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晴れた空の下で

 シャーマンキング。アンナとホロホロ。CPは、葉アンナ。
 吸い込まれそうな、青い空。
 どこまでも続く、空。
 目が洗われるような、青。

 太陽は、頭の真上。
 あまりにも眩しく輝いている。
 目をつぶっても、瞼の裏の残像は消えない。 






「あら、ホロホロ」
 広場の隅に腰掛けて、空を仰いでいると、オレの名を呼ぶ声が聞こえた。
 閉じていた目を開けると、そこには葉のかみさんがいた。いつもの黒いワンピース姿。首には赤いスカーフと数珠。色白の彼女には、よく似合っている。
 かみさんは、昼時で人通りのある通りを、まっすぐにこっちにやって来る。
「んあ、あんたか」
「あんたもお昼休み?もうご飯は食べた?」
「?ああ、食ったけど」
「そう。なら、ちょうどよかったわ。あんた暇かしら?暇よね。暇なのね。じゃあ、あたしの買い物に付き合いなさい」
かみさんがさっさと歩き出すから、俺は慌ててついてった。
 いや確かに暇だけどよ。でもかみさん、ちょっとくらいこっちの意思も聞いてくれよ。
「・・・・いいけど。葉のやつはどうしたんだよ?」 
「竜やファウストとシャワー浴びてるわ。汗かいたからね。たまおは晩御飯の買出し。まん太はその荷物もち。本当はたまおに頼めばよかったんだけど、あの子が出てから思い出したから」
「なるホロ」
それで珍しく一人で買い物、てわけだ。オレが炎で居候してた時には、一人で買い物に行く姿なんか見たことなかったからな。
「何買うんだ?」
「林檎」
「何処で売ってんだ?」
「この広場には売ってないわ。ここをぐるっと回った奥の方よ」
 かみさんはその方向を指差した。この選手村の地図はもう頭に入ってるらしい。
 あれ、ならなんでオレをお供に連れてくんだ?荷物持ちか(どれだけ林檎買うんだよ)?
 彼女は、人込みや煩わしいことを嫌うタイプの人間なのに。
そのことを尋ねてみると、意外な言葉が返ってきた。
「・・・・ホロホロ、あんた、今このパッチの選手村の男女比率がどうなってるか知ってる?」
「へ?」
 男女比率?
 そー言えば、あまり女性の姿を見ない。今この通りはそれなりに人がいるが、女はかみさん一人だ。だから、やっぱり注目されてるらしい。道理で、さっきからやたら視線を感じると思った。
「この状態で、女の子が一人歩きしたらどんなことになると思う?」
「ああ、そっか」 
オレが一緒にいる今でさえ、あからさまに視線を感じるんだ。もしかみさん一人で歩いていたら、ナンパされまくりだろうな。
何しろ、シャーマンファイトは過酷な大会だ。女性選手は男性選手より、ずっと人数が少ない。そして、そんな大会を勝ち抜いてここまで来た女性選手は実力も半端じゃなかろうと思って、皆あまり手を出さないみたいだ。だから、葉の付き添いのかみさんが狙い目に見えるんだろう。
 けど、葉のかみさんは、それはもう強えんだけどな。
オレはまだはっきり実力を見たことがねえが、ハオの秘術を記した超・占時略決をマスターして人に教えられるくらいなんだから、もしかしたら、現時点ではオレらのチームで一番強いのかもしれねえ。
しかし、そんなことは見ただけじゃわからない。
「全く冗談じゃないわ。あいつら何しにここまでやって来たのかしら。この前なんか、『君に捧げる歌を~』とか言って、道端で歌いだすから、式神でぶっ飛ばしてやったわよ」
 かみさんは、そのことがかなり不愉快だったようで、眉間に皺を寄せてる。
 でも、オレは、かみさんがそこまでナンパされるのは、単に男女比率だけの問題じゃないと思う。
 なにしろ、葉のかみさんは、滅多にお目にかかれないくらい綺麗な女の子だからだ。
 オレの妹のピリカも、(兄の欲目でなく)かなりカワイイほうだろうと思うが、かみさんはまた種類が違う。
 ピリカがまっさらの新雪だとしたら、かみさんは真冬の早朝のようだ。
 冷たくて、肺が凍るほど冷たくて、寒いを通り越して痛いくらいなのに、果てしなく澄んだ美しい朝。神聖にすら感じられる、朝。
 かみさんはそんな感じの女の子だ。そりゃ、野郎連中からちょっかいかけられるだろう。





