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すきとおる

 魔法律で、ムヒョのバースディ話。
 先刻から厨房が騒がしい。
 六氷透は、愛読している週間漫画雑誌を捲る手をとうとう止めた。厨房から聞こえてくる音声が騒がしさを好まない彼の神経を引っ掻くのに、我慢が出来なくなったのだ。 
 遠方に住む(といっても、出張魔法陣を使えばスープの冷めない距離だが)友である火向が送ったプレゼントとバースディカードが届いたのは、昼過ぎだった。
火向は、昔から、六氷と違ってイベント事が大好きで、呆れるほどマメだった。そういえば、火向は、出会ってから毎年、友人たちのバースディにパーティーを企画して幹事役をしていた。だが、離れて暮らすことになった今年まで自分の誕生日を祝ってくると思っていなかったので、六氷は少し驚く。六氷自身は、そういうイベント事を企画したりはしないタイプだったので。
 だから、少し油断していたのだろう。六氷は、数ヶ月前に知り合ったばかりの助手である草野の質問に、素直に答えてしまった。
「ムヒョ、それヨイチさんから?ヨイチさんは何て?」
 昼下がりの陽光を浴びて事務所の窓を磨きながら、草野は六氷に問い掛けた。季節は冬だが、今日は快晴で若干暖かい。遮るものなく降り注ぐ太陽の光が、タンポポ色の草野の髪を煌めかせていた。朝から客は来ないが、天気のおかげか、事務所内の雰囲気は悪くない。
 常々クールで内心を表さない六氷とて、誕生日を祝ってくれる友人の心遣いに何も感じないわけではないので、普段よりは機嫌の良い声(他人にはあまり変化がわからないが)で返答した。
「あ?『誕生日おめでとう。皆からのプレゼントはパジャマです。成長を見越して、ちょっとだけ大きめサイズにしておいたぜ!今年は身長伸びるといいな♪』・・・・て、余計なお世話だあンのデコ!」
「も~、ムヒョったらバースディカードくしゃくしゃにしちゃダメじゃない・・・・・・て、バースディカードっ!?えっ、ムヒョは今日がお誕生日なのっ!?」
 一瞬にして機嫌を急降下させた六氷に苦笑しつつも窘めた草野は、次の瞬間、割れないのが不思議なほどの勢いで窓ガラスに頭をぶつけ、六氷に激しく問い質してきた。
「ああ」
「えっ、そ、そんなのボク初めて聞いたよっ!知らなかったよっ!」
「でけぇ声出すナ。そんなもん、いちいち言うほどのことでもねえダロ?」
 それよりもお前のリアクションの大きさの方が気になるゾ、どんなに驚いたとしても、ガラスに頭をぶつけるのは止せ、いつか死ぬから、と内心で呟く六氷の声は冷めていたが、六氷の内心など聞こえない草野の声は、瞬時に沸点に達していた。そもそも彼は、パニックに陥り易い性格なのだ。
「言うほどのことだよっ!!うわーんっ!何で教えてくれなかったのさ!ボク、プレゼント準備してないよ!あ、あ、ケーキも無い・・・・・お買い物に行ってきますっ!」
「待て!」
 慌てふためいて財布を手に玄関を飛び出そうとした草野を、とっさにサスペンダーを掴んで静止することが出来た六氷の瞬発力は称賛に値するだろう。バランスを崩した草野は、つんのめって転んだ。六氷は、床に膝をついた草野の前に立って、宣言する。
「ロージー、このアホ。お前、事務所の財政がわかってるか?こないだの依頼は協会経由だったから、支払いが来週銀行振り込みだゾ。今、うちに無駄な買い物する金なんてねえヨ」
「うっ!そ、それは確かに・・・・・プレゼントを買うお金はないかも。で、でもでも、せめてケーキぐらい作りたいよ!生クリームと苺とキウイとチョコプレートと蝋燭買ってくれば作れるから。ね?」
 ね?と、うるうると瞳を潤ませて上目遣いでおねだりをする草野の姿は、性別が男であることが不思議になるほど可愛らしかったが、六氷は心を鬼にして首を振った。今月は仕事が少なくて、明後日の振込みまで買い物はしないと、昨日商店街のサービスディに纏め買いをした後に2人で決めたのだから。いくら可愛らしいからといって、草野の乙女チックな暴走を赦しては、週末の晩餐はカップラーメンだ。六氷は、今日のケーキより週末の食卓にカップラーメンが並ばないことを選んだ。
「ダメだ。どうしても作りたいなら、家にある物で作れ」
 身長は低いながらも、天才執行人様は迫力満点だ。草野はしょぼしょぼと項垂れ、「はぁい」と小さく呟いた。




