コンテントヘッダー

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コンテントヘッダー

今日のワンコ

 鋼の錬金術師。ロイアイ。
 注:ほのぼの調教モノです。

 つい先日、俺は運命的に愛犬と巡り合った。
 一目見て、すぐにわかった。
 このコが俺が待ち望んでいたコなんだ、と。
 でも、まだ稚いこのコはそれがわかっていないらしい。
 だから、優しく優しく教えてあげよう。
 君は俺のなんだ、と。












暗い。
 暗闇の中で目を覚ました私は、一瞬、まだ夜が明けていないのではないかと誤解しそうになったが、すぐに自分が置かれた状況を思い出した。
 暗いのは、頭を覆う形で毛布が被せられているからだ。自由の利かない手足をそれでも捩ってなんとか毛布を頭から外すと、周囲を見ることが出来た。
 時刻は、おそらく夕刻(灯りを点されていないテントの中が薄暗い)。場所は、決して大きくは無いが1人で使うには充分過ぎるほどの広さのあるテントの、簡素な寝台の上。状況は依然として変わらず、手足を拘束されている。
 我知らず、ため息が漏れた。
 5日前、私は師父より命じられた国家錬金術師暗殺のために、前線に赴いた。
 国家錬金術師が試験的に戦場に用いられるようになってまだ間もないが、奴らはその短期間に信じられないほどの数の人々を殺害した。一応人間の形をしてはいるが、地を蝕む悪魔であるとしか思えない。奴らは、全能のイシュヴァラの御手により創られた世界を無理矢理変形させんとするその不敬なる錬金術を用いて、罪無きイシュヴァールの民を屠り続けている。
 そのような非道に裁きを下すために、私は送り出された。
 標的は、焔の錬金術師ロイ・マスタング。
 ロイ・マスタングなる錬金術師は、元素を操ることが専門で、錬成陣の描かれた発火布の手袋を擦り合わせて火花を出し、その火花を触媒として任意の場所に任意の威力で爆発を生じさせられるという、戦闘に特化した錬金術師であり、奴が生み出した煉獄の犠牲となった同志の数は数え切れない。
 私も一度、奴が蹂躙した後の戦場を見たことがあるが、それは酷い有様で。同志の死骸を見慣れてしまった私でも、言葉が出なかった。
 其処にはもう何も残ってはいなかった。
 通常の戦場ならば、傷つき壊れかけようていようとも物も人も戦前の面影を残している。だが、奴の焔はそのような儚い面影を残すことすらせず、全てを燃やし尽くしていた。
 一切の慈悲無き、無情なる業火。
 戦闘訓練を経て戦場を駆け幾人も敵を屠った経験がある私だったが、その時は、冷水を浴びせられた時のように心底ゾっとした。
 それ故に、その焔の錬金術師を暗殺する任を与えられた時、私は自身を誇らしく感じた。生まれのために幼い頃から蔑みを受けていた私だが、そうであっても、射撃の腕は数多の同志の中でも随一と認められていた。だから、この任を果たせば、誰もが私をイシュヴァールに必要な戦士として認めてくれるだろうと、そう信じた。
 イシュヴァールの部族にとって必要とされること、それこそが誰にも望まれず産まれてきた私の唯一の夢であり望みだった。そのために優秀な戦士となろうとして、人の何倍も射撃訓練を積んできたのだ。この任務は、訓練が報われ夢が叶うチャンスだった。
 だからこそ、慎重に行動したつもりだったのに・・・・・・・・・
 唇を噛み締めて沸き上がる悔しさに耐えていると、テントの戸がバサリと開けられて黒髪の人影が入ってきた。
「お~い、ワンちゃん起きてる?ご飯持って来たよ」
 間延びした声を出す童顔のこの男こそが、焔を操る悪魔ロイ・マスタングだった。





「お~い、ワンちゃん起きてる?ご飯持って来たよ」
 片手に割り当てられた食料を手にして、私は自分のテントに帰った。
 士官学校卒の職業軍人であり、戦闘に秀でた能力を持つ国家錬金術師の私には、さして広くはなくともテントが一つ割り当てられている。この待遇の建前は、『国家錬金術師は単独行動を命じられ常に最前線に投入されるし研究活動もせねばならないので単独で前線近くに拠点を持つべきである』と言われており、本音としては『お偉方が殺人兵器と同じ屋根の下で暮らすのを嫌がった』ということだ。軍部最高責任者である大総統が南部と西部の視察に出かけてここにいないからこそ、こんな我侭が通る。だが、この待遇は、こちらとしても願ったり叶ったりだった。
 私には見苦しいジジイ共と同居したいという嗜好なぞないし、何より、このような場合にはとてもやり易い。
 白状しよう、私は4日前からイヌを1匹飼っている。
 金色の毛並み、赤茶の瞳の、それはそれは愛らしいワンコだ。幼さが抜けないのかやんちゃなワンコはまだ私に懐いてくれていないが、私には懐かせる自信がある。
 一目見た時に、このコこそ探し求めていたコに違いないと確信した。
ものすっごく可愛かったんだ!
 私とこのワンコが運命的に出会った場所は、夕暮れ時の廃村だった。
 イシュヴァールの民が戦前に所有していた村は、戦争が激化するに連れて人々が奥地に避難するために放棄され、その村もそんな風にして捨てられた町の一つだった。
 だが、捨てられた村とはいえ、無人であるという保証はない。いや、むしろ、地の利があり潜む場所が多い分、ゲリラの温床になり易い。
 だから、焔を操る私に、焼き尽くせとの命が下ったのだった。
 楽な仕事だと思った。
 茹だる砂漠を駆け回ってゲリラを何キロも追いかけたりするより体力的に楽だし、地下壕に隠れた何十人もの無力な女子供を皆殺しにするより心理的抵抗も軽い(といっても最近そーいうのはあまりよくわからなくなってきたけど)。
 だから、あまり気負わずにその村へ行ったんだ。
 夕暮れ時の村は静まり返っていて、次第に温度を下げてきた風が壊れた窓枠をカタカタ揺らしている音だけが聞こえた。後に報告書を作成するために一通り見て回る必要があるので、私は戦時にしては些か緊張感に欠けると言われても仕方がないような歩き方で、ブラブラと村の家を覗き込みながら歩いていた。
 とある家の窓を覗き込んだ時、家の床に落ちていた割れた鏡がキラリと光るのに気づいた。
 瞬時に理解した。鏡に映った光点はスコープに夕陽が反射した光で、敵の狙撃手が私を狙っているのだ、と。
 私がブラブラと歩き続けているので、敵は私が足を止める瞬間を狙っているに違いなかった。それを理解した私は、決して慌てている素振りを見せないように注意しながら、気紛れを装ってその窓から家の中にヒョイと入った。
 そして、すぐさま窓の隣の壁に身を潜め、鏡に映る光点の距離と位置を確認する。村の中にある1番高い建物、つまりイシュヴァラの宗教施設の尖塔の天辺、それが光点の位置だった。その尖塔に狙いを定めた私は、素早く振り返って指を擦った!
 狙撃手が一度見失った標的に再度照準を合わせるよりも、私の焔が炸裂する方が速い。
 よって、引鉄が引かれる前に、尖塔が爆発する音が響いた。窓から飛び出した私は、いつでも火花が生み出せるように指を構えながら、崩れ落ちる尖塔へ急いだ。
 敵が今の爆撃によって死亡したとは限らないし、他に仲間が潜んでいる可能性もある。確認したかった。それに、私がこの任務を受けたのはたった数時間前で、一応極秘任務のはずだった。なのに狙撃手が潜んでいるということは、情報が漏れていたということになる。可能ならば、戦闘能力を奪った上で狙撃手を確保し、情報が漏れたルートを確かめたかった。
 駆けてゆく自分の口の端が歪むように吊り上がっているのが、とてもよくわかった。情報の出所とルートによって、軍内部の裏切り者の狙いが軍部全体なのか私個人なのかがはっきりするはずだが、この時の私は、私個人であって欲しいと思っていた。
敵は多ければ多いほどいい。踏み潰す甲斐があるし、その屍を踏み台にして私はもっと高い場所へ昇ることが出来る。
 私のための新たな生贄を発見できる予感に満ちて、私は愉快だった。とても。
 もうもうと埃が舞い、所々熱で融解している瓦礫の山の中に金色の髪が零れているのを見つけて、私は逸る心を抑えながら、慎重に歩を進めた。
 金髪の人物は、奇跡的に、宗教施設の緞帳に包まって尖塔の天辺から転げ落ちてきたようだ。緞帳に包まった身体は半分瓦礫に埋もれているが、さほど酷い怪我はしていないだろう。
 私は充分に警戒しながら近づき、バッと埃塗れの薄汚れた緞帳を捲った。
「!!!」

