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be disqualified

 鋼の錬金術師。ロイアイ+ハボ。

 射撃場で訓練を終えて司令室に帰る途中、廊下の角から駆けてきた女性がオレの腕にぶつかってきた。咄嗟のことで対応できずにいると、彼女はそのまま何も言わずに駆けていってしまった。涙でぐちゃぐちゃになった顔で。
 スカートタイプの軍服を着ていたのでこの東方司令部の事務職の女性なのだろうと思ったが、顔見知りですらない泣いている女性に掛ける言葉など思いつかない。そもそも、通りすがりの男が何か言う資格があるのかどうかすらわからない。駆け抜けた背中が階段の向こうに消えていくのをぼんやりと見送ってから、また歩き出した。
 どこかすっきりしないが、どうすればよかったのかはわからない。
 オレは、どっかの錬金術師ほど女性に対して器用じゃないんでね。親切にしたいという気持ちがあっても、今みたいに突然だと上手く対処できない。
 あー、ここらへんが大佐よりモテない理由かね、なんて声に出さず呟いて咥えているタバコを噛み締めたら。
「お、ハボック少尉」
 廊下の角を曲がってすぐにその大佐がいたので驚いた。とても。
「大佐?・・・・・・てことは」
 童顔の大佐の頬が叩かれたみたいに赤くなっていて、大佐のいた方向から駆けてきた女性の眼には涙。
 てことは。
「・・・・・上官には、勤務時間中くらい真面目に仕事してるフリして欲しいっすね」
 また職場の女性に手を出していたわけだ、このチャランポランでスーダラな女好きの上官は。
 オレは、咥えていたタバコを噛み締めた。
 大佐はオレの直属の上官で、若くして大佐の地位を得た逸材で、カリスマっつうかなんつうか人を惹きつけるところがあって、(そう見えないかもしれないが)オレだってこの人に惚れこんでるところがある。着いて行きたい、と思わせるモノがあるわけだ。ま、こうやって女癖の悪さとか披露されると、そんな気持ちも儚く消えそうになるけど。
 つーかね、オレよりずっと高給取りなんだから、給料に見合った仕事してくださいや。女に手出して頬張られて泣かれて逃げられてないで。
「無礼な。私はちゃんと真面目に仕事をしているフリをしていたさ。だが、彼女が」
 大佐は憮然とした面持ちだ。赤くなっている頬が痛むのかもしれない。そうだとしても、ちっとも同情する気にはなれないが。
「さっきの泣いてた女性が?」
 大佐は大層おモテになる方で、来る者を選別して去る者は追わない主義者だ。真偽を確かめたことはないが、常に複数の彼女がいて、どの女性とも割り切った交際をしているとか。
 だから、別れ話でもしたにせよ、あんなふうに女性を泣かせているのを、オレは初めて見た。
「何度かデートはしたんだが、どうやら何かを誤解していたらしく、廊下でばったり会った私に向かって『結婚』がどーとかこーとか言ってきたので、『私は君と結婚する気はこれっぽっちもないが?』と言ったら、バチーン!だ」
「・・・お気の毒に」
 オレは、さっきぶつかってきた女性に心底同情する。彼女がこのろくでなしなんかと関わってしまったことについて、の同情。将来を見据えた誠実な交際を望んでいるならば、こんな男を相手に選んではならない。
 部下としてみるならば、波乱に満ちた人生に付き合うのが面白いと思える限り着いて行きたい相手だと言えるが、誠実で堅実な『結婚』を望む女性の基準からすると、この男は人間のクズ一歩手前だろう。
 こういうのは、善悪ではなく、要するに需要と供給の問題だが。
「ああ、まったくだ。もうちょっと割り切れている女性だと思っていたのに。私もまだまだ修行が足らないということかな」
 大げさに肩を落とす大佐は、でも別に嘆いているふうでもなかった。別れた直後にコレだから、さっきの彼女に対して執着がないってことだろう。この人は、執着している対象に対しては独占欲が強いから。
「や、あんたは気の毒じゃないっす。自業自得。つか、殴られてもまだ懲りずに『修行』を積む気ですか?もーいい加減身を固めたらどーです?縁談とかいっぱい来てんでしょうに」
 大佐はまったく気にしていないようだが、オレはさっき見てしまった涙が、ちょっとキテる。この人の恋愛ゲームに巻き込まれてあんなふうに泣く女性をこれ以上増やさないために、僅かながら尽力してみようかという気になるくらいには。過去にいいなと思ってた娘を取られた恨みもあるわけだし。
 もっとも、この男が結婚したとしても、妻一筋になるとは思えないけど。まあでも、今ほど大っぴらにはしなくなって、規模も狭まるだろう。
「縁談は確かにあるが、気が乗らないな。私の妻になる資格を有した女性はそうそういないよ」
「女遊びが酷くて嫁選びの条件の厳しい男・・・・・・えーと、殴っていいっすか?」
 ぬけぬけとそんなふうに言ってくる女たらしがひどく憎たらしいのは、オレのせいではあるまい。そして、この男を殴りたい衝動に駆られるのもオレのせいではあるまい。世の中のほとんどの男は、オレの気持ちを理解してくれると思う。
「ダメだ。お前なぞにはわからんだろうが、私もこれで苦労をしているのだ。それに、条件はたった一つだぞ」
 大佐は何故か無意味に尊大な態度を取った。その偉そうな声と口調は、年齢からするとビックリするくらいに非常にお似合いで、非常にムカつく。
「へー、どんな条件なんすか?」
 美人で馴れててうっとおしくなくて割り切れててセンスがいいってのが、この大佐の『彼女』の条件だとは知ってる。なのに、『妻』の条件は一つ?
「【屍の隣で私とsexできる女】だ。単純且つ明快だろう?先程の彼女はこの条件を満たせないと思ったから、はっきりと『結婚』できないと宣告した」
 さりげない口調で、あくまでもさりげなく言ったから、本当に大した意図は無いんだろう。それはこの人にとってごくごく当たり前の認識で。
 だからこそ。
「・・・・・・・・・・・・・・あんた、最低」




