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古今妖魅考 その弐

 1妖怪で1(リクつらな)ネタのシリーズ②
【枕返し】
 夜中に枕元にやってきて、枕をひっくり返す、または、頭や足の向きを変える悪戯好きの妖怪とされる。江戸時代の妖怪画集『画図百鬼夜行』には小さな仁王のような姿で描かれている。




::::::::::



 まだ水無月だってのに、最近はなんだかあっついねぇ。 
 今からこんなじゃ、夏になったらどうなっちまうのか。
 こんな夜には、怪談でもしたら涼しくなるかねぇ。
 

 おっと、名乗りがまだだった。こりゃ、失敬失敬。
 あっしは、枕返しと申すけちな小妖怪でやんす。
 見た目は、小っちぇえ仁王みてぇな姿形で、肌の色は赤でやす。
 あっしは、長ぇこと『ふりー』でやってきたんですが、近年の世の移り変わりの早さに不安になりやしてね。
 飲み屋で偶然知り合った納豆小僧の兄さんにお願いして、先日、天下の奴良組の傘下に加えていただいたんでさぁ。
 ふつつか者でやんすが、これから、どうぞ皆様お見知りおきを。

 
 枕返しの中にゃあ、枕を返したついでに人様の命もひょいっともらってく性質の悪い野郎もいやすが、あっしは、ただただ眠ってる人の枕を返すだけの、無害な妖でやす。
 武で覇を競うつもりなんててんでありゃあしねえから、これまではそういう己の性質に何も思わなかったんでやすが、奴良組のお屋敷に住まわせてもらうと、やっぱりちょっと、イロイロ考えやすねぇ。
 だって、このお屋敷の主は、日の本の国の妖を統べる大妖怪ぬらりひょん様の三代目で、伝説の妖怪鵺との一戦に備えておられるんですぜ。
 せっかく、末席とはいえ百鬼に加えていただいたんだから、何かお役に立ちたいと思うのが人情(いや、あっしは妖怪でやすがね)。
 だけどねぇ、恥ずかしながら、あっしには、お役に立てるような特技が何もありゃあしやせん。
 これでも末席とはいえ任侠一家の飯を食ってんだから、いざ戦いとなったら身体張るつもりはございやすが、・・・・正直、お役に立てるたぁ思えねえんですよ。
 大きな戦の前だってのに、荒事が苦手な妖怪ならばこそ弱気を助く奴良家の傘の下に入るべきだと、この世知辛い時代にあっしのような小物を快く受け入れてくださったってのに、恩返しの一つもできねぇなんて、悔しいし、情けねぇこってす。


 でもね、それならせめて、と配膳の手伝いやら庭掃除やらの雑用をさせてもらってたら、今日、雪女の姐さんがあっしのことを労ってくれたんでさ。
 うちの男連中なんか、有事以外は食っちゃ寝の妖怪が多いのに、あなたは偉いわね、ありがとう、てあの鈴を振るような声で言ってくだすった。
 あっしは、誰かに褒めてもらいたくて雑用してたわけじゃあねぇんでやすが、だけどねぇ、誰かが自分のこと見ててくれて、認めてくれるってぇのは、やっぱり嬉しいもんでやすよ。
 その相手が別嬪さんなら余計に、ね。
 雪女の姐さんは、さすが雪女だけあって、抜けるように色が白くて、髪は鴉の濡れ羽色。顔立ちは妖艶というよりは愛らしい感じで、笑顔がこれまたお可愛らしいんでさぁ。
 それに、女だてらに側近頭に昇り詰めてらっしゃるのに、下の者にお優しい方でね。
 だから、あっしは、つい、弱音を零しちまった。
 そうしたらねぇ、姐さんがおっしゃったんですよ。
 ・・・・あなたは、眠っている相手が誰でも、気づかれずに枕を返せるの?
 あっしは頷きやした。昔は、妖怪退治で名を馳せた武術家の枕を返したことだってございやすからね。
 だったら、戦いは苦手でも、斥候には向いているんじゃない?
 あっしは、はっと息を飲みやしたよ。いやぁ、天下の本家で出世なさるお方は、やっぱり違いやすねぇ。我が畏れにそんな使い道があろうとは、あっしは考えもみませんでしたぜ。
 ですが、言われてみればその通り!
 あっしは、眠る家人に見咎められずに寝所へ忍び込み、枕を返しても眠りを妨げはせぬ妖怪。気配を殺し存在を認識させぬのは、得意中の得意でやんす。
 ああ、これならばお役に立てるはず!
 あっしは、あんまり嬉しかったから、つまらぬ我が身にも使い道があることを教えてくだすった雪女の姐さんに、何度も何度もお礼を言いやした。





