コンテントヘッダー

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
コンテントヘッダー

家長カナの驚愕(前)

 ぬらりひょんの孫 リクつら+カナ小説。

 旦那様は15歳シリーズ、その三の前編。
 カナちゃんに正体バレするの巻。

 ・・・・・・ノリがアレですいません。
 あの、このシリーズは、この時点で鵺との決戦は終わってるし、羽衣狐の呪いは解けてるし、近々四代目も産まれるし、組は安泰過ぎて、みんな、平和ボケしております。楽しいこと大好きな江戸妖怪の本領発揮、みたいな。日々がラブコメ風味なんです、きっと。
 
 冷たいあんかけ茶碗蒸しが、つるりと喉を滑っていく。お出汁が効いてて、上品で優しいお味。
 おつゆに香ばしい焼き鮎が入ったお蕎麦は、香りも喉越しもいい。
 すずきの洗いも申し分なく美味しいし、トマトのお吸い物は意外にカツオ出汁と相性が良かった。しし唐の甘辛炒めも、ちょっとピリ辛なのがいい感じ。コクがある白和えは、白味噌が入ってるそうだ。
 というわけで、ご飯は美味しい。読モの取材で泊まる旅館のご飯より美味しいかもしれない。
 だけど・・・・・
「いつから好きだったか、なんて聞かれてもなぁ。こっちは物心つく前から雪女の≪畏れ≫を浴びまくってて、気づいた時には虜だったもんだから」
「まぁ、幼い頃にあれだけ私を苛めておいて、そんなことをおっしゃるなんて。逆さ吊りも落とし穴も、他の悪戯も、私は人一倍くらいましたよ」
 向かいに座るご夫婦は、美男美女でお似合いの上に、それはもう睦まじい。旦那様が杯を干すと、絶妙なタイミングで、奥様がお酒を注いでいる。
「そりゃあな、お前に惚れてるからやっちまったんだよ。構って欲しくってな。それに、他愛なく罠に嵌まるお前があんまり可愛いから、オレもつい病みつきになっちまってなぁ」
「・・・・他の方にも悪戯してたじゃないですか」
 さっき聞いた話では、同じ年だと思っていたこちらの奥様は、実はかなり年上だという話(実際に幾つなのかは教えてもらえなかったけど)。なのに、拗ねた様子で子供みたいに口を尖らせて、それが女の目から見てもすごく可愛いと来た。
「そうだな。確かに、悪戯好きな悪ガキは、屋敷の全員どころか客にまで悪戯を仕掛けたもんだが。なぁ、気づいてたかよ?オレは、他の奴がお前にちょっかいかけるのは赦さなかったんだぜ?」
 案の定、旦那様も奥様の可愛さにくらっとしたらしく、箸を置いてちょいちょいと髪を引っ張りながら、威張れもしないことをドヤ顔でのたまっている。
「そういえば、私、リクオ様が物心ついてからは、他の妖怪に悪戯されたことないです・・・」
 髪に悪戯する旦那様の手をぺしんと叩いて諌めながら、奥様が小首を傾げる。
 なんというか、前々から思っていたけど、彼女の動作は時々小動物っぽい。悪戯っ子が標的にしたくなる気持ちは、ちょっとわかるかもしれない。旦那様が、前に夜会った時、『妖怪は、特にお江戸の妖怪は、悪戯するもの』て言ってたし。
「だろ?そりゃ、オレがきつぅく申し渡しておいたからだ。つららなる雪女は、髪一筋、身を象る氷雪の一片に至るまで全て、この奴良リクオのものであるから、これに手出しするはボクに喧嘩を売ると同義と思え、とな」
「そ、そんな、またご冗談を・・・・・」
 ちょっと待って。今はすっごくお似合いなこのご夫婦だけど、10年前とかだと、奥様は今と同じで旦那様はまだ幼児だったわけだよね。そんな状態で、そんな発言をかましてたわけ、この人?
 と、私が思わず半眼になって幼馴染を見つめていると、隣から声がした。
「いや、本当だ。言葉は違うかもしれないが、リクオ様は、概ねそういうことをおっしゃっていた。幼い頃から」
 首のない男の人が、主夫妻から微妙に視線を逸らしつつ(気持ちはわかる)、こう言うと、周りの男性の妖怪(大物小物含め)が、こくこくと頷いた。奥様が、耳まで真っ赤になる。
「というわけで、カナちゃん、オレは、自覚があろうが無かろうが、小っちぇえ頃から、この性質の悪い雪女に虜にされてたってことで、答えにしていいか?」
「・・・・うん」
 一つ質問しただけで、この惚気っぷりか。あてられたこちらのダメージは決して小さくないが、今夜の私は、こんなところで退くことはできない。
 ようやく、全ての秘密が開示されて、全貌を知ることが出来るんだから!
 