 そう。そこに、このコがいたんだ。





 指を擦るだけで焔を生み出す男を屠るには、遠距離から秘密裏に狙撃するのが望ましい。その場合でも、1撃で絶命させねば反撃される危険性が高い。
 だから私は、息を潜めてスコープを覗きながら、村中をふらふらと歩き回る(仮にも軍人のくせになんであんな緊張感の無い歩き方を?)黒髪の男に照準を合わせようとしていた。
 男の動きは些か変則的で、看板を小突いてみたり、窓の向こうを覗き込んでみたり、階段を一段飛ばしで降りたり、・・・・まるで、落ち着きの無い子供のようだった。20代前半のはずなのに10代後半に見えそうな童顔と相まって、奴はまったく軍人らしく見えなかった(穢らわしい青の軍服がいやによく似合ってはいたけれど)。
 いいえ、『悪魔の国家錬金術師』っぽくなかった、と言うべきだろう。私はあの灼き滅ぼされた戦場を見た時から、勝手に奴のイメージを創り上げていた。少佐という地位に相当の年齢、悪鬼の所業に相応しい強面の形相、軍人らしい体格、そんなイメージを持っていた。
 だから、村に入ってきた青の軍服の人物の姿をスコープで見てみて、私は少し驚いた。
 普通の青年(しかもちょっと無責任な印象がする)にしか見えなかったからだ。
 私は人間違いではないかと思って、肩の徽章を確認しようとした。距離があったし角度が難しくて確認できるまではちょっと時間がかかったが、肩の徽章は間違いなく4本線に星1つ。少佐官の徽章。すると、やはりこの男こそが、ロイ・マスタング少佐。
 だから私は今度こそ男の頭部に狙いを定めて引鉄に指を掛けたのだが、・・・・・徽章を確認できるまでのさして長くなかったはずの逡巡の間に、勝機は私の手をすり抜けた。
 開け放たれたままの窓の向こうの室内を覗き込んでいた男が、ふいに気紛れな動きで窓から室内に侵入した。私は慌てて男の姿を探したが、もうすでに窓から見える範囲内にはいなくなっていた。ならば、別の部屋の窓や玄関から出てくることもあり得ると考え、そちらへ注意を向けた瞬間だった。
 血塗られた手のはずなのにいやに白い発火布の手袋を嵌めた指を構えて、奴が窓の前に飛び出してきた。そう、まっすぐにこっちを見て。
 鍛えた私の指は条件反射的に引鉄を引こうとしたが、コンマ数秒の差で奴の火花が焔を生み出す方が速かった。
 衝撃!
 奴が生み出した焔はこの尖塔の基底部を崩し、私の身体は宙に投げ出された。思考することもできない爆音と激震の中で、私は手に触れた何かに力一杯しがみつき身体を丸めた。
そして、落ちた。





「おや、目が醒めたかい?気分はどうだ?何か飲む?」
 最初に目に映ったのは、テントの煤けた白い色で、次に目に入ってきた色は、黒。
 黒髪の人物が自分を覗き込む体勢を取っているのだと、すぐにわかった。私は「ここはどこですか?私はどうなったのですか?あなたは誰ですか?」という意味の言葉を発しようとし、渇き過ぎていた喉のために咳き込んだ。
「水があるよ。飲みなさい」
 咳き込む私の半身を起こさせた人は、カラカラに乾いた唇に水の入ったコップの縁をあてがった。私が本能的に水を飲もうと首を伸ばすと、背中を支えたその人が上手に水を飲ませてくれた。
 最後の1滴まで飲み干してほっと息をつこうとした私は、視界の隅に映った青に驚愕した。コップを持つ人物の青い軍服に。
「っ!!」
 パニックに陥って闇雲に逃れようと手足を動かそうとして・・・・・・やっと気がついた。自分が拘束されていることに。
 手は背中に回され、両手の甲を合わせるような形で、得体の知れないゼリー状の物質(材質不明。さして重くなく、濡れてはいない)に隙間無く拘束されていた。足は、両膝を合わせる形でやっぱりその物質で固められている。その状態で、さして広くも無いテントの中のベッドの上にいる。
 すぐ隣にいる焔の錬金術師に対して、なんら対抗する術を持たない状態で。
「・・・・私を捕らえても、何の益も無い。同志は、卑怯な脅しに決して屈しない。人質など意味が無い」
 奥底から湧き上がってきた震えを必死で押し殺して、怯えていることを悟られないように注意しながら、出来るだけ低い声を出した。
 言ったのは本当のことだ。私は所詮一介の狙撃兵であるし、家族も友人もいないどころか部族中から忌まれてイシュヴァールの民であると承認されてさえいないのだから、人質としての価値も無い。この男が私を盾にしたところで、盾にした私ごと撃たれるのがオチだ。
「は?何の話だ?あ、そうか、まだビックリしてるんだね。よしよし、怯えなくていいよ。もう何も怖いことは無いからね。だって、今日から私が君のご主人様になるんだから」
 男は、私の言葉に何の感銘も受けない様子で、やけに嬉しそうな笑顔で、私の肩をぽんぽんとなれなれしく叩いた。
 私はさっぱりわけがわからない。だが、事態が私の想像を越えた方向へ進んでいる気がして、ズリズリとベッドの上を後退する。
「・・・・何を言っている?」
 私が後ずさった分、男は前に詰めてきた。不気味な程の意味不明の笑顔のままで。
「だから、君は今日から私の可愛いワンコだよ、て言ってるんだ。安心してくれ、私は甲斐性のある飼い主だ。水も食料もちゃんと用意できるし、このテントに隠れてる限り、誰にも見つからないよ。大丈夫」
 なにやら上機嫌の男は、テントの隅に置かれた携帯食料の詰まった箱と大きな水瓶とを指差して、得意そうに言った。
 私は、本当に、さっぱり、全く、全然、この事態が理解できない。
 私はイシュヴァールの狙撃兵。国家錬金術師暗殺の任を受けて、この男を狙った。狙撃は失敗して、迎撃された。そして、今、この男に掴まった私はこの男のペットだと宣告された。
・・・・・・・・・・・この男は頭がおかしいのかもしれない。宝物を見つめる少年のような表情が、あまりに状況にそぐわなくて、異様だ。
罪深き錬金術を操る錬金術師の中には、この戦場に投入されて大量虐殺を行った自らに耐え切れず、精神に異常を来たす者もいるという。この男もその手合いかもしれない。
 ならば、逃げ出す隙が見つかるかもしれない。そのために、刺激しないように注意しながら情報を集めないと・・・・・・
 落ち着け!
誰も私を助けになど来てくれない。だから私は、自分で自分を助けなくてはならない。そのために、パニックに陥っている暇など無い。あの高さから落ちたのに、骨が折れたりしている様子は無い(打撲はあるが)。この枷さえ外れれば充分動ける。冷静に油断無くチャンスを伺えば、きっと逃げ出せる。大丈夫。
「・・・・・・・・貴方は、何?」
 苦心して強張る舌を動かして、できるだけ平静な口調で問うた。
「え、あの塔の上から私を狙ってたくらいなんだから、名前くらいは知ってるだろう?ロイ・マスタング、君の新しいご主人様だよ!」 
 笑顔で答えた男は、手袋を嵌めてない手で、私の髪をかき回すみたいにクシャクシャに撫でた。深い深い黒なのに明るい光が浮かんでいる、明るい闇色としか言い様の無い瞳が、まっすぐ私を見つめていた。
 温かい指先が頭部の地肌に触れる初めての感触に、私は震えが止まらなくなった。






「スープだよ。はい、あ~ん♪」
 申し訳程度にベーコンとキャベツが浮かんでいるコンソメスープを乗せたスプーンを顔の前に差し出すと、眉間に皺を寄せて息を詰めた後、ワンコは何かを覚悟した面持ちでぱくりとスプーンに食いついた(心配しなくても毒なんか入ってないのに。まあ、美味しくはないけどね)。
 その様を見て、私はほわりと心が和む。
 私はこれまで生き物を飼った経験が無くて、それどころか、ペットの世話をするのに幸福感を感じている連中を不気味に思っていた。牧羊犬やネズミ捕り用の猫などならまだ理解できるが、何の役にも立たない動物の世話をして何が楽しいのか、と思っていたんだ。
 でも今の私は、その認識を改めている。
 このコを飼うようになってからよくわかった。愛するペットの世話をするのは楽しい。手をかけされられるほどに、愛が深まる気がする。
 最初は、大変だった。
 このコは可愛いけど警戒心の強いコで、目覚めてすぐのコップ1杯の水は抵抗無く飲んでくれたのに(すごく喉が渇いてたからだろうけど)、その後食事を取らせるのにてこずった。だから、「食べないと体力が持たないぞ?ほら、私も一緒に食べるから安全だよ?」と、散々説得して、やっと1口、私の差し出したスプーンから食べてくれた時は、嬉しかったなあ。
 あれ以降は、最初の1口はまだ抵抗するけれど、食べ始めたら無心に全部食べてくれるようになった。
 今もほら、ベッドに腰掛けた私の膝の上に座った(というか座らせた)このワンコは、私が差し出したビスケットを食べている。
 ああ、可愛い。
 幸福感に包まれた私が、ワシャワシャとかき混ぜるみたいに金の髪を撫でると、ワンコはビクっとして一瞬動きを止めた。ワンコの髪は柔らかくて、とても気持ちがいい。私が撫で続けていると、ワンコはまた食事を再開した。
 この4日ほど構ってみてよくわかったんだが、どうもこのワンコは、人に撫でられる経験が少なかったようだ。私が至近距離に近づくと(ワンコは隠そうとするけど)すごく警戒してるし、私が触れるとすごく驚く。
 だが、4日もスキンシップを続けてきたおかげで、ワンコも少しは慣れたらしく、最初ほど硬直することはなくなった。それに、私は『オンナノコを触る』ことが上手い。痛くないくらいの力加減や指先のニュアンスがどのあたりから性的に感じられるのかということを、よく承知している。
 ので、今、『優しく、温かく、親愛を伝えるスキンシップ(性的なニュアンスは皆無)』をしている。『ペット』に対するスキンシップとして、とても正しいと思う。
 その証拠に、最初は怯えて警戒してばかりだったこのコも、今となっては時々気持ちよさげに目を細める(おそらく無意識)ようになってきた。
 これまでペットとは無縁の生活をしていたからわからなかったが、私には結構この方面の才能があるのかもしれない。う~ん、楽しい!
 私は上機嫌で浮かれた声を出した。
「ちゃんと全部食べたね。よしよし、いいコだ。じゃあ、洗ってあげるね」





