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高砂や・玖

 この話、鴆様と良太猫がつらつらと語っているのですが、なぜ本家の妖怪をさしおいてこの面子かというと、べらんめぇ口調が楽しいからです。
 特徴的なしゃべり方をするキャラクターをしゃべらせるの大好きなので、任侠っぽい鴆様の語りを書けて、楽しいったら。


 夜もだいぶ更けてきた頃、奥座敷では、先刻とは逆の問答が始まっていた。
 追加で注文したごま豆腐を突きながら、今度は鴆が良太猫に問いかける。

「そもそも、カナちゃんってのは、どんな娘っ子なんだ?」
「えーと、『どくも』なるモデルさんの仕事をしてて、同い年ぐらいの娘相手の雑誌に、写真が載ってるそうです。だから、可愛い顔してんですよ。それで、人間の中では、リクオ様といっとう仲が良くて、幼馴染だからよく知ってて、今も同じ部活で活動しています」
 いつもはきはきとしゃべる良太猫には珍しく、口調が少したどたどしかった。
 それもそのはず。
 良太猫が家長カナと直接会ったのは一度きり、その上、その時にはほんの少ししかしゃべっていない。賭ける前に、こっそりと、リクオと(つららと)共に下校する姿を観察してみたことはあるが、バレぬようにと遠目でのことだ。彼女の写真が載っている雑誌を購入してみたりもしたが、その程度では、江戸時代から生きている男の妖怪が現代の女子中学生を理解できようはずもない。
 だから、良太猫は、実はあんまり、家長カナに詳しくないのだ。
「なるほど。じゃあ、その子が奴良家に嫁に来ようとしたら、その『どくも』だか『もでる』だかいう仕事を辞めねぇといけなくなるな。妖怪任侠の奥方が雑誌やらに顔を晒してちゃ具合が悪ぃし、そもそも、そんな暇ねえだろうしな」
「そう、ですね。そうなりますね」
 良太猫は、人間の新聞も読むしテレビだって見るので、妖怪任侠の世界では人間界に詳しい方である。だからこそ、今の人間の夫婦は男女共働きが主流で、多くの女子が、結婚後も仕事を続けるつもりだということを、知っている。
 加えて、『どくも』はそうそう誰でも就ける職ではないし、数年後に本職のモデルになっていたなら、バイタリティに溢れ自由を好む夢多き現代女性としては、辞めたくないと思うかもしれぬ、ということにも思い至った。
 だが、相手がそこらの半端者ならばともかく、リクオは、若いながらも大親分であれだけの色男。あのリクオに妻にと望まれて断る娘がいるとは、良太猫には考え辛いので、この点は問題にならぬだろう、と受け流すことにした。
 しかし、鴆の追及は、まだ続く。
「リクオのことよく知ってるって言っても、リクオは人間の友達に話してねえこと、多いぜ。むしろ、今、人間の中で一番リクオのことわかってんのは、あの陰陽師の小娘だろうよ。嫁にもらうぐらいなら、隠してたことも話すだろうが、伝えるにも限界があらぁな。・・・・例えば、晴明のヤバさ、そんな奴と戦うと決めたリクオの覚悟の重さなんかは、あの場でアレを見たか見てねえかで、印象が違ってきちまうだろうな」
「・・・・・・そんなにヤバかったんで?」
 良太猫は、京都での戦いに参加していない。それは武闘派ではない自分の役割じゃないと、行かぬと決めた時の判断を悔いるつもりはないが、同じく武闘派ではないはずの鴆にこう言われては、少し焦る。
 焦燥を覚えた良太猫がじっと見つめると、鴆は、天井を仰いだ。硝子細工の桜が反射する光がちらちら揺れるのを見ながら、ゆっくりと呟く。