 それが、1時間ほど前の出来事。
 現在、六氷魔法律相談事務所は、爽やかな林檎の香りと甘い甘いキャラメルの香りに占拠されていた。
 落ち込み易いが立ち直るのも早い喜怒哀楽の激しい草野は、その後すぐに冷蔵庫を調べ始め、林檎とベーキングパウダーと黒砂糖を発見して「やった!キャラメルアップルケーキが作れる!」と叫んでからは一気にご機嫌になった。
それからは、冷蔵庫を開閉する音や包丁で何かを切る音が響き、「うふふ~♪おいしくな~れ♪」だとかの独り言やらが聞こえている中、六氷は前日読んだジャビンを読み返していたのだが、・・・・・・・フライパンで作るキャラメルアップルケーキを焼き上げた草野が上機嫌で歌を歌い出した辺りで、ジャビンを閉じた。草野は中性的でキレイな声なのだが、歌はさして上手くない。その上、歌っている曲が巷で大人気の魔女っ娘アニメの主題歌で、その歌詞は乙女系に耐性が無い人間が聴いたら眩暈がしそうな代物であった。六氷はもういい加減草野に慣れたのだが、やはり限度というモノがある。
 浮かれて騒ぐ助手を止めるべく、六氷がエプロン姿(エプロンが非常に似合っている。そこらの新妻顔負けに似合っている)の背後に音もなく立つと、草野がふいに振り返り、焼きあがったキャラメルアップルケーキを手に持った皿に載せたまま歩こうとした。草野と六氷の身長差は大きい。六氷の方が背が高ければ皿ごと草野を受け止められたかもしれないが、生憎六氷の身長は草野よりだいぶ低かったので、草野を受け止めてはやれなかった。
 結果。
「わわっ!?」
「おっ!」
 2人はしりもちをつく形で転んだ。
「ああーーっ!!」
 直後、草野が大声で叫ぶ。その声量に顔を顰めた六氷の目に、無残にも皿から落ちて床に着地したキャラメルアップルケーキの姿が映った。
「ケ、ケーキ、せっかく作ったのに・・・・・ムヒョの誕生日なんだからプレゼントが無理でもせめてケーキぐらいって、ボク、ボク・・・・・・・・・・・」
 草野次郎は、この歳の男子としてはあり得ないほどに涙腺が緩い。嬉しくても哀しくても怒ってもビックリしても、紅茶色の瞳からポロポロと涙を零す。
 だから、当然この時も。
「うっ、うっ、うわ~~んっ!」
 六氷は、立ち上がる前にまず手で耳を押さえた。