 きっかけは、実に他愛のないことだった。
 昨日、読モの仕事で午後から休んだから、リクオ君に日本史のノートを借りたの。
 借りる時に、明日小テストだから悪いかなとは思ったんだけど、リクオ君は日本史が得意だから特にテスト勉強はしないって言って、快く貸してくれたんだよね。
 ありがたく借りて、写させてもらって・・・・・で、持って帰っちゃったわけだ。
 帰宅してすぐ鞄を開けて、しまった、と頭を抱えた。
 リクオ君はああ言っていたけど、明日小テストなんだし、このままじゃまずいよねぇ。
 というわけで、私は、家も近いことだし返しに行こうと思ったんだ。





「すいませ~ん、お邪魔しま~す」
 インターフォンが壊れていたし、リクオ君の携帯も留守電だったから、しかたなく、玄関の戸をからからと開けてみた。
 清十字団の活動で何度もお邪魔してるから中を知ってるけど、勝手に入るわけにはいかないし、玄関から中の様子を伺ってみる。
 いつ見ても広い玄関には、曲げわっぱに硝子をはめ込んだ金魚鉢が置かれていて、中では番の金魚が仲良く泳いでいた。
 お屋敷と呼ぶのが相応しい大きさの奴良家は、住み込みのお手伝いさんもたくさんいるらしいから、そのうちの誰か(出来れば面識のあるあのナイスバディのお姉さん)が気づいてくれないかな~、と思って、しばらく金魚を見つめていたら、奥から足音が聞こえた。
 よかったー、誰か気づいてくれたみたい。
「リクオ様、お帰りなさいませ!出入りはどうでした!?お怪我はありませんか!?」
 ガラッと戸を開けて現れたのは、白い着物姿の、奴良家の若奥様である及川さん(まだ籍は入ってないからこっちで呼ぶ)だった。
 ああそうか。奥さんなんだから、及川さんに連絡すればよかったのか(あ、でも私、及川さんの携帯の番号知らないや)。私、まだ、(あれだけ惚気られておきながら)及川さんがリクオ君の奥さんだってことに慣れてないのかな。
 なんて思ってちょっとぼーっとしてたら、お腹の大きな及川さんが、玄関に立つのが愛しの旦那様じゃなくて私だと気づいて、大げさなぐらいに驚く。
「えっ!?い、家長さん!?」
「ちょっ!大丈夫!?」
 及川さんが、驚いた拍子に足を滑らせそうになったから、私は慌てて駆け込んで身体を支えた。前に、リクオ君が、心配だから屋敷内でも世話係が二人は必要、とか言ってた時は過保護だと思ったけど、この危なっかしさなら心配するのもわかるかも。
 あれ?ちょっと待って。今思い出したのって、リクオ君の台詞だったっけ?それともアノ人の台詞だったっけ?
 なんか、あの二人、身長も口調も何もかも全然違うのに、嫁ラブで惚気まくりなところが同じなせいか、時々、私の心の中の棚で同じ所に分類しちゃってるみたいで、思い出す時に混乱するよ。
 なんて頭の中は些か混乱しつつも、上がり框に膝立ちになった私は、及川さんが転ぶ前に支えることが出来た。よかった。妊婦さんが転んだら大変だものね。
 支えた及川さんは、お腹も大きいというのに、ビックリするぐらい軽い。それに、なんか冷たい・・・?
「あ、ありがとうございます!」 
「ううん。よかった」
「おーい、つらら~、今帰ったぞ~!」
 その時、ガラッと戸を開けて入ってきたのは、見知った声。見知った顔。
 だけど、この場所でこんなふうに出会うことは想定できなかった相手だから、私は目を丸くする。
 戸を開けるやいなや、さぁオレの胸に飛び込んでこい!、と言わんばかりに両手を広げたのは、なんと、魑魅魍魎の主だった。白銀の髪を吹き上げる妖気に靡かせたその艶麗な姿は、見間違えようがない。
「えっ!?」
「リクオ様!お帰りなさいませっ!!」
 及川さんは、戸口に立つ人影を見た瞬間から他のことが全て頭から飛んじゃったみたいで、ぺかぁぁっと輝く笑顔になって、身重の身体でビックリするほど身軽に、ぴょこんと広い胸に飛び込む。
 一歩踏み出して及川さんを危なげなく抱っこした魑魅魍魎の主は、敵と対峙した時には鋭い眼光を放つ紅眼を蕩けさせて、甘い声を出す。
「何だよ、お前。オレのこと待ち切れなかったのか?ん?」
「だって・・・・リクオ様がお強いのは存じておりますけど、これまでみたいについていけないから、私、心配で」
「ばぁーか。このオレがあんなどさんぴんに負けるわきゃねぇだろ。うちのシマで調子こいてたからちっと締めただけだ。お前が心配するまでもねぇよ」
 魑魅魍魎の主は、普段のあの威圧感などどこにやったのか、胸やけがしそうになるほど甘い空気を醸し出しながら、腕の中の女を見つめている。愛しくて堪らない、と言わんばかりに。
「え?」
 ここは、リクオ君の家。及川さんは、リクオ君の愛妻。だけど、今、及川さんを抱きしめているのは、魑魅魍魎の主。
「えっ?」
 一途な及川さんが浮気なんかするはずないし(それも自宅の玄関で)、雪女のお嫁さんへの愛をあれだけ語った魑魅魍魎の主が浮気をしているとも思えない。
「えぇっ?」
 そもそも、ここはリクオ君の家(大事なことなので繰り返す)。及川さんは、リクオ君の妻。じゃあ、今、及川さんを抱きしめているこの人は・・・・・?
「あれ、カナちゃん?なんでオレんちの玄関に?」
「はぅっ!リクオ様に夢中になって忘れてましたっ!」
「リクオ様ー、そろそろオレら入ってもいいですかー?」
「リクオ様、お気持ちはわかりますが、はっきり言って皆の邪魔です。玄関での抱擁はほどほどになさってくださ・・・・おや?」

