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TABOO

 シャーマンキング。オールキャラギャグ。
全身の筋肉が強張っている。
 正直、腰から下の感覚はすでに無い。
 上体も、細かく震えているのがわかるが、それを止めることもできない。
 意識してできることは、もう呼吸だけ。頭もあまり働かない。
 こんな状態になって、何時間過ぎただろう?
 もうとっくに日は沈んでいる。
 オイラの隣にいたはずのまん太は、何時間か前、日が沈む前に、
 「ぼく、も、もう、だ・・・め・・・・」
 という言葉を残して、崩れ落ちていった。そういえば、まん太の家の田村崎とか言う人が、意識を失ったまん太を迎えに来てたような気もする。定かではないが。
 いい加減硬直してきた首を動かして、周りを見る。
 蓮は、まだ耐えている。さすがだ。苦しそうな顔はしていない。でも、目の焦点が合っていないので、意識が飛ぶかどうかの瀬戸際だろう。
 竜は、・・・・・体力あんなあ。まだ持ってる。しかし、顎辺りにとっくに凝固した鼻血が残っている。やはり、それをふき取るほどの余力はないらしい。
 ホロホロは、いつものピリカの修行の成果だろうか、まだ正気を保っているようだが、少しずつ唇の端が微妙につり上がってきて、笑みの形になろうとしている。かなりやばい状態にあると見た。
 そして、オイラも、オイラも、いつ意識をなくしてもおかしくない状態だ。
 あと何時間こうしていればいいんだ?
 恐怖のお仕置き、電気椅子12時間・・・・・・・
 昼飯前に始まって、飯抜きでもうずっと続けている。そして、日が沈んだ今になっても終わらない。そういえば夕飯も食ってない。
 いったいなんでこんなことになったんだろう?
 

 最初、は、なんだったっけ?
 
 ええと・・・・


 
 
 ああ、潤がやって来たんだ。






 「こんにちは。お邪魔します」
 そう言って潤が炎にやって来たのは、確か昼飯前だった。
 潤は、ダンボール箱を白竜に持たせていた。
 「どうしたんだ、姉さん?」
 今日は、蓮もホロホロもピリカも竜もまん太も炎にいた。
 「あら蓮、あなたに用事じゃないのよ。ねえ、アンナさんたちいるかしら?」
 「アンナ?アンナなら部屋にいるぞ」
 珍しい。潤が弟の蓮に用があるならわかるけど、アンナにいったい何の用だ?
 そんなに仲良かったっけ?潤は初対面でアンナにビンタくらってたはずだが。
 ああ、そういえば、一週間ほど前も、白竜に荷物持たせて家に来たっけ。たまおやピリカも一緒に、なんか2階で騒いでたよな。絶対に上がってくるなってアンナに言われたから、何騒いでたかは知らんが。
 じゃあ、仲よくなったのかな?だったらいいな。皆仲いいのは良いことだ。うん。
 「潤、早く上がってらっしゃいよ。もう届いたのね、それ。」
 いつのまにか、アンナが階段にいた。  
 「ええ、思ったより早かったわね。あ、ピリカちゃん、たまおちゃんも呼んで来て。こないだの届いたから」
 「潤さん久しぶり。もう届いたの?早いわね。わかった。たまおちゃん呼んでくるわ」
 ピリカは台所にいるたまおを呼びに行った。
 「さあ、あがって。そうだわ、葉。あたしたちちょっと用事があるから、お昼ご飯は自分たちで作って勝手に食べといて。あたしたちを呼ばなくていいから」
 「え、なんでだ?昼飯の後にしたらいいじゃねえか」
 「駄目よ」
 間髪いれずアンナが答える。
 「上でなんかすんのか?」
 「駄目よ葉くん。2階に上がったら死ぬわよ?ねえアンナさん」
 「そうね、死んでもらうことになるわね」
 さらりと、冷たい雪のような美しい笑みを浮かべて恐ろしいことを言ったアンナと潤が、白竜を連れて2階に上がっていった。
 「お、おい、何だよそれ・・・・」
「ね、姉さん?」
 オイラと蓮は、廊下に立ち尽くした。





