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ナイショの七夕

 シャーマンキングで、葉アンナ。
 お星様は何でも知っているって、ホント?




 洗濯された皺だらけの青いハンカチが、みるみるうちに伸ばされて、真っ直ぐになっていく。
 麻倉葉は、ただいまアイロン掛けの真っ最中。
 主夫として有能な彼は、窓を開け放った部屋で、鼻歌交じりでアイロン掛けを続ける。
 既に太陽が沈み、空がだんだん夜に近づいているとは言っても、7月の風はまだまだムッとする温度を保っている。風が屋根より高く聳える笹を揺らす音は涼しげだが、黒いスチームアイロンから水蒸気が上がっていることもあって、夕暮れ時のこの部屋はひどく暑かった。


  
「葉、アイロン貸して」
 その蒸し暑い部屋に一陣の風のように入ってきたのは、葉の許婚のアンナだ。
 上品な薄紅の浴衣に藤色の帯を締めた目に涼しい格好の彼女は、すたすたとアイロン台に近づいて、葉の向かいに腰かけた。彼女の日焼けとは縁遠い色白な手は、先日新しく買ったばかりのワンピースを抱えている。
「いいけど。何すんだ?」
 葉は、アイロンを当てていた制服のシャツを台の上から除けて、アイロンを立てて置いた。
「このワンピースの裾がね、ちょっと長すぎる気がしたから、短くしてみたのよ」
 葉が置いたアイロンを手に取ったアンナは、手早く自分で裾丈を変えたワンピースにアイロンを掛ける。シューっと音がして、白い蒸気が噴き上がる。
 水色のワンピースは、アンナの好きな袖の無いデザインで、胸元にある金色の星のビーズ刺繍が可愛らしい。
「よし。これでいいわ」
 アイロンを掛け終わったアンナは、アイロン台にアイロンを立てて置いた後、満足そうに呟いて立ち上がると、ワンピースを自分の身体に押し当てた。丈を確認する動作だ。
「なあアンナ」
 その様子を黙っていて見ていた葉が、困ったような顔をした。
「何よ?」
 アンナも怪訝な顔をする。
「あのよ、それじゃあ裾短過ぎねえか?」
「わかってない男ね。こっちの方がバランスが良くて可愛いのよ」
 引き寄せるようにワンピースを抱きしめたアンナは、少し眉を顰めた。
「いや、そういうことじゃなくてよ。その、な、脚見えるだろ、それ」
 葉は、更に困った様子で、もごもごと声を出す。
「そりゃ、脚は見えるわよ。スカートなんだから」
 アンナも、更に不機嫌そうになる。
「あのな、・・・・だから、オイラは、他の奴に見せてやらんでもいいだろって言ってんだ」  
 頭を掻きながら言いにくいことを言い切って、むしろ開き直ってしまった態度の葉に、アンナは少し慌てた顔をした。
「な、何言ってんのよあんたは・・・・・・」
 返した声にも、勢いが無い。立てて置かれたまま白い蒸気を吐き出しているアイロンが、シューシュー唸る音にかき消されそうだ。
「ま、他の奴がそれ見てどう思おうと、ホントは関係ないんだけどな。オイラは一生アンナの旦那だし、『いつまでも元気でいられる』んだからな」
 だからどんな奴がそのワンピースを身につけたアンナに惹かれようとも、彼女を渡すつもりはさらさら無い、という意味を言外に含めて、意外に油断できない男、麻倉葉はユルく笑った。
 


 彼は笑顔のまま、アイロンを手に取って、また制服のシャツの皺を伸ばし始める。白い蒸気が噴き上がる。シューシューと音を立てる。
 一方、アンナは、葉の発言にひっかかるものを感じる。今の葉の発言は、彼女の七夕の短冊の内容を知っているかのような口ぶりだった。
 『葉がいつまでも元気でいられますように』という願いを。
「葉、『いつまでも元気でいられる』って・・・・?」
「ん?だってお前が織姫と彦星に頼んでくれたんだろ?」
 頬をユルませたまま、葉は、星が見え始めてきた黄昏時の縁側に置かれている、向こうの天にまで届きそうな大きな笹を見上げる。部屋の中からでは見えるはずのない、笹のてっぺんに付けられたアンナの短冊を見ようとするかのように。
「あんた、何でそれを知って・・・・!?」
 葉の様子から、自分が七夕の短冊に託した願いを知られたと悟ったアンナは、思わず膝をついて、葉の襟首を掴む。葉が慌てて、アイロンを脇に立てかける。その扱いに抗議するように、アイロンがシューっと一際大きな音を立てた。
「ウェッヘッへ。空飛んでて気がついた阿弥陀丸が教えてくれたんよ。オイラ、嬉しかったぞ」
「!」
 誰にも見られないためにわざわざ天にまで届きそうな大きな笹を所望したアンナだったが、霊人口の多い炎なのに、空を飛べる霊に対する対策を怠ったことは、油断だった。
 蕩けてしまいそうにユルんだ様子の葉から、アンナは目をそらせた。途端に、頬に浴衣の色が移ったようだ。仄かに、色づく。
「・・・・・別に。このお裁縫と一緒で七夕らしいことがやりたくなっただけよ」
 だから、顔を覗き込もうとする葉をかわしながらアンナが言った台詞は、どう聞いても照れ隠しだった。アンナの膝元に置かれたワンピースの胸元の金色の星型のビーズが、きらりと光った。
「裁縫も七夕らしいんか?」
 葉は、自分の襟元を掴んでいるアンナの滑らかな白い手を見つめる。この手が、長くて細い指が、巧みに針を動かしている様を、思い描く。そうやって、自分のために彼女が何着も服を作ってくれたんだと考える。
 なんだか、胸の当たりがこそばゆい気がしてくるのはどうしてだろう。二人の邪魔をしようとでも言うように、シューシューと唸り、暑いこの部屋の温度と湿度を更に上げようとするアイロンのせいか、全身に熱が巡る。
 血が、燃えそう。
「麻倉の次期当主のくせに、知らないの?七夕には、機織り女である織姫にあやかって、女の子が裁縫の上達を祈る習慣があるのよ」
 葉は、襟元にかかっているアンナの手を優しく外し、今はもうその手よりも大きくなった自分の手で、包み込んでみる。この暑い部屋の中で、それでも冷たいアンナの指先に、熱を分け与えるように。
 「ふうん。じゃあ、オイラも七夕らしいことやってみっかな」
 葉は、器用に戦闘服や浴衣を作ってくれた愛しい指に、感謝を込めて、いくつも唇を落とす。
 手の甲に、爪先に、手首の内側に。
「・・・何を?」
 いつの間にか、その手だけではなく、身体全体が葉の腕の中に納まってしまったアンナは、浴衣ごしに感じる葉の体温の熱さに、くらくらと眩暈を感じながら、ぼんやりと呟いた。
 縁側の向こうの空は、いよいよ闇を濃くし、七夕祭りの今夜の主役である星が、瞬き始めている。
「夜になったら部屋に訪ねていくから、ちゃんと待っててくれよな」
 七夕は、織姫と彦星の逢瀬の夜。
 指を絡めた手を軽く引いて、葉が、少し汗ばみ始めている内側から光が差すような白さの肌に、新しい星座を描こうとするので、おせっかいなアイロンは慌てて白い蒸気をシューシューと噴き出して、夜が待てないせっかちな二人を織姫と彦星から隠した。





 
 この後二人がどうなったかは、お星様には知らない物語。
 白い蒸気に包まれて、今宵も彼女の肌には星が煌く。



END
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