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高砂や・拾弐

 延々と語りあってきた鴆様と良太猫は、地の文でせっせと盃を干しておりました。
 なので、酔っております。

 鴆様は、自分の体を把握していてお医者さまなので、普段総会などの時は酒量をわきまえた飲み方をしておられることでしょう。ぐでんぐでんになって転がったりとかはしないと思う。
 けど、全体的に身体が強くないわけだから、そんなに酒に強くはないと思うんですよねー。
 で、今夜は語りに夢中になりましたので・・・・・

 良太猫はお調子者なので、ぐでんぐでんになることも少なくないに違いない。

 というわけで、↓の二人は酔っています(笑)。


 奥座席の前の廊下を通りがかった猫娘は、先程追加の料理を持ってきた時にきちんと閉めなかったのか、障子がわずかに空いていることに気づく。
 今宵の奥座席の客は、薬師一派の鴆親分。腕のいい医者でもある鴆は、店としてもきちんと持て成したいお客だ。
 故に、猫娘は、酒の追加でもあるまいか、と障子の隙間から中の様子を伺ってみる。
 そうすれば、いつもならば、中で客の相手をしている良太猫の親分が、猫娘の気配に気づいて、客にはわからぬ程度の身振りで、酒や酌の要不要を伝えてくれる。
 だが。
「?」
 猫娘の目に映ったのは、目を閉じ首を捻って腕を組む、我らが親分の姿だった。



 全く想像できていなかった自分を反省した良太猫は、今度こそ、真面目に、詳細に、想像しようとしていた。
 リクオがカナを嫁にもらう、ということ。
 その時、つららがどう思うか、ということを。


:::::::


 雪女は、妖なれども、女である。
 故に、赤子の頃からお育て申し上げた愛しい主が、祖父や父親のように、「この女を嫁にする」とカナをつれてきたならば、黄金螺旋のその瞳から、霰の涙がこぼれるに違いない。
 わかっていたつもりで、覚悟していたつもりで、なのに、現実が齎す痛みは予想など遥かに超えて、雪女の胸を穿つのだ。泣かぬわけがない。
 いいや、待て。
 主の眼前でそのように泣いては、せっかくのめでたい報告に水を差してしまう。だから、雪女は、そっとその場を離れ、誰もおらぬ庭先などで、独り、涙を零すのであろう。
 そして、人の子の涙とは違い、土に浸み込まぬ氷の粒を見て、選ばれたる温かき血潮の娘と氷雪で象られた己が身との違いに、打ちのめされるに違いない。
 それはどのような心持ちであろうか?生涯にただ一度の恋に破れた雪女は、いっそ、春の雪のように、儚く溶けて消え去りたいなどと不穏なことを、思いはしないか?
 されど、約束が、誓いが、雪女を縛る。
 『未来永劫、お傍に』と誓った身であれば、主夫妻の姿を見ずに済む故郷へ帰ることも、叶わなんだ恋の業火に溶け消えることも出来ずに、雪女は、側近頭の任を果たしてゆくことだろう。
 主のお世話を若奥様に移行していくにつれ、己の価値がどんどん目減りしてゆくと感じ、それが身を切られるほどに寂しくとも、主を心配させぬ為に、愚痴など零せぬ。涙など見せられぬ。
 当世風の娘として裁縫など覚束ない若奥様を見て、何故この娘なのか?己ではないのか?、などと浅ましい気持がこみ上げるのは、致し方ないこと。けれど、雪女は、このような醜い心持ちだからこそ己は選ばれなかったのだ、と自身を恥じて浅ましく思うことであろう。
 だから、誰にも知られたくなくて、光差さぬ場所で、昏い昏い影の中で、雪女は涙を零す。
 聡明な昼姿の優しきお言葉も、今となっては、ただ痛いだけ。
 出入りの最中に頼もしい夜姿に守っていただいたとて、ただ切ないだけ。
 己が手を離れた愛し子の温もりが、恋しくて。
 氷雪のこの身ではなく他所の女を抱くあの熱い腕が、恋しくて。
 今宵もまた、雪女の頬を、氷の粒と化した溶けぬ涙が滑り落ちる。
「今更嘆くなんて、おかしなこと。わかっていたはずではないの?窓の向こうの人の世の温かさに焦がれて軒先に侍った氷柱は、されど、春が来れば溶け去るのみ。ぽたぽたと羨ましげに滴を零して、愚かしくも己が身を削って、・・・・触れられずに溶けてゆく。花が綻び実を結ぶ盛りの春に、なんで氷柱が在るものか。冷たいこの身で、温かいあの方に添える道理が在るものか。愛されるわけが、あるものかっ!・・・・・嗚呼、嗚呼、わかっていたはずなのに」
 今宵もまた、ぽろぽろころりと転がる白玉。
 夜毎に零れる、切ない白玉。
 こんな地獄はいつまで続く? 
 それは、雪の女怪を為す六花が全て、溶けぬ涙に変わるまで。
 恋が終るか。命が尽きるか。