 まだ昼飯には少し早い。
 オイラたちは落ち着かない気持ちで居間に集まっていた。
 2階からは、楽しそうに騒ぐ声が聞こえてくる。
 「・・・・ねえ、上で何してるんだろうね?」
 さっきから続いていた沈黙を、とうとうまん太が破った。
 誰もが気にしていながら口に出せなかったことだ。
 けど・・・・・・・
 「駄目だ、まん太」
 「でも、葉のだんな・・・・」
 「駄目だ、死んじまうんだぞ」
 そう、(きれると怖い)潤と(いつも怖い)アンナがはっきり「死ぬ」って言ったんだ。確かに、オイラも、今上で何が起こっているかにはすごく興味があるけど、命も惜しい。
 「だーーーーっ!気になる。我慢できねえ!」
 「止めろ、おそらく連帯責任だぞ。貴様の我儘で俺たちまで危険にさらす気か!」
 立ち上がろうとするホロホロを、蓮が止めた。
 「ええ。潤様は、本気でおっしゃっておられました」
 馬孫は、重々しく言った。
 「ああ、潤は本気だった」
 ダンボールを搬入した後、すぐ退場させられた白竜も、目を反らしながら言った。
 「アンナ殿も、本気でござった」
 阿弥陀丸も、深く頷く。
 そう、アンナの美しい笑みの中で、目だけが笑ってなかった。アレは、本気の目だ・・・・。
 「俺だってピリカに言われたぜ!でも、そう言われると余計気になるだろ!」
 「それは、確かにそうだが・・・・」
 ああ、そんな言い方されると余計気になるよな。その気持ちはよくわかる。
 「それによ、このままにしてたって、どうせ修行させられるぜ。いつも結局そうなるだろ。だったら、俺は知りたいぜ!」 
 ホロホロが熱く訴えた。
 この言葉に、オイラたちの心は動いた。
 確かに、このままおとなしく下で待ってても、何かでアンナの機嫌を損ねちまえば、結局しごかれちまう。今日、オイラたちがアンナの機嫌を損ねないと言う保証は無い。それならいっそのこと、疑問を解決してすっきりしてしごかれる方がましかもしれない。
 「そう、だな。地獄のメニューにも大分慣れて来たし・・・・」
 竜が言う。
 「何もしなくても、結局いつも殴られちゃうしね・・・・・」
 まん太が言う。
 「ふん。たまには違うメニューで修行してみてもいいかも知れんな」
 蓮が言う。
 「まあ、すっきりしねえしなあ」
 オイラが言う。
 オイラたちの意見はまとまった。
 「よし、じゃあ2階に行くぜ!」

 

 この時、白竜は、巻き込まれないよう、こっそり庭に出て雑草むしりをはじめた。オイラたちを止められないとわかった阿弥陀丸と馬孫も、ついってった。
 三人とも、おいらたちより年上な分、賢かった。
 


 





日本の神話に、イザナギとイザナミの話がある。
二人は夫婦だったが、妻のイザナミが死んでしまう。死んじまったイザナミを追って黄泉の国まできたイザナギは、イザナミが絶対に自分の入った部屋の中を見るなと言ったのに、部屋の中の変わり果てた妻の姿を見てしまい、怒り狂ったイザナミに追いかけられる。そんで、黄泉津比良坂と言う場所で、追って来るイザナミを恐れて黄泉の国と通じる場所を封印してしまう。
 オイラの故郷の出雲には、実際に黄泉津比良坂という地名があったので、小さい頃からこの話は知っていた。
 オイラは不思議だった。
 どうしてイザナギはいいつけを破っちまったんだろ?どうしてわざわざ迎えに来るぐらい好きだった奥さんなのに、逃げちまったんだろ?
 じいちゃんに尋ねると、じいちゃんはふっと遠い目をして言った。
 「男とは、愚かな生き物なんじゃよ」



 