この4日の間に思い知ったことは、脱出は容易ではないということだった。
 この男は人格的には多大に問題がありそうだが、頭の回転自体は悪くないらしく、私の脱出を見事に封じていた。
手足の枷(材質不明)は、私の肌に触れている部分は弾力があって柔らかいのに、外側がひどく硬い。男の外出中に少しでも壊せないかとイロイロ努力をしたけれど、結局傷一つつけることもできなかった。
 私が着ていた服は燃やされ、私は今、男がこの前線でどうにかして入手した女性用下着の上に、私にはサイズの大きい男のシャツを着ている。足は裸足。
このテントは、両脇を岩に囲まれた曲がりくねった下り坂の行き止まりに、大きな岩を背にする形で建てられており、逃げるならば、岩壁を登るか坂を登るかしなければならないが、坂の勾配は結構急で、このような格好で枷が付いたまま逃げることは不可能に近い。
 枷が外されることはある。男は朝夕にトイレの前で手枷を外す(そしてトイレから出てきたらまた付ける)。入浴時には、片手片足ずつ枷を外して洗い、洗い終わったらまた枷を付け直す。
 枷を外し付け直す男の作業はスムーズで、全く隙がなかった。それどころか、枷の着脱時には普通に私に触れる時には外している発火布の手袋を嵌めているので、私は恐ろしくて抵抗することが出来なかった。一瞬にして尖塔を崩壊させたあの爆発を、私はよく覚えている。何も残らなかったあの戦場跡を、私は忘れることが出来ない。
 私は、無力だった。
 状況はあまり期待できない(諦めるつもりは無いが)。そんな状況の中、私は、自分がこの状況に次第に慣れていきつつあるという事実に、苛立ちを感じていた。
 今だってそうだ。
 私は男の膝の上に座って(抱きかかえて座らされた)、男の手からビスケットを食べている。手足に枷をされたまま裸足で下着に白いシャツ1枚で男の膝に座って手から何かを食べている・・・・・・よく考えるまでもなく異様な状況なのだが、何故か、そうしている私自身にはあまり抵抗が無い。
 最初はもちろん抵抗があった。それに、警戒していた。
 だが、男にしつこく説得されて(確かに食べなくては体力が落ちる。体力が無くては逃げ出せない。拒んで餓死するのは無意味だ)男の差し出したスプーンから食べ始めた時から、だんだん、私は無意識のうちにこの状況に順応しようとしていたらしい。私は男がパンを持ったらそのパンを私の食べやすい1口サイズに千切ってくれるものだと思っているし、男がコップを差し出したら零さないで飲めるように顎を仰け反らせるようになった。
 私は、この男との生活に慣れてきている。
 そんな自分の変化が不愉快であり、何かが染み付き取れなくなるような予感がして恐ろしかったが、ここから逃げ出すためのチャンスを待つしか術がない今は、順応してしまった方が苦痛が少ないことがわかっていた。だからこそ、時々大声で叫びたくなるような衝動を感じながらも、私は男に大人しく従っていた。
「ちゃんと全部食べたね。よしよし、いいコだ。じゃあ、洗ってあげるね」
 ビスケットを食べ終わった私の頭を撫でてから膝から下ろした男は、テントの裏から大きな金盥を持ってきて水瓶の水を注いだ。そして、その側にもう一つの水瓶と柄杓と石鹸を持ってきて、青い軍服のポケットから取り出した手袋を嵌めて指を擦った。
PATI!
小さく火花が飛んで錬成反応の光が走り、瞬く間に適温の湯が出来上がった。手袋を外した手で湯の温度を確かめた男は満足そうに頷いた後、青い上着を椅子の背にかけてシャツの袖をまくって、私のシャツ(といっても男の持ち物だが)に手をかけた。
慣れたとはいえ、さすがに少し抵抗がある。僅かに身体が強張るのが自分でもわかった。
男にも強張りは伝わっただろうが気にする様子は無く、シャツのボタンを外していった。ボタンを全て外し終わると肌を滑らせるようにして、シャツを手首の辺りに持ってくる。そして、一時的に手枷を外すためにまた手袋を嵌める。
この間が嫌い。
胸を肌蹴られ下着1枚で男の視線に晒されるのは、どうしようもなく心許ない。男がどんな顔をしてこちらを見ているのかを知りたくなくて、手枷を外してシャツを脱がせ再び枷を嵌めるまで、私は顔を上げることが出来ない。
シャツを脱がせて枷を嵌め直すと、男は私の腰を持ち上げて浮かせて、下着に手をかけた。発火布のザラっとした感触を腰のあたりの皮膚に感じて、ビクっとする。そんな私に構わず、男はそのまま下着を膝まで下ろし、また発火布で火花を生じさせて足枷を外し、嵌め直す。
それは、この4日間繰り返された作業。
私は師父から、戦場で『女』が出会う危険について説明されていた。敵に捕まった『女』がどんな目に合うのか、私はちゃんと知っている。何故ならば、私こそがその愚劣な罪の結晶だからだ。
私の母親は敬虔なイシュヴァール人であり、貞淑な乙女であった。その彼女がある夜、運悪く(こんな単純な言葉で片付けたくないけれど)酔っ払った白い肌で青い服の軍人に見つかり犯された、その結果の産物が私だ。
イシュヴァラの教えは堕胎を禁じており、それでも秘密裏に堕胎する女も医者も存在していたが、なまじ貞淑な乙女であった母には、そのようなことは思い至らなかった。ただただ、我が身に訪れた悲劇を誰にも知られぬように隠そうとして、それだけでいっぱいいっぱいだったのだ。だから、月経が停止し腹が膨れ始めた時、私を孕んだことに気づいた時、ずっと堪えてきた母は泣き叫んだという。世界の非道を、神の無情を詰り、全てに絶望したという。
だから私は、逃げ出すためにチャンスを待とうと考えながらも、この男が無理矢理そのような行為に及んだ場合は舌を噛み切ってでも自害しようと決めていた。私は、私と同じ境遇の子供を作りたくない。顔も知らぬ最悪の犯罪者である父親の血を引いたばかりに白い肌で産まれ、褐色の肌の人々から白眼視される子供を産んだりしたくない。
誰にも望まれない、神ですら愛さない子供など、私独りで充分だ。
だから私は最初に入浴させられた時、身体を硬直させて極度に緊張していたのだが・・・・予想に反して、男は何もしなかった。
いや、確かに男は私を全裸にして石鹸を泡立たせた手で私の身体の全てに触れたのだが、しかし、それらの行為に性的なニュアンスは感じなかった。少したりとも。
温かい男の手は決して荒げられることなく、優しく優しく私に接した。幼児期に親に洗われるのはこんな感じなのだろうか、とまで思った。私が褐色の肌に生まれていたら、母はこのように触れてくれただろうか、と。
私の出産と引き換えに母親は死亡し、そのこともあって母親の縁者は皆私を忌んで、誰も私を養育しようとはしなかった。だから、私は孤児院で育った。だが、出自とこの肌の色故に私は孤児院でも忌まれた。神の教えを説く師父は、口に出して私を罵ったり積極的に排斥することは無かったが、彼ですら私に触れることを避けていた。
孤児院で実際に幼児の面倒を見るために雇われていた下働きの女たちも、私を厭った。物心ついた頃、私は既に身の回りのほとんどのことを自分自身で出来るようになっていた。独りで起きて、独りで着替え、食事した食器を洗い、掃除をして、独りで入浴し、独りで洗濯して、独りで寝た。誰もが私に触れることを嫌がったし、私も、嫌がられるくらいなら独りで全部する方がずっと気が楽だった。
孤児院には私以外にも養育されている褐色の肌の子供たちがいたが、彼らも師父や下働きたちに倣って、私に触れることを拒んだ。
だから、誰も私に触れたりしなかったのに。
なのにこの男は触れてくるのだ。優しく、優しく、この上もなく優しく。
現に、今も。
一度濡らした髪にシャンプーをつけて、決して地肌に爪を立てずに泡立てて、すすぐ。他人にそんなことされたのはこの男が初めてだし、自分自身でもこんなに丁寧にしたことは無い。慣れない感触はどこか少しくすぐったくて、全身の神経が男の指先の与える刺激に集中する。
髪を漱いだら今度は、石鹸を泡立てた手で、目を瞑った私の顔を洗う。ゴシゴシ擦るのじゃなくて、フワフワの泡で洗うみたいにして、洗う。顔を漱いだら、首から肩、背中、上腕部を経て拘束された手首まで。私よりは大きくて長くて太い指が肌を撫でてゆく。
手首まで行くと、そこで一端、片手だけ水気を拭って手袋をはめ直し、男は枷を外す。そして、指先まで洗って腕の泡を流しきった後、また枷を嵌め直す。
こんな手間は面倒だろうに、男はいつも何故か楽しそうにしていて、私はますます男のことがわからなくなる。
 背中と腕を洗い終わると、また石鹸を泡立て直した男は、胸の膨らみに手を当て、円を描くようにして洗い始める。嫌悪感は無いが居たたまれなくて、私は顔をそむける。だが、男の手は止まらない。脇腹を滑るようにして下方へ移動していく。くすぐったくて少しむずむずしたけれど、私は唇を噛んで声を出さないように努める。
 腰まで下りた手は、そこで流れを変えて、足先を洗い始める(これもくすぐったい)。そして、足先を洗い終わると、私を盥の中で立たせて、手をぬぐってもう一度また手袋を嵌め、足枷を外す。
 それから、足首からふくらはぎ、膝裏、膝、太腿と泡塗れの手が這い上がってくる。
 そして。
「脚を開いて」
 全裸で立つ私の正面で膝立ちになって私を洗っていた男がこういう瞬間が、私はとても嫌。だが、虜囚の私に抗う術は無い。
 私は男がどんな顔をしてどんな目でこちらを見ているのかを知りたくなくて、固く瞼を閉じながら、恐る恐る脚を開く。
 泡塗れの男の手が、医者にすら触れさせたことが無い部位に触れる。生娘の私などよりよっぽどその部位の構造を把握しているらしい男の指が、柔な肉を傷つけないように押し広げ、確かめるように撫でるように触れてゆく。臀部まで一通り撫で終わると、やっと泡を流してもらえ、脚を閉じることが赦される。
 この間、私はいつも考えまいとするのだけれど、いつもいつも考えてしまう。私は醜くないのだろうか、と。
 イシュヴァールの部族の美醜の基準の一つに、艶のある飴色の肌というものがある。決してその基準を満たさない私の青白い肌は部族内では異端であり、触れることさえ嫌がられた。だが、アメストリスの人間の多くは、私と同じ色の肌だ。だから、この男が私の肌の色を厭わないことは、まだ納得出来る。
 私が気にしてしまうのは、その・・・・色ではなくて造形のこと。
 イシュヴァールの部族内では色で既に拒まれていた私の造形的な問題などは、誰も口にしたことが無かったし、誰も気にもしなかった。私も気にしなかった。
 だが、今、こうしてこの男に全身を隈なく撫でられて、私は自分が醜くないのかどうかが気になって仕方が無い。男はペットを飼っているつもりらしいので私の身体を洗うのもペットの世話の一環だと思っているのだろうけれど、私を見る男が私の造形をどのように評価しているのかはわからない。
 醜いと、奇異だと嘲られいる可能性を否定しきれない。そんな恐怖がどうしても消せなくて、男の目に蔑みの色が浮かんでいるかもしれないことが恐ろしくて、私はタオルで水気を拭われ、下着を穿かせられ、再度足枷を嵌められるまで、決して男の顔を見ることが出来ない。
 虜囚の身で入浴を赦されているのは、正直ありがたい。男は私を性的に蹂躙しようとはしていない。男の指は温かくて優しくて、恐らく私は嫌ではない。
 でも。
嫌ではないが、くすぐったくて居たたまれなくて恥ずかしくて恐くて、私は変な気分になってしまう。
 とても、変な気分に。





