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まいごのまいごのこねこちゃん

 鋼の錬金術師。ロイアイ。

「・・・何か問題が?」
「うん、ヒゲだ。まごうこと無きヒゲだ・・・・・・・」





「お、お嬢ちゃん、お願いだからさっきあそこにいた人のことを・・・・・・」
「いやーっ!おヒゲ怖いーっ!」
 目の前には、ヒゲ面の憲兵が黒猫のぬいぐるみを抱きしめる幼女を必死になだめようとしている図、・・・のはずなのだがコレ幼女誘拐犯っぽいな大分。
 ああもう、なんでこの私がこんな不毛な場所にいなくてはならないのだ、とか思うが仕方が無かった。仕事だ。 
 私は本日、とある事情によりものすごーく視察に行きたくなかったのだが、上官に対する厳しさでは全軍一と噂される副官の鷹の目に逆らえず(撃鉄を起こして説教されてしまってはな)、しぶしぶ視察に出た(副官がお供なので途中で逃亡も出来ず)。
 そうしたら憲兵が騒いでいる場に出くわしたわけだよ。どうも、憲兵(2人組でパトロール中だった)が街の不良少年を補導したところ、たまたま薬を買いに行くところだったらしい。だから、今すぐ取引現場に行けば売人を捕まえられるかもと考えたため、1人を報告に残してもう1人は上司の判断を待たずに現場に直行したんだそうだ。ここまではまあ行動としては悪くないと思うのだが、この後がダメだった。売人はもういなかったのだ。憲兵が到着した時その取引現場に残っていたのは、ぬいぐるみを抱えた幼女が1人。
 というわけで、憲兵は幼女が何か知っているかもしれないと思って聞きだそうとしているのだが、難航している。
「ほーらお嬢ちゃん、おじさんは怖くないよー。教えてくれたら飴あげるからねー。泣き止んでねー」
「メアリ、知らない人からおかしもらったりしないもん!ママがダメだって言ったもん!ママどこーっ!?メアリ、おヒゲ嫌ーっ!!」
 ・・・・・・・・・・難航している。
 甲高い子供の泣き声は苦手だしヒゲ面のむさい男が困っていても助けたくはならないのでこの場を去りたくて仕方がないのだが、一番最初に報告を受けてしまったイーストシティにおける軍事最高責任者(正確な身分は将軍の代行だが)としては去るわけにはいかない(報告用に残っていた憲兵は本部に応援を呼びに行かせた)。かといって、人相風体の手がかりも無しでは捜索も不可能だ。ここは市内中央にある百貨店の屋上の片隅。店内はごった返しているし、前の道路の人通りも多い(祝日だからな。私は仕事だけどな)。通行人全ての所持品検査などできない。
 さて、どうしたものか。
「このままでは埒が空きませんね。犯人が逃げてしまうでしょう。大佐、私に策があります。任せていただけますか?」
 定位置の斜め後ろから声を潜めて提案してきたのは、ロイ・マスタング大佐の副官にして遠距離狙撃競技会の王者リザ・ホークアイ中尉だ。怜悧な面立ちに強い意思が窺える鷹の目、目の前のどっと疲労しそうな光景にも表情一つ動かさない相変わらずのクールビューティーがいっそ清々しい。
「許可しよう」
  私は内容も確認せずに許可を与えた。彼女は文字通りの私の片腕であり、公私共にパートナーであり、全幅の信頼を置いている人物だ。たまーに(そうつい先程のようにな・・・・)常識外れな言動が垣間見られることもあるが、基本的に有能で私の意を汲んだ行動が出来る(例えば、コーヒーを頼んだら最初から私好みの温度と甘さで出てくる)。だから私は、彼女が、黒い制服のヒゲに怯えている(ぬいぐるみに顔を押し付けてイヤイヤをしている)メアリちゃんに近づいていくのを黙って見ていた。
 メアリちゃんは中尉が若く美しい女性なので警戒を少し解いたようだ。大声を出したり泣いたりせずに黙って見上げている。目線の高さを合わせようとしたのだろう。すっと跪いた彼女は、愛犬とか鋼のとかその弟とかを相手にする時の柔らかい声で言った。
「メアリちゃん、怖がらないで。大丈夫。このおじさんはヒゲだけど悪い人じゃないの」
「メアリ、おヒゲ嫌。おヒゲ怖い。ジョリジョリするのよ?」
 どうやら、メアリちゃんは誰かヒゲの大人に頬ずりされて嫌だったという経験があるらしい。だからこれほどまでにヒゲを嫌がったのだろう(今度電話でヒューズに忠告しておこう)。
 メアリちゃんは俯いていたが泣き出したりはしなかった。さっきから苦戦していた憲兵は1歩引いた場所で安堵のため息をついている。さすが、私の中尉。
 と、内心得意になっていたら、中尉がちらりと目線で私を呼んだ。ん、何かな?私はメアリちゃんを刺激しないようにそーっと近寄る。
「大丈夫、メアリちゃん。世の中にはね、怖いヒゲばっかりじゃないの。ほら見て!」
 その声と同時に、中尉は私の顔を覆っていたマスクを取り去った。風邪でもないのにマスクをしてまで隠したかった事実が、白日の下に晒された。メアリちゃんの青い目が大きく見開かれて、ぽかんと口が開いた。そして、目をキラキラさせて私の頬を指差す。 
「にゃんこ!!」
 そう、私の頬の猫ヒゲを。





