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 魔法律で、ムヒョロジ。
 ムヒョが眠ってしまうと、昼間の事務所は意外に静かだ。
 もちろん昼間なのだから、外の世界から車の音とか人の声とかイロイロ物音が入ってくるのだけれど、事務所の中にだって時計の秒針の足音や冷蔵庫の小さな唸り声なんかの音はあるのだけれど、ぼくがおしゃべりをしない分、いつもより静かになる。狭い事務所なのに、妙に広く感じてしまって、少し困る。
 だから、やる気のないお昼ご飯としてお茶漬けを啜りながら、なんとなくテレビをつけてみた。騒々しい奥様番組の司会者は、オーバーリアクションで声高に世間話をしている。変なネクタイの柄(トマトとバジル?)、なんて思いながらぼんやり画面を眺めていると、今日の話題は、「ネット上での流行について」だそうで。HPの管理人同士でやりとりするバトンもいくつか紹介してて、その中に、1つ、僕の興味を引くモノがあった。
 知っている管理人を漢字一文字で表現する、というバトン。
 僕はHPを持っていないから(貧乏事務所ですから)バトンには縁が無いんだけど、なんだか気になって、もし僕が答えるなら、と考え始めてしまった。忙しない奥様番組が慌しく次の話題に移っても、お茶漬けを食べ終わってしまっても、まだ考え続ける。
 僕が考えた『相手』は、例によって例の如く、ムヒョ。最年少執行人、六氷 透。いつもいつもムヒョは僕の中の特等席を陣取っているので、こういう場合も、つい、ムヒョについて考えてしまう。
 もし僕がムヒョを漢字一字で表すとしたら、どんな文字を選ぶだろう?
 考え始めると、意外に難しかった。
僕はもう2年近くムヒョと一緒に暮らしていて、朝も昼も夜も一緒にいる。離れているのは、ムヒョが協会に出向いている時か僕が買い物している時くらい。そんなに一緒にいると、いろんなムヒョを見てしまう。眠そうにしてるのに朝ご飯はがっつり食べるムヒョ、机で書類仕事してるムヒョ、ソファでジャビンを読んでるムヒョ、書を構えて魔法律を行使する仕事中のムヒョ、縦の物を横にもしないものぐさな家の中のムヒョ、軽やかに敵の攻撃をかわす敏捷なムヒョ、眠るムヒョ、笑うムヒョ、怒るムヒョ・・・・・・・・・・・・・ムヒョは、小さな身体なのに強力な魔法律を行使出来て、横暴でイジワルだったりもするけれど、責任感が強くてカッコよくてとても優しい。哀しみに溺れずに厳然たる意志を貫こうとする。揺らぎを最小限に押さえ込んで、不敵に笑って立ち上がる。
そういうの全てを表す言葉を、僕は上手く思い出せない。
 「凛」・・・・悪くないけど何か違う。「毅」・・・・カッコ良さは表せてる気がするけど、優しさは?「優」・・・・足りないな、優しいだけの人じゃないんだ。「器」・・・・人としての器は大きいと思うんだけど、身体が小さいので微妙。「才」・・・・違う、才能だけがムヒョの価値じゃない。
 ボキャブラリーの少ない僕は、食後のほうじ茶を啜りながら呻いた。困ったな、ぴったりの言葉を思いつかない。
 こういうのは一度考え始めてしまうと、ピッタリくるものを見つけなくちゃ落ち着かないんだよね。ほうじ茶を飲み終わった僕は、本棚から漢和辞典を取り出してあてもなくぱらぱら捲ってみる。昔の人が伝えたいと思った事柄の数だけ文字があるはずだから、どこかに、ムヒョにピッタリくる文字もあると思うんだけど・・・・・・・・・・・・・
 しばらくしてわかったのは、漢和辞典の中にはあまりにたくさんの文字が詰まっていて、あてのない調べ物には不向きだ、ということ。手がかりも持たずに文字の森に踏み込んでも、迷子になるばかりだ。なら、別の方法で探そう。
 僕はテレビを消し、ソファから立ち上がって、ムヒョのベッドの傍らに立った。静かな部屋の中で安らかに眠るムヒョを見つめる。
最初からこうすればよかった。日本人の僕の頭の中には、漢和辞典には遠く及ばないにしても、ある程度の漢字が詰まっているはずなんだから、ムヒョを見てて自然に浮かんできた言葉を文字にすればいいんだ。きっと、それで正解だ。
ムヒョは、とても静かに眠っている。いつも通り、寝返りはほとんど打たないし(だから、長く眠る時は床ずれが心配になっちゃって勝手に動かして、後でバレてすごく怒られる)、寝言も言わない。怒ってる時はあんなに怖いのに、険が消えた寝顔は嘘みたいに可愛らしい。頬っぺたなんかふくふくでつついてみたくなる。ぎゅーっと抱きしめてみたくなる(バレたら絶対怒られるけど)。
なんか、本当、今更だけど、当たり前なんだけど、僕はムヒョのこと好きだなあ。大好きだなあ。
寝顔を見ているだけで、世界が満ちる。
傍にいられることが嬉しくて、ほわほわと暖かくなる。起きたら何を食べさせてあげようかと、わくわくする。寝顔があんまり可愛いから、胸がきゅんとする。昨日のムヒョ格好良かったなと思い出せば、うっとりするし。そのムヒョの助手なんだからがんばらなくちゃ、と決意を新たにしたり。このまま眠り続けたりしないよね、いつも通り明後日には目が覚めるよね、と不安になってみたり。僕は一人で忙しい。
眠っていても尚、ムヒョは僕を支配していて、揺るぎなく僕の世界の中心に居る。僕は、ムヒョに出会う前とは別の人になってしまったんだろう。僕はもう、僕一人のモノじゃない。ムヒョのモノだ。
こういうの全部ひっくるめて表現してる文字って、ないかなあ?





