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夜明け前

 シャーマンキング。アンナと蓮(CPは葉アンナ)。
 ずっと見ないようにしていたモノがある。
  それは、とても、ちっぽけな望み。






 背中を伝う汗が気持ち悪くて、オレは身を起こした。
 窓辺には夜の星。まだ朝は遠い。
 もう一度横になる気にもなれず、オレは夜の中に出て行った。
 パッチの選手村を、当ても無く歩く。
 ほんの少し欠けている月は、それでもかなり明るい。街中などとは比べ物にならないほど、月と星の光を感じる。
 夜の選手村は、当然のことだが、昼間に比べると静かだ。
 しかし、完全な静寂ではない。
 そこここから感じる人の気配、夜になって活発になった霊たちの気配。どちらも、この夜を沈黙させやしない。むしろ、耳に聞こえる音以外でなら、昼間より騒がしいかもしれない。
 オレは、それが嫌ではない。
 完全な静寂よりも、ずっといいさえと思う。
 以前のオレなら、そうは思えなかっただろう。
 夜になって感じる安らぎに満ちた人々の気配を、嫌悪し、憎悪し、破壊欲求を感じていたに違いない。暖かい寝床でまどろむ人間たちの存在に、どうしようもない苛立ちを感じずにはいられなかっただろう。すべてを破壊し、世界を完全に沈黙させてやりたいと願ったはずだ。
 けれど今は違う。
 オレは、変わった。
 もう、以前のオレではないのだ。

 

ずっと見ないようにしていたモノがある。
  それは、とても、ちっぽけでくだらない望み。
  なのに、夢を見た。
  夢の中のオレは、笑っていた。



 気がつくと、グレートスピリッツの近くまできていた。
 月が明るかったとはいえ、やはり明かりが恋しかったのか、知らず知らずのうちに、明るいほうに歩いてきてしまったらしい。
 特に意図していたわけではないが、あの光の奔流を眺めるというのもいいかもしれない。見るたびに畏敬の念を抱かずにいられない、あの光を。
 オレはより光が強い方に歩いてみる。
「ム?」
 少し向こうに、光の柱のすぐ側に、一人の人影が見えた。
 背筋を延ばして立つ後姿に、見覚えがある気がする。
 もう少し、近づいてみる。
 横顔が見えた。
 静かな夜の中、玄妙な光に照らされて立っていたのは、葉の許婚だった。
 オレは足を止めた。
 


 ずっと見ないようにしていたモノがある。
  それは、とても、ちっぽけでくだらなくてバカバカしい望み。
  なのに、夢を見た。
  夢の中のオレは、笑っていた。
父と、母と、姉と、祖父に囲まれて、まだ幼いオレは笑っていた。
  そんな記憶などないというのに。



 正直、オレは困っていた。
 自分がどうするべきなのかわからなかった。
 相手は、顔見知りだが、直接口をきいたことはほとんど無く、ましてや二人で話した事など一度も無い。
 おまけに今は真夜中。同い年の女に声をかけるべきか否かは、実に微妙な問題だ。
 こんな時間にこんな場所にいるということは、誰にも会いたくなかったのかもしれない。それなら、このまま声もかけず、見なかったことにして立ち去るべきだろう。
 しかし、相手がこちらに気がついているなら、無言で立ち去るオレをどう思うだろう?なら、声をかけるべきか?でもなんて言うんだ?挨拶するのか?「こんばんは。いい夜だな」とでも言うのか(それは何か違うぞ)?
 ・・・・・・・・本当に困った。どうするべきかわからん。
 昔のオレなら、こんなこと思いもしなかっただろう。こんなことを考える人間をくだらないと見下していただろう。人の機嫌を取ろうとするつまらない奴だと。
 けれど、そうではないことが今のオレにはわかる。
 嫌われてしまうのは仕方の無いことだが、故意に相手を不快にさせたり傷つけたりすることはない。自分にされたくないことをしてはいけない、それは人間関係の初歩の初歩だ。
 ちゃんと人間関係を築こうとしていなかったオレは、そんなことすら最近になるまで知らなかった。情けないことだと思う。そんなことすらわからないままシャーマンキングになったとして、昔のオレはどうするつもりだったのだろう?
 オレを力で支配しようとする家を何よりも憎んでいたけれど、オレも、力で支配しようと、嫌っていた父と同じ事をしようとしていたのだ。
 そのことに気づかせてくれたのは、その憎しみの連鎖の愚かさに気づかせてくれたのは、葉だ。
 だから、まあ、その、なんだ、葉はオレの生まれて初めてできた友達だ。
 今は違うチームになり、今後敵として戦うこともあるかもしれないが、それでも、オレの友達だ。
 そして、その葉の未来の妻であるからこそ、この目の前の女にどう接するべきかわからないのだった。