 私は童顔だ。
 整った面立ちだし女性からは人気があるのだが、まあ少し威厳に満ちているとは言いがたい顔立ちをしている。この若さでここまで階級が高いと同僚は皆年上ばかりなので、若さを理由に舐められることは多い。だから、私にとって若く見えることはさしてイイことではない。
 なので、威厳を出すにはどうしたらいいかと日々模索していた私は、本日妙案を思いついた。
 ヒゲを生やそう!ということだ。
 ヒゲは見た目の年齢を左右する。例えば、ヒューズだ。あいつは元々の顔立ちが私よりおっさんくさいかもしれないが、その上にさらにヒゲを生やしているので、もう完璧に私と同じ歳には見えない。2人で並ぶと奴の方が私より5歳以上年上に見えると、誰もが言う。
 ならば、ヒゲを生やしたら私も歳より上、とまでは行かなくてもせめて歳相応に見えるかもしれない。威厳と渋みのためにヒゲを!
 と盛り上がった私が副官にこの思いつきを打ち明けると、彼女は「早急に対処致します」と言って机の上にあったマジック(油性)を手に取った。
 この時私はまだ気がついていなかったのだが、どうも彼女は、朝から私があまり身を入れて仕事をしていないということに、密かに怒っていたようなのだよな。
 だから・・・・・頬に猫ヒゲを描かれた。
 キュッキュッキュッ!と。
 私は抗議したかった。国軍大佐の頬に猫ヒゲをらくがきとは何事だ!?と文句を言いたかった。
 だが。
「・・・何か問題が?」
「うん、ヒゲだ。まごうこと無きヒゲだ・・・・・・・」
 彼女の鳶色の目に宿る殺意に気づいてしまった私に、他に何が言えよう。
 というわけでこの頬を衆目に晒したくなくて視察を嫌がったのだが、マスクを渡されて強制的に連れてこられ、連れてこられた先で子供を慰めるために生贄にされたわけだ。
 ああ、かわいそうな私・・・・・・・・・・
「どうしたの、マスニャングちゃん?お腹痛いの?」
 沈み込んでがっくり項垂れた私(ベンチに座っている)の頭を、メアリちゃんは小さい手で撫でてくれた。優しい子だ(15年後にまた会いたい)。
 猫好きのメアリちゃんは、私の頬を見て「この人は実は猫さんなのよ。マスニャングって言うの。猫さんがこっそり人間に化けてるのよ」という中尉の説明に納得して、『珍しいにゃんこ』である私の存在にすっかりご機嫌になって、売人の人相風体を教えてくれた。幼女の証言だが、売人は赤毛の巻き毛で額に大きなほくろがあり猫のプリントのTシャツを着ているという特徴があるので、応援を引き連れて出て行った中尉が程無く捕まえてくることだろう。私は、屋上のベンチでメアリちゃんの母親(店内放送で呼び出した)が来るのを待っている。
 本来ならば私が陣頭指揮を取るべきシーンなのだろうが、「メアリちゃんが懐いているのは貴方ですし、そのお姿で部下の前に出られたら士気が落ちます。ここは私に任せて待っていてください」と言われてしまったら、もうどうしようもない。自分で描いたくせに、と呟いたが彼女は無視して行ってしまった。
 切ない。
「何でもないよ。大丈夫。メアリちゃんは優しいね」
「だってメアリ、マスニャングちゃん好きだもん。かわいいから。だからね、マスニャングちゃんにだけ秘密を教えてあげる」
「秘密?」
「うん、あのね・・・・・・」
 こうして、幼女にまでモテモテの私は、メアリちゃんの秘密を教えてもらった。





