が済んだリクオはあっさり引き下がった。
「じゃあ、無理だね。わかった。それなら、毛倡妓にでも声掛けてみようかな」
「毛倡妓もダメですよ!毛倡妓もその方に会ってお話したいって言ってたから、今日は3人でお話しするんです」
「そうか・・・」
「首無をつれてったらどうですか?」
「首無?」
 七夕の夜に男二人というのもどうなんだ、とリクオは内心思ったが、毛倡妓がつららとその文通相手と話をしているならば、つららを誘えなかった自分同様に首無も暇を持て余すだろう、と考えつく。
「首無は、下戸だからか、甘い物好きですよ」
「じゃあ、そうしてみるか」
 こうして、リクオと首無は、七夕の夜に化猫屋を訪れることとなったのだ。






「首無の兄さん、新作のチーズケーキ、どれが良かったですかね?」
「どれも美味しかったと思うが、この店でこれからの季節、酔客が最後に食べるデザートとしてメニューに載せるなら、マンゴーのジュレがかかった奴がいいと思うよ。一番、触感が軽くて、口当たりがさっぱりしてた。濃厚なベイクドチーズケーキも美味しかったから、これは、冬用のメニューにしたらどうだ?で、どちらのチーズケーキも、メニューに載せる1週間くらい前から、一口分ずつサービスで客に食べさせて話題を煽って、お持ち帰り用のホールも用意すれば、味も確かめたことだし、酔客が家族への手土産に買っていくだろう」
「ありがたいご意見、ありがとうございますっ!それ、採用させてもらいますねっ!あ、これ、お礼と言っちゃなんですが、さっきのチーズケーキです。どうぞ手土産にしてくだせぇ」
「ホールを3種ももらうのは悪いよ」
「そんなこと言わずに、奴良家の女衆にでも振舞って、これを宣伝しといてくださいよ」
「そうかい?そういうことならいただいておく。ありがとう、良太猫。ん、どうしました、リクオ様?」
「・・・・首無、詳しいな。お前、本気で甘いもんが好きなんだな」
 最新技術に疎く、携帯電話は通話とメールぐらいなら扱えるようになったとはいえ、いまだテレビの録画もできないし、人間のふりをする時も頑なに着物で通す首無は、しかし、甘い物に関しては現代に順応しているらしい。
 いずれ己の家令のような立場に取り立てて鴉天狗の仕事を引き継がせようと考えている相手の、意外な一面を知って、リクオは心のメモ帳の『首無』の項目の『女にマメ』に、一言付け加えた。『女と甘い物にマメ』、と。
「私は下戸で、お酒を飲む皆と違って他に楽しみもありませんからね。それに、配膳なんかを手伝うことが多いから、姐さん方が話してるのが聞こえるんですよ」
「なるほどねぇ。それで、その見識なんすか。あれ、そういえば、今宵はお二人だけなんですかい?」
 リクオはともかく、下戸の首無が化猫屋を訪れることは、そう頻繁ではない。首無が訪れる時は、大抵側近仲間皆でか、毛倡妓につれられて、だった為に、良太猫は質問した。
「今夜はオレたちだけだ。振られちまったからな」
「えぇっ!?天下の奴良組の色男№1と№2を振る女性なんて、いるんですかいっ!?」
 冗談めかしたリクオの台詞に、良太猫の目がまんまるになる。
 それもそのはず、今宵は七夕。織姫と彦星の逢瀬の夜だ。この国ではすっかり恋人たちの行事として定着したバレンタインやクリスマスほどでなくとも、天女と牛飼いの恋を模して逢引きする妖怪は多く、今宵の化猫屋は恋人同士の姿が多い。
 なのに、そんな夜に、甘く整った容姿と、武闘派の実力と、女性に対するマメさと柔らかな物腰と、垣間見せる危うい雰囲気で、二代目の時代から奴良組色男番付け二位をキープしている首無と、妖怪社会の御曹司であり、百鬼の主に相応しい華やかな容姿と滴る色気を備えたリクオが、女に振られて寂しくしているなど、良太猫には考え難かった。
「それは、もちろんいるよ。例えば、毛倡妓の姐さんとか、雪女のつららとか、ね」
 良太猫の驚き様がおかしくてくすくす笑いながら首無が答えると、良太猫は、今度は、ぐぐっと眉を顰めた。
「・・・・・あの、お二人は、何をやらかしたんですか?」
「お前、なんつー物の言い草だ。オレらは何もしてねぇよ。単に、あいつらの文通相手とやらが、今夜遊びに来たってだけだ」
「そういえば、リクオ様、相手の名前はご存知ですか?」
 どうやら、首無も、今宵の客の名を知らなかったらしい。
「いや、知らねぇ。でも、手紙の差出人とこに『姫』って書いてあんのは読めたから、京都の土地神とか女怪とかだろ」
 相手が男であったならば、無理を言ってでも同席してやったところだが、女ならば友情を咎めるつもりはないので、リクオの言い様はあっさりしていた。
 しかし、ここで、良太猫が首を捻る。
「京都で、『姫』、女怪・・・・・あ、もしかして、橋姫かも!」
「え?」
「いやね、昨日、長距離朧車が、明日は橋姫を浮世絵町に運ぶ予約が入ってる、て言ってたんで」
「なんだと!?」
「おい、橋姫ってぇと・・・・・」
 良太猫が告げた『橋姫』が如何なる妖怪なのかに思い至って、首無とリクオは顔色を変えた。