「あー、中尉、つかぬことを窺ってもいいっすか?」
 ガサゴソと紙束が煩いので、オレはちょっとデカめの声を出した。
 ここは資料室。今は楽しい残業時間。
 先日秘密裏に中央へ移送した軍機密窃盗容疑者の経歴についての詳しい資料提出要請が来たのが、ちょうど定時が過ぎてすぐ。なのに明日の朝一が期限になってるから、こりゃー中央から大佐への嫌がらせだな、よし大佐にやってもらおうこの仕事、と思って執務室の扉をノックしたら、大佐はいなかった。もう帰った後だった(素早い。またデートだな、こんちくしょう)。
 代わりに部屋に居たのは、書類を纏めてこれから各部署に提出しようとしている中尉。
 かくて、中尉とオレは嫌がらせのとばっちりを受けて残業中なわけだ。
「どうしたの、ハボック少尉?ちなみに、それの続きは右から二段目の棚に入っているはずよ」
 有能な彼女は、紙を捲る手を止めないまま返事をした上に、オレが探していた資料のある場所を教えてくれた。
 さすがだ、中尉。
 この容疑者が何考えてんのか引越しと転職を繰り返してて、オレたちの作業はまだまだ終わりそうもない。つか、オレ一人だったら仮眠を取れるかどうかも怪しかったろう。
 日頃から感じている中尉の有り難味をますます強く感じる。
 あーもーまったく、あんたはこの東方司令部の女神ですよ(その厳しさも含めて)。
「あ、ありがとうございます。じゃなくて、質問してもいいっすか?」
 スムーズな人間関係はコミュニケーションから、コミュニケーションは会話から。紙だらけの部屋でたいして重要じゃないってわかってるけどやらなくちゃいけない煩雑な作業を、無言で続けてるのは(オレが)退屈だ。ので、話を続けてみる。
「私で答えられることなら」
 中尉もこの作業の重要度と煩雑さを承知してるから、会話する気はあるらしい。そうでもして気を紛らわさないとやってられない作業だしな。
「・・・・・・・・・あのう、中尉は【屍の隣でsex】できますか?」
 ガサゴソいう音の中に響いた、恐る恐るといった感じのオレの声。
 しばし、降りる沈黙。ガサゴソ音も止む。
 紙だらけのこの部屋は火気厳禁なんで、ヘビースモーカーなオレもタバコは咥えてない。ので口が寂しくて会話をしようとしたら、昼過ぎの大佐の発言を思い出して、ただそれだけなんです、と弁明しようと思ったら、・・・・・舌が凍った。
顎の下に何やら冷たくて硬い感触。
 しなやかで俊敏な動きで間合いに入った中尉が、オレの顎下に銃口を突きつけてた。
「私から最期の質問をするわ。墓にはなんて刻む?」
 声は平静そのもの。でも、雰囲気は厳しい。オレの背中を冷たい汗が伝う。
 いつの間に抜いたんすか、ンな物騒な代物。オレ、マジに見えませんでしたよ?
「あー、その、ゴメンなさい。他意はないんす、ホントに」
 できるだけ銃口から遠ざかりたくて、必死で顎を逸らしながら謝るオレ。こんな死に方は嫌だが、中尉の雰囲気が冗談にしては剣呑過ぎる・・・・・・
 えーと、オレの方がタッパがあって腕力がある分接近戦では有利なはずだから、中尉の銃を右手で逸らしつつ身を退いて左手で・・・・、あっダメだ!中尉の左手が空いてるから上着の内側に仕込んでるナイフで応戦されちまう。じゃあ、えーと、えーと、・・・・・・・
「女性の上官相手のセクシュアルハラスメントで訴訟になったら、あなたは確実に失脚するわよ。代わりの人材を見つけてくる手間を私に掛けさせないで」
 中尉が銃をしまってくれました。ジャン・ハボックは命拾いをしました。
・・・・ああこれで、明日の朝日が拝めるぜ。
「すみません」
 額に浮かんだ汗を拭ってから、頭を下げて謝った。はい、さっきのはセクハラ発言でした。すみません。もうしません。
「で、なんであなたがそんなことを言い出すのかしら、ハボック少尉?」
 怯えながら中尉の顔を窺ってみると、もういつもの表情だった。慣れてない奴には無表情だと不評だけど、付き合いの長いオレから見たら、微妙な変化で感情の動きが読み取れる(気がする)。とりあえず今は、もう怒っていないことはわかる。