 ワンコはちょっと恥ずかしがりやさんだ。そして、意地っ張りのがんばり屋だ。
 だから、私がシャツのボタンを外そうとすると身体を強張らせるくせに、表情は動かさない。その様を見る度に、がんばり屋で可愛らしいコだなあ、と心底思う。
 シャツのボタンを全て外し、豊かな乳房を露わにする。ワンコは均整の取れたプロポーションをしていて、胸は豊かで腰は細い。肌は皓くきめ細かく滑らかで弾力に富んでいる。世の女性が羨む美しさを有しているのに、このコは自分の美しさを自覚していない。そんなアンバランスさがまた魅力の一つ。
 手袋を嵌めて手枷を外し(枷に刻み込んだ錬成陣に適度の熱を加えることによって鍵の役割を果たすシステム)、また手枷を嵌め直して、今度はワンコの腰を浮かせる。
 発火布の手袋の手触りは、少しざらざらしている。だからかな、ワンコは私が下着を脱がせるために腰に指を伸ばすとビクッと震える。
 言っておくが、私は無理強いをして恐怖政治をしたいんじゃない。暴力によってのみ繋がれたペットとの絆なんて、そんな見苦しい物は欲していない。私が理想とする飼い主とペットのあり方というのは、愛情と信頼によって結ばれる関係だ。飼い主はペットに惜しみなく愛情を注ぎ責任を果たし、ペットは飼い主を信頼し忠節を捧げる、そんな関係が美しく望ましいと思う。
 だから、本気で吐きそうなほどに嫌がっていたら止めるつもりで、下着に指を掛けた私は、ワンコの表情を確認しようとするんだけど、恥ずかしがりやのワンコは頑なに下を向いていて顔が見えない。ただ、耳が赤くなっているのだけがわかる。
 コレは実はそこまで嫌がってないってことかなー、と都合よく解釈して、下着を膝まで下ろし、足枷を外して抜き取り、また枷を嵌め直す。
 すると、ワンコは、きめ細やかな皓い肌に均整の取れたプロポーションの全裸に、手枷足枷だけを身につけている姿になって・・・・・・正直、とても煽情的だと思う。2時間ほど前に馴染みの情報屋のところに遊びに行ってあてがわれた女と運動してこなかったら、不本意にも無理矢理手を出していたかもしれない。
 やっぱり、先にしといてよかった。
 などと内心胸を撫で下ろしつつ、ワンコを抱っこして盥に座らせた私は、ワンコに湯を浴びせる。それから、シャンプーを蜜色の髪に垂らして、わしゃわしゃと洗い始める。
 シャンプーのコツは、地肌に爪を立てず優しくマッサージすること。以前、でき心でかなりのロングヘアの女性の髪を洗ってみたことがあるが、アレは大変だった。濡れた髪というのは、意外な程重い。だが、このワンコはショートヘアなので、あの時ほど手間はかからない。
「かゆいところは無いかい?」
 私が囁くと、泡が入らないように目を瞑ったワンコはフルフルと首を振った。ホント、このコは仕草の一つ一つまでが愛らしいなあ。
 ぽわんとした幸せ気分になりながら、私は丹念に泡を漱ぐ。乾燥した気候のイシュヴァールの前線において本来なら水は貴重品なのだが、元素が専門の錬金術師の私はいくらでも水を錬成できるので、惜しみなくじゃんじゃん使う。結構甲斐性のある飼い主だと思う。
 髪を洗ったら、石鹸を手で泡立てて、顔を洗う。目を閉じたワンコは無抵抗で、拒絶は感じられない。
 最初はもっと警戒していた。ワンコは隠そうとしていたけれど、肌に触れた瞬間に指先からワンコの緊張と警戒が伝わってきた。潔癖な拒絶は相手を煽るだけであると理解し、私が無体なことをしない限り抵抗しないでおこうと考えているようだったが、でも、私は強い拒絶の意思を感じた。
 だが、今は感じない。確かに緊張はしているようだが、だんだん、ワンコは私に触れられることに慣れてきて、私の手順を覚えた。だから、私の手が次に触れる場所を無意識のうちに意識している。
 それはね、『期待してる』というのだよ、可愛いワンコ。
 私はご機嫌のまま、首から背中、腕から手首までを洗い、一度タオルで濡れた手を拭って手袋を嵌め直して、枷を外す。そして、指先まで洗った後、また枷を嵌め直す。
 本来なら面倒なはずの手順だが、私はそうは思わない。手間をかければかけるほどに愛しさが増していく気がする。面倒くさがりの私は、これまで誰に対してもこのように感じたことはない(悪友はちょっとまた話が違ってくるから別カテゴリー)。
 やっぱりこのコこそ私が待ち望んでいたコだったんだなあ、そんな確信を新たにする。
 背中と腕を洗い終えた私は、また石鹸を泡立たせ、今度は乳房に触れる。ボリュームが豊かで形もよく色もよいという、理想的な乳房だ。だが、まだ開発されていなくて、薄い色の頂きは柔らかいままだ。擦って摘んで舐めて吸って硬く盛り上がらせたいなあ、とは思うが自粛する。
 ペットとのパートナーシップを築くには、初期の印象が重要だと聞いた。だから、このコが私のことを好きで好きでたまらなくなるまで、我慢我慢。
 我ながら褒め称えたくなる自制心の持ち主である私は、滑らかな肌に泡だらけの指で触れてゆく。
 脇腹にそろそろと指を這わせると、ワンコがピクっと小さく揺れるのがわかった(隠そうとしてもご主人様にはバレバレだよ♪)。ワンコが私を欲しがるようになったら、ココをたくさん触ってあげようと思う。
 腰まで撫でたら、一度手を止めて、今度はワンコの爪先を洗い始める。桜貝のような健康的な色の爪までがとても可愛らしいので、赤ちゃんをお風呂に入れてあげるお父さんってこんな気持ちかな~というくらいにほんわかした気分になる。
 あ~、癒されるなあ。
 足を洗うと、先程手首を洗った時と同じ手順を繰り返して、ワンコを盥の中で立たせて足枷を外す。
 元ゲリラの狙撃兵だったワンコの脚はほどよく鍛えられていて、引き締まって張り詰め、だが優美さを損なわない瑞々しい少女らしいラインを保っている。
 そのラインを確かめるように足首から撫で上げてゆく。
 引き締まった足首、滑らかなふくらはぎ、可愛らしい膝、柔らかい太腿。
 そして。
「脚を開いて」
 経験豊富な私の見立てからすると恐らく処女であるワンコは、恥ずかしがりやさん。
 だから、飼い主とはいえ男の前で脚を開くことに抵抗があるらしく、切なげに眉を顰めて瞼を伏せ、睫毛をフルフルと震わせながら、それからやっと、そろそろと脚を開く。
 その様が可愛らし過ぎるので、さっき抜いてなかったらやっちゃうだろうなと心底思いながら、私はワンコを怯えさせないように優しく優しく触れる。可愛いこのコを、傷つけないように。
 金色の淡い茂みをゆるくかき混ぜるように触れ、両手を奥へ忍び込ませてゆく。
 ぷっくりと盛り上がった柔らかいその場所は、でもまだ熟れてないのが一目瞭然で、右手でやわやわと擽るように指の腹で小さな円を描きながら、左手で慎重に固く閉ざされている花弁を押し開く。そして、少しだけ蜜を湛えた孔に満足を覚えながらも気づかないフリして触れないように注意しながら、花弁の形状を確かめるようにして洗う。それから、左手の指を臀部まで伸ばして、柔らかな丸いお尻をさわさわと撫でた。
潔癖なワンコは知らないだろうけど、今この蜜壷に私の指先が触れたなら、きっと水とは粘度の違う液体が指を濡らすだろう。だって、この部位を洗っている時、恥ずかしがりやさんのワンコは目を閉じているけれど、無意識のうちに、だんだん、腰を突き出すような体勢になっているんだ。
 恥ずかしがりやさんのくせに正直者な、可愛い私のワンコ。
 初心なワンコの反応を堪能した私は、湯をかけて泡を流し(濯ぎは丁寧に)再度足枷を嵌める。そして、タオルで固く目を瞑ったまま恥ずかしがっているワンコの水気を拭って抱っこして、ベッドに座らせる。
 その後、新しい下着とシャツを着せて、楽しいお風呂タイムの終わり。
 ・・・ペットって、やっぱりいいなあ~。