古くなって建てつけが悪い炎の階段を、できるだけ音を立てないようにゆっくり上る。
 二階からは話し声。


 「ねえ、たまおちゃんのそれ、いい色ね」
 「そ、そうですか。ピリカさんこそ、似合ってますよ」
 「ええ、2人とも可愛いわよ」
 「そんな~、潤さんには敵いませんよ。すっごく素敵だもん。ね、たまおちゃん?」
 「は、はい」
 「あら、ありがとう。そういえば、アンナさん遅いわね?」 
 「そ、そうですね」
 「次は黒いやつ試すんでしたっけ?さっきの豹柄もものすごく良かったけど」
 「ええ、黒って言ってたわ。さっきの豹柄ね、あれ確かに良かったわ。あんなに似合ってるのに、下品にならないところが、さすがアンナさんね」



 豹柄?
 アンナが豹柄着てんのか?
 似合ってんのかあ。どんな感じだろ。オイラも見てみてえな。
 「服を着替えてるだけか?」
 「それなら何で見ちゃいけないの?」
 「恥ずかしかったんじゃあねえか?」
 「なに言ってやがる。女ってのは、新しい服買ったら、絶対に見せに来て、誉めないと怒り出すんだぞ。なあ、葉?」 
 ぼーっとしてたオイラに、ホロホロが話をこっちに振ってきた。
 「え、あ、ああ。うん、そうだな。すごく機嫌悪くなるな。あんなに怒んなくてもいいのになあ。」
 そう、あの時は幻の左をくらった。
 「それは葉くんが鈍いからだよ。ちゃんと気がついてあげなきゃ」
 「気がついただけでは駄目だろう。誉めないといけないからな。だがしかし、白竜じゃあるまいし、誉め言葉などなかなか出てこんぞ」
 どうやら蓮にも、潤の新しい服を誉めなかったために、機嫌が悪くなられた経験があるらしい。しかし、ちゃんと誉めてるんだな白竜。さすが結婚経験者だ。 
 「そうだぜ。普通は無理だって」
 珍しく、蓮とホロホロが意気投合してる。
 「何言ってんだ。女の子が新しい服を見せに来たんなら、男としては誉めてやるべきだぜ」
 「竜さん、そうは言うけどね、難しいよ。すごく。『ああいいんじゃない』とか言ったら逆に怒り出すんだから」
 「そうだなー。オイラも怒られたことある」
 「え、そりゃ何で?」
 竜が不思議そうに聞く。
 「『どうせ適当に答えてるんでしょ』だってさ。何がどのように良いのか言ってほしいんだって。でも、ぼく女の人の服のことそんなによくわからないよ」
 「だよな~」
  なんて語り合ってたら、上から声がした。
 「何?もしかして誰か待ってるの?あたしはもう出るから、次どうぞ」
 その声と同時に、オイラの部屋の右隣の戸をがらりと開けて、アンナが出てきた。
 「!?」
 「あ、あんたたち・・・・・!!!」
 オイラたちは、声が出なかった。
 だって、アンナは、オイラたちの目を釘付けにする格好をしていたからだ。
 な、なんて格好してんだよアンナ!!!
アンナは、下着姿だった。
 黒の、ふんだんにレースを使ったキャミソールと、ガーターベルトで吊るした網タイツ。
アンナの陶器のように滑らかな白い肌の上に、黒いレースがひらめく様を見て、オイラの
目が吸い寄せられるのがわかった。キャミソールも、網タイツも、薔薇の模様になってい
て、繊細な黒のラインが、華奢な肢体を引き立てている。
 折れそうに細くて、でもラインが柔らかくて。
 色素の薄い艶やかな髪が、白い肩に落ちて。
 オイラよりずっと細い指。
 あの指に触れた感触を思い出す。少し冷たいアンナの手。
 あの髪に触れた感触を思い出す。さらさらと滑るアンナの髪。
 そして、あの・・・・・・・・・・・
 「どうしたのアンナさん?」
 そういって、無防備に潤がアンナの部屋の戸を開けたので、オイラの思考はストップし
た。
 潤は、モスグリーンの下着姿だった。レースの部分が緑から黄色のグラデーションにな
っている凝った一品だ。やはりアンナと同じく、キャミソールと吊られたストッキングが
セットになってた。
 ピリカとたまおは、タンクトップとショートパンツのセットで、ピリカは青と白のスト
ライプ。たまおは、淡い卵色だった。
 「え?」
 「あれ?」
 「あ、あの・・・」
 