「えーと、昼に大佐と話しててそんな話が出たからです、ホークアイ中尉。あの人が、私の結婚相手は【屍の隣で私とsexできる女】だ、て言うからそれって女性からするとどーなのかな、と」
 オレの発言を聞いた中尉は、ため息を吐いた。
 ごく個人的に中尉のため息は色っぽいと思ってるので、ため息を吐かれるのは嫌じゃない。それに、ため息を吐かせてるのはオレじゃないし。
「あのヒトは・・・・・・・。私から後で叱っておくわ。でも少尉、あなたもあなたよ。異性の上官にそんな質問をするものじゃないわ」
「すんません。以降気をつけます」
 もう一度お叱りを受けて、もう一度謝る。
 そしたら、中尉が目元をちょっと柔らかくした。コレでお説教は終わり、の合図。
 あーよかった命が繋がって、と安堵してたら、思ってもみなかった方向からパンチが来た。
「よろしい。では、ジャン、あなたはできるの?」
「は?」
 ぐっと親密な口調でそう言ってくる中尉・・・・・いや、リザ先輩。
 士官学校で知り合った時、ハボック少尉とホークアイ中尉はただの『ジャン』と『リザ先輩』だった。今でもたまに、2人で飲みに行く時なんかにこの呼び方を使う。戯れで。
 全然重要じゃない上に煩雑な仕事とはいえ今は仕事中で、こんな時間に誰がやってくるわけもない資料室とはいえここは職場。なのに、あんたがそんなふうに言ってくるなんて珍しい。
「あなたは、【屍の隣でsex】できるの?」
 珍しいけど、悪い気はしないので、オレも乗る。
「リ、リザ先輩、そーきますか。えーと、そーっすねえ、・・・・・・う~ん。正直言うとあんま自信ないっすね。よっぽど追い込まれてても、せめてもうちょっとマシな場所がいいですよ、俺は」
 『常識的な意見』を言ってみる。オレもアノ最悪の殲滅戦に参加してて、殲滅戦の間に女買って抱いた覚えもあるし、抱いた場所も壁一枚隔てて死体がごろごろ転がってるような場所だったけど、それでもまあ一応言ってみる。
 嘘じゃないし。
「あなたらしいわ」
 オレを見てるリザ先輩は、オレのやってたことなど大体承知で、でも『常識的な意見』を言うのを赦してくれる。嘘じゃない、多少願望を交えた『常識的な意見』を口に出す資格を、オレに認めてくれる。
 ホントに、女神みたいに。
「で、リザ先輩はどーなんすか?できるんすか?」
 さっきの質問と趣旨は同じだけど、これはセクハラにカウントされないはずだった。今は少尉と中尉じゃないから、ジャンとリザ先輩だから。
「できるわ。したことあるから」
 答えはさらっと告げられた。さり気ない口調で、ごくごく当たり前のことみたいに。
 その雰囲気が昼間見た誰かさんとダブって、無性にムカつく。
「・・・・・リザ先輩、あの男殴っていいっすか?」
 あの男を殴りたい衝動に駆られるのはオレのせいではあるまいと思ったので、言ってみた。けっこう本気で。
「あんなヒト、あなたに殴られるだけの資格も無いわよ。ジャン」
 紙束を捲ってガサゴソ音を再開させながら、彼女は告げた。大した意図もない様子で。
 きっちり纏めた金の髪、背筋を伸ばした立ち姿、しなやかな曲線を隠す無骨な軍服、愛犬を撫でて銃を操って書類を捲る指。
 彼女を形作る諸々のパーツをぼんやり眺めてると、オレが女性に可愛らしい夢を抱くのに失敗しやすいのはこの女神様のせいかもなー、とか、昼間泣いてた女性はきっと絶対立ち直るねだって女性ってのは須らくしぶとくて逞しい女神様だから、とか、だから脆弱な男に過ぎないオレなんかには慰める資格はそもそもなかったわけだな納得、とか思った。
 だからこそ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー、もー、あんたら最っ低」
 オレの手元からも、ガサゴソ音再開。




 今頃どっかでまた女と遊んでいるだろう誰かさんへ。
 最期まで着いて行くつもりはあるけど、とりあえず一発殴りたいんで、せめて、『殴られるだけの資格』とやらを獲得してください。
 お願いします。

【end】
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