「明日も朝から出かけることになると思うんだ。ゴメンね、淋しい思いをさせて。その代わりというわけではないけど、何か欲しい物はないかい?遠慮はしないでいいよ。私は佐官で国家錬金術師だからね、これでも結構金持ちなんだ」
 私の髪を乾かして使い終わった盥を片付け新たな水を水瓶に補充し灯りを落とした後、男は私を抱きかかえてベッドに潜り込んだ。
 最初の日からずっとそう。男は私を抱いて眠る。
 白シャツに包まれた右腕を腕枕にして私の頭を乗せて髪を梳き、左腕は私の腰を抱いている。軍服に包まれた脚で足枷付きの私の脚を挟み込む。
 いわゆる、完全抱き枕状態。左手だけ嵌めている手袋の存在を抜きにしても、ここまでがっちり抱きかかえられていては逃げ出すことなど不可能。
 だから私は、男の顎あたりに前髪を擦り付けるような状態で、優しく囁かれる男の声を大人しく聞いている。
 問題は一つ。
 嫌ではない、ということ。
 本当に自分に嫌悪を感じそうなほど、私はこの男を拒絶するのが下手で、この男の匂い、体温、質感を意識から締め出すことが出来ない。この肌に髪に男の匂いが移ってゆくように、この心に魂に男が染み込みそうな本来なら唾棄すべき感覚を、厳しく締め出せない自分がいることに、私は気がついてしまった。
 だって、この男は温かくて優しくて、私に触れてくる。
 部族の中では誰も私にそんなふうにしなかったのに、触れてくる。微笑む。髪を撫でて、抱き締める。優しい声で甘い言葉を囁く。
 この頭のおかしい男の言葉など信じてはいけないとわかっているはずなのに、・・・・・なのにどうしようもなく愚かな私は、幼い子供の頃を思い出してしまう。
 孤児院では、責任者である師父を中心に世界が回っていた。神の代理人たる師父の言葉が常に正しくて、師父が全ての基準であった。左眼の下に大きな傷痕がある師父は厳しい人であったが、孤児院の子供たちは皆、師父に好かれたいと望んでいた。私も、そう思っていた。
 普段ならば子供を甘やかさない師父であったけれど、夜中に怖い夢を見たと言って扉を叩いてきた子供に対しては、部屋に招き入れ、あの大きな手で頭を撫でて、貧しい孤児院においては貴重な甘味であるマンゴーの砂糖漬けをこっそりと一切れあげて宥めてあげていたのを、私は知っていた。だから、ある夜、ベッドの上で膝立ちになって祈って初めて嘘を吐く罪をイシュヴァラに詫びた後、意を決した私は暗い廊下を師父の部屋へ向って歩いた。
 生まれてこの方暮らしている孤児院なのに、シンと静まり返った暗闇に包まれた姿は、全然別の場所のようだった。窓の外は新月。か細い星明りだけを頼りに、恐ろしさに竦みそうになる脚を懸命に叱咤して、私は師父の部屋の扉を目指した。
 撫でて欲しかった。甘い物を分けてもらって、優しく宥めてもらいたかった。
 それだけが、幼い私の望みだった。
 だから、震える手で部屋の扉を叩いた私を見下ろした師父の眼差しの、その冷たさを私は忘れることが出来ない。どもりながらも震える声で怖い夢を見たのだと訴えた私に対して、気のせいだから早く寝なさいとおざなりに返答した師父の声が、今でも耳にこだまして消えない。
 決して私に触れず、私を一歩も部屋に入れずに、師父は扉を閉めた。そして私は、自分が本当に誰からも必要とされていない人間なのだという事実を、雲が星を遮った真っ暗な廊下で噛み締めた。
 それからはずっと、そのままでは誰からも必要とされていない私なのだから、誰かから必要とされる存在になりたかったらそれだけの価値を示さねばならないと思って、そう思って部族の戦士に志願し、人の3倍も練習して狙撃兵となったのに。この男を殺そうとしたのに。
 なのに、この手は声は言葉は体温は、優しくて。優しくて。
 私がずっとずっと欲しがっていて、でも誰も与えてくれなかったものにひどく似ていて。
 だから、愚かな私は期待してしまったのかもしれない。
「・・・・・・・・・・・マンゴーが、食べたいです」
 小さな声で呟いて、男の肩口に頭を寄せた。やっぱり男の顔を見ることはできなかった。その闇色の瞳に怜悧な光が浮かんでいたらと思うと身が竦みそうだったから。
「マンゴーか。わかった。絶対に買ってくるよ!」
 髪を撫でる手は温かく、声は明るく、言葉は優しく、旋毛に下りてきたキスは痺れそうに甘かった。





「明日も朝から出かけることになると思うんだ。ゴメンね、淋しい思いをさせて。その代わりというわけではないけど、何か欲しい物はないかい?遠慮はしないでいいよ。私は佐官で国家錬金術師だからね、これでも結構金持ちなんだ」
 ワンコを抱っこしてベッドに入って右腕で腕枕しながら、サラサラの金髪をうっとりと梳く。
 日に日に警戒心が薄れてゆくワンコは、私の指先を味わうみたいにして瞼を伏せていて、気持ちよさそうなその様子を見ていると、こっちも嬉しくなってくる。一応戦地なので就眠中でも左手の手袋は外すことができないけれど、でも、ワンコに触れる時には極力素手で触れるように心がけている(だから髪を梳いてる右手は素手)。その方がワンコが気持ち良さそうだし、私も気持ちいいしね。
 そう、ワンコは私に髪を撫でられるのが大好きらしいんだ、どうやら。
 自分勝手な誤解じゃないよ。真実だ。
 その証拠に、私が髪を撫でるのを止めるとワンコは薄目を開けてこちらを見上げるんだ。そして、私が髪を撫でるのを再開すると、私の指の感触を味わうように目を閉じるんだ。だから私は、このコが眠るまでずっと髪を撫でてあげなければならないんだ。
 大変だけど、これくらい平気さ。可愛い私のワンコのためだからね。どうやらこれまで寂しい思いをたくさんしていたらしいこのコを幸せにしてあげるのが、私の義務であり喜びだ。
 なので、欲しい物を尋ねてみた。躾には飴と鞭が必要だと聞いたけど、私には無理だな。このコにはできるだけ優しくしたい。甘やかせてやりたい。
 親バカならぬ飼い主バカかなあ。
 でも、こんな可愛いんだから、それも仕方ないよね。おねだりする姿を見たいし、おねだりを叶えて喜ぶ顔が見たい。
 さあ、このコはどんなおねだりをしてくれるんだろう?
 私がワクワクしながら答えを待っていると、ワンコは私の肩に頭をすり寄せながら、小さな声で囁いた。
「・・・・・・・・・・・マンゴーが、食べたいです」
 うっ、可愛いっ!
 私はこれまで幾人もの女と寝て(買った女や一夜きりの女を合わせると数える気にもなれない)、女のおねだりは聞き飽きたけれど、こんなに可愛くねだられたのは正直初めてだ。なんというか、ちょっと感動。
「マンゴーか。わかった。絶対に買ってくるよ!」
 上機嫌の私は、ワンコの旋毛にキスを落とした。




































