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高砂や・伍

 鴆様のリクつら語り、その5。

 スパコミは銀魂スペースですが、ぬら孫本も出そうかな。
 このシリーズのアナザーバージョンで、同じ話題を同時刻、奴良屋敷でリクつらが語ってる、というやつを。




 今宵の化猫屋の奥座敷は、料理は一向に減らないのに、しゃべり続ける喉を湿らせる為の酒ばかりが消費されていく。
 良太猫が酌をした盃を干して、鴆は話を続けた。

「という塩梅なもんだから、合流した時はちょっとした見物だった」
「えーと、確か、伏目稲荷で戦って、陰陽師が京妖怪を封印した後ですよね?」
「おぅ、よく覚えてるな、良太猫。そうだ。あの時、何とか団の護衛をしてたはずの雪女は、何でか知らねぇが、陰陽師娘と一緒に空飛ぶ牛車の式神に乗って現れたんだ」
「へ~、妖怪なら朧車ってとこですが、陰陽師にはそんな式神もあるんですねぇ」
「ああ。でも式神だからな、朧車と違って術で動いてる。だから、術者が『消えろ』って命じちまったら、空中だろうがぱっと姿を消しちまうんだ。それで、雪女は空中に投げだされた」
「えっ、大丈夫だったんですかぃ?」
「おいおい、相手は雪女だぜ。吹雪を巻き起こし、吹雪に乗って現れる妖怪だ。多少の高さならなんてこたねぇよ」
「あー、そりゃそうですよね」
 良太猫は、驚いてしまった自分を恥じて、頭を掻いた。普段のつららがドジっ娘なのでつい心配になってしまったのだが、先代の雪麗が初代総大将の側近だったことでもわかるように、雪女は、結構格が高い妖怪だ。つららは母よりは未熟だが、それでも、純粋な戦闘能力は良太猫より高いと言えるだろう。
「おぅ、そうだ。だが、リクオは焦った」
「へ?」
「確かあの時、京の封印に関する重大な話をしてたはずなんだが、リクオは、雪女の姿が見えた途端、他のこみーんな頭から飛んじまったみてぇで、あげく、雪女は妖怪だから大丈夫なはずなのに、落ちるのを受け止めようと焦って駆け出してたぜ。その腕の中に、空中で人間への変化を解いていつもの恰好に戻った雪女が、危なげなく降りてきたんだが、この時にリクオが言った台詞も、「大丈夫か?」だった。いやいや、待てリクオ、宝船が撃沈しそうになったり、伏目稲荷で戦いがあったりで、大丈夫じゃなかったのはオレらの方じゃねぇのか?」
「・・・・・・・」
 良太猫は、ちょっと、何も言えなかった。
 つららはいつだってリクオにメロメロで大甘だが、リクオも相当つららに甘い。化猫屋に飲みに来た他の側近が語るのを聞いていると、ドジなつららがいくら失態を犯しても、リクオが怒ることはほとんどないという。それどころか、逆に、熱に弱い雪女の身を気遣って、熱い物に触れぬように守ってやっているとか。真夏などは、どちらがどちらの護衛なのかわからぬ有様だそうだ。
 ちなみに、側近の1人に対するそんな寵愛は、他家ならば問題になりそうなものだ。だが、つららは側近連中の中で1人ひどく若く、他の側近たちは年若いつららを妹のように可愛がっていることもあるし、主であるリクオが、ごく幼少のそれこそ物心つく前からつららが1番お気に入りなのを見ているので、問題にはなっていない。
 それどころか、いっそ、微笑ましいとさえ思われている。
「さて、再会出来て喜んでたのは、リクオだけじゃねぇ。もちろん、雪女は数日ぶりに愛しい主に会えて、大喜びだ。視界には、でっけぇ封印の礎も、陰陽師連中も、オレらも入ってるはずだが、まったく気づかずにリクオまっしぐら状態だ。首無がちょっと諌めたぐらいに、な。首無に諌められて、雪女は自分の任を思い出し、近況報告をしたんだが・・・・これがなぁ、ちょっとアレなのよ」
「アレ、とは?」
「あのな、『いつでもつららはリクオ様の味方ですよ』なーんて書いてある文は、『報告書』とは言わねぇだろ?オレに言わせりゃ、そりゃあ『恋文』だ。そうじゃねぇか?」
「そうですねぇ。確かに、部下からの『報告書』にそんなん書いてあったら、オレも困っちまいますね」
 良太猫は苦笑した。化猫組は他の組に比べればだいぶフランクな気風だが、任侠なのだから、それでも上下の別はちゃんとしている。お祭り好きで洒落が利く部下の猫又たちも、案外そこいらへんはわきまえていた。
「だろ?オレでも困る。でもな、リクオは困らなかった」
「え?」