 
オイラたちは、ボコボコにされた・・・・・・・・・・・・・


 





 イザナギは、何故いいつけを守れなかったのか?
 今のオイラにはその答えがわかる気がするよ、じいちゃん・・・・・・・・・ 










 かくして、オイラたちは怒り狂うアンナたちによって、電気椅子12時間を命じられた。
 アンナが炎の霊を使って見張っているので、サボることは不可能。 
アンナたちは、通販の下着を一緒に購入して、それを見せ合いっこしてたらしい。だか
ら、上がってくんなって言ったんだな・・・・・・・・・・
 さっきから、阿弥陀丸と馬孫は、どうすることもできず、ただつらそうにこちらを見守
っていた。
 体全体が小刻みに震え、視界はかすみ、音は遠くなり、時間感覚が消滅した頃、やっと、
やっと、電気椅子12時間が終わった・・・・・・・。
 時刻はもう真夜中近い。
 星が、綺麗だった。
 蓮は、すぐに立ち上がろうとして、足が言うことを聞かなくてこけてた。
 竜は、身体が硬直しちまって、終わったのに、電気椅子のポーズのままだった。
 ホロホロは、引きつった笑みを浮かべたまま、気絶していた。
 オイラも疲れた。駄目だ、身体が動かねえ。
 


 そんな、ボロ雑巾のようなおいらたちの前に、アンナたちが現れた。
 まだ怒られるのかと思ったけど、もう身構える気力も体力もなかった。
 どうとでもなれ、と思った。
 しかし、そんなオイラたちに、
 「お疲れ様。疲れたでしょ、中におにぎりを用意してあるわ。それ食べてお風呂に入って、今日はぐっすり寝なさいね」
 アンナは、優しかった。
 ど、どうしたんだ、アンナ?
 あんなに怒ってたのに、幻の左まで出してたほどなのに、怒りが溶けたんか!?
 あんまりなオイラたちの様子を見て、哀れに思ったんか?
 よくわからんがとにかく、腹が減ってるので、台所に行った。確かに、大量の握り飯が
用意してあった。お茶もあった。
 昼も夜も食べてなかったオイラたちは、貪り食った。
 美味かった。
 うう、心に染み入る美味さだ。
 その後、風呂に入った。
 ああ、あったかい温泉に浸かると、固まっちまった筋肉がほぐれていくのがわかる。疲
労が、汗といっしょに流れだしてく気がした。
 




 すっかり気持ちよくなって、キツイお仕置きが充実した運動だったようにさえ感じられ
る。
 風呂から上がると、風呂上りの冷たい飲み物(蓮は牛乳三本)を用意して、アンナたちが待
ってた。
 オイラたちのために、わざわざ寝ないで待っていてくれたんだ。
 そう思うと、罪悪感がこみ上げてきた。そりゃ、謝ったけど、殴られてる間も何度も謝
まったけど、でもいいつけを破ったオイラたちが悪いんだもんな。
 オイラは、そっとアンナに近づいた。 
 「アンナ、昼間のことごめんな」
 「そんなに何度も謝んなくていいわよ。でも、そうね。明日あたしのお願い聞いてくれる?」
 「ああ。いくらでも聞いてやる」
 オイラの返事を聞いて、アンナは美しい笑みを浮かべた。
 ああ、ちょっと注意すればわかったはずなのに。昼間階段を上がった時と同じ目をして
るって。美しいけど、それは真冬の氷柱のような美しさだって。
 でも、疲れて、腹いっぱいになって、風呂に入って気持ちよくなってたオイラには、気
がつくことができんかった。
 それは、オイラだけじゃなかった。
 蓮も、竜も、ホロホロも、そしてまん太もそうだったと、オイラは翌日の朝に知ること
になる・・・・・・・・・・・・・