「ああ、・・・・・そりゃあもう。とびきりに。土蜘蛛も羽衣狐も初代も二代目も、大妖よな。けどよ、晴明ってのはその域を超えてやがって、・・・・とびきりの荒御魂、それこそ八岐大蛇なぞに例えたいほどだ。まぁ、アレは、神々しさの欠片もなくて、ただただ禍々しいだけだったけどよ」
「それは・・・・・」
 この日の本の国には、八百万の神々がおられるそうな。実際、奴良組の傘下には、土地神も多い。
 けれど、鴆が口にしたのは、地脈が齎す恩恵と人々の信仰心を支えに存続する慎ましい土地神とは比べものにならない、神代の時代の荒ぶる神の名。
 良太猫は、天を裂き地を轟かせる畏れ多い邪神に例えられて初めて、リクオの敵の強大さを理解できた気がした。ふさふさの毛が生えた猫耳が、ふるり、と震える。
 畏まってしまった良太猫を見て、鴆は、話題の軌道修正を図ろうとした。良太猫には、奴良組傘下の組長としてリクオの敵を理解してもらう必要があるが、今宵の酒宴の目的は、ソレではないのだ。
 鴆は、良太猫の猪口に酒を注ぎながら、明るい声を出す。
「それに、そのカナちゃんは人間で、陰陽師とかじゃねえんだから、出入りにはついていけねえよな。じゃあ、どんなに心配だろうが、黙って見送って、愛しい男の無事を信じて、帰りを待つしかねぇわけだ。若菜様は人間だが、そりゃあもう、肝が据わっていなさる。旦那どころか元服前の息子の出入りでも、うろたえた様子なんぞ見せずに、いつもどっしり構えてらしたぜ。あんまり気づいてる奴はいねぇみてえだが、並の胆力じゃあああはいかねぇよ。そのカナちゃんとやらは、若菜様と同じことができんのかね?」
「・・・・・・い、いやでも、あの娘はまだ若いですから!今後どういうふうに成長するかは、わかんねえわけですし!」
 良太猫は、案外あっさりと、鴆の話題に食いついてきた。たぶん、彼は、こういう話の方が好きなのだろう。
「そりゃあそうだな。でも、家事はできるように育ってもらわねえと、困るぞ。奴良家では、総大将の奥方が家事を取り仕切るのが慣例だからな。今時の娘っ子には、米も研げねえのがいるって聞いたことあるが、そんなんじゃあ困るぜ」
「いやいや、米ぐらいは炊けますよ、きっと。あ、でも、炊飯器使うやり方しか知らねえなら、釜では無理かも。いやいやいや、そん時は、教えてもらって覚えればいいんですよ!」
「そうだな。何でも一から十まで知ってて出来る奴なんていねえし、家々にやり方があるしな。全くできねえじゃさすがに困るが、ある程度できんなら、嫁に来てから覚えてもいいことだろうよ」
「ええ」
 鴆は、自身で先程言ったように、生粋の医者である。
 なので、怪我で気が立った荒くれ者の妖怪を宥めて、医者の言う事を聞かせる方法もよーく知っている。
 誰でも、己の話を否定ばかりされると気分がよくないものだ。だから、一度、肯定してやる。『お前の言うのももっともだ。わかるわかる』と認めた後で、『でも、オレにはちょいと気になることがあるんだが』なぞと言いだして、己のペースに持って行ってしまえばいいのだ。
 培ったその話術は、今宵も発揮された。
「けどよ、奥方の仕事は料理拵えるだけじゃねえぞ?総会の時に幹部に出す飯は、季節季節で趣向を凝らした献立になってるが、献立を組み立てんのも、奥方の仕事だ。旬の食い物と物語の一節や和歌なんかをうまいこと組み合わせて、洒落た膳が設えてあると、幹部も感心する。それにゃあ、教養もセンスも必要だな。もちろん、そんなのも、教えてもらって、覚えて、磨いていきゃあいいんだろうが、素地の知識がどんぐらいあるかで、物になるまでの時間は違ってくんだろうなあ」
「・・・・まあ、若菜様もまだお若いから、すぐにその娘が仕切らなくていいわけですし、習って、おいおい身につけていけば何とかなるんじゃないかと」