オカシナ話なのだがとてもよくある話として、イシュヴァールの民の中でも命が保証されている輩はいる。その代価として彼らは誇りと金銭を差し出して見た目を変え、薄汚い裏切り者となるのだが、まあ、そんなのは常に世界のどこにでも転がっている話。
「これはこれは、マスタング様。何か御用でございますか?よろしかったら、奥に女が・・・」
 軍で密かに研究された分野はたくさんあるのだが、その中の一つに肌の色を変える錬金術というのがあって、軍に情報と金を差し出す代わりに白い肌を得た人間は、何人かいる。間口が狭く奥が深い構造のこの店を運営するこのチョビ髭の店主も、そのうちの一人。
 こいつはそう使い勝手が悪くない何でも屋なので、私は割と重宝している。
「今日は女はいい。それより、調達して欲しい物があるんだが」
 会議の合間を縫って東部内乱鎮圧軍の本陣近くのスラム街(軍人の要求を満たすための街、と言ったらおわかりかな?)にある馴染みの店に駆け込んだ私は、店の入り口付近でとっとと用件を切り出した。薄い帳の向こうでしどけなくソファに寝そべる女が気だるげな流し目をくれた。毒々しい赤の口紅の似合う褐色の巻き毛の女、見覚えがあるような気がしたから何度か買ったことがあったのかもしれない。性病対策が比較的しっかりしているので、この店はちょっと割高だが、その分女の質は悪くない(今日は買わないが)。
「マスタング様のご要望でしたら、誠心誠意叶えさせていただきますよ。何なりと仰せください」
「マンゴーが欲しいんだ」
 腰を屈めて卑屈にこちらを見上げる男に、単刀直入に用件を切り出す。これが済んだらまた、本陣に戻らなくてはならない。
「・・・・マンゴーというと、あの、果物のマンゴーで?」
「たぶんソレだな。他にマンゴーがあるとは聞いたことがない」
 私は曖昧に頷く。
「はあ、それでしたら、そうですね・・・・4日ほどいただければ準備できるかと」
「そんなに待てないな。明日の昼過ぎに取りにくる。それまでに用意しておいてくれ」
 私は店主の言葉など全く気にせず言い放つ。こいつが中央の暗黒街の連中に太いパイプを持っていることを、私はよく知っている。たかだか果物一つ、一昼夜かけて調達出来ないはずがない。
「・・・申し訳ございません。マスタング様のご要望を満たしたいのは山々ですが、何分、この乾いた土地で熱帯の果物を入手するのは時間が・・・・・」
 店主は10代の若者を諭すような口調で、そう言ってきた。
 私が若く童顔(実は結構気にしてる)だからといって、お客様に対してそーいう態度は良くないなあ、店主?
「以前軍の研究所にあった資料を見せてもらったことがあるんだが、この世界には一般人がまだ知らない特殊な光線があってね。とある国家錬金術師の研究だったけど」
 小声で独り言みたいに囁く。
「は?」
 帳の向こうで煽情的に衣服をはだけ始めた女に軽く手を振って辞退の意を示しながら、私は何気ない口調で話を始める。村を1つ、立ち入り禁止区域として封印する羽目になった狂気の研究の話を。
「元素を専門とする私でも、さすがにまだ実践はしたことがない領域だったよ。その研究は。その錬金術師も理解しきれていたわけではないらしく、錬成の時にヘマをして予想外の爆発を起こし、自分の指を2本ほどその光線に当ててしまってね」
「はあ・・・」
 店主は人身売買だとか武器密輸だとか麻薬の仕入れだとか、そーいう自分の得意分野以外については頭の働きが早くない。だから、あからさまに、この種の話題に不慣れであることが窺えた。
 幸運なことだ。
 爆発の光を直接浴びた人間は恐ろしい火傷を負って皮膚が垂れ下がり、すぐに死んだ。光を直撃しなかった人間もそう遠くないうちに全て死に至り、爆発の直後に降った黒い雨を浴びた付近の住民は理由もわからないまま後遺症に苦しんでいる。地図からは、その村の名が消された。
 そんな狂気の研究の理論を理解できず、狂気の研究の存在を知らず、惹かれずにいられるなんて、本当に、無知な人間は幸運だ。狂気だと知りつつも実践してみたいという衝動に駆られずにすむなんて、羨ましい。俺と代わって欲しいくらいだ。
「そしたら、爪が黒く変色してネジくれて、以降もその指には黒い爪しか生えてこなかったそうだよ。といってもまあ、数ヶ月で身体がボロボロになって血を吐いて死んでしまったのだがね。その光線を浴びたせいで。興味深い話だと思わないか?」
「マスタング様・・・」
 チョビ髭の店主の口調に、怯えが混じる。
 この些か鈍い男はやっと思い出したらしい。目の前に立つ青い軍服の若い男が何者なのか、を。どれだけの人間を殺傷して現在の地位を得たのか、を。
「私は以前からこの光線が人体に与える影響を知りたいと思っているのだが、この分野でこの領域にまで達した錬金術師が他にいなくてね、知りたいなら自分で実験してみるしかないようなのだよ。・・・なあ、黒い爪が生えてきたら感想を教えてくれるかい?」
 嘘は少しも吐いていない。
 私は確かに興味がある。だが、これほどに危険性が高い実験を何ら対策も無いまま自分自身で行う気はサラサラ無い、ということを言っていないだけだ。興味深くてもそのために死ぬつもりはないので。
「申し訳ございませんでしたっ!必ず明日の昼過ぎまでにマンゴーを用意しておきますのでっ!」
 ようやく私の意図を察したチョビ髭は、誇りと引き換えに得た白い肌を青白くさせながら、素直な答えを返してくれた。
「信じているよ。ではね」
 名残惜しそうにこちらを見つめる帳の奥の女にウィンクして、さっさと店を出て行った。
 こーいうのって、ホントよくある、つまらない話。





 その日、男の帰りはいつもより遅かった。
 丈夫なはずの軍仕様のテントがグラグラ揺れるくらい風の強い日で、手枷と足枷で拘束された状態の私は、不本意ながらも不安を隠せなかった。
 この風がもっと強くなってテントが崩れてしまい、男がいつまでも帰ってこなかったら、手枷と足枷を外す術が無くこの場所からの脱出も難しい私には、死以外の道が残されていない。男がテント内に常備している水と食料である程度までは凌げるだろうが、この地の過酷な気候を考えるに、それもそう長い間ではない。
 私をこんなに無力にしてこんな不安定な状況に追い込んだ当の本人である男の一刻も早い帰宅を切望しているという、この状態に苛立たしさを感じながらも、風でテントの入り口が揺れる度に私の目は男の姿を探し、外で物音がする度に耳が男の足音を求めていた。
 私をそんなに心細い気持ちにさせておいた男は、帰ってきた時上機嫌だった。
「ただいまー。遅くなってゴメンね。いいコにしてたかい?」
 砂色のリュックを肩に掛け、風で黒髪を乱されて所々に砂粒をくっつけたままなのにニコニコと笑っていて、その姿を見た私はとても腹が立った。
 こんな場所に私を閉じ込めたのだから、この男には私の面倒を見る責任があると思った。あれだけ散々甘い言葉を囁いたのだから、私を不安にさせないようにするべきだと思った。男がどこかで傷ついていたり死んでいたりしたらどうしよう、なんて不安な気持ちにならないように努力するべきだと、そう思った。
 自分が最初男を殺そうとしたことも虜囚の身であることも忘れて、そんな風に考えてしまった。 
「おや、私のワンちゃんはご機嫌斜めかな?お腹が空いてるのかい?」
 テントの戸口をちゃんと閉じた男は手袋を外して、苛立ちのままにベッドで座った体勢で背を向けた私の髪を撫でて猫撫で声を出した。手は大きくて優しくて、声は甘かった。よけい悔しくなった。
「今日はステキなお土産があるよ。ほら、君の欲しがってたマンゴーだよ。ね、機嫌を直しておくれ」
 後ろから私を抱き締めながらベッドに乗ってきた男は、ごそごそとリュックを漁って、マンゴーを取り出した。
 仕方なく振り向くと、惜しみなく注がれる太陽と大地を潤す水の恵みを受けた果実が男の手の上に乗っていた。
 仄かに赤味を帯びた黄色い実。マンゴー。
 初めて直に目にする生のマンゴーは、天真爛漫に天と地に愛されたことが如実に窺える果実だった。水の恵み薄いこの砂の地から一歩も出たことの無い私は、その異国の雰囲気にすっかり驚いてしまった。一昨日私がねだった時にイメージしていたのは、あくまでスライスされて砂糖漬けになったマンゴーであって、世間知らずな私は生のマンゴーが丸のまま来ることを少しも予想できなかった。
「今剥いてあげるから、ちょっと待っておくれ」
 軽く目を見開いてマンゴーを見つめ続ける私の様子に満足そうに頷いた男は、ベッドを降りて椅子に上着を掛け、上着の内ポケットから取り出した小さく歯が薄いナイフでマンゴーの皮を剥き始めた。





