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2queen  (後)

 NARUTOで、サクラとシカマルの話。後編。

 精神的余裕は全くなかったが、刻一刻と重みを増していく圧力から気を逸らしたい一心でいつもより集中したオレは、白のクィーンで赤のキングにチェックをかけた。
「チェックメイト!」
「あ~あ、負けちゃった。シカマル、だいぶ強くなったね。でも、次は勝つわよ。さ、私の駒返して」
 少しの間だけ悔しそうな顔をしたサクラだったが、いつものように、すぐに次の勝負をしようと駒を並べ直し始めた。だが、ここで流されてしまっては林の中の人物の警戒は解けず、オレの昼寝の時間は帰ってこない。
 オレは、さっきのゲームでオレが取っていた赤のクィーンの駒を拾い、手を伸ばしてきたサクラに返さないで握り込んだ。怪訝そうな顔をしたサクラを、まっすぐ見つめる。
「・・・・なあサクラ、『エイトクィーン』って知ってるか?」
 勉強熱心で記憶力のいいサクラが知らないわけがない。オレの話運びの意図が見えなくて不審に思っている様子だが、返事をする。
「知ってる。どの女王もお互いの効き筋にいないように配置する問題のことでしょ。それがどうかしたの?」
 エイトクィーンは、1人でやる頭の体操だ。動ける範囲が広い最強の駒であるクィーンを八個、どのクィーンも拮抗状態を保てるように配置する。脳内で盤を広げて駒を置いておけるなら、どこででもできる暇潰しにちょうどいい問題だ(ちなみに解答は92通りあると言われている)。
「いや、なんか、似てると思わねえ?この場合は二人の女王だけどよ。そ、パープルとピンクの」
 オレは「ピンク」と言う時にサクラを指差した。
 サクラの髪は、その名の通り桜色。睫はそれより少し濃い桃色。よって、サクラを象徴するカラーはピンク。
 なら、それと対立するパープルのクィーンとは・・・・
「・・・・シカマル」
 もちろんサクラにはすぐにわかったみてえだ。当然だな。そもそも奈良シカマルと春野サクラのチェスの理由がパープルのクィーンなんだからよ。
「なあサクラ、オレは昔お前がした選択は正しかったと思う。きっと、あのままだったらお互いに雁字搦めになってただろうよ。だから、まだ二人とも弱過ぎたあの頃は、傷ついたとしてもああするしかなかったんだろ。でもな、今は違うんじゃねえの?お前ら、強くなったじゃねえか。少なくとも、オレをパシリにできるくらいには」
 オレはにやっと笑った。
 あの頃、いじめられっ子だったサクラが、やっと自分に自信が持てるようになってきたあの頃。オレは、二人が一緒にいる姿をよく見かけた。二人はとても仲がよく楽しそうだったが、オレはその姿に少し危うさを感じていた。
 あきらかに、サクラはあいつに頼り過ぎていた。あいつのことを好きなのも感謝してるのもよくわかったが、けれど、あまりに傾倒し過ぎては芽吹き始めたサクラの個性が抑圧されてしまう。無意識の抑圧は、無意識の恨みを生じる。
 あいつもまた、サクラに頼られることでサクラの存在に依存していた。あいつがきっかけを与えたと言っても、サクラはちゃんと自分自身の力で強くなれるはずなのに、あいつはどこまでも庇護の下に置こうとしていた。
 早晩、歪みが生じるだろうと危惧していた。お互いの弱さを自覚せず寄りかかり過ぎたら、二人で崩れるしかないだろう。だから、お節介は重々承知で面倒事は嫌いだが、オレが介入してもうちょっと距離を取らせた方がいいかもしれないと考えていた。なんで、二人が離れたと知った時、オレは少しほっとしたんだよな。
 けど、今はもう違う。
 二人は強くなった。もう、寄りかからずに支えあっていけるだろう。
「あら、あの頃だってシカマルをパシリにするくらいできたわよ。やらなかっただけで。・・・・・そっか、シカマルはそう言ってくれるのね」
 サクラも口角を上げて笑顔になる。あの頃の自信なさそうな微笑じゃない、花のような笑顔だ。頬にかかった髪をかきあげる仕草が、意外なほど大人っぽい。
「ああ、本当にそう思うからな。だから、もういいだろ」
 オレは正直に言う。
二人が距離を取ったのは正解かもしれなかったが、けど、強気なはずのあいつは、時々淋しげにしていた。だってあいつは、自分に自信を持つために無意識にサクラを利用した側面があったとしても、それでも、本当にサクラを好きだったんだから。
 あいつの周りは常時結構騒がしかったけど、それでも、オレらではダメな、サクラじゃなきゃいけない部分があるんだろ。そんで、それはサクラの方も同じなんだろ。
 だから、お前ら素直になれよ。
 こんなふうにオレを介して繋がらなくても、二人の気持ちは繋がってんだからよ。チェスの間、サクラはずーっと自分の近況や思い出話を話し続けているし、オレはあいつのことを話してる。サクラの用意した菓子は、あいつの好物ばかり。オレが菓子のお返しに渡したビーズのブレスレットと指輪は、あいつの手作りであいつとお揃い。オレを選んだ理由は、オレがあいつと幼馴染だから。オレならサクラの意図を察して二人の間に立つ役を引き受ける(嫌々だけどな)とわかっていたから。
 なあ、サクラ、もうわかっただろ?
「うん、でもダメ」
「は?」
 花のような笑顔でサクラが返した言葉に、オレは素で驚かされた。この流れで、この展開で、どこをどうしたら「ダメ」なんて台詞が出て来んだよ?
「シカマルは気がついてないかもしれなけど、問題はもうとっくにその段階を通り過ぎてるのよ。私たちは『敵』じゃない。それはわかってる。でも、『ライバル』なの。相手が盤を降りる気が無いって理解してるのに勝負を投げるなんて、失礼じゃない?」
「いや、でも・・・」
 二人は、オレの推測など遥かに超えて漢前だった・・・・・・・・・・・
 あーのー、オレはですね、こう、お互いに意地を張りつつも、それでも口実を設けてまで仲直りをしたいと思っている健気な二人の女の子の手助けをしたい、つか、事情を察してるオレなんだから手伝ってやらなくちゃなー(面倒くせえけど)、とか思って、必要にされているつもりだったんですが―、・・・・違うんだな?
「あのね、私たちはもう、幼かった頃とは違う、新しい遊びを始めてるのよ。さしずめ、『エイトクィーン』ならぬ『トゥークィーン』ね。私たちだけの、ワクワクする真剣勝負よ」
 微笑んだサクラの笑顔はやはりかわいかったが、よーく見てみると瞳の奥に力強さが見えた。本当に、サクラは昔とは変わったんだと実感した。
 しっかし・・・・ゲームかよ。オレは駒かよ。
 あー、なんか急にだりぃ。こう、膝から力が抜けてく感じだ。
「・・・・・・・・・・・なら、ポーンは盤を降りてもいいか?」
 オレもまだまだだな。昔のあいつとサクラの関係を依存し過ぎだなんて評してたくせに、自分が必要とされていると思いたいせいで、二人を過小評価してたなんてさ。
 マヌケもいいとこだ。
「あんたはビショップだと思うけど。止めるのは構わないわよ。じゃあ、シカマルとのチェスの習慣は今日が最後ね」
 あまりにもサクラがあっさりしてるので、オレはさらに脱力しそうになりながらも、本日のサクラのプレゼントである黒糖カステラ(また可愛らしくラッピングされている)を手に席を立った。
「りょーかい。んじゃ、またな。オレはパープルの女王様に報告して来るから、お前はピンクのナイトの誤解をきっちり解いといてくれ」
 言いながら、オレはまだ座っているサクラの肩に手をかける。
 最後にこれくらいならしてもいいだろう。オレも奴には散々安眠を妨害されたんだから。
「シカマルも誤解しないでね。パープルのビショップはあんただけよ。あんただから、わたしたちのゲームを理解して欲しいと思ったの。で、私のナイトって?」
 サクラが小首を傾げる。オレは、演出効果を考えながら、後ろの林から見ると微妙な角度に見えるようにサクラの耳元で囁いた。
「なんか後ろの林に写輪眼がいるぜ」
「サクラ!」
 オレがサクラに顔を近づけると同時に、後ろの林から紺色の人影が跳び出してきた。すげえ素早い。
「えっ嘘っ!サスケくんっ!?」
 想い人の突然の登場に驚くサクラと、敵意丸出しのサスケの様子に爆笑しながら、オレはとっとと東屋を逃げ出した。
 手に赤のクィーンを握り締めたまま、振り返らずに手を振る。
「またなっ女王様!」
 オレの安眠のためにも、早合点で独占欲の強い騎士を宥めといてくれ。