「ええええええーーーーっ!?」

 私は、叫んだ。力の限り。
 これまでの人生で一番大きな声を出したと思う。








「説明してください!」
 私が叫んだことで玄関周りは一時騒然としたものの、とりあえず、玄関先でする話ではあるまい、ということで、場所は見慣れた応接間に移った。
 絶対に退かないぞ!、という気合を篭めて私が見つめているのは、魑魅魍魎の主、もとい、奴良リクオ君と、その妻である及川氷麗さん。
 リクオ君(・・・なんだよね?信じられないけど)は、少し困った様子で眉を寄せ、おろおろとうろたえている及川さんは、その背中にしがみつくみたいにしながら、こっちの様子を伺っている。
 周りには、リクオ君ちのお手伝いさんとして見覚えがある人たちと、魑魅魍魎の主の部下の妖怪として見覚えがある面々。
 感情はまだついてきてないし納得できないけど、全ての状況証拠が、私の幼馴染=魑魅魍魎の主、と示している。
 驚いた。
 すんごく驚いた。
 これまでいろんな妖怪に驚かされてきたけど、それ以上に驚いた。
 確かにね、リクオ君と魑魅魍魎の主とは何か関係があるとは思ってたよ。
 だけど、それは、旧家の跡取り息子のリクオ君のご先祖様と魑魅魍魎の主が何か関わりがあって、以来、魑魅魍魎の主は奴良家の血筋を気にかけている、とかかな、と思っていたの。この歴史あるお屋敷なら、ありそうじゃない、そういう話。
 だけど、まさか、本人だとはちっとも思ってもみなかった。言われてみれば、二人を同時に目撃したことはないけれど、主が去ってリクオ君が現れた時には「つららと一緒にあっちにいた」とか言ってたから・・・・あ、そうか、及川さんが一緒にアリバイを作ってたから、余計にわかんなかったんだ。
 ・・・・・・それってつまり、リクオ君は、私たちに、そう、幼馴染の私にも、正体を打ち明けてくれる気がちっともなかった、てことだよね。
 寂しい、な。
 私が見つめる先で、リクオ君はぴしっと背筋を伸ばして居住まいを正し、まっすぐにこちらを見た。これだけ整った顔立ちが真顔になって真剣に見つめられると、その迫力は半端ない。
 すっごく、すっごく悔しいけど、ドキっとしちゃった。
「カナちゃん、改めて自己紹介するぜ。オレは、奴良リクオ。初代ぬらりひょんの孫にして、関東総元締奴良組の三代目。そして、カナちゃんの幼馴染だ」
「本当なんだ・・・・」
 本人の口から言われると、やっと、頭の奥まで事実が沁み渡った気がする。
 本当の本当に、この人がリクオ君なんだなぁ。
「ああ。悪ぃな。これまで黙ってて。今は落ち着いたが、抗争だ決戦だなんだイロイロあったからな。正体なんざ知られたら、相手が危険になるだけだったんだ」
 リクオ君がこう言ってくれたので、私はちょっと気分が持ち直した。そうか、妖怪任侠の世界は物騒だから、私たちを巻き込まないように気を使ってくれてたのか。そっか。
「・・・・じゃあ、人間で正体を知ってるのは、私だけ?」
 そうだったらいいな、と思って尋ねてみた。
 リクオ君には及川さんがいるのは承知してるけど、家族以外で正体を知っているのが私だけなら、私は、リクオ君にとってちょっと特別な女の子かな、なんて少し思ってしまったから。
