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未来まで抱きしめるみたいに

 ハウル。原作。

 始まりの朝。



 初日の出を一緒に見よう、と言い出したのは、ハウルでした。稀代の魔法使いにしてこの空飛ぶ城の主、ハウエル・ジェンキンスです。
 子供のように瞳をキラキラさせながらそう言われてはソフィーも断りにくくて、了承しました。じゃあちゃんと起こしてね、と。
「で、結局はこうなるのよね・・・・・・」
 カウントダウンをして新年を迎えた瞬間にシャンパンで乾杯をしてキスをして調子に乗って外の雪を蛍光色に染めてみたりして、そう、そんなふうにはしゃいでからベッドに入ったのですから、眠いのはよくわかります。
「でも、言い出したのはあんたでしょう?」
 蛍光塗料入りの糸で星座の刺繍が施されている天蓋の下で、ソフィーは、傍らでくーくー寝ている夫の顔を睨み付けました。秀麗な面立ちに安らぎが満ちているのが感じられて、なかなか鑑賞しがいがある寝顔でしたが、今のソフィーにとっては憎らしいだけでした。ソフィーの方は初日の出を見る約束が気になって眠りが浅くて、こうやって起こされる前に目が覚めてしまったというのに(ソフィーは真面目な性質でした)、ハウルときたら安眠真っ最中。
 見れば見るほど、新年早々ムカムカしてくるので、ソフィーはハウルを起こすことにしました。整った顔立ちの中の、すっと鼻筋の伸びたその鼻を、抓んで待つこと1分。
「ぷはっ!」
 そんなマヌケな声と共に、魔法使いの夫は目覚めました。
「え、何?あ、ソフィー?あんた、何て起こし方するんだ!?」
 鼻を抓まれて起こされたハウルは、ご機嫌斜めのようです。半身を起こして、片眉を顰めました。その様を見て、ソフィーもムっとしました。
「あんたが初日の出を一緒に見ようって言ったんでしょ!起こしてやったんだから感謝しなさいっ!」
 ばふん、と毛布を叩いてソフィーがそう言うと、ハウルは数時間前の自分の発言を思い出しました。
「・・・ゴメン、ソフィー」
 しおしおと項垂れて、素直に謝ります。9歳も年上だとは思えない、叱られた子供のような様を見せられてしまうと、ソフィーの怒りも持続しません(そもそもソフィーはハウルに甘いのです)。
「いいわよ、別に。それより、見るんでしょ初日の出。もうそろそろじゃないの?」
「そうだね。よし、外套を着てベランダへ行こう」
 ソフィーに赦してもらえたハウルは、ぱぁっと光が差すような笑顔になりました。




「ソフィー、寒くない?」
 今日の城の高度はかなりのもので、雲の上を飛んでいます。下界は遥か遠く、上から見下ろす雲は浮島のよう。匂いや温度を持つ人界の空気と違い、上空の空気は透明に澄んでいて。冷たさも相まって、息を吸い込むだけで肺が痛む気がします。
 防寒の魔法を編みこんだソフィー手作りの手袋とショールは、この氷柱になりそうな冷たさの中で手と肩を守ってくれましたが、それでも寒いことは寒いので、ソフィーは一刻も早く暖かい部屋に帰りたくて堪りませんでした。
「寒いに決まってるでしょ。真冬の早朝の空の上なんだから」
 着用者の魔力を使って周囲の温度に関り無く着用者を一定の温度で包み込む魔法(かなりの上級魔法)が施された外套を着たハウルは、ガタガタ震えているソフィーをそっと抱きしめました。それで、氷の礫がぶつかってくるようだった空気の冷たさが、少し和らぎます。
「うん、でももうちょっとだけ我慢して。ほら、日が昇る・・・・!」
 寒さが少し和らいで余裕が出たソフィーが、ハウルの指差す方向に目をやると、遠い地平線の向こうから太陽が顔を出し、今まさに、陽光の最初の一滴が世界に注がれる瞬間でした。薔薇色に染まる雲、茜色に燃える空、眩い生まれたての光。青ざめた薄闇は見る見るうちに拭い去られ、世界は光の洗礼を受けていきます。海が、山が、湖が、森が、街が、太陽に祝福され、新しい光が世界に満ちてゆくのです。
「綺麗ね・・・・」
 初めてこんな場所からの夜明けを見たソフィーは、ひたひたと押し寄せてくる感動で胸がいっぱいでした。これまでにもがやがや町の帽子屋の窓から朝焼けを見たことはあったけれど、その時はここまでの圧倒的な美と峻厳さを有してはいませんでした。
 瞳を潤ませて感動しているソフィーの頬に優しいキスを落して、ハウルは囁きました。
「うん、綺麗だね。どんな高い塔を持つ立派な城の王様より、今の僕たちは贅沢だよ。遮る物が無い生まれたての朝日を浴びるなんて、空飛ぶ城の住人じゃない限りできないことさ。ね、見てよかっただろ?」
 朝日の眩しさに目を細めながら、得意そうにハウルが微笑みます。その顔を縁取る金の髪が光の糸のように煌いていて、ソフィーを抱きしめる腕は見かけよりずっと強くて頼もしいから、ソフィーはとても幸せな気分になりました。夜明けがこんなに美しくて、一緒に見ることが出来た相手を愛していて、そして、愛されているのです。
 眩い陽光と温かい腕に包まれて、あの時のプロポーズの台詞にはちっとも嘘がなかったことを、ソフィーは噛み締めました。こてん、とハウルの肩に頭を預けて、寒さで強張っていた身体から力を抜きます。
「そうね、世界一の魔法使いの妻の特権ね。またあんたが寝こけてたら腹が立つでしょうけど、来年も一緒に見たいわ」
 猫みたいに肩口に頭を擦りつけてくる妻の仕草が、何を要求しているのかわかった夫は、ますます幸せそうな笑顔で。
「もちろん!来年は3人でね!」
 そう言って、そろそろお腹が膨らんできた妻を強く抱きしめて、キスをしました。





「4人と1悪魔、て言わないのがあいつの薄情なとこな」
 扉の前で出て行くタイミングを計っていたら出るに出られなくなった火の悪魔がそうぼやくと、世界一の魔法使いの弟子は、苦笑いを零しました。
 



 始まりの朝。未来に続いてく朝。



【おしまい】

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