「・・・・・・あった」
ふいに思いついた。名案だ。正解だ。僕はちょっと賢いかもしれない。
「ふふふ」
 嬉しくて、唇から笑いが零れた。ぽすん、とムヒョの布団の上に頭を乗せる。ムヒョの匂いと体温を感じた。自分が全開の笑顔になるのがわかる。
 たまらなくなって、布団ごとムヒョをぎゅーっと抱きしめた。ムヒョがむずかるように少し身動ぎしたけれど、離してあげない。だって。だってね。
 僕が思いついた文字は、【好】。
これは、『僕にとってのムヒョ』を表す文字。
僕はもうどうしようもなくムヒョが好きで、ムヒョはそんな僕の気持ちを受け止めてくれてる(たぶん。きっと。あんまりうるさくすると怒られるけど)。
だから、僕は、ムヒョの考えを、心を、存在を、好しとしているし(僕は頭良くないからムヒョの考えがわかんない時もあるけど)、世界の全てが好しとしてくれたらいいのに、と思っている。
そして、世界にはいろんな考え方の人がいて、予測も出来ない様々な事柄が起こって、どうしても誤解は生じるし哀しいことは無くならないけど、ムヒョがいてくれる限り、僕は世界を好しと思える。受け入れられる。世界の価値を疑えない。
僕にとってのムヒョは、そういう存在。
だから、【好】がピッタリ。これで、正解。
やっと納得できる文字が見つかってすっきりして、なんだか嬉しくて浮かれながら、僕はお昼ご飯の後片付けをした。そして、朝チェックしておいた特売のチラシを握り締めて買い物に行こうとして、ふとイタズラ心が芽生える。机の上の油性マジックを手に取って、眠るムヒョに歩み寄った。





暦の上ではもう春のはずなのに、今年の春はちょっと鈍足。桜の蕾もまだ小さくて固くて、風は沁みるように冷たい。コンビニから漏れ聞こえてくる有線は春を歌うけれど、人々は皆寒そうに身を縮こまらせて歩く。だけど、スーパーに向かう僕の足取りは軽やかだ。冷たい風に髪を乱されたって、口元の笑みは消えない。
「ふふ」
 事務所で眠る上司の掌には、先程発見したばかりの『僕にとっての彼の存在を表す文字』が油性マジックで記されている。静かな部屋の中で、彼は、掌の中に、僕の気持ちを握り締めて眠っている。
特売のスウィーティオバナナを抱えて、僕はその部屋に帰り、明後日目覚める彼のためにバナナブレッドを焼くだろう。手抜きのお茶漬けなんかと違って、一生懸命に。彼が眠っている日はとっても寂しいけれど、彼のために出来ることがあるから、僕は幸せ。目覚めた彼は「おいしい」なんて言ってくれないに違いないけど、バクバクとたくさん食べてくれるだろう。僕は、紅茶を注ぎながらにこにこ笑ってその姿を見ているんだ。
それが、僕の望む未来予想図。きっと、叶う。
だから、僕は世界を好しとするよ。春が遅くても、寂しくても、哀しいことが多くても、君が居る世界は好いところ。
「待っててね、ムヒョ♪」





眠りには波がある。睡眠リズムの間隙でふと目覚めた彼は、いつものくせで、起き上がる前に場の気配を探ったが、馴染んだ温かい人影は感じ取れなかった。鍵が掛かった部屋の中は、昼間なのに静かだ。
瞼を開けて時計を見ると、午後1時。この時間に助手が不在ならば、たぶん買い物だろう。そう見当をつけて上体を起こし、部屋を見渡す。以前、彼が深い眠りに落ちていた時、寂しがった助手が食欲を失くして食事を取らず具合を悪くしていたことがあった。その後きつく叱って食欲が無かろうと必ず二食は何か食べると約束させたが、彼には、目覚めてすぐに助手の様子を気にする、という癖ができてしまった。だから、特に荒んだ気配も無いいつも通りの部屋を見て、密かに安堵する。
眠りの波は引いては寄せる。
煉を消耗した彼に必要な睡眠量はまだまだ満たされていない。だから、すぐに、またしても眠りの波が押し寄せてきた。抗うつもりもなく再び眠りの国に旅立とうとして、捲れてしまった布団を直すと、彼は、己の右の掌に文字が書かれていることに気がついた。
助手の筆跡で、油性マジックで、一文字。
「・・・・・・・・本当に、ぱーだな」
 口角を上げた彼は、右の握りこぶしを守る形で、身体を丸める。そして、目を閉じて眠りの波に身を任せた。
 

掌の中の幸福。きっと、好い夢を見る。


【おしまい】
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