 前日の疲れから、オイラは夢一つ見ず熟睡していた。
 オイラの目が覚めたのは、すぐ近くに人の気配を感じたからだ。
 目を開けてみると、アンナの顔がすぐ近くにあった。
 な、なんだ!?
 「あら、起きたの。おはよう、葉」
 動転しているオイラとは対照的に、アンナは落ち着いていた。
あー、アンナどうしたんだ?えーと、アンナの髪がオイラの頬にかかってくすぐったい
んだけど、いや全然別に嫌じゃあないけど。えーと、お前睫毛長いなあ。えーと、お前の目の色って色素薄いな。あ、もちろん悪くないけどな。すげえ綺麗だと思うぞ、オイラ。
 「さっさと起きなさいよ。まさか寝直すつもり?」
 おいらが馬鹿なこと考えてるうちに、アンナの顔がすっと離れた。
 オイラは、ほっとしたような残念なような変な気分になった。
「葉、今日の服はこれよ」
「え、ア、アンナ・・・・・?」
 アンナは、オイラの枕元に置かれた一揃いの服を指し示した。
 し、しかし、これは・・・・・・・
「何よ?」
「これはお前の制服じゃねえか!!」
 そう、アンナが示したものは、森羅学園の制服。ただし女子用、だった。
「大丈夫、シャツはあんたのだし、スカートのサイズは直しといたから」
「ああ、それならオイラでも入りそう・・・て、違うだろ!」
 思わずまん太直伝のツッコミをしてしまうオイラ。
 問題が違うだろ、アンナ。
「何でオイラが女子の制服を着るんだよ!?」
「あんた、昨日の約束忘れたの?」
 あくまでも抗議するオイラに、アンナは美しい笑みを浮かべた。そう、晴天に振る雹の
ような、美しくも危険な笑み。
 ア、アンナ、目が笑ってない・・・・・・・・
「昨日の、約束?」
「そうよ。昨日あんたあたしのお願い聞いてくれるって言ったじゃない。忘れたの?」
「わ、忘れてねえけど・・・・・・」
「じゃあ、あたしのお願い聞いてくれるわよね。葉は約束破ったりしないわよね」
 美しい笑みを浮かべたまま、本気の目をしたまま、アンナがオイラに迫ってくるので、
思わず、
「お、おお」
 と、オイラは頷いてしまった。
「じゃあさっさと降りてきてね」
 オイラの返事に満足したアンナは、部屋を出て行った。
 残されたのは、オイラと、森羅学園の女子用の制服。
 どうやら、アンナたちの復讐はまだ終わっとらんかったらしい・・・・・・・・・・・       
  





 諦めて、今日一日の我慢だからと諦めて、オイラは、朝飯を食いに居間に行った。
 あーあ、皆に笑われんだろなー。
 ため息を一つついて、居間の戸を開けたオイラは、仰け反りそうになった。
 そこには、まん太と蓮とホロホロとピリカがいた・・・・・・・・・。
 まん太は、いつか写真を見せてくれた妹そっくりに、両サイドの髪を赤いリボンで括っ
て、赤いスカートを穿いていた。違和感を感じる余地がないほど、ナチュラルに似合って
いた・・・・・・・・・・
 蓮は、黒のチャイナドレス(ミニ)を着ていた。目元は、青いアイラインが引いてある。こ
うしてみると、やはり潤と似ているな、と思った・・・・・・・・・
 ホロホロは、やはりピリカが着ていそうなミニスカートを穿いていた・・・・・・・
「・・・・え、と」
「何も言うな、葉。いや、言わないでくれ」
 顔をそむける蓮。
「葉くん・・・・・・・」
 涙目でオイラを見上げるまん太。
「飯食いに来たんだろ、さっさと座って飯を食えよ」
 オイラと目を合わさないホロホロ。
 オイラは、友達にかける言葉を見つけることができなかった。
 無言で、食卓に着く。
「葉、遅いわよ。サイズはぴったりだったでしょ」
 オイラの後ろから、アンナが入ってきた。
「アンナ、これは一体何のつも・・・」
「アンナさん、何とかして。お兄ちゃんが全然可愛くならないのー。もとは悪くないはずな
のに」
「ああそうね、ホロホロはオレンジが似合うんじゃない?潤がオレンジのグロスを持ってた
 から、借りたら?それで髪はおろして帽子でも被ったらマシになるんじゃないかしら」
「そうね、ありがとう。潤さんに借りてくるわ」
「おい、アンナ・・・・」
 オイラの表情を全く無視して、ピリカとなにやら恐ろしい会話を繰り広げていたアンナ
は、オイラの頬に手を当てた。
 え、ちょ、ちょっと、・・・・・・
「ああ、葉。ちょっとおとなしくしてて」
 アンナはそう言うと、オイラの唇になにやら塗りつけた。
 なんだ、これ?
「よし。これで少しはマシになったわね。後は、そのヘッドホン外して、この緑のカチュ
 -シャで髪をとめてね」
 アンナが手に持っていたのは、ピンクのリップクリームだった。
「なあ、アンナ・・・・」
「煩いわね。男に二言はないのよ。約束通り、今日は一日その格好で過ごしてもらうわ」
 オイラの言葉をさえぎって、ぴしゃりとアンナが言い放った。
 これ以上言い募っても、アンナを怒らせるだけだ。経験でそのことを知っていたオイラ
は、口を噤んだ。
 