 草野は本当にすぐ泣くが、浮上も早い。涙と共に湧き上がる感情を零しているのだろう。ある程度泣くとすっきりするらしいので、六氷はいつも、下手に涙を止めさせようとはせず、自然に泣き止むのを待っている。
 だが、今日はえらく長かった。泣き声のボリュームが落ちても、まだ俯いて涙を流している。
「たかが誕生日じゃねえか・・・・・」
 草野がこんなに泣いている理由は六氷の誕生日ケーキを台無しにしてしまったからに違いないので、叱って泣き止ませるのも気が咎めて、六氷はぽつりと呟いた。六氷はイベント事に興味がないタイプなので、草野がたったこれだけのことで何故ここまで泣かねばならないのか、ちっともわからない。誕生日など、歳を取る境目の日だと言うだけなのに。
「・・・・・・たかが、じゃないよ」
 草野は呟く。泣き疲れたのか小さな声で、でも、声には強い意思が篭っていた。
「あ?」
「たかが、じゃない。ボクにとっては、とっても大切な日だよ」
 てっきり、「ムヒョにとって大切な日でしょう?」とでも言うと思っていたので、不可解に感じた六氷は、眉根を顰めた。六氷と草野の性格はほぼ正反対なので、六氷は時々草野の思考回路についていけない。
 草野は、なおも言葉を紡ぐ。
「・・・・ボクね、今、幸せなんだ。ムヒョの助手に選ばれて、この事務所で一緒に仕事して、暮らして、そういう生活が、ボクの幸せなんだよ」
 まだ俯いてぐすぐすと鼻を啜りながら、それでも草野は語り始める。床にぺたりと座り込んだままの草野を、六氷は藍色の大きな瞳でじっと見つめた。
「あのね、ボクがそういうふうに今幸せなのは、ムヒョが生まれてきてボクと出会って選んでくれたからでしょ?ボクはそれがすごく嬉しいから、『ありがとう』って言いたい。『産まれてきてくれてありがとう』て、伝えたい」
 触れたら甘いに違いない林檎のように赤い唇から、優しい言葉が漏れる。アニメの主題歌が似合う優しい柔らかい声が、六氷の胸に響いた。声は、胸の内側をふわふわと擽りながら、温めていく。
「ムヒョって、本当は優しいのに口が悪いからさ、もしかしたら、誤解しちゃってムヒョのことを嫌ってる人がいるかもしれないね。霊とかで、ムヒョを恨んでる霊もいるかも。でも、でもね、ボクは嬉しいよ。他の誰が何を言ってもどう思ってても、この先何があっても、ボクはすごく嬉しい。だから、『産まれてきてくれてありがとう』、ムヒョ!」
 顔を上げた草野は、目も頬も鼻の頭も真っ赤に染めていたが、もう泣いてはいなかった。しょぼくれた泣き顔ではなく、花が咲いたような明るい笑顔で、まっすぐに六氷を見つめる。
 六氷の胸が詰まった。
 六氷は、自分を恨み闇に堕ちたかつての友のことを草野に隠しているし、言葉がキツくてよく泣かせている。なのに、草野は六氷の存在を肯定して、誕生を言祝ぐのだ。
 何だ、このキレイな生物は。
 六氷は内心で呟く。凍えた身体を急に温めたら痛いような痒いような感覚に見舞われるが、今の六氷が感じているモノは、ソレに少し似ていた。
 草野は、家事能力はともかくとして、知識不足で怖がりで泣き虫で感情的で、助手としては本当に使えない人間だ(素質はあるのだが)。だが、優しい。優しくて、誰よりも六氷を想ってくれる。
 六氷は、折れぬ意志を持ち闇の中を歩むことが出来る強い人間だが、時折悪夢を見た。友が闇に飲まれ、思い出の全てに引っ掻き傷をつけた、アノ日の夢を。だが、草野と共にいる時には、その夢は見ない。草野が持つ日だまりみたいな温かい空気の中では、闇は凝っていられないのだ。哀しみは、光の中に溶けてゆく。
 そして、温かくて優しい善いモノだけが残り、六氷は、また闇の中を歩んでいくための力を得る。
 草野の明るい笑顔が、どんなに抗おうともふとした隙に染み込んでくる闇の冷たさを、溶かすのだ。
「ムヒョ?」
 この場に相応しい表情を浮かべることができないまま立ち尽くす六氷を見て、草野は小首を傾げた。六氷の口は、温かい気持ちをストレートに伝えることが苦手だ。だから、草野の言祝ぎに対して、どう返せばいいのかわからない。だが、草野が分け与えてくれた温かみが嬉しいのだということを、どうしても伝えたかった。
 言葉が出ないのならば、行動すればいい。
 六氷はいきなり床に座り込み、床の上で甘い香りを放つキャラメルアップルケーキに手を伸ばした。そして、全く躊躇せずに手づかみでケーキを食べ始める。
「ム、ムヒョ、何やってるのっ!?止めて!おなか壊しちゃうよ!」
「味はまあまあだな。うるせえゾ、ロージー。床についてねえとこならセーフだろうが」
 慌てふためく草野を気にせず、六氷は、あっという間にキャラメルアップルケーキ(の床に触れてない上半分)を食べ終えてしまった。ケーキは、林檎の酸味とキャラメルの甘味のバランスがちょうどよく、なかなかに美味であった。
 心配性な草野はまだオロオロしている。
 その様がおかしくて、六氷は口角を上げて笑んだ。
「おい、カス助手。もったいねえから、来年は落とすなよ」
 六氷の言葉は、いつもそっけない。その真意を計りかねることもあるわりと鈍感な草野だが、今はちゃんとわかった。ケーキがおいしかったこと、草野が伝えようとした気持ちは受け取ったこと、来年も一緒にいるつもりであること、を理解できた。
 使えない助手だという自覚があるために、日々、解雇に対する不安を感じていた草野は、六氷の言動が嬉しくて、嬉しくて。喜びの臨界点を突破してしまった。
 せっかく止まった涙腺の蛇口をまたも緩め、感極まって六氷に抱きつく。
「ハッピーバースディ、ムヒョ!大好き!」
「・・・・うるせえゾ、ロージー」



 1月23日、明るい陽が差し込む暖かい事務所の中で、ぎゅうぎゅうに抱きしめられて涙で服を濡らされても、天才執行人は助手を振りほどかなかった。
 彼は、気づかれぬようにタンポポ色の髪に唇を寄せて、そっと目を閉じた。

【おしまい】
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