 及川さんがいるし、いつもたくさん惚気話聞かされたし、さっきも玄関でイチャイチャしてるの見せつけられたから、別に、リクオ君とどうこうなりたいとかそんなのは思ってないけど、でも、これまで私は、リクオ君にとってたった一人の幼馴染なんだからちょっとは特別なはず、と思ってたから、・・・・恥ずかしながら、優越感というか、そういうのがあったんだ。
 しかし、他人の困ってる様子には敏感なくせに、揺れる乙女心は察しきれないのがリクオ君という人なので、リクオ君は、私の思惑なんかあっさりと跳ね飛ばしてくれた。
「いや。ゆらには、中一の夏休みにバレた。京都行く前な。で、花開院の奴らは、ほとんど知ってる。後は、誰かいたか?凛子は元々こっちの関係だし」
 ・・・・そうか。そうだね。そういえば、ゆらちゃんはその頃からリクオ君と及川さんに対して、態度が変わったし、何より、リクオ君たちがゆらちゃんに対して態度を変えてたもんね。あれは、清十字団では唯一秘密を知っている人間だからということで、イロイロ協力してもらってたんだろうな。
 凛子さん、というのは、中学の先輩の凛子さんかな?時々、リクオ君や及川さんと話をしている姿を見かけた、お金持ちのお嬢さんの。アノ人も妖怪なのかな?
「品子さんと、マナ先生もご存知ですよ」
「あー、そういやそうか」
「・・・・そうだったんだ」
 ・・・・・・・なんか、ガックリきた。
 品子さんって、邪魅騒動の時の人だよね。マナ先生は、たぶん、中学校の先生。
 なーんだ、結構、知ってる人がいるんじゃない。
 そりゃあ、ゆらちゃんは戦えるから秘密がバレても危険じゃないかもしれないし、凛子さんは元々関係者らしいし、品子さんは遠く離れてるしマナ先生は接点が意外過ぎるからかえって安全なのかもしれないけど・・・・そっかぁ。
 いやいや、ここで気落ちしてたらダメだよ。
 他にも知ってる人がいるんなら尚のこと、隠し事はもう無しにしてほしい。もうこうなったからには、これまでの謎を全部解明しなくっちゃ!
 じゃあね、まずは、謎の美少女及川氷麗さんについて、質問しようっと!
「あの、及川さんは、人間じゃないんだよ、ね?」
「ああ。及川は、オレの護衛として学校に潜入する時に決めた偽名だ。本名はつらら。妖怪としちゃ、雪女。うちの雪女、昔話の通りに別嬪だろ?で、つららのうちでの立場は、オレの元守役で、元側近頭で、元護衛で、今は恋女房」
「リクオ様っ!?」
 出た。
 出ましたよ、惚気が。
 リクオ君は、背中に貼りついて小動物みたいな仕草でちょろちょろと様子を伺っていた及川さんを捕まえて、肩を抱いて頭を寄せて、「恋女房」と宣言した。横目で周りの様子を伺うと、皆もう慣れちゃってるらしく、「あーあー」みたいなため息が零れてるぐらいで、あんまり気にしていなさそう。
 だけど、及川さんは恥ずかしかったみたいで、わたわたと暴れ出した。すると、リクオ君が、慣れた様子で暴れる及川さんを抱き寄せて、胡坐をかいている膝の上に乗せてしまう。
「こら、こんな腹でっかいのに暴れんな。転んだらどうする?て、そういや、オレが出入りに行ってる間、お前ちゃんと大人しくしてたのか?」
「も、もちろ・・・・」
「あらぁ、つらら、旦那様に嘘はよくないわよ?」
 及川さんの言葉を遮ったのは、見覚えのあるナイスバディのお姉さん。ふふふ、と艶っぽく悪戯な微笑を浮かべている。
「毛倡妓、どういうこった?オレの雪兎は、大人しくご主人様のお帰りを待ってなかったのかい?」
