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高砂や・陸

 鴆様のリクつら語りは、まだまだ続きます。
 その六。



 なんとなく沈黙が下りて、手持無沙汰になった鴆が、やっと、用意された酒肴にいくらか手をつけた頃、ぼんやりと盃を見つめていた良太猫が、ぽつりと呟いた。

「・・・・リクオ様が助けに行った時は、どうだったんですか?」
「それだ。オレは、その時のことがすげぇ気になってる」
 箸を置いた鴆がぐっと身を乗り出したので、良太猫も顔を上げる。
「と、おっしゃいますと?」
「オレらが扉を蹴破った時、何があったのか知らんが、雪女は縄を切られて下ろされていた。だがまぁ、縛られてなくとも、土蜘蛛からは逃げられねぇよな。だがしかし、あの雪女は、それで怯えて隅で泣いてる奴じゃあねぇ。オレらが見た時、あいつの手には、氷の薙刀があった」
「おお、勇ましいですね」
「あぁ、オレもそう思った。その時には、な。だが、後で思い返してみると、些か変なことに気づいたんだ。・・・・薙刀の刃の向きが、変だった」
 鴆は、卓上の蟹スプーンを手にとって、再現とばかりに構えてみせる。病弱故に前線に立つことは少ないが、鴆とて任侠の男、その手付きに危うげな様子はない。
「あれ?」
 しかし、持ち方などわかっているはずの鴆の構え方が変なので、良太猫は小首を傾げた。
 肩先に持ちあげられた蟹スプーンの先端は、対面ではなく持ち主の鴆の方に向けられていた。これでは・・・
「ああ、わかるだろ?これじゃあ、斬れるのは土蜘蛛じゃなくて自分だ。あの女はおっちょこちょいだが、さすがにそんな間違いは犯すめぇよ。となれば、これはわざとだ。あいつは、自分を斬ろうとしてた・・・・推測だが、な」
「ど、どうしてそんなことを?」
 良太猫は、わけがわからなくて眉を顰める。医師という職務上の性質で周囲への観察眼が確かな鴆の言うことだが、いつも明るく一生懸命なつららに自傷趣味があるとは思えなかった。
「さぁな、さすがのオレも面と向かって聞けてねぇから、わかんねえが、考えてみることはできる。あの、リクオ大事の、己の傷より何よりリクオを案じる女が、自分が人質にされたせいでリクオが土蜘蛛とまた戦わなくちゃならねぇ、と思ったら、どう思うだろうな?あの雪女は、リクオの性格はよく知ってる。己の下僕を、それも一の側近を見捨てる男じゃねぇんだから、助けに来ちまうことは予測できるはずだ。だったら、あの女なら、人質の自分を足手纏いだと許せなくなるかもしれねぇ、な」
「そんな、いくらなんでも・・・・・」
 そう言いつつも、良太猫は、あり得るやも知れぬ、と内心で思っていた。
 化猫屋は奴良組に贔屓にされていて、つららも側近仲間と共によく店を訪れてくれていた。リクオがまだ幼い頃から。
 良太猫は、リクオの側近たちとは親しくて同席することもあるので知っているのだが、彼らの話題は、最初に何を話していたとしても、最後にはいつだって、リクオのことになる。その時に、つららが『リクオ様を未来永劫お守りします』と言ったのを、何度も聞いた覚えがある。
 置行掘が物を置いていかせる特殊能力を持つように、雪女の『約束』にもただの言霊以上の拘束力がある。雪女は、『約束』を破らない妖なのだ。
 そして、つららが、理由は母性なのか家族愛なのか忠誠心なのか恋心なのか、それともそれらの全てなのかは知らないが、リクオに身命を捧げていることは、明らか。
 ならば、その時、つららは、己が己に課した『約束』を果たそうとしたのかもしれない・・・・・
「まあ、な。ただの推測だ。だけど、助けに来たリクオに、あの雪女が最初に言った台詞は、『何で来たんですか!』だったぜ。恐ろしい土蜘蛛から助けてもらえて嬉しいって顔じゃなくて、土蜘蛛と対峙しようとするリクオの身を心底案じた顔で、な。だから、そういうことじゃねぇのかい?」
「・・・・見上げた忠誠心、ですね。いや、だからこそ側近頭ってなことなのかもしれませんが」
「・・・・だな。その後も雪女は頑張ってた。土蜘蛛は小山のようにでっかくて、圧倒的に強くて恐ろしい。なのに、あの雪女は、リクオがわざわざ助けに来たってのに、それを制して前に出たんだぜ。オレはちょっと驚いた。土蜘蛛は傷だらけになるまで痛めつけられた相手だ、怖くねぇはずあるか。なのによぉ。あんなに震えて、それでも、『お下がりください!私がお守りします!』と来たもんだ。勇ましいねぇ」
 鴆は、どこか満足げに笑んだ。
 良太猫の脳裏に、その情景が浮かぶ。
 暗雲渦巻く京都の古刹で対峙するは、小山の如き巨漢の禍々しき異形と、目元涼やかなる美丈夫。そして、男を庇わんとして、健気にも、震える足で前に進み出た乙女。
 これが芝居の一幕ならば、観客は、乙女のいじらしさに胸を突かれるシーンだ。ならば、庇われた当の本人であるリクオが、何も思わなかったはずはないだろう。
「そりゃあ、また・・・・なよやかな女の身で、そこまでされちゃあねぇ・・・・」




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