 さてさて、先に終わるのはどちら?


:::::::::




「なんすか、コレーっ!?こんなん可哀想過ぎるでしょうがっ!」
 自分が想像した物語を語っただけなのに、気のいい良太猫は激昂して、拳を握ってぼろぼろと泣き始めた。
 障子の向こうから覗いていた猫娘が、驚いて一歩後ずさる。
「本当に、そりゃあ、酷ぇぜ・・・・。なぁ、あの雪女は、あんなに、リクオに尽くしてた、てのによぅ。あの土蜘蛛にも、立ち向かって、なぁ・・・・」
 情に厚い男である鴆も、ぐずぐずと鼻を啜りながら泣いている。
 廊下では、妖怪任侠の親分が2人も泣きだしたのを見てしまった不運な猫娘が、わけがわからずにオロオロしているが、すっかり感情が高ぶって障子に写る猫娘の影に気づきもしない男たちは、卓をバンバン叩き始めた。卓上の硝子細工の桜の葉が、チリチリざわめく。
「なんで、なんで三代目は、雪女を選んでやらなかったんすか!?あんなに健気に自分に尽くしてくれた女の、何が気に食わなかったんですか!?」
 自分がカナに一票入れていたということをすっかり忘れて、良太猫は吠える。
「そりゃあ、お前、アレだ。酒が過ぎたかなんかで、リクオの奴、うっかりと、そのカナって娘に手ぇだしちまったんだろうよ。で、その1回で、ガキでも出来ちまったんだ、きっと。そうしたら、リクオは責任を取るだろうから・・・・」
「三代目、酷いっす!責任て、そりゃあそうかもしれねぇけど、こんなん、誰も幸せになれねぇですよ!」 
「ああ、どうすりゃよかったのかはオレもわかんねぇが、これはいけねぇよな・・・・」
「どうすりゃよかったのかなんて、決まってますよ!三代目がさっさと雪女を嫁にもらって、他の女にちょっかい出さなかったらよかっただけですよ!三代目の節操無し!下半身無責任男!鴆様も、兄貴分として何とか言ってやってくださいよ!」
「オレはなぁ、この病についちゃ門外漢だから黙ってようと思ってたんだが、さすがに見過ごせねぇなぁ。色恋に仁義は通じねぇとはいえ、こいつぁあんまりだ。おぅよ、良太猫、オレは言うぜ!義兄弟のオレが言わずして誰が言うってんだ!あいつと五分の盃を交わしたオレだからこそ、言ってやらにゃならんことがあろうよ。よし、今から行くぞ!供をしろ、良太猫!」
「合点承知!」 
 こうして、薬師一派頭目の鴆の親分と、化猫横丁を仕切る良太猫の親分は、ぐじぐじ泣きながら、千鳥足のくせに鼻息荒く奥座敷を出ていった。
 2人は、いつの間にかすごい量を飲んでいた為に(良太猫は特に、あまり食べずに飲んでいた)すっかり酔いが回ってしまっていたのだ。

 後に残るは、食べ残りの料理と、空っぽの徳利たちと、酔っ払いのご乱行に思いっきり呆れ顔の猫娘が一人。
 硝子細工の桜が、静かになった奥座敷で、キラキラと輝いていた。  

 

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