 で、あっしが今何をしてるのか、て話でやす。
 いや、あのね、どんな技術も鍛錬を怠れば錆つくもの、我が枕返しの畏れも、ずーっとやらないでいたら、いざって時に腕が鈍っちまってるかもしれねえじゃねえですか。
 だから、今宵は、ちょっくら枕を返してこようと思ったんでさ。
 でね、その相手なんでやすが、ここは、我が畏れがいかに上手に気配を断つことができるのかを知っていただきたい、ということで、雪女の姐さんの枕を返してみたいと思いやす。
 三代目の百鬼夜行には必ず同行なさるという側近中の側近である姐さんに、我が畏れが使えるものだと思ってもらえたら、斥候が必要な時に進言してもらえるかもしれねぇじゃねえですか。
 それに、可愛い寝顔見てみてぇし・・・・・・いえいえいえ、あっしには邪心なんざこれっぽっちもございやせんよ!ええ、ホントに!
 あちら様は、その美しさと強さは人間たちにも評判の(なんでも、『まんが』なる絵草子にもよく登場なさるとか)雪女様で、主様の覚えめでたい側近頭であられ、あっしはただの小物でやすから、格の違いはよぅよぅ弁えてございやすとも。
 ただ、あっしは、その、なんつうか、昼間の一件で、雪女の姐さんの『ふぁん』になっちまったんでやす。
 だから、寝顔が見てみてぇなー、なんて・・・・・・・あれ、やっぱ邪心か?



 
 自己弁護に失敗しながらも、あっしは、屋敷の北東にある雪女の姐さんの私室に向かいやした。
 妖怪は本来夜に活動しやすが、姐さんは、昼間は人間として生活なさってる三代目に合わせてらっしゃるから、妖怪にしちゃあ早寝でやす。
 そーっと障子を開けると、すぅすぅと小さな寝息を立てて健やかに眠ってらっしゃいやした。
 う、わ、あ、かっわいい~~っ!!
 人間が『いでんし』やらいうモノにある程度容姿を限定されるなら、妖怪は、語りに、伝承に、それらを耳にした者が抱く印象によって、姿形が定まりやす。
 だから、怪談の中で美人って言われる妖怪は実物も美人なんでやすが、雪女ってのは、元はお月さんから舞い降りた天女だっつー説もあるぐれぇだから、本当にお美しいでやすなぁ。
 長い睫毛も、小ぶりな鼻も、つやつやの唇も、雪見だいふく(ご存じでやすか?奴良家冷蔵庫常備の氷菓子ですぜ)みてぇな頬っぺたも、なんもかんも、見事なまでに整っておられる上に、両手で口元を隠すようにして横向きで寝てらっしゃる様子が、なんとまぁ愛らしいこと!
 その上、この部屋は氷の吐息のおかげで、これまた冷やっこくて気持ちがいい。柔らかくて冷てぇ身体を抱きしめて共寝したら、イイ夢が見られそうでやすなぁ。
 なるほどねぇ。内臓が氷漬けになってもいいから、と雪女に口吸いをねだる男が現れるのも納得できやすなぁ。
 などと、雪女の畏れに(勝手に)やられてくらくらしていたら、ふと、首の後ろが重くなるような感触がしやした。
 な、何だ、こりゃ!?
 音はしねぇ。匂いもねぇし、空気の揺れも感じやしやせん。
 なのに、胃の腑が引き絞られるような、重苦しい妖気が背後から漂ってくるんでさぁ。
 あっしは小物だが、これでもお江戸の時代から生きてやすから、強い妖怪の畏れを浴びたことだってございやすよ。
 だけどねぇ、ここまでの畏れは、正直初めてだ。
 昔、徳の高ぇ坊主が明王を勧請すんのを見たことがあるが、それに似ていやす。場を圧し、場を制す、絶対的な存在感が。
 あっしみてぇな小物は、息も出来なくなりそうな、そんな圧倒的な妖気でやす。
まるで、よぅく斬れる刃物でね、そろ~りそろ~りと己が身を削り取られていくような、そんな心地がするんでやすよぉ。
 それでも、あっしは、天下の奴良屋敷で敵襲なんざあるまい、となけなしの勇気を振り絞って、後ろを振り向きやした。