「それがですねぇ、この子ったらもう、そわそわそわそわしちゃって。出入りに行った鯉伴様の帰りを待つ雪麗姐さんより酷かったですよ。今日は屋敷の守りについてたトサカ丸なんか、何度も何度も様子見に行かされるし、たまたま今日おつかいで顔を出した牛頭丸は八当たりで氷漬けにされるし。部屋も半分以上凍っちゃって。この調子じゃ包丁持たせたら危ないと思ったから、厨房からは閉め出しておきましたけど」
 氷漬け?部屋が半分以上凍って?・・・・え、雪女って綺麗で儚いイメージだったけど、そんなに強いの?
 あ、でも、昔話でも、好きになった男の人にはお嫁さんになって何人も子供産んだり、約束を破っても赦したりしてたけど、他の人の命はあっさりさっくり奪ってたな。そういえば。 
「ほほぅ。つらら、お前、オレがやられるとでも思ったのか?」
 おそらく私の存在を失念しているリクオ君は、奥さん弄りに絶好調だった。身を捩って膝の上から逃げだそうとする及川さんを後ろから抱き込む形で両手首を掴んで、ニヤニヤ笑っている。
 ・・・・リクオ君って、こういう人だったっけ?
 あ、でも、うんと昔の小学校低学年の頃の活発だったリクオ君は、ちょっとこういうとこあったかもしれない。といっても、威張りんぼな先生や乱暴な男子相手ならともかく、女子に悪戯とか意地悪とかしてる姿は見たことなかったから、ちょっと違うかもしれないけど。
 なんて、私が昔のことを思い出していると、物陰からひょこっと現れた小さな影が、及川さんを庇うみたいにリクオ君の眼前に浮かんで、必死で訴え始めた。
「違います、三代目!つらら姐さんは、三代目のことを誰よりも信じていらっしゃいます!ただ、好きだから!三代目のことがすごくお好きだから、かすり傷一つ負って欲しくないと思って、心配してしまったんです!」
「お涼ちゃん・・・」
 及川さんが、小さな身体で必死に庇おうとしてくれた女の子を見つめて、小さく呟く。
 私は、その「お涼ちゃん」の姿に目が釘付け。
 いや、だって、確かに、私はこれまで、一般の人と比べるとたくさんの妖怪と出会ってきたけど、それは、襲われる→助けられる→ありがとうさようなら、が主なパターンで、のんびりじっくり観察するチャンスはあんまりなかった。
 唯一そういうチャンスがあった化猫屋さんでは、猫耳以外はほとんど人間に見える店員さんか、荒っぽい感じの男の妖怪たちばっかりで、こんな妖精みたいな妖怪がいるなんて、思ったことなかったんだもん。
頭の上にかき氷みたいな飾りを乗っけた、黒目がちの大きな目をした女の子は、それこそ、かき氷の鉢に入っちゃいそうな大きさで、お人形みたい。なのに、ふわふわと浮いてちょこちょこ動いて表情豊かだから、お人形じゃないことがわかる。
 うわあ、小さいなぁ。かわいいなぁ。
「リクオ、つららちゃんを苛めるのもそのぐらいになさい。あなたの悪い癖よ?それに、お客様にお茶もお出ししないで、あなたは何をやってるの。気の利かない子でごめんなさいね、カナちゃん」
「はわわっ、家長さん、すいません!私としたことが気が利きませんで!今すぐ、お茶を持ってきますね!」
「こら。お前は大人しくしてろ。悪ぃな、カナちゃん。話が逸れちまって。だがまぁ、積る話もあることだし、良かったら、晩飯食っていかねぇか?」