 軍務の後所用を済ませ、予定通りチョビ髭からマンゴーを受け取った頃には、風はだいぶ強くなっていた。ワンコのことがちょっと心配になる。
 軍仕様のテントはかなり丈夫だから倒壊している心配は無いが、さぞ揺れていることだろう。
 強がりで意地っ張りででも寂しがりやなワンコは、心細がっていないだろうか?
 私は少し不安になったが、すぐに思い返す。ワンコご所望のこのマンゴーを見たら、きっと元気になるだろう、と。きっと喜ぶ顔を見せてくれるだろう、と。
 そう思うとウキウキしてきて、顔が綻ぶのが隠せなかった。その状態のまま、テントの戸を開けて帰宅する。
「ただいまー。遅くなってゴメンね。いいコにしてたかい?」
 ベッドに座って俯いていたワンコは、私が帰宅した瞬間、ぱっと顔を上げた。その面に、最初の頃のような怯えや困惑はもう無い。あるのは、私が帰宅したことに対する安堵。
 なのに恥ずかしがりやさんなワンコはその表情を隠そうとして、すぐにプイと背中を向けてしまう。
 心細くさせたから拗ねてるのかな?
 背中を向けたワンコを後ろから抱き締めて手袋を脱いだ手でサラサラした金の髪を撫でてみたけれど、まだワンコのご機嫌は直らないらしく、こちらを向いてはくれない。ちょっと寂しい。
 だが、今日の私には秘密兵器がある!
「今日はステキなお土産があるよ。ほら、君の欲しがってたマンゴーだよ。ね、機嫌を直しておくれ」
 リュックからマンゴーを取り出すと、その明るい色に引き寄せられたみたいにワンコは振り向いてくれた。赤茶の瞳を軽く見開いて、一心にマンゴーを見つめている。
 普段は少し表情が読み取り難いところのあるワンコだけど、今、私の手の中のマンゴーに興味津々なのはよくわかった。
 このコが欲しがった物を与えてやれる自分を、少し誇らしく感じる(飼い主としての達成感)。
「今剥いてあげるから、ちょっと待っておくれ」
 我知らず笑顔になって、上着を脱いだ私はマンゴーの皮を剥き始めた。





 漂ってくる豊潤な甘酸っぱい香りの中で思い知ったのは、この男は手先が不器用だということ。
 男は、皮を剥いて3枚に下ろし種を取り除いて食べやすくカットする、のがこの果実の正しい扱い方だと知っていたが、たったそれだけの単純な作業に信じられないほど苦戦していた。やっとなんとか作業が終了した頃には、男の白いシャツはところどころ薄黄色の染みがついて甘い香りを放っている(うっかり果汁のついた手で触ってしまったため)。肝心のマンゴーも、美しくカットできたとは言い難い、なんとも歪な形になっている。
「お待たせ。さあ、お食べ!」
 でも、果汁でベタベタになった手によく熟した鮮やかな黄色のマンゴーを一切れ乗せてこちらに差し出してきた男の顔は喜色に満ちており、自分から言い出した以上断わる資格を持たない私は、おずおずと口を近づけた。
 ぱく。
 口の中に広がる甘酸っぱさ。トロっとした舌触りと、芳醇な香り。噛み締めると柔らかく濃厚で、見たことも無い鮮烈な異国の風を感じたような気がした。
 初めての味。初めての食べ物。
 孤児院で他の子供が師父からもらった砂糖漬けのマンゴーはもっと硬く乾いていて、こんなに鮮烈な味はしなかったことだろう。私がもらえなかったあの一切れは。
 なんだかむず痒い気分がした私は、その感覚を誤魔化すみたいに次々に男が差し出すマンゴーを食べた。マンゴーは種が大きくて、実自体もそれほど大きくは無い(掌に乗る位)から、すぐに食べ尽くした。
 私は、種の周りにまだ実が残ってるなあと思いながら、なんとなく種を見ていた。
「美味しかったかい?」
 期待した顔で男がこちらを覗き込んできた。間近で見ると、闇より深くてずっと明るいピカピカの黒の瞳には、わたし一人だけが映っていた。
 このヒトは何を期待しているのだろう?とぼんやりと考え、そして、・・・・・・・・・『私が喜ぶことを期待している』のだと、初めて気がついた。ここに至って、やっと初めて。
 私は、軽い眩暈を感じた。
 誰にも望まれないはずの私。誰もが厭う私。
 そうであったはずなのに、このヒトは、その私が喜ぶことを期待している!望んでいる!
 ・・・・・・戦闘訓練で足払いをくらって地に倒れ胸部を踏みつけられた時のような、きゅうと胸部を圧迫される感触がした。耳の奥でぐわんと鐘が鳴ったような衝撃を感じる。
「ん?美味しくなかった?」
 私がいつまでも答えないので、このヒトは不安そうな顔をした。
 快活そうなその顔に落ちた僅かな蔭りが、私の胸を痛ませる。
 そんな顔をさせたいわけじゃない。そんな顔を見たいわけじゃない。
 こんな砂礫の地で、しかも前線近くで、生の南国の果実を手に入れるのが簡単なことではないのは、世間知らずの私でもわかる。それを手に入れてきて、そして不器用なくせに手をベタベタにして剥いて、私に食べさせてくれた。私が欲しいと言ったから、そうしてくれた。
 そんなことしてもらったのは初めてで、どういう態度を取ったらいいのかわからない。美味しくなかったんじゃない。嫌なんじゃない。ただ、戸惑ってるだけ。
 返答の言葉も思いつかないほど焦った私は、このヒトの指先から果汁の雫が零れ落ちそうになったのを目にして、咄嗟に顔を寄せて舐めてしまった。
「え?」
 上の方から驚きの声が聞こえたけれど、もう止まらない。
 指の付け根のあたりまで甘い雫を舐め取った私は、果汁でベタベタのこのヒトの手に頭を擦りつけた。
 バカみたいだけど、他にどうすればいいのか全然浮かばなかった。言葉に出来なくて、腕が封じられているから抱きつくことも出来なくて。でも、嵐みたいに胸の中で暴れるモノがあって、何もしないではいられなかった。
 驚いた様子だったこのヒトはすぐに私の気持ちを察してくれたようで、もう片方の腕で私を強く抱き締めてくれた。
 私が喜んだことをこのヒトが嬉しく思っていることが伝わるくらい、強く。
 そうして胸の奥の嵐が収まるまで、私たちは甘酸っぱいマンゴーの香りに包まれていた。





 実は、私は時々ちょっと不器用だ。
 勘違いしないでもらいたいのだが、全てにおいて不器用だというわけではない。女性を悦ばせるためテクニックならばそんじょそこらの男には決して負けない自信がある。錬成陣を描くためにフリーハンドで正円を描くことも出来る。
 だからそういう、自分が慣れている分野ならばこの指は滑らかに動かせるのだが(楽器の演奏も出来るぞ)、・・・・あいにく果物の皮剥きとかは慣れていない。果物の皮は人に剥いてもらうか剥かずに齧り付くかの2択だったので。こう、皮をすーっと繋げて剥くことが上手く出来なくて、皮を剥き終わった頃には少々歪な形になっていた。
 まあ、大切なのは味だ。形ではない。
 マンゴーは、真ん中に大きな種があるので3枚に下ろすように切るのだということは知っていた。なのでそうしようとしたのだが、こう、慣れてない私には力加減が今一つわからなくてだね・・・・・・ようやくマンゴーを1口サイズ(いびつ)にカットできた頃には、私の白シャツに果汁の染みがいくつも出来ていた。手もベタベタだ。
 ここまでくると、焔の錬金術師の名に似つかわしくない年端の行かない少年のような自分の有様が我ながら可笑しくなってきて、私はだんだん愉快になってきた。こんな気分、久しぶりだ。
「お待たせ。さあ、お食べ!」
 比較的マシな形をしている1切れを取って、この私にここまでさせたワンコの前に差し出した。ワンコはしばし真剣な顔をして黄色い果実を見つめた後、ぱくっと食べた。
 そして、初めて見る顔をした。甘酸っぱくて驚いた、みたいな顔を。
 もしかして食べたことなかったのかな?だから食べてみたいと言ったのだろうか?
 ここ数日ちょっと調べてみたので、このワンコの素性はだいたい知っている。このコの境遇から考えると、マンゴーを食べたことが無くてもおかしくない。このコが育った孤児院は貧しく、宗教的に厳しい所だと聞いた。
 このコはアメストリスの軍人がイシュヴァールの女を犯した末に産まれた子で、母親は出産と同時に死亡した。その出生の事情から親族は養育を拒否し、孤児院で育てられることになった。顔も知らない父親から受け継いだ白い肌のせいで孤児院で異端視されて育ち、それでも部族に受け入れてもらおうとしたのか志願して兵士となった。そして、私を狙ったわけだ。
 狙撃兵としては非常に優秀で、実際、私とは違ってノロマだったアメストリスの将校を2人葬っている。これまで一度も間近で姿を見られるようなヘマを犯していなかったために、アメストリス側は誰も金髪白い肌の少女だとは知らなかったが、正体不明のイシュヴァールの優秀な狙撃兵には仇名がついていた。
 鷹の眼。
 それが、このコのニックネーム。むくつけき筋肉ダルマ共がつけたにしては、割とセンスがいいと思う。
 でも、私の膝の上でぱくぱくとマンゴーを食べるこの姿からは、そんな名前の由来など想像も出来ないのだがね。
「美味しかったかい?」
 種が大きいマンゴー1個から取れる実の分量などたかが知れている。ワンコはすぐに全部食べてしまった。そして、種(私の剥き方がアレなので結構実がついている)をじっと見ている。
 物足りないのかもしれない。リュックの中にはもう1個マンゴーが入っている。できれば食べさせてやりたい。
だが、実はマンゴーが身体に合わない人間というのも、世の中にいるのだ。そして、このコは今日初めて食べたみたいだから、アレルギーが出るかどうかはわからないわけだし、今日は1個にしておいた方が無難だろう。私はそう思って食べさせてやりたいのを堪える。
ペットの健康状態に気を配るのは、飼い主の義務だからね。
「ん?美味しくなかった?」
 ワンコの反応が鈍いので、ワンコの顔を覗き込んだ。ピカピカに澄んだ赤茶の瞳に、黒髪の私が映っている。これまで迫害されて生きてきたせいか、ワンコの感情表現はひどく控えめだ。だから、その控えめな表現を見逃さないように、私はまっすぐ見つめた。
 喜んでくれてる気がしたんだけど、それとも私は何かヘマをしたのだろうか?
 長い睫毛に囲まれた大きな瞳を見つめていると、ふいに、ワンコの顔が歪んだ。そして、果汁でベタベタになっている私の指を舐め始めた。
「え?」
 ベルベッドよりも滑らかな舌が、私の指を舐めていた。チロチロと蠢くそのいかにも慣れてない未熟な舌使いが、商売女の熟練の技よりずっと俺を興奮させた。情欲の焔が点りそうになる(そう言えば今日はしてきてない)。
 ちょっ待て!コレはまずい!
 飼い主とペットの信頼関係構築を第一の目標として掲げている私が慌てて止めさせようと(惜しいけど)した時、ワンコは今度は私の手に頭を摺り寄せてきた。どうやら、親愛の情を表現しようとしたらしい。
 ほっとした私は、もう片腕でワンコの細い腰を抱き寄せて、しっかりと抱き締めてやった。
 ぎゅうっと強く(でも痛くないように)抱き締めると、ワンコは力を抜いて身を預けてきた。
 マンゴーの甘酸っぱい香りの中、ついに懐いてくれたんだなーと思って、私は心底嬉しかった。
 