 そこには・・・・・・・




 
 ゾッとするような色男がいやした。
 面立ちが整ってるってぇだけじゃなく、所作の一つ一つから色気が滴りそうな、そんな男でやす。
 あっしは、蛇に睨まれた蛙みてぇに身体が固まっちまいやした。
 いや、だって、吹き上げる妖気に長い銀髪を靡かせた紅眼の色男って、我らが奴良組の三代目でやすよねぇ?
 あっしは、最初の面通しの時にしかお傍近くでお姿を拝見したことがございやせんが、これだけの色男、間違えようがねぇですぜ。
 その三代目が、周囲の空気が歪みそうな畏れを放って、こっちを睨んでいらっしゃる・・・・
 え、な、何で!?あっし、何かしやしたか!?
 と、そこで、あっしは、我に返りやした。
 ここは、雪女の姐さんの私室。時刻は夜中。姐さんは、(なんで?三代目の畏れを感じてねぇんでやすか?)すやすやと眠ってらっしゃる。
 あっしは、その姐さんの枕に手を掛けた体勢。
 三代目が現れる音も何も感じなかったのは、納豆小僧の兄さんが教えてくだすった『明鏡止水』なる技でやしょう(いやぁ、さすが三代目、お見事!あっしの畏れも気配を感知させぬ系だからこそ、格の違いがよぅわかりやす)。
 さて、ここで問題。
 あっしが姐さんの寝所へ忍び込んだのは枕を返す悪戯をする為でやすが、寝巻き姿の三代目は、何をしにここへ忍んでこられたのか・・・・・・て、そんなん決まってるじゃねぇでやすか!
 え!?雪女の姐さんと三代目って、そういうことなんでやすか!?
 誰か教えといてくだせぇよ!姐さんが三代目の女だって知ってたら、あっしだって悪戯の相手に選びやせんよ!
 ひぃぃーーっ!三代目の女の寝所へ忍び込んだあっしは、斬り捨てられても文句が言えねえでやす!!



 
 涙目になったあっしは、無言で何度も自分と枕を指差して、枕を返すふりをしてみせて、不埒な間男ではなく無害な枕返しであることを無言で必死に訴えやした。そして、勢いよく一度土下座してから、脱兎のごとく退出いたしやした。
 正直、廊下を曲がり切るまでは、生きた心地がしやせんでしたよぅ。だから、雪女の姐さんの部屋が見えなくなった所で、廊下に座りこんじまいやした。
 こ、怖かったぁ!
 寿命が百年は縮みやしたよぉ。怪談なんか目じゃねぇ冷却効果でやす。
 いやぁ、肝が冷える思いってのは、まさにこのことで。ああ~っ、冷や汗と震えが止まらねぇ。
 と、そこで、ぶるぶる震える己を手を見て、あっしは気づいたんでやす。

「あ!」





:::::



「あー、あっちぃ。今からこんなじゃ、これからたまんねぇなぁ。ねぇ、枕返しの兄さん、怪談でもしませんかね?そうしたら、ちったぁ涼しくなるかもしれねぇって、おいらは思うんですが」
「・・・・怪談なら、とっておきのがあるぜ」
「ほほぉ。どんな?」
「昔の絵草子には赤い肌で描かれてるあっしが、今みてぇな青い肌になった理由であり、妖怪退治で名を馳せた武芸者の枕も返してみせたあっしが、唯一、枕を返せなかったってぇ話だ。ありゃあ、あっしがまだ、この奴良家に来て間もねぇ頃のことで・・・・・」  


  
 
【どっとはらい】
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