 ずっと見ないようにしていたモノがある。
  それは、とても、ちっぽけでくだらなくてバカバカしくて子供っぽい望み。
  なのに、夢を見た。
  夢の中のオレは、笑っていた。
  父と、母と、姉と、祖父に囲まれて、まだ幼いオレは笑っていた。
  そんな記憶などないというのに。
実際は、幼いオレの周りにあったのは、夥しい数の死と、憎しみと、冷たい部屋。
  オレに在ったものはたったそれだけ。



「すごいわね」
「ム?」
 突然、振り返りもせずに、恐山アンナが話し出したので、オレは少し驚く。
 星の瞬く音すら聞こえそうな漆黒の夜の静寂の中、その声はよく響いた。
 勘が良いとは聞いていたが、足音を立てなかったはずのオレのことをとっくに気がついていたらしい。  
 さすがだな。葉がシャーマンキングになることを信じているこの女は、自分をシャーマンキングの妻になる女と公言して憚らないが、確かにそれだけの実力は持っている。
 それは、1000年前に記されたハオの秘術の全てを収めた書、超・占事略決をごく短期間でマスターして、人に教えることができるという事実で充分に証明されていることだ。
「この、天の柱よ。こんなにバカバカしくて荘厳なモノって、ほかにないと思うわ」
「・・・・バカバカしい?」
 全てを知り全てを叶える全知全能の精霊王、グレートスピリッツの圧倒的な光がバカバカしいとはどういうことだ?このグレートスピリッツを手に入れた者が、この惑星の王になるのだぞ。
「あら、そうは思わない?」
 そう言って振り返った女の瞳は、複雑で幻想的なグレートスピリッツの光が映って、何色とも言いがたい不思議な色になっていた。
「思わんな」
 これほど壮大な存在をバカバカしいと言い切るこの女が、オレには信じられない。
精霊王がどんな存在であるかは、この凄まじい光の奔流を目にしたら、すぐに感じ取れる。この光を目にするだけで、自らのうちに眠る太古の記憶が呼び覚まされ、この星に生きる生命である自分を痛いほど感じるというのに。
「何故そう思うのだ?」
 この女が頭が悪いわけではない。それどころか、確かな判断力と実行力、その裏づけとなる経験と豊かな知識を兼ね備えていることは、知っている。だからこそ、オレは不思議に思う。
「だって、たった3ヶ月しか見られないのよ、この光は。でも、この光が見られなくたって、精霊王はずっと存在してる。この世界が生まれた時から、この世界が終わる日まで。ずっと。だから、この光を見て感じることは、何時だって、世界中の何処にいたって、感じることが出来ることのはずでしょ。なのになんで今さら、ありがたがらなくちゃいけないの?」
「!」 
 オレは、驚いた。
 そんな考え方があるなんて、思ってもみなかった。
 オレは、シャーマンキングになると言いながらも、この光の柱を目にするまで、精霊王が示す生命の理を実感したことはなかった。
 なのに、この女は、いつも感じていたと言うのか?
「精霊王は、何時だって、何処にだって在るのよ。全知全能ってそういうことだもの。この光を見たら、誰でも、全ての生命が円環を成すモノであるってことを感じるけど、それは最初から、この世界に生まれた時から、誰もが知っていたはずのことなのだから」
 オレの驚きなどに構わず、天気の話でもかのするように、この女は続ける。
「・・・・オレは、知らなかった」
 そんなこと、オレは知らなかった。精霊王を、生命の真理を、何時でも何処にでもあるものだなんて、考えることは到底出来なかった。
 かつてのオレは、この地上は穢れ病み果て、穢れを切り捨てることが、浄化する唯一の方法だと思っていた。この地上の全てが、精霊王の真理を内在しているなどとは考えもつかなかった。
 オレにとって、理想も、美しい世界も、生命の真理も、はるか彼方に浮かぶ虹のように、決して捕まえることも近づくことも出来ないものだった。絶望せずにはいられないほどに、あまりにも遠い存在だった。いや、オレ自身が、それらのものからとても遠かったのだ。情けなくなるほどに。
 オレの中にそんなものはなかった。誰も与えてくれなかった。ただ破壊しか知らなかった。ずっとそうやって生きてきた。
 オレのこのちっぽけな身体を満たしていたのは、憎しみだけだったのだ。
「忘れてただけよ。でもあんたも、もう思い出したんでしょ?だったらいいじゃない」
 この女は言う。現在、知っているなら、手に入れたなら、満たされたなら、それでよいではないかと。
「だが・・・・・」
 未来がわからないのと同様、過去は変えられない。
 オレがあまりにも愚かであった事実は消えることがない。
 オレはオレの内に巣食う暗闇に負けて、あまりにもたくさんのものを壊してしまった。人を、殺しすぎた。
「例え思い出したとしても、忘れていたことは変わらない」
 死んだ人間はかえってこない。過去は変更できない。オレの犯した罪は、決して消えない。この手はいつまでも血の赤に染まったまま・・・・・ 