「お、ホロホロと、・・アンナちゃん?珍しい組み合わせだな。どうしたんだ?」
 今日の八百屋はシルバの担当だったらしい。露天商の八百屋だ。道に売り物を広げた中にシルバが座ってる。
「いや、なんかな、そういうことに・・・・」
「どうでもいいことよ。それよりビンボー祭司、林檎はこれだけ?」
 林檎が三つ入った籠を指差したかみさんは、オレの言葉をあっさり遮る。
 しっかし、ビンボー祭司とはまたキッツイ。ま、かみさんらしいけどな。
「あー、ごめんね。今そんだけしかないんだよ。夕方までに、十個くらい追加が届くことになってんだけど」
 ビンボー祭司と言われても、堪えてないらしいシルバが答える。
 まあ、貧乏なのは本当のことだ。カリムから、四畳半一間の電気の止められた部屋で、大の男が二人東京の夏を越した話を聞いたときは、オレも同情したぜ。
「じゃあ、とりあえず今あるだけもらっていくわ。その後、夕方にでも六個持ってきてちょうだい。」
「葉の宿舎に持ってけばいいのかな?」
「そうしてちょうだい。代金はまとめて今払うわ。いくら?」
「えーと、1350円」
 オレは、ちょっと高いんじゃねえか、と思った。
「!?高いわよ!380円ね」
 それは値切り過ぎだろ、と思った。
 そういえば、選手村で再会した時も、かみさんはものすごい値切り技を見せてた。あの後店番のカリムは、魂が抜けてた(可哀想に)。
「そ、そりゃないぜ。よく見てくれよ。これ、すごくいい林檎なんだから。蜜もたっぷりなんだよ。絶対甘いって。ここまで運んでくるのにも、金がかかってるし。せめて、1260円」
 よく見ると、籠の林檎は、確かにかなり大きくて、色艶がそんじょそこらのものとは違う。生き生きした瑞々しい赤だ。
 こんなに質のいい林檎をこのパッチの選手村まで運んでくるのは、確かに大変だろう。
「煩い。392円」
 しかし、かみさんはシルバの訴えに全く動じない。仁王立ちで睨みつけている。
「そんな~。いくらなんでもそれは無茶だよ、アンナちゃん。1100円」
 シルバが憐れっぽく抗議する。
「ちゃん付けで呼ぶなって言ってるでしょ。どうせ林檎九個も買うのはあたしくらいしかいないんだから。まけなさい。401円」
「だから、まけてるし、配達もするじゃないか。1020円」
「しつっこいわよ。404円」
・・・・・・・・・・・・・
 この調子でこのやり取りは続き、結果、当然ながらかみさんが勝って、値段は413円になった。
 シルバは、・・・・泣いていた。
 さすがだぜ、かみさん。
 さすが、シャーマンキングの妻になる女と名乗るだけのことはあるぜ。