 さて、そんなこんなでようやく平穏な日常を取り戻したオレが本日何をしているかというと、もちろん、昼寝だった。
 気に入ってる東屋で、のんびりだらだらした時間を過ごす。
 ここしばらくご無沙汰だった、至福の時間が帰ってきた。
 あの奈良シカマルと春野サクラのチェスが終わった日、オレが帰宅すると、当然のように幼馴染のあいつがオレの家の居間で待っていた(あいつはオレん家フリーパスだ)。で、これまでのように、「おかえりシカマル。ねえ、今日もまたあのでこりーんは、懲りもせずに何か作ってきたの?」とか聞きやがる。本人はまるっきり関心の無いふうを装っているつもりらしいが、気になって仕方がないと誰が見てもわかる様子で。
 なんで、オレは、「ああ、この黒糖カステラと、赤のクィーンを持って帰ってきた。だから、ほれ」と、あいつの手に黒糖カステラの包みと駒を押し付ける(オレは甘い物が嫌いで、あいつは黒糖カステラが好きだ)。狼狽して「え?」なんて言うあいつに、「お前らな、二人ともお互いを相手にしたゲームだってことわかってんだろ。だったら一騎打ちでガチンコ勝負でもしろ。オレんこと巻き込むなよ。だから、お前がソレ返しに行けよ」と、駒を指差すとあいつはわめき出した。「あたしはあんなでこりーんに会いたくないわよ!」とか「そんな面倒くさい用事頼まないでよ!」とか。
いい加減慣れてるから(なにしろオレらは親同士が幼馴染で親しいから、生まれる前からの付き合いだ)軽く聞き流して、あいつがわめき疲れた頃に、「サクラはお前のこと、真剣勝負に値するライバルだって言ってたぜ」と言ってやった。そしたら、あいつは、「あのおでこちゃん、このあたしに叶うつもりなの!?」なんて言って、駆け足で台所の方へ消えていった(勝手知ったる幼馴染の家)。
 オレはちゃんと見てた。居間を出てくあいつの顔が耳まで赤くなって口元が笑みの形を取っていたのを。
 あーあ、パープルの女王様は素直じゃねえなあ。
 ほーんと、手が焼けるぜ。