「申し訳ありません、大佐。奴の身柄は拘束したのですが、証拠の薬が見つかりませんでした。取調べにも一言も答えません。現在、周囲を捜索中です」
 しばらくして売人を拘束して帰ってきた中尉は、浮かない顔だった。
 証拠物品が無くては売人を検挙できないのだから、まあそれも当然だ。だが、メアリちゃんのお守りから解放された(母親が迎えに来た)私は、機嫌が良かった(さっきとはうって変わって)。
「ああ中尉。私の魅力は罪だな」
「は?」
 仕事中に猫ヒゲで何言ってるのこのヒト?という目で中尉が不審そうな顔になるが(ヒドイ。このヒゲ描いたのは君なのに)、この表情は見慣れているのでさほど傷ついたりしない(この事実がちょっと切ないが)。
「どうやら私は幼女にもモテモテらしいよ。メアリちゃんは、『かわいいマスニャングちゃん』を大層気に入ったようで、プレゼントまでもらってしまったよ。ほら」
 そう言って、後ろ手に隠してた『メアリちゃんからのプレゼント』を差し出した。彼女が大切に抱えていた黒猫のぬいぐるみだ。ぎゅうっと抱きしめられていたからその時は気づかなかったが、このぬいぐるみは背中にファスナーがついてる。私は中尉の目の前で、そのファスナーを開けて中の物を取り出して見せた。
 白い粉の入った、袋を。
「これは・・・・・!」
 小麦粉によく似たこの粉こそが探していた薬だと理解した中尉は、大きな目をさらに見開いて驚いていた。あー、そういう顔かわいいね(や、普段からかわいいけどさ。より一層、という意味で)。
「メアリちゃんの話によると、このぬいぐるみは奴の落し物だそうだ。奴はぬいぐるみの中に薬を入れてぬいぐるみごと相手に渡していたらしいぞ。これなら他人に見られてもわからないし、所持品検査があっても乗り切れるかもしれないからな。だから奴はぬいぐるみを持って買い手を待っていた。取引現場からは百貨店の入り口が見える。憲兵が百貨店に乗り込んでくるのを見て気が動転したのだろう、奴はぬいぐるみを落として逃げだした。で、猫好きのメアリちゃんがこのぬいぐるみを拾った。そして、ぬいぐるみの中に入ってる秘密の物を見せてもらった私がせがんだら、メアリちゃんがプレゼントしてくれた、というわけだ。納得できたかね?」
 イタズラめかしてウィンクしながら問うたら。
「イエス・サー」 
 少し悔しそうな、でも私の手並みの鮮やかさを喜んでいるような、そんな苦笑を返してくれる。
 実直で、仕事熱心で、時に厳しくて、私のことが大好きな、リザ。
 ねえ君、気に入ってたぬいぐるみをプレゼントしてくれたメアリちゃんより、先週デートした花屋のあの娘より、一昨日一緒に食事した通信科のあの人より、先月観劇に誘ってくれた通り1本向こうでブティックをしているあのマダムより、その他の誰よりもずーっとずーっと比べ物にならないほど、私のこと好きだろう?
 好きで好きでたまらないんだろう?
 かわいいね、リザ。君は本当にかわいい。だからご褒美をあげよう。
 彼女が証拠物件であるぬいぐるみを憲兵に預け指示をして帰ってくるのを、私は物陰で待っていた(まだ猫ヒゲが消えておらんのだ)のだが、その頬はこの先の展開を考えて弛んでいた。
 リザが物陰にいる私を迎えに来て、この場所なら憲兵たちからは見えないことを確認してから、私は彼女の顔の隣の壁に手をついた。
「さあて、錬金術師である私の基本原則は『等価交換』だが、私にこんなにステキなヒゲをプレゼントしてくれた君には、どんなお返しをしたらよいのだろうか?」
 書類を溜めててこの台詞なら、あっさりと銃口を向けられて終わりになっただろう。けれど今日の私は、猫ヒゲ故に手柄を立てた(メアリちゃんは中尉にも秘密を教えなかった。メアリちゃんがこの秘密を教えてくれたのは『マスニャングちゃん』だけなのだから)。ならば私の言葉を無碍にはできまい?
 という私の状況把握は的確だったらしく、中尉は殊勝だった。胸元のポケットからペンを取り出して渡し、目を瞑って頬を差し出す。
「覚悟は出来ております」
 殊勝で従順。常のスパルタご主人様的リザ(階級は私の方が上のはずなのだが)もステキだが、こーいうのもいいね。そっと優しく触れて包み込むように抱きしめてこの世の全てから守ってやりたくなるし、この爪を立てて抱きつぶしそうに抱きしめメチャクチャにしてやりたくなる。
 ほんのちょっとだけ。ほんの一瞬だけ、迷ったりもしたけれどやはり優しくしたい気持ちが勝ったので、覚悟を決めて凛々しく引き締まった頬に舌を這わせて舐めあげる。
「!」
「迷子の猫を保護して家に連れ帰って、あったかい物でも食べさせてやってくれないかな、犬の軍人さん?」
 まだくっきりと猫ヒゲが残る頬のままそうおねだりしたら。
「困った迷子ですこと。どうしようもないから、仕事が終わったら家に連れて帰って面倒を見てあげますよ」
 私のことが大好きなリザは、優しく抱きしめてくれた。




 まいごのまいごの猫さん、貴方のおうちはどこですか?
 そんなの知らないから、君の家に連れて帰って飼い猫にしてくれたまえ!




【おしまい】
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