「その子、着付けぐらいはできんだろうな?普段は洋装でもかまわねぇが、総会の日なんかは、ぴしっと決めてくれねぇと困るぜ。というか、自分の分だけじゃなくて、奥方なんだから、リクオの世話を焼いてもらわねえとな。あいつ、あれで洒落者だから、羽裏を面白ぇ柄にして、根付とか合わせたりしてるぜ。こないだは、あられ小紋の着流しに、八掛けは紅、羽裏を梅、根付を雪輪で合わせて、『雪の下紅梅』とか言ってたっけな」
「・・・・そりゃあ、粋ですね」
「あとよ、リクオの好みっつったら、着る物だけじゃなくて、色だとか味付けだとか、そういうのもあるよな?リクオは我慢強いし、惚れた女に恥をかかせるような男じゃねえから、みそ汁の味だの羽織紐だのが己の趣味と違っても、文句なんぞ言うまいよ。なぁ良太猫、気ぃ使って、そういうの言わなさそうだよな、あいつ?けどよぅ、そんな奴だからこそ、自分ちぐらい好きなように過ごさせてやりてぇよな」
 良太猫の眉が、きゅうっと寄った。
 良太猫はこれまで、こんな賭けの胴元をしていながら、リクオの嫁になるというのが如何なることなのかは、考えたことがなかった。
 だがしかし、全てが鴆の言う通りで、リクオの嫁とは、『奴良組の姐さん』ということだ。奴良組傘下の己も、姐さんには、組を愛し、天下の奴良組を背負って立つ男を支えて欲しいと思う。リクオの百鬼が皆、そう期待するだろう。
 リクオの嫁になる女は、その期待に応えてゆかねばならないのだ。
 家長カナは、なるほど、可愛くて面倒見もよくて、今時の娘にしては良い娘なのだろう。しかし、奴良組の姐さんに相応しいかと言えば・・・・・・・・
「そういや、オレ、リクオからその娘の話を聞いたことがあるぜ」
「な、なんておっしゃってました?」
 いつの間にか俯いてしまっていた良太猫は、鴆が振った話題に飛びついた。
 またしても追加で注文した蟹の味噌汁を啜りながら、鴆は告げる。
「怖がりな子だ、て言ってた。何とか団の活動の時も、いつも人一倍怯えてる、て。妖怪任侠総大将の妻が、それじゃ困るな。つぅか、可哀想だろう」
「そ、それも慣れますって!」
 良太猫の声に焦りがあるのは、自分でも『そりゃあ困るだろうな』と思ってしまったからだ。
 奴良屋敷の妖怪密度は高い。大物から小物まで各種取り揃っているし、至る所をうろうろしている。
 怯えてもらうのは妖怪冥利に尽きるというものだが、嫁に来た女としては、自宅なのに全く寛げないことになってしまうし、妖怪たちとしても、余所者なら兎も角、当家の奥方様に毎度毎度そんなに怯えられては困ってしまうだろう。
「ああ、慣れてもらわなくちゃ困る。旦那の出入りの最中に家を守れんようじゃ、極道の妻は務まらねえ。そうしなくちゃならねえと思ったら、戦う力がなくとも、強面の貸元連中を相手にして、ちゃんと意見できるようでなくちゃ、な。初代の奥方は公家の姫君だったが、祝言で喧嘩始めた奴らを叱りつけたらしいぜ」
「それはまあ、今後の成長に期待するといいますか・・・・」
 初代ぬらりひょんの妻 珱姫は、やんごとなき姫君であったが、たおやかな容貌からは意外なほどに、肝が据わっているところがあった。珱姫山の大噴火には、魑魅魍魎の主もたじたじで敵わなかったとか。
 かの大妖羽衣狐に生き胆を狙われ浚われた時も、恐怖で泣き叫ぶ醜態など晒さなかったそうだから、姫君といえど乱世の女は強し、というべきか。
 それとも、珱姫は、さすがぬらりひょんの心を捕らえただけのことはある、器のでかい女だったのかも知れぬ。
 良太猫は、怖がりの少女がその域に至れるかどうか、己で言いながらも難しい気がしていた。



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