 こうして、何だかよくわからないうちに、私は、奴良家で妖怪だらけの晩餐にお呼ばれすることになりました。






「さて、カナちゃん、何から聞きたい?」
 もうバレたからいいや、ということなんだろう、奴良家の大広間には、妖怪たちがずらりと居並んで皆でご飯を食べている。
 清十字団が家内を探検とかした時はどこに隠れたんだろう、と思うぐらいに数が多い。それに、姿形も千差万別。さっきのお涼ちゃん(かき氷の器の付喪神なんだって)より小さいぐらいの付喪神がいれば、鴨居に頭をぶつける大きな妖怪もいるし、及川さんみたいに見た目は人間と同じに見える妖怪がいれば、大蛇だの納豆だので人間とは似ても似つかない姿形の妖怪もいる。
 私の胸の中で、むくむくと好奇心がわき上がった。
「えーと、質問!このお屋敷に住んでる中で、100%人間なのは若菜さん一人で、リクオ君は1/4は妖怪で、他の皆は妖怪ってことは、私たちがこれまで見かけた人たちはみーんな妖怪だった、てことなんだよね?」
「ああ。そうだ、おめぇら、カナちゃんに自己紹介しな!」
 リクオ君がパンパンと手を叩くと、これまで何度も見かけたお色気たっぷりのお手伝いのお姉さんが立ちあがった。
「はぁい!じゃあ、まずは、あたしから。これまで名乗りもせず申し訳ありません。毛倡妓と申します。お見知りおきを」
 毛倡妓さんは、長く豊かな髪をざわりと揺らめかせた。なんか、あの髪が伸びたりする妖怪なのかな。
「見ての通りの首無と申します。今後ともよろしく」
 前に及川さんのお買い物に同行している姿を見たことがあるイケメンのお兄さんは、ふよふよ浮かせてた首を手に持って挨拶してくれた。うわ、シュールな光景。
「河童だよ。よろしくね~」
 頭の上に大きなお皿(なんか変わった形だけどそうなんだよね?)を載せた河童さんが、陽気に挨拶してくれる。
「拙僧、黒田坊と申す。どうぞよろしく」
 こちらは、長身長髪でイケメンなお坊さん。あれ、誰かがこんなお坊さんのこと話してた気がする・・・
「俺は納豆小僧だぜ!」
 見たまんまだ。
「と、豆腐小僧です・・・」
 こちらも、見たまんま。大変わかりやすい。
「おいらは、小鬼。こっちは、3の口」
 なるほど、こちらも見たままだ。でも、3の口って、すごい名前だね。
「馬頭丸で~す!よろしくね!ほら、牛頭、お前も挨拶しなよ」
 動物の骨みたいなのを被った男の子が、陽気に手を振ってくれた。彼はその隣の袴姿の男の子を小突いたけど、こっちは顔をそむけてしまう。
「うっせぇ!やってられっか!」
「もぉ。牛頭ったら。ごめんね~、今のが牛頭丸だよー」
 あ、さっきの話に出てた、及川さんに凍らされた人か。無事だったんだ。
「鴉天狗が長男、黒羽丸と申します。カナ様」
 マナーの教科書に出てきそうなお辞儀をしてくれたのは、黒髪に鎧姿のお兄さん。なかなかイケメン。
「同じく、次男、トサカ丸」
 こちらは、鎧姿は同じだけど、髪形はだいぶファンキーな感じ。
「三羽鴉が末妹、ささ美」
 眼鏡が知的な印象のちょっときつめ美人も、鎧姿だった。
「わしが、浮世絵町の鴉、及び高尾山を統括しておる鴉天狗じゃ。よしなにな」
 さっきの三兄妹のお父さんがこの人なんだよ、ね?にしては、あの、お子さんたちと違って、顔が鴉だし、サイズがすごく小さいんですけど・・・・・妖怪って不思議だな。
「毒羽を持つ妖鳥の化身で、鴆と申しやす。これでも薬師一派の頭領なんで、妖怪関係で身体の不調なんぞあったら、遠慮なくどうぞ」
 このいなせなお兄さんは、妖怪のお医者さんみたいな感じなのかな。今後お世話になるかもしれないから、ちゃんと覚えておこうっと。
「邪魅、です・・・・」
 あ、邪魅騒動の時の邪魅って、本当にいたんだ(清継君に教えてあげたい)。へえ~、だから、品子さんにバレたのかな。