「はい、アンナちゃんどうぞ・・・・・・」
 ボロボロと涙を流して、シルバが3個の林檎を紙袋に詰めた。かみさんは413円をきっちり支払う。
「今日中に、追加分を持ってきてちょうだい」
 そう言い放って、かみさんは振り返りもせずに八百屋を後にした。オレもついて行く。
 林檎は3個だけだが、シルバが言ってたとおり、かなり立派な林檎なので、かみさんはちょっと持ちにくそうにしている。
 袋から顔を覗かせている艶のある赤い林檎を押さえるかみさんの手は、細くて、小さくて、とても初対面のオレに見事なアッパーを喰らわしたのと同じ手だとは思えない。
 林檎の赤が、かみさんの手をいっそう白く見せている。陶器のような滑らかな白さだが、陶器のように少し冷たいのだろうか、そして陶器よりもっと柔らかいんだろうか・・・・
 っと、何考えてんだオレ?
「かみさん、持つよ」
 かみさんの手をぼんやり見てたことを誤魔化したくて、俺は紙袋を取り上げた。
「あら、気が効くわね」
「まあね。ピリカ曰く、『お兄ちゃんは男の人なんだから、女の人に親切にする義務があるのよ』ってね」
 本当は、その後に続く言葉があったのだけど、それは言わないでおく。
「ピリカ、ね。あたし、あの娘とは結構話をしたわね」
 そういえば、ピリカは最初葉に反感を示したくせに、居候することになってからはすっかり炎に馴染んでた。特に、この葉のかみさんを気に入ったらしくて、『アンナさんが本当のお姉さんだったらいいのに』とまで言ってた。
「どんなことを話してたんだ?」
「いろいろよ。効果的な修業法だとか、人間の限界点はどこらへんかとか、・・・・・・・・」
 ・・・・・・・なんでそんな恐ろしいこと話してんだよ。
「他にも、いろいろ。ピリカの好きな色とか、上手な雪だるまの作り方とか、あんたの名前の由来とか、あんたが蜂蜜取ろうとして蜂に刺されたこととか」
「うおっ。な、なんでそんなことまで」
 ピリカのやつ~、どこまで喋ったんだ?もしや、アレとか、ソレとか、アンナコトとかも喋ってたりして・・・・・・・・
「え、ええと、シルバのやつ大丈夫かなあ?泣いてたけどさあ」
 このままではヤバイ展開になりそうなので、オレは強引に話題を変える。
「・・・・シルバって、ああ見えて結構押しが強いけど、肝心なところで詰めが甘いから、結局貧乏くじ引くタイプよね」
 ・・・・・何で女の子ってのは、根拠のないことを自信たっぷりに断言するんだろうな。
 そんで、どうしてオレにもそれが正しい気がするんだろうな。
「でもよう、かみさん。あの値切り方はいくらなんでもなあ・・・・」
「自業自得でしょ。パッチ族はつくづく商業活動に向いてないわね」
 かみさんは一刀両断。ズバッという効果音が聞こえてきそうなほどだ。
「かみさん、もうちょっと情けをかけてやれよ」
「何言ってるのホロホロ。値切りは戦いよ。勝負事に勝者と敗者がいるのは当たり前のことだわ」
 その時、あまりにもはっきり言い切るかみさんを見て、オレの中でもやもやしたものが蠢いた。
 オレの心の中でずっとわだかまってたものが、疼きだす。
それは、ずっと心の中にあったもの。
 ・・・・・・あんたが言ってることは、間違ってない。間違ってはいないけど、でも、オレはそんなふうに割り切れねえ。
「・・・・じゃあ、負けたやつはどうすりゃいいんだ?そいつの気持ちとか、そいつを信じてくれたやつの気持ちとかはどうなるんだ?」
 真昼の太陽に照らされた道は、少し埃っぽい。入り組んだ路地は、迷路みたいだ。この道が行き着く先が、わからない。
「あんた、バカね」
 少し俯いてたオレをちらりと見て、彼女は冷たいと感じるくらいの声で言った。
「っな、なんだよ!」
 オレは、頭に血が昇るのがわかった。
あんたが歯に衣を着せぬ女だってのは知ってるけど、そんな風に言うことないだろ!
オレの妹のピリカは、オレがシャーマンキングになることを望み、信じてくれてる。あんたは、葉がシャーマンキングになることを信じてる。蓮の姉ちゃんだって、蓮の勝利を祈って信じてるだろう。
 でも、シャーマンキングになれるのは、たった一人だ。
 じゃあ、他のやつの気持ちはどうなる!?
 ・・・・・・・・オレは、葉と初めて対戦した時、ものすごく驚かされた。自分がシャーマンキングになったら、オレの夢も叶えよう、と言い出したあいつに。
 なんて気持ちのいいやつだろう、と思った。その器の広さに惹かれたから、ダチになろう、と思った。
 そして、オレも、オレに負けたやつの夢すら受け入れられるシャーマンキングになることを誓った。
 だけど、あの時ピリカは悔しそうだった。葉に取った態度は八つ当たりだってわかってて、でも、気持ちが納得できなくて、苦しそうだった。オレは、そんなピリカを見てるのが少しつらかった。
なあ、信じてる相手が負けちまったら、そいつはどうすりゃいいんだ?
「結果がどうなろうと、信じた気持ちは、何も傷ついたりしないわ。結果だけが、全てじゃないでしょ。それまでに得たモノがあって、それは、結果がどうなろうと損なわれるわけではないわ」
 オレは彼女の横顔を見てた。
 少し遠くを見て、太陽の下に毅然と立つ彼女は、これまで見たことがないほど美しかった。形の良い唇から、真実の言葉が紡がれる。
「信じることは、捧げること。見返りを求めることではないわ。例え望んだ結果が手に入らなくたって、それで何もかもが終わるわけじゃないもの。生きているかぎり、続いていくのよ」 
 まっすぐな眼差しの彼女の、まっすぐな言葉だった。誰にも、歪めたり汚したりできない言葉だ。
 オレの中にあったもやもやしたものを吹き飛ばしてく。
「そうだな」
 オレは顔を上げた。
 負けることで全てが終わるわけじゃない。その経験を生かすことが、きっとできるはずだ。そしたら、何も無駄になんかならない。
 信じた気持ちを恥じる必要なんかないんだ。
 青い空には、雲一つなかった。





