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落陽

 シャーマンキング。アンナとファウスト(CPは葉アンナ)。
「ああ、アンナさん待ってくだサイ」
 葉と竜とファウストの特訓を終えて、宿舎に帰ろうと歩いていた時、ファウストに後ろから声をかけられた。
 振り返ったら、太陽光線が目に差し込んで眩しかった。空が赤く染まっていこうとしている。
 少し、目を細める。
「何よ?」
「さっき教えてもらったことで、疑問があるんでス」
 ファウストは、勉強熱心だ。
 元々、医者になるために熱心に勉強した人なわけだし、学ぶことは嫌いではないらしい。
 最初にファウストは、『果たすべき目的があるのなら、学ぶことは決してつらくありまセン。むしろ、自分の存在理由であると感じられマス』と言ったけど、その通りみたい。  
 ファウストは、飲み込みも早い。正直、教えがいがあるとも思う。
 だから、この時もファウストの疑問に答えた。
 




 ファウストの質問に答えた後、茜色の夕陽に照らされて、二人で宿舎に帰る。
 会話はない。
 ファウストにしてみれば、あたしは『エリザと会わせてくれる人』なだけだし、あたしにしても、ファウストの個人的なことに興味があるわけではない。
 いや、違う。興味というよりも、これから葉とチームを組んで戦っていくにあたって、聞いておかなければならないことがある。
「ねえ、エリザって、どういう人だったの?」
 ファウストの、車椅子の動きが止まった。
 あたしも、足を止める。
 最愛の妻を殺された男に、言うべき台詞ではないかもしれない。けれど、あたしはきかなければならないと思った。ファウストの覚悟の程を知るために。ファウストがどれだけ自分を判っているかを知るために。
 例え、ファウストを傷つけたとしても。
「・・・・・・エリザは、素晴らしい女性デス。医者の一族に生まれて、学問しか知らなかったボクに、温もりを与えてくれタ。いつのまにかボクの心に空いていた隙間を、塞いでくれタ。彼女が、ボクを満たしてくれタ」
 思いのほか穏やかな口調で、ファウストは語った。予選の時のことが嘘みたいに、表情
は柔らかかった。
「ボクには、エリザしかいないし、エリザしか欲しくナイ。今も、昔も、これからも。正しくないと知っていても」
 いつのまにか、思い出の中に沈んでると思っていたファウストの視線が、こっちを見て
いた。あたしを、まっすぐ見ていた。
 茜色の太陽が、立ち止まるあたしたちに陰影を刻む。
 ファウストは、葉のチームに誘われたのは、あたしが推したからだと知っている。その
上で、あたしに自分を見せようとしているのだろう。信頼を、得るために。
 彼は、少し苦しげな顔をして、それでも微笑んでいた。
「・・・・・・・もし、予選の時のことを気にしてるんなら、そんな必要ないわ。お互いさまだもの」
 ファウストは葉の友達を傷つけた。葉はファウストの心を傷つけた。お互い様だわ。
「あたしは、謝らないわよ」
「ええ」
 ファウストは見てるほうが胸が痛くなるような、切ない笑顔になった。
 それでもあたしは謝らないけど。
 それは、謝る必要がないって知ってるから。
 だって、痛い方が良いんでしょう?ナイフで切り裂かれたみたいに胸が痛む方が、まし
なんでしょう?
 そうしたら、まだ自分がエリザの事を忘れていないことを確かめられるものね。まだ覚
えていることを確かめられるものね。
 一番怖いのは、忘却。
 ファウストは、最愛の妻を、彼女を愛した日々を忘れ去ることを恐れてる。何よりも。
 彼の中の一番強い感情を、彼を照らした光を思い出せなくなることを恐れてる。
 だから、例え人の道から外れようと、狂気に囚われようと、彼女への思いを手放さない。
 他の何に代えても。
 そんな在り方は、間違っていると言う人もいるでしょう。正しくないと批難する人もい
るでしょう。
 でも、あたしはそんなことしない。
 あたしも、同じだから。



 前にまん太に言ったわ。
『あたしと葉がいる限り、この世に終わりなんか来ないのよ』て。
 それは本当。今も、これまでも、これからも本当。
 葉がいる限り、あたしは諦めない。諦める必要があるとも思えない。
 あたしがいる限り、葉に諦めさせない。葉が自分を悔いて、自分を否定するようなこと
には絶対にさせない。
 でも。
 あたしが死んだらあたしの世界は終わり。これも本当。
 どれほど葉のことが心残りでも、あたしは死んでまでこの世界にとどまる気はない。
 死者のあたしが側にうろついていたら、葉が前に進めなくなるかもしれない。
 ううん。あたしが前に進もうとする葉を阻んでしまうだろう。
 そんなことしたくない。そんなことをする自分は決して赦せない。
 だから、例え葉が望んでくれても、葉の持ち霊にだけは、ならない。決して。
 そして、葉が死んだらあたしの世界は終わり。これも本当。
 葉があたしの全てだから。
 他の者が大切でないわけじゃない。木乃も、たまおも、まん太も、幸せに生きて欲しい
とは思う。
 けれど、葉とは比べようもない。比べることなどできるはずもない。
 

彼は太陽。
 冷たく凍えるあたしを暖めるただ一つの光。
 一歩進むごとに錐が差し込まれたように痛んだ足も、かじかんだ手も、彼の暖かい光で
癒される。
 あたしには、彼が必要。
 