「それどころか、さっきも言ったけど、重大事であるはずの京の封印の話とかすっかり頭にない様子で、つららが渡した何通もの文を、全部読んでたぜ、あいつ。オレらが傍にいたことも、たぶん忘れてたな、ありゃ。だから、リクオが全部読み終わるまで、オレらは、なんとも言えねぇ気分を味わったぜ・・・・・」
 言って、鴆は微妙な苦笑を浮かべた。
「それは・・・・」
 妖怪は本来気ままなもの。妖怪たちの畏を集める主がいるからこそ、百鬼夜行は成り立つ。百鬼にとっての主は、何より重要だ。
 だからこそ、リクオの百鬼は、主の求めに応じて400年の因縁を断ち切るべく京へ攻め入ったのだ。
 しかし、主大事だからこそ、戦況に大きく関わる重要な情報の説明そっちのけで、主が、久方ぶり(といってもほんの数日)に再会した女にかまけて『恋文』を読み耽っていたら、そりゃあまあ困ったことだろう。
 主に忘れられた下僕たちは、今の鴆みたいな微妙な表情で、目線を交わしていたに違いない。
 『うちの大将大丈夫かな?』、と。
 良太猫は、ちょっと、これまでただ凛々しさに見惚れてしかいなかった主の、新たな一面を知ってしまった気分になった。
「この手紙の話には、実は続きがある。この後、土蜘蛛に襲われて、オレらは、特に大将のリクオはひどく叩きのめされた。そん時に雪女が浚われちまって、リクオの修業が始まるんだが、この修業中のことだ」
 空になっていた良太猫の盃に酌をしてやりながら、苦笑を拭った鴆は話を続けた。今度は、真顔で。
「オレはあいつの手伝いで修業についてったんだが、夜な、寝てるはずのリクオの布団からなんか音がしたのよ。土蜘蛛に叩きのめされた直後に修業で、リクオがいっくら丈夫とは限界があらぁよ。だから寝てるはずなのに、リクオの布団から、ガサゴソ聞こえてきた。オレは寝てたんだがその音で目が覚めてな、こっそりそっち見てみたら、リクオが、血で汚れてボロボロになった紙を広げてんだよ。ちょっとでも長く寝て体力を回復するべきなのによ、起きだして、灯りをつけはせずに、窓から差してくる月明りを頼りにして、読んでんだ。ボロボロになった、雪女の『恋文』を、な」
「・・・・・・・」
 今度は違う意味で、良太猫は言葉を失った
「何通かあるって言っても、そんな長ぇ文じゃねぇから、すぐに読み終わるさ。それを何度も何度も読んでな、最後に文を抱きしめて呟いたんだ。『つらら・・・』、てよぉ。オレはもう、掛ける言葉がなくってよ。ずっと寝たふりしてたさ。義兄弟なのに情けねぇことだけどな」
 その時の情景を思い出して、鴆は片手で目元を覆う。
 あれは、本当に切ない光景だった。
 歳に似合わず見る者の心を蕩かす麗姿を誇る夜姿のリクオが、常ならば漂々と振舞う彼が、傷つき疲れ果てた姿で、焦がれるような声で雪女の名を呼ぶのだ。
 リクオにしてみれば、生まれて初めてこんなに長く離れて(といっても数日間なのだが)、やっと再会して、なのにすぐ浚われてしまったという状況。しかも、浚われたのは目の前で、雪女は自分を守ろうとして傷だらけだったとなれば、心揺さぶられぬはずがない。
「・・・・あのなぁ、リクオが土蜘蛛にめちゃくちゃに殴りつけられて、誰もが死んだかと思った時に、雪女は、あの、小柄で華奢い女はな、見上げる巨漢の土蜘蛛に怯まずに向かってったんだよ。てめぇの命の心配なんざ一切なくて、ただただ愛しい主の仇を討たんと怒りに突き動かされて、な。けど、災厄とすら呼ばれる土蜘蛛に、か弱い女怪の力が通じるわけがねぇ。あっさり張り飛ばされて傷ついた雪女の目に映ったのは、かろうじて猛攻を凌いで、傷つきながらも立ち上がったリクオの姿。そん時になぁ、あの女、笑顔になったんだよ」
「・・・・笑顔?」
「ああ、傷ついて、血を流して、さぞかし身体が痛むだろうに、リクオの顔を見て、己の傷なんかどうでもいい、リクオが生きててくれたのがただただ嬉しい、て嬉し涙まで流してたぜ。意識を失う前の刹那に、な。そんなにまで自分を思ってくれる女を、目の前で浚われたらよぉ、男としてどんな気持ちがするもんか・・・・。ああ、修業が終って助けに行けた時、雪女が無事で、縛られて吊るされて多少弱っちゃいたが、不必要に嬲られてたりすることがなくて、・・・・・本当に良かったぜ」
 深い安堵が滲む鴆の声を聞きながら、良太猫は、満たされた盃を干すこともせずに、じっと水面を見つめていた。
 水面に映るは、煌々しくも儚く繊細な、薄紅の桜。 



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