「枕返しでやんす。どうぞよしなに」
「濡れ女でーす」
「お歯黒べったりどす」
「姥ヶ火じゃ」
「妾の名は、刑部姫と申す」
「オイラはからかさ小僧だよっ。こっちは、毛羽毛現」
「あちきは、絡新婦でありんす」
「わしの名は、釣瓶落とし言います」
 次々と現れ、自己紹介してくれる妖怪たち。清継君の妖怪講座のおかげで知っている名前も多かったけど、知らない名前の妖怪もいた。正直、こんなに一度に名乗られても、数が多過ぎて覚えきれません。
 リクオ君の家って、本当に、正真正銘の妖怪屋敷なんだなぁ。
「これで、皆名乗ったか?」
「リクオ様、青がまだです」
「さっきまで一緒におりましたのに。あいつ、何をしておるのだ。リクオ様、拙僧がちょっと探して・・・・」
 長身長髪のお坊さんが立ちあがった時、襖が開いた。そこから現れたのは、見知った姿。
「倉田君!?」
「よう」
 現れたのは、いつの間にか清十字団の幽霊部員になっていた倉田君だった。え、でもここ、リクオ君の家だし、この部屋は妖怪だらけで・・・・
「倉田君も妖怪なの!?」
「ああ。今まで名乗れなかったが、オレは、奴良組三代目の特攻隊長 青田坊だ」
 言うや否や、倉田君の姿が変じた。
 煙が揺らめくようにして一瞬曖昧になった輪郭は、次の瞬間、大柄で強面ながらも人間らしかったのが、妖怪の形になっていた。
 人間時の姿より更に大きな、見上げるほどの巨漢。服装は武僧といった物々しさがあり、ドレッド風の頭髪は白く逆立っている。肌は浅黒いし、何より、目が人間の物と異なっていた。
 見るからに、妖怪。でも、倉田君だということが、今の私にはちゃんとわかる。
 倉田君が妖怪だとわかっても、私は、自分でも意外なほどに驚いてはいなかった。ただ、納得しただけだ。
 清十字団で京都に行って、ゆらちゃんのお家に泊めてもらったことがあるけど、その時、ゆらちゃんのお家は妖怪に襲撃されたんだよね。
 当時の京都は、伝説の大妖怪が復活したとかで、とても物騒な場所だった。私たちの安全を考えて、ゆらちゃんは花開院の本家に入れてくれたけど、敵は強大で、本家も奇襲を受けた。 
 外に出られないのは窮屈だけどここなら安全だろうと思ってたから、妖怪の攻撃で家が揺れた時、とっても怖かったよ。
 だけど、慌てる私たちの中で、倉田君だけは何故か落ち着いていて。
「・・・・・ゆらちゃんのお家に妖怪が攻めてきた時、倉田君が守ってくれたの?」
 あの時、ゆらちゃんのお祖父さんは亡くなり、他にも怪我をした人はいっぱいいたみたいだけど、私たちは無傷だった。不思議なことに急に眠くなって、目が覚めたら、お屋敷が半壊してたけど、妖怪は退治されてたんだ。
「役目を果たしただけだ。オレと雪女は、遠野で修行なさってたリクオ様の代わりに、お前らを守る為に、他の奴らより先に京都入りしたからな」
「そっか。そうだったんだ」
 倉田君が妖怪で私たちを守ってくれたのなら、他にも、気づかなかっただけで、ここにいる妖怪たちに守ってもらったことがあったのかもしれない。
 魑魅魍魎の主が、悪い妖怪から人間を守ってくれているのは感じていたけど、その部下たちも、そうだったんだろう。
 私は、立ちあがり、周りに居並ぶ妖怪たちを見渡してから、頭を下げた。
「これまで守ってくれて、ありがとうございましたっ!これからもよろしくお願いしますっ!」
 どっと歓声が上がった。



(後編へ続く)
スポンサーサイト
コンテントヘッダー

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

greatberryking

Author:greatberryking
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。