ずっと見ないようにしていたモノがある。
  それは、とても、ちっぽけでくだらなくてバカバカしくて子供っぽくて憐れな望み。
  だから、夢を見た。
  夢の中のオレは、笑っていた。
  父と、母と、姉と、祖父に囲まれて、まだ幼いオレは笑っていた。
  そんな記憶などないというのに。
  実際は、幼いオレの周りにあったのは、夥しい数の死と、憎しみと、冷たい部屋。
  オレに在ったものはたったそれだけ。
  長い間、そんな自分が嫌で仕方が無かった。
  ずっと冷たい夜しか知らなかった。



「それはそうだけど、でも、そんなことは立ち止まる理由にはならないわよ」
 その言葉に、オレはいつのまにか俯いていた頭を上げる。
 目の前の女は、まっすぐこちらを見ていた。すぐ近くの、優しく柔らかく懐かしい天の柱の光とは違う、力ある眼差しだ。鋭すぎて痛いくらい。
 オレの中の澱みを容赦なく滅ぼしていく。鮮烈な、光。
「むしろそれは進む理由でしょ。完全な償いなんかできるわけないけど、でも過ちを知って、それで初めて気づくことだってあるわけでしょう。過ごした時間は取り戻せないけど、それを無駄なものにするかどうかは自分次第よ。いつだって今が新しい時間の始まりなんだから、朝が来るかぎり、太陽が昇るかぎり、できることはあるはず」
 慰めでなく、癒しでなく、ただ淡々と当たり前のことを告げる口調で、この女は言った。
 なら、このオレにも、返り血の染み付いたオレにも、いや、そのオレだからこそできることが在るのだろうか?
「だいたい、夜の間だって太陽が消えてしまったわけじゃないわ。太陽が地球の裏側を照らしてただけ。夜の間も、ずっと在ったのよ。無くなったりしてない。それに、夜が在るから、あたしたちは太陽のありがたみを確認することができるわけでしょう?違うかしら?」
「違わないな」
 夜の暗闇を知るから、太陽の明るさをかけがえなく感じるのだ。
 無くす不安があるから、過ちを知るから、今を大切にできるのだ。今がかけがえの無いものだということを忘れずにいられるのだ。
 太陽はいつも在ったのだ。オレが気づかなかった間も、オレがオレの嫌悪するオレであった間も、ずうっとそこに在ったのだ。
 オレの犯した罪は消えない。過去は変えられない。償いなんか出来ない。それは本当。
 けれど、前に進むことはできる。自分の過ちを知って、それを忘れずにいても、それでも前に進むことができるのだ。
 オレは、葉に出会って変わることが出来てから、新しいオレになってから、ずっと昔のオレを恥じていた。拒絶して、忘れ去ろうとしていた。
 だが、それは違うのだな。
 自分を拒絶しても仕様が無いのだ。
 変わることが出来た今のオレの中に、昔のオレがいるのだ。そして、それは恥じなければならないことでは、ない。
 オレは、この地に在って在る者。
 いつの時もオレはオレであって、オレが望むかぎり、いくらでも前に進むことができるのだ。
「あら良い返事ね。だったら、いいものを見せてあげるわ」
「いいもの?」
 困惑するオレに構わず、ついてらっしゃいと言って目の前の女が歩き出すから、オレは慌ててその後を追う。
 この女の後姿は、明るい月の光に照らされて、見失いようも無かった。