:::::::

【橋姫】

 京都の宇治川のほとりに住んでいた夫婦の夫が、竜宮に行ったっきり返ってこなかった。
 妻は悲しくて悲しくて、とうとう橋のそばで死んでしまい、橋行く人を襲う妖怪となってしまった。

 という説もあるが、もっと有名な説は、

 夫に捨てられた女が、貴船神社のお告げに従って、全身を赤く塗り頭に鉄輪を被って松明を灯して鬼を模した装いをし、宇治川に七日間浸かることで、貴船明神の呪力を借りて、まことの鬼女と化した。
 そして自分を裏切った夫を殺し、その後は誰彼構わず川へ引きずり込むようになり、この怨念を鎮めるために社を造り、橋姫を祀った。

 であり、婚礼の際などは、婚礼を妬んで破談にされない為に嫉妬深い橋姫のおわす橋は渡らない、という風習があるぐらいに、嫉妬とそれに基づく復讐の念を原動力とする妖怪として知られている。

:::::::

 橋姫に関しては源平盛衰記や太平記に記述があるし、橋姫を題材に能も作られているぐらいなので、もちろん、リクオと首無は、橋姫がいかなる妖怪か、よく知っていた。
 だからこそ、二人は慌てる。
「こうしちゃいらんねぇ!首無、今すぐ帰るぞ!」
「はいっ、リクオ様っ!」
 風のように去ってゆく二人を見送りながら、良太猫はぽつりと呟いた。
「だから、何をやらかしたんですか、あんた方・・・・」