「朝飯だぜー」
 重苦しい沈黙を打ち破ったのは、竜の声だった。
 ん、竜?
 そう、オイラたちは忘れていた。いや、故意に忘れようとしていたと言う方が正しかっ
たのかもしれない。
 木刀の竜、と言う男の存在を・・・・・・・・
 両手に朝飯を持って、ピリカや潤やたまおと一緒に、竜が入ってきた。
 ・・・・・・・・・・・!!!
 蓮が、食卓に頭を打ち付けた。
 ホロホロが後ろにひっくり返った。
 まん太は、小刻みに震えている。
 オイラも、(昨日とは別の意味で)目が釘付けだった。目を反らしたいのに、反らせないと
いうか。
 竜は、そんなオイラたちの反応を気にした様子もなく、朝飯を食卓に運んだ。
「さー皆、腹いっぱい食ってくれよな」
「て、何だよ竜さんその格好は!!!」
 料理人の本分を果たし、満足そうな竜に、まん太が力いっぱいツッコんだ。
 無理もない。
 竜は、フリルつきのピンクの割烹着を着ていた。髭を生やしたリーゼントの濃い顔に、
フリル・・・・・・・もはや目の暴力と言い切っていいほど、似合っていない。コスモスの刺繍が
目に痛い。そのうえ、赤い頬紅と口紅を塗っているその姿は、恐ろしくできの悪いオカマ
以外の何者でもない。
 無意識に、目を反らしてしまう。
 「ん?おかみが今日はこれを着るように、て用意してくれたんだぜ。メラカワイイだろ」
 その割烹着自体は可愛いかもしれんが、その割烹着を着た竜を可愛いと言い切ることは、
どうしても不可能だぞ。わかってるのか、竜!?
「これは、これは一体どういうことだよアンナさん!」
 とうとう我慢できなくなったまん太が、アンナに詰め寄った。
 あ、そんなことしたら・・・・・・・・・・
 バッチーン!!
 朝っぱらからいい音がして、アンナのビンタが決まった。まん太は壁まで吹っ飛んでい
る。ああ、アンナに口答えしたから・・・・・・・
「昨日あたしたちの言うことを聞くって約束したでしょ!いまさら文句言ってんじゃない
 わよ!あんたたちは今日一日、おとなしく言うことを聞けばいいのよ!」
 それは、あまりにも横暴な言い分だったが、まん太にクリティカルヒットしたビンタを
見てしまったオイラたちは、何も言えなかった。