ずっと見ないようにしていたモノがある。
  それは、とても、ちっぽけでくだらなくてバカバカしくて子供っぽくて憐れで真摯な望み。
  だから、夢を見た。
  夢の中のオレは、笑っていた。
  父と、母と、姉と、祖父に囲まれて、まだ幼いオレは笑っていた。
  そんな記憶などないというのに。
  実際は、幼いオレの周りにあったのは、夥しい数の死と、憎しみと、冷たい部屋。
  オレに在ったものはたったそれだけ。
長い間、そんな自分が嫌で仕方が無かった。
  ずっと、冷たい夜しか知らなかった。
けれど、今のオレは太陽を知ってる。
欲しいのなら、この手を伸ばしてもいいということを知っている。

  

 着いた場所は葉の宿舎だった。
 真夜中なのだから、灯りも人の声もない。
 ここに何があるというのだろう?
 オレに静かにするよう注意して、女は、灯りをつけず足音を立てずに中に入った。仕方なく、オレも後に続く。
 女がオレを連れて行ったのは、葉の部屋だった。
「ほら、あれ」
「?」
 部屋の入り口に立った女が小声で葉を指差すので、オレもそちらを見てみる。
 葉はベッドからかなりはみ出て寝ている。今にも落ちそうだ。そう、こいつは寝相が悪いのだ。一緒にパッチ族の村を目指している間、何度も朝になると床に転がっていた。
 この姿の何が珍しいと言うのだろう?
「これ」
 腑に落ちない顔のオレに業を煮やして、女はオレをベッドのすぐ側まで連れて行った。
 葉は口を開けていかにも幸せそうな顔をして寝てい・・・・・
「ぷっ」
 思わず、オレの口から変な音が漏れる。だって、いくらなんでもこれはないだろう!?
 葉は、思いっきり顔に落書きされていた。
 鼻の下には髭。頬には渦巻き。瞼の上に目。
 そして、額には大きく太陽のマークが描かれている。
 オレの声に反応したのか、葉が寝返りを打つ。しかし、場所と体勢が悪い。葉は床に落っこちる。
「んん」
葉の奴、床に落ちたショックで目が覚めたようだ。ごしごしと目を擦っている。
「あれ?アンナ?蓮?」
 最もまだ寝ぼけているようだが。
「おはよう、葉」
 落書きをした張本人に違いないこの女は、何食わぬ顔で葉に挨拶する。
「んお、もう朝か?」
 落書きされてることに気づいていない葉は、呑気な声。
「いいえ、まだ夜よ。でも太陽はここに在るけどね。ね、蓮?」
 なんでもないような顔をしてそう言われたら、もちろん、
「そうだな」
 こう返すしかあるまい。
「くっくっくっく」
 わけがわからない顔をしている葉と知らん顔してる恐山アンナの隣でオレは笑った。 



オレに新しい世界を教え、光と暖かさをもたらした太陽が葉ならば、この女は夜明けの女神。夜を切り開いて太陽を連れて来る。






ずっと見ないようにしていたモノがある。
  それは、とても、ちっぽけでくだらなくてバカバカしくて子供っぽくて憐れで真摯な望み。
  だから、夢を見た。
  夢の中のオレは、笑っていた。
  父と、母と、姉と、祖父に囲まれて、まだ幼いオレは笑っていた。
  そんな記憶などないというのに。
  実際は、幼いオレの周りにあったのは、夥しい数の死と、憎しみと、冷たい部屋。
  オレに在ったものはたったそれだけ。
長い間、そんな自分が嫌で仕方が無かった。
  ずっと、冷たい夜しか知らなかった。
けれど、今のオレは太陽を知ってる。
欲しいのなら、この手を伸ばしてもいいということを知っている。
  そして、実はもうとっくにこの手の中にあったりするのだ。



  夜明け前に、せっかちな夜明けの女神が明るくて暖かい太陽を連れてきたから、オレは笑った。


END
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