「さあ、寝るよ」
 あれから、いつものように入浴して(このヒトも着替えて顔と手を洗ってた)、新しい下着とシャツを着せられて、2人でベッドに潜り込んだ。
 昨夜までは多少なりとも警戒していた(といってもだいぶ慣れてきていたけれど)私は今夜、全く警戒する気が起きずにくったりと身体の力を抜いてこのヒトに抱き締められている。
 イシュヴァールの民にはいない黒い髪も黒い目も、このヒトの匂いも体温も重みも、もう皆慣れてしまった。
 不思議なもので、一度警戒が解けると、煩わしいと思っていたはずのこのヒトの感触が心地好く思えてきた。
 だって、私はこのヒトに拒絶されていない。このヒトは私の喜ぶ顔が見たいと思ったんだ。
 そう思うと、胸の奥に小さな灯りが点ったみたいだった。今までにないほど身体が軽く、視界がクリアで、触覚が鋭敏になっている。私が知らずに身に纏っていた分厚い鎧を脱いだような、そんな感じがした。
 だから、その感覚に勇気を得て、私はアノ言葉を言ってみようとした。このヒトの顔をちゃんと見て。
 意を決した私が見上げると、優しい光を浮かべた明るい闇色の瞳が見下ろしていた。その瞳に私の姿が映っている。
 このヒトは私を見てくれる。
 その事実に背中を押されながら、私は言葉を紡いだ。
「・・・・・・・・・・・・怖い夢を見たんです」
 




「さあ、寝るよ」
 あの後いつものようにこのコを洗ったのだけれど、このコが本当に懐いてくれたんだなーと実感できた。これまでは「羞恥に震えて」という趣だったのだけど、今日は「恥ずかしくてモジモジして」という印象を受けた。この二つの表現の微妙なニュアンスの違いをわかってもらえるだろうか。
 昨日までは、私の手の感触をできるだけ意識しないように努力している様子(だがやっぱり意識してしまっている様子)だったのだが、今日のワンコは私の手の感触を受け入れてうっとりと身を任せていた(恥ずかしそうではあったけど)。
 だから、いつも楽しいお風呂タイムが今日は更に楽しくなった。や、一緒にお風呂とか出来るようになる日も近いね、コレは。
 とは思うが、私はそんな気持ちをワンコには悟らせない。このあたりが、モテない君には難しい配慮だ。無理矢理ガッツいて怯えさせることが目的じゃないんでね。私はあくまで、幸福な関係を築くつもりなんだ。そのためにも、も少し我慢。
 などと己を戒めていると、いつも寝る時は俯いているワンコがこちらを見上げてきた。上目遣いでじっと見上げてくる様は非常に可愛らしい。
 寸前の誓いを撤回して今すぐアレコレしてやりたいような気がしたが、なんとか堪えて、ワンコを怯えさせないようにできるだけ優しく微笑む。
 あーやっぱしてくればよかったかなあ(今夜を無事に乗り切るためにも)、なんて顔に出さないで考えていたら、無口なワンコが珍しく口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・怖い夢を見たんです」





「怖い夢?ああ、今日は風が強かったし遅くなっちゃったから、心細かったのかな。ゴメンよ」
 私の言葉を聞いた途端、このヒトは心配そうな顔になって、優しく髪を撫でてくれた。腰を抱いていた左手も背中を撫でてくれる。瞳に浮かんだ色は、幼い日見た師父の怜悧な光とは比べ物にならないほど温かかった。
 このヒトは、アメストリスの軍人で、悪魔の国家錬金術師のはずなのに、なのに私に優しくしてくれる。他の誰もくれなかった優しさをくれる。
「怖い夢を見たんです」
 もっと優しくして欲しくて、貪欲な私は同じ台詞を繰り返した。
「よしよし、大丈夫だよ。私が一緒だからね。君は独りじゃないからね。私が君の味方だよ」
 頭がくらくらした。寝転がった状態で聞いたのでなければ、倒れていたかもしれない。
 こんな甘い言葉、これまで聞いたこと無い。頭の中に花が咲いたみたいなふわふわした不思議な気分になる。
 思えば、このヒトは最初から優しかった(訳がわからなかったけど)。眼差しも声も態度も言葉も手も優しかった(変だけど)。ただ、私が受け入れられなかっただけだ。与えられる優しさを拒んでいた、たったそれだけの話。
 私がずっとずっと欲しかったモノは、ココにあったんだ・・・・・・・・
「怖い夢を見たんです・・・・」
 もっと、もっと撫でて欲しくて、私は言葉を繰り返した。
 これまで誰にも撫でてもらえなかった分、いっぱい撫でて欲しかった。
「わかった。明日は単独任務だから、君を連れて行こう。よしよし、独りぼっちにさせないから、安心しなさい」
 耳朶に落とされたキスは甘くて、言葉は優しくて、だから私はうっとりと目を閉じた。
 私の手が血塗られていて、このヒトの手はもっと血塗られていて、ここは戦場で、私たちがこうしている今もさほど遠くない場所でたくさんの人間達が殺しあっているという事実に、目を閉じた。

















 


このヒトは、前夜の約束通り私を任務に伴った。
 最初に1人で最寄の駐留地点へ行ってジープを調達してきて、自分のテントへ帰り、私を乗せ、そして現在、目的地を目指してジープを走らせている。赤茶けた大地を、鉄の獣が走っていく。
 手枷に布を巻いてクッション代わりにしてシートベルトをすると、このヒトの運転が丁寧なこともあって、荒れた砂地では意外な程に乗り心地は悪くなかった。なにより、久しぶりに感じる風が気持ちいい。
 もっとも、この地の風は、決して生き物に優しくはないけれど。
 無風の時はどれほどに暑かろうとも容赦なく無風で、吹き荒れる時はその場の生命を全てなぎ倒そうと吹き荒れる。私たちのようなちっぽけな地を這う獣たちの声など、聞き届けてはくれない。砂を巻き上げた拳で、私たちを打つだけ。
 太陽も同じで。
 照りつける時は雲の後ろに控えるなんて恥じらいの欠片も持たず、野放図に照りつける。渇きに喘ぐ私たちの嘆きは、決して天には届かない。太陽はただ、無慈悲な天のルールを遵守するだけ。
 ここは、優しさが足りない世界。
 張り出した岩を避けて大きく左にカーブした途端、前方に転がっていたガラス片に反射した陽光が眩しくて咄嗟に目を閉じたら、すぐ隣から優しい声がした。
「どうした?」
 優しい声。優しいヒト。優しくしてくれるヒト。
 このヒトが側にいてくれるというだけで湧き上がる喜びに、少しだけ頬を緩ませながら、私は小さく首を振る。
「いいえ。何もありません」
「ならいいが。もうすぐ目的地に着く。君が巻き込まれることのないように、この車はだいぶ手前で止めておくし、君の枷も解いて行く。車の運転はできるね?いざという時はこの車で逃げなさい」
 露ほども表情を動かさずこのヒトがそんなことを言うから、浮かれていた私は、ここが戦場でこのヒトはこれから人を殺しに行くのだということを思い出す。
 おそらくは、褐色の肌のイシュヴァール人を殺しに行くのだということを、思い出す。
「それは、あの・・・・」
 声が濁る。
 私はイシュヴァール人の母を持ち、イシュヴァールの部族の中で育てられた。イシュヴァラの教えを説かれ、部族