 それからしばらく二人とも無言で歩いた。
 話さないでいても、全然居心地悪くなんかなかった。
 でも、すぐに葉の宿舎に着いちまった。
 彼女が帰る場所に。
「ほい。これ」
 オレは彼女に、紙袋を返す。
「寄ってかないの?」
 彼女が、じっとオレを見る。
「ああ。もうすぐオレんとこの休憩時間も終わりだしな。蓮のやつ時間に煩いからな~」
 本当は、ちょっと寄ってく位の時間ならあったけど、オレはそう言った。
「なら、これあげるわ」
 彼女はオレに林檎を一つ差し出した。小さな彼女の掌に余る、大きな林檎。
「いや、でも・・・・・・」
「柄にもなく遠慮なんかしなくていいわよ。一応、これはお礼だから」
 彼女はオレの手に林檎を押し付けた。
 一瞬だけ触れた彼女の指は、予想どおり、少し冷たかった。
 さっき言わなかったピリカの言葉の続きが、頭の中にこだまする。『義務を果たしたら、きっとイイことがあるわ。女の人は親切な男の人に好感を抱くものだもの』
「んじゃ、もらっとくぜ。葉のやつによろしく」
 今のオレの顔を見られたくなくて、オレは彼女に背を向けた。
 足早に遠ざかろうとしたオレの背中に、彼女が言葉を投げる。
「ホロホロ、さっき言ったことだけど」
 え?
 オレは首だけ振り返った。
逆光で、彼女の顔に少し影が落ちてた。
彼女は、オレをまっすぐ見てた。
視界に入った太陽が眩しくて、オレは少し目を細める。
彼女が、口を開く。
「葉がシャーマンキングになるから、あたしは望む結果を手に入れるわよ」
 ・・・・・・・・!!
 かみさんは、それだけ言うとさっさと宿舎に入っていった。
「・・・・まいったな」
 ・・・・・・・・・・かみさんは、やはり、キッツイ女の子だ。
 





 

 晴れた空の下で、貰った林檎にかぶりつく。
 誰もいない道に落ちる影は、短い。

 太陽は、さんさんと明るい光を降り注いでいる。
 甘いはずの林檎は、思ってたより少し甘酸っぱい。
 

目をつぶっても、やっぱり、瞼の裏の残像はなかなか消えてはくれなかった。 


END
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