彼を完全に手に入れられるとは思わない。太陽は、この手で掴むことは出来ない。
 けれど、朝が来る度もたらされる光があれば、何があってもあたしは生きていける。
 そして、彼を亡くしたあたしが生きていけるとは思えない。情けないけど。



 だから、あたしはファウストを批難しない。そんな資格ないわ。
 成仏した霊でも召喚する能力を持ち、完全なネクロマンシーの技術を知るあたしは、フ
ァウストよりずっと性質が悪い。
 もしかしたら、いつの日か、あたしは泰山府君の法を手に入れようとするかもしれない。
そうすれば、もう、葉の死に怯えなくて済む。
 葉は、死を無意味にする行為を批難したのにね。
 葉は、きっと望まないだろうのにね。


 あたしは、少し俯いて、また歩き出した。



 
隣を歩くファウストに視線を向ける。逆光で表情はわからない。沈み行く太陽を惜しむか
のように、茜色に焼きつけられる空。
 赤く染まる世界の中で、ただ車椅子の軋む音だけが響く。
 ねえファウスト、あんたわかってるんでしょう?あたしがあんたと同じ選択をしそうな
人間だって、わかってるんでしょう? 
 だから、本当はあんたに会いたくなかった。その姿を見ていたくなかったって思ってるこ
と、知ってるんでしょう? 
 あんた見てると怖いのよ。いつかあたしも同じ目にあって、同じことをしそうで。
 あんたにはエリザしかいないし、あたしには葉しかいない。
 例えそれが間違っていても、もう後戻りなんて出来ない。
 葉を永遠に失うことに比べたら、生命の理を乱すことくらい、どうでもいいことだわ。
 世界より、自分より、たった一人が大切。
 そんな自分の姿を見せ付けられてる気がするのよ。




「アンナさん、葉クンは大丈夫ですヨ」
 ふいに、ファウストが、とても優しい声で言った。
 顔は見えない。足も止めない。
でも、その声は、太陽が最後の力を振り絞って、黄金色に照らした世界に柔らかく響
いた。
その声が、あたしの苛立ちを溶かす。
 本当に純粋で優しいのね。あたしはあんたを利用しようとしてるのに。
 自分の中にある恐怖と絶望を乗り越えるために。もっと強くなるために。
 憎しみにも近い気持ちを抱いて、あんたの存在から目を反らさないようにしてるのよ。
そのあたしの身勝手さを、あんたは赦してくれるのね。
「当たり前よ。シャーマンキングになるのは葉だもの」
 ファウストはもう失ってしまって取り返せないものを、あたしに見ている。だから、あた
しの身勝手さに気がついていても、優しくしてくれる。
 その気持ちを無駄にはしないわ。あたしは強くなってみせる。
 今よりも、もっと、もっと。
 その姿に痛みを感じずにいられるようになるほど。正しいことを受け入れられるほど、強
くなってみせる。
 そしてあたしが強くなったその時には、あんたにビンタかましてあげるわ。『あんたは間
違ってる』って言ってあげる。
 あんたの気持ちに共感できるあたしが、手に入れた強さを見せつけてあげる。
 そうしたら、あんたも未来を信じられるでしょう?あんたも強さを手に入れることがで
きるとわかるでしょう?





 宿舎の手前で、おろおろしてるまん太に会った。
 太陽は今まさに大地に沈んでいこうとしている。だから、まん太の顔がよく見えないの
だけれど、その動きがあまりに忙しないので、とりあえず動転していることは伝わった。
「あ、アンナさん、ファウスト!大変なんだよ!チョコラブが意識不明で道に転がってたんだ!」
 そういえば、さっきチョコラブがくだらないギャグ飛ばしたから、式神でツッコミを入
れたわね。
 まあ、殺すほど力を入れたつもりはないし、あいつも仮にもシャーマンキングを目指す
男なんだから、たいしたことにはなってないでしょう。
 自業自得よね。
「何が原因なんだイ?」
「わかんないよ。瓦礫に埋もれてたんだ。ミックに聞いても、すっかり怯えちゃってしくしく泣いてるし。とにかくチョコラブを診てあげてよ!」
「わかりまシタ。行きまショウ」
 ファウストは、いつも持ち歩いてる診察カバンを抱え直して、まん太について行こうと
して、・・・・・・あたしを見た。
 何?
「ありがとう、アンナさん。そして、これからもよろしく」
 ファウストは、太陽が大地に沈む間際の、その一条の光を受けて、優しい、本当に優し
い微笑を浮かべた。それは、彼がエリザを思い出した時に時折見せる笑顔で・・・・・・・・
胸が、いっぱいになる。
あたしは、本当にファウストを強くしようと思う。あたしの知る限りのネクロマンシーの
技術を教えようと思う。彼がエリザと再会できるように。
 彼がこの世界をたった一人で彷徨い歩かなくてよくなるように。
「ええ。こちらこそ」
 だからあたしも、微笑んだ。できるだけ優しく。
太陽は沈み、夜が空を支配する。ファウストに、建物の影になっているこの場所に立つ
あたしの顔が見えるはずがない。
 でも、あたしの、この、気持ちがファウストに伝わることを信じてる。
 

あんたは必ずエリザに会える。
 あたしは必ず強くなる。
 だから、その時まで、お互いに利用しあいましょう。
 ね、ファウスト。







「ただいま、葉」
「お帰り、アンナ」
 そして、あたしは、あたしの太陽が待つ部屋に帰った。
                                         END 
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