 
 おんだんかとやらのせいで、最近の夏は夜も暑ぅてかなわぬ。
 じゃが、今宵の妾は、遠出した甲斐があったと言いたくなるぐらい、涼しく過ごしておった。
「でね、橋姫様、リクオ様ったら、私の気持ちも知らずに、家長にかまって・・・」
 妾が涼しい思いをしているのは、眼前で切々と恋のままならなさを訴える雪女のおかげであった。冷気を調節して部屋を快適な温度に保ってくれる上に、もてなしのかき氷が絶品じゃった。
 この雪女、名をつららと言い、妖怪としてはまだ年若いながらも天下の奴良組の側近頭を務める忠義者。
 しかし、この忠義者が恋をした相手が、お仕えする若君であったことで、己の恋を顕わにできぬからこそ募る嫉妬の念に苦しめられておるようであった。
 憐れなことじゃ。
「そうかそうか。それは、つれなき若君であらせられるな。そして、その家長なる女が憎たらしくもなろうな。うむうむ」
「そうねぇ。わかるわ、その気持ち。首無もさぁ、女と見たら誰彼構わず親切にしてさ、それで誤解されて、あたしが何十、ううん、何百回やきもきしたことか」
 こちらは、毛倡妓の紀乃。つららの同僚で女だてらに武闘派の側近だが、見た目も中身もなよやかな女である。
 聞けば、遊女であった紀乃が妖となったは、そもそも、首無なる男との縁によるもの。その上、籍こそ入れてはおらぬものの三百年以上連れ添うておったら、積る恨み辛みもあるであろう。妾は、興奮して髪をざわめかせる彼女の背をそっと撫でた。
「いつの時代も、女とみたらいい顔をなさる殿御は絶えぬものじゃなぁ。うむうむ。それは辛かろう」
 妾は、可憐なつららと情深き紀乃の二人に、深く同情した。まったく、このようなよい女たちを嘆かせて、世の男は何をやっておるのじゃろう。これだから、男というものは信用ならぬのじゃ。
「あのな、思いきれぬ恋故に湧き上がる嫉妬の念に苦しむそなたらに、今宵は、ぷれぜんとがあるぞ」
「「ぷれぜんと?」」
「うむ。妾の友情の証と思うて、遠慮のぅもらっておくれ」
 そう言って、風呂敷包みを取り出した。
 妾は、丑の刻参りの発祥とされる橋姫である。故に、中身は、もちろんアレじゃ。
 五寸釘と藁人形じゃ。
 ふっふっふ。効くぞえ~、妾手製の藁人形は。
 コレを使い作法を守って丑の刻参りをすれば、恋敵への嫉妬など、すぐに問題は解決じゃ!なにせ、嫉妬する相手がおらぬようになるのじゃからな。
「まぁ、わざわざすいません。ありがとうございます。ふふふ、何かしら?」
「あたしの分まであるんですか?すいませんねぇ。でも、ありがとうございます」
 妾が、期待して見つめる二人の前で、風呂敷の結び目を解こうとした時に、ソレは起こった。

 ぬらり。

 障子が開く音はせなんだと思うのに、何故か部屋の空気が揺れて、眼前のつららと紀乃の姿が消え、

 ひゅっ!

 紐を引くような音がして、気配も音も消え去った。部屋に残ったは、妾一人。
 それで、妾は思い出す。つららと紀乃の想い人が如何なる妖であったか、を。
「・・・ふん、やっと来おったか」