「はい、これ。よろしくね」
 諦めて、全てを諦めて、今日は一日おとなしく、これ以上アンナたちを怒らせんよう過
ごそうと覚悟を決めて、オイラの部屋で音楽を聞いていたオイラとまん太と蓮とホロホロ
(竜はいそいそと家事をしている)に、アンナがメモと財布を差し出した。
 メモ?
〔HEIYUで、特価の醤油とティッシュペーパーとベージュのストッキング。隣町のスー
パーで、特価の砂糖とトイレットペーパー。電気屋で、トイレの電球。商店街のCDシ
ョップで、あたしの予約してたCD。隣町の化粧品店で、資〇堂の新作のパンダグリー
ンのアイシャドウ。本屋で、女性ヘブン。文房具店で、半紙。郵便局で、オリンピック記
念切手。100円ショップで、マニュキアの除光剤。以上〕
「ちょっと待て!」
オイラは階段を下りていこうとするアンナを引き止めた。
「何よ?」
「これは買い物メモに見えんだけど」
「そうよ。あんたたち全員で行ってもらうわ。そしたら荷物持ちきれるし」
アンナは平然と言った。オイラは冗談だと思いたかったけど、ここまでの成り行きから、
今日のアンナが本気だと言うことは、悲しくなるほど思い知っていた。
 それでも、一縷の望みを託して聞いてみる。
「・・・・・・・着替えて行っていいか?」
「駄目」
 わかってはいたが、あっさり却下された悲しみに涙するオイラたちだった。




 今日は一日石になったということで、石だから何も感じないし、知人に見つかったりも
しないんだ、などと苦しい言い訳で自分を誤魔化して、オイラたちは玄関に向かった。
 本当に石になったかのように足が重い。
 しかし、玄関には更なる衝撃がオイラたちを待ち構えていた。
 竜がいた。
 靴まで履いてスタンバイした、割烹着を着て化粧をした竜が、いた。
 オイラたちは、アンナたちの努力により、遠目で黙っていれば、一応女に見えないこと
もない。だから、どんなに疑われようと、女だと言い張ろうと皆で決めていた。
 そのほうが、女装していることを知られるより、マシだと思った。
 しかし、どう見ても女に見えない、できの悪いオカマか、壮絶な罰ゲームとしか言いよ
うがない竜、体格の立派ないかにも濃いリーゼントの竜を連れていって、果たしてオイラ
たちの女装を見破られないで済むだろうか?
 ・・・・・・・・・・・・無理だろ、どう考えても。
「も、もしかして竜さんも一緒に行くの!?」
「だんなたちが行くのに俺が行かないわけにもいかないだろ。荷物持ちに使ってくれ」
「いや、俺たちで持てるぜ。なあ蓮?」
「ああ。貴様が来る必要はない」
「そんな寂しいこといわねえでくれよ。なあだんな、連れてってくれるよな」
 竜が寂しそうにこちらを見つめてくる。しかし、オイラはここでびしっと言わなくちゃい
かんだろう。まん太とホロホロと蓮が、オイラを促すように見ている。
「竜、悪いけど・・・・・」
「当然連れて行ってあげるわよ。ねえ葉?」
 オイラの言葉は、アンナによって永遠に遮られた。
 振り向くと、アンナとピリカとたまおと潤が立っている。皆、冬の朝に見つかる霜のよ
うな美しい笑みを浮かべていた。
 深々とした冷気が、そちらから伝わってくる気がした・・・・・・・
「そうよねー、荷物多いもんね」
「りゅ、竜さんも行きたがってるみたいですし・・・・」
「ここは、仲良く行ってもらいましょうよ」 
「いいわよね、葉?」
 オイラに他に何が言えただろう。
「ああ・・・・・・・・・」
 


 



 こうして、オイラたちは地獄の道行きに出発した。
 イザナギが、死に物狂いで逃げて、黄泉比良坂を閉ざしちまった気持ちが、今のオイラ
にはわかる気がする・・・・・・・・・
 きっと、ものすっごく怖かったんだろうな。
 怒り狂う女は、本当に恐ろしいもんだからな・・・・・・
 
 

でも、オイラなら、坂を閉ざして永遠に別れることはできんな。
 オイラは、どんなにアンナの怒りが恐ろしくても、お仕置きにどれほど怯えたとして
も、アンナと別れることはできんな。
 だって、
 「まだ、豹柄見てないもんな」
 あまりにも過酷な現実に挫けそうになる自分を励ますために、オイラは、一人呟いた。  


END
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