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蜜月の終わり

 鋼の錬金術師。ロイアイ。
 
 意外なほど行儀良い寝姿で、浅い寝息をごくゆっくりと繰り返している。
 あまりにも静かなその寝方を初めて見た時はすでに死亡しているのではないかいう疑惑が拭い去れず、だがその疑惑を確かめる強さも持てずに、このヒトが自然に寝返りを打つまで2時間ほど息を潜めて凝視していて、翌朝寝不足と肩凝りに悩まされた。それ以降はそこまでしなくなったけれど、でもやはり夜中に目覚めて寝息が余りに密やかなのが恐ろしくて、起さないように注意しながら、何度も確かめてしまった。
 けれど今はもう、そんなことはしない。
 このヒトがお嫌いな非現実的かつ非科学的な言い様だが、このヒトが命を失う瞬間が訪れるとしたら、私がそれを感じられないはずが無い。そう思う。私が全ての意味を喪失する瞬間に、平静でいられるはずがない。
 そんなロマンティックでセンチメンタルな奇跡が起こらなくて、私を通り過ぎていったその他の多くの死と同じように、このヒトの死の瞬間を感じ取れなくても、それもまた同じこと。その事実を認識した瞬間に、私の時計は止まる。私は終わる。
 終わってしまえば、どんなことでも全て、『たったそれだけのこと』。
 その瞬間を感じ取ろうが感じられまいが、微睡みの時間がほんの少し延びるかどうかというだけのことで。
 だから、まだ朝が訪れるには早い時刻。静穏な青が世界に満ちて、騒々しい朝の光に駆逐される前の、しばしの間に。
 貴方の頬に触れた理由は、そんなことじゃない。




 『理解・分解・再構成』が錬金術の過程で行われる処理らしいけれど、それならば人が人を再生できない理由は明白だと思う。
 まず、『理解』ができない。人は人を『理解』などできないのだ。本当のところ。
 それは貴方と私でも同じことで。
 貴方を愛する私と、私に愛着を覚えていることをしきりにアピールする貴方との間でも同じことで。
 哀しむことなんかじゃないんですよ。
 と、言ってあげたい気がしたけれど、昨夜、言ってあげることはできなかった。貴方がそんなくだらないことで哀しむ様が、少し見たかったので。
 その奥に焔を秘めて、強い輝きを宿す貴方の瞳に、儚い弱い色が過ぎる瞬間を、私は忌避していて、待ち望んでいる。その刹那、私の胸が毒を含んだ甘い蜜に満たされる。
 胸が塞がれて苦しくて。その甘さに喉が焼けて。息ができなくなって。
 思い知る。
 私が貴方を愛しているという事実を、思い知る。それは苦しいほどに甘く、その毒で確実に私をダメにしていくので、昨夜もまた上手くかわしきれなかった。無様な私。
 その無様さを覆い隠すみたいに、私は朝が来ないうちにこの家を去る。目覚めた貴方の瞳にまたあの色が過ぎったら上手く逃げ切れないかもしれないから、貴方が目覚めないうちに。
 だからちゃんと衣服を身に着けて身支度を整えたというのに、貴方を起してはならないとわかっているのに、眠る貴方の頬に触れてゆっくりと顔を近づけていく。まだ蜜の甘さに焼かれている。毒に痺れている。
 纏めていない髪が貴方の頬に落ちて、唇が重ねられる寸前、カーテンの切れ間から力強い朝の光が差し込んできたから。
 吐息が触れるその距離で、やっと、私は止まることができた。鮮烈な朝の光が、蜜の余韻を追いやる。
 そして、立ち上がった。





 蜜月はもう終わり。
 後は、最期まで走り続けるだけ。
 たったそれだけのことでしかない。


【おわり】

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