   
 明鏡止水を使ったリクオが腕に抱え混んだことで存在を隠し、その上で、首無が、あらかじめリクオに巻きつけておいた紐を引っ張ることで、部屋から女二人を強奪してからしばらくして、橋姫が待つ部屋に足音が駆けてきた。
「橋姫様、失礼して申し訳ありませんっ!」
「ごめんなさい、ちょっと手違いがあったみたいで」
「かまわぬよ。ん、そちらは?」 
 駆け込んできたのは、つららと毛倡妓。そして、彼女らは、後ろに二人の男性を伴っていた。先程の強奪劇の犯人である、リクオと首無だ。
「こちらは、私がお仕えしている奴良家の三代目リクオ様と、側近の首無です。高名なる橋姫様がお越しと聞いて、同席を希望しているのですが・・・」
 こう言いながらも、つららはさっぱり訳がわからない。どうして、主と首無が強奪まがいのことをしたのか、更に、同席したいと言い出すのか、橋姫の風呂敷包みの中を見ていなかったつららには、見当もつかなかった。
「こちらこそ、羽衣狐を下した奴良組三代目と、常州の弦殺師殿にお会いできるとは、光栄なことじゃ。妾なぞでよかったら、いくらでも話をしましょうぞ」
 橋姫は、齢九百を超える妖であり、神としても祀られている身。この場の誰より人生経験が深い彼女は、もちろん、男二人が何故慌てたのかなど、お見通しである。
 だから、殊勝なのは言葉ばかり。女を悲しませる男を敵と見なす橋姫の、泥眼の面の奥の瞳は、炯々と光っている。
 首無は、その≪畏れ≫に気圧されつつも、先手を取った。
「橋姫様、不躾な申し出を快く赦してくださって、ありがとうございます。私は、これなる雪女と毛倡妓と共に、三代目リクオ様の側近を務めさせていただいている、首無と申す者。時に橋姫様、洋風の甘味などはお好きでございますか?」
「好きじゃ」
「でしたら、こちらの手土産を是非ご賞味ください。浮世絵町の化猫屋の新メニュー候補のチーズケーキ3種です。マンゴージュレが載った爽やかなレアチーズケーキ、ふわふわ触感にこだわったスフレチーズケーキ、洋酒が効いている濃厚なベイクドチーズケーキ。どれも美味しいですよ。一口サイズに切って参りますから、味の違いをお楽しみいただきたい」
 女にはプレゼントしろ、女は胃袋から掴め、と言わんばかりに繰り出した首無の策は、見事に当たった。首無に向けられていた≪畏れ≫はあっさりと和らぐ。
「これはこれは。花のお江戸には、気の利く殿方もいらっしゃるものじゃな」
 紅梅色の衣を纏った橋姫は、優雅にほほほと笑う。つららと毛倡妓に気づかれぬように、リクオに≪畏れ≫をぶつけながら。
 こうなっては、リクオも何かしなければならない。
 良太猫から渡された手土産をうまく活用した首無を恨みつつも、リクオはずいっと前に出た。
「挨拶が遅れて申し訳ない。オレは、奴良組の三代目奴良リクオ。三代目だなんだいっても、側近や貸元に支えてもらってどうにか体裁を整えてる若輩者だ。気が利かねぇオレは、首無みてぇに手土産は持参しちゃいねぇんだが、代わりに一つ、芸を見ていただきたい」
「ほほぉ」
 橋姫が見つめる前で、リクオは縁側に立つと、懐からなみなみと酒が注がれた大盃を取り出し、庭先に向かってふぅと吹いてみせた。
 すると、雨夜の闇を映して真っ暗だった池に、小さな小さな妖火が無数に灯る。暗い水面に映った妖火はその数を倍して見せた。
 闇を照らすのではなく、闇に寄り添うように妖しく煌めく、小さな小さな光たち。
 その眺めの、なんと幻想的なことか。
「明鏡止水・天の川、とでも名付けようか。七夕の夜に生憎の雨なんで、天の川には我が庭にお越しいただいた、なんてな」
「まぁ!」
「すごい、リクオ様!」
「おおーっ!美しい!見事じゃ!さすがは、幻想を司るぬらりひょん!」
 ご機嫌になった橋姫が、≪畏れ≫をひっこめて盛大に拍手してくれたので、リクオは、内心胸を撫でおろした。





 

「橋姫様、お江戸はいかがでございました?」
「良き友と楽しい一夜を過ごすことができた。また遊びにゆくと約束した故、その時は、また、そなたに頼もうぞ」
「ええ。長距離朧車をどうぞご利用ください」
「ところで朧車、つかぬことを聞くが、そなた、性別は?」
「・・・・・・・どっちかというと、女性よりかと思いますが、あんまり意識したことはございませんね」
「恋をしたことは?」
「ございません」
「そうか。残念じゃ。妾手製の藁人形と五寸釘が余ってしもうたので、そなたが女であったなら、くれてやろうと思ったのじゃが」
「私にはもったいない品でございますよ。あれ、ということは、橋姫様ともあろうお方が、恋敵の呪詛を断念なさったのですか?」
「ふふふ。妾は、恋故に生じた嫉妬の念で恋敵を呪詛し、あまつさえ、我が橋を渡る恋人同士を川に引きずり込む妖じゃ。しかしのぅ、昨夜は七夕。さすがの妾も、天の川の橋を渡る織女と牽牛には悪さはできぬよ。例えその天の川が、雨雲を厭って庭先に降りてきたものであっても、な」
「へ?」
「七夕の夜にあそこまでされては、さすがの妾も無粋は慎むということじゃ。短冊に健気な願いが綴られておるのも見てしもうたし。じゃがな、三代目よ、妾はしつこいぞ。世に嫉妬する女子がおる限り、我が≪畏れ≫が絶えることはないのじゃからな!」

 浮世絵町再訪を誓っている橋姫は、泥眼の面の奥で目を細めながら、高らかに笑った。


【おしまい】
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