「ちょっとっこんなトコで何寝てんのよ!」
「起きて、シカマル!」
「ぐえっ」
 突然、ベンチで横になっていたオレは突き落とされて、芝生に落ちた。
 なっ何だ!?何が起こったんだ!?敵襲か?
 慌てて起き上がったオレは、身構えようとする前に、よく知っている顔を見つける。いのと、サクラだ。
 二人は怒った顔をして、こっちを見ている。とりあえず敵襲じゃねえだろうことはわかった(敵襲よりマズい事態かもしれんが)。
「おい、人がイイ気持ちで昼寝してんのに、何しやが・・・・」
 どうせ聞かないだろうと予想しつつも(理解し過ぎてる己が哀しい)、一応、オレは乱暴な起し方に抗議しようとする。だが、ヒートアップした二人に予想通りに無視される。
「聞いてよシカマル!このでこりーんが、あたしの服真似しようとすんのよ!あたしの方が似合うのに!」
「何言ってるのよ、いのブタ!真似したのはあんたの方でしょ!絶対私の方が似合うもん!」
 言われてよく見ると、二人は同じワンピースを着ていた。ノースリーブの、柔らかいラベンダーにピンクの水玉が散っている布地で、肩口と裾にピンクのフリルがついている。
 なるほど、いのは、白のベルトをしてワンピースの下に白のスパッツを履いてパープルのミュール(前に「つっかけ」っつったら殴られた)を履いていて、サクラは、淡いピンクの帽子を被って腰にピンクのカーディガンを巻いて濃いピンクのサンダルを履いているという違いはあったが、確かに同じワンピースだった。
「この色とデザインはね、あんたみたいなお子様じゃ着こなせないのよ!」
「あんたこそ、もうちょっとダイエットしてからにしたら!」
 二人は今にも噛み付きそうに唸りながら、オーバーアクションで言い争う。どちらの手首にも、濃いピンクと薄いピンクと淡いラベンダー色のビーズで出来たブレスレットが揺れて、お互いを指差す指にはブレスレットとお揃いの指輪がはめられている。
「似合うのはあたしよ!」
「私だってば!」
 どうやら、パープルとピンクの女王は、新しいゲームを始めたらしい。
 それはオレとしちゃ構わねえんだが、どっか別のところでやってくれねえかな。オレ、眠いんだけど。
 だいたい、女の見た目のことなんて、どんな答え方をしてもどっちの味方をしてもどっちの味方もしなくても、よっぽど巧い言い方をしない限り、絶対に後で恨まれるに決まってる。オレは心底、そんな空恐ろしい目に合いたくねえ。
「ま、まあ、ちょっと落ちつ・・・・・」
 仕方なく(なんかどうにも展開がやべえ)二人を宥めようとしたオレの言葉は、またしても遮られる(ほんとに人の話聞く気ねえな、こいつら)。
「「ねえシカマル、どっちの方が似合う!?」」
 爛々と輝く二人の女王の瞳に見つめられながら、僧侶は、もはや逃げ場は無いことを覚った。
 山中いのと春野サクラの勝負は、どこまでも人迷惑なのだった・・・・・・・・




 盤上には二人の女王。
 女王の駒は、縦横斜めに幾つでも進める最強の駒。
 よっく知ってるから、わかってるから、(おそらく)誰よりも理解してるから、哀れな僧侶の平穏を乱したり、短気な騎士に誤解させたりしないでくれよ。
 なあ、パープルとピンクの女王様?
 
 きっと哀れな僧侶の願いは叶わない。
 ゲームは、今日も明日も明後日も続く。
 女王陛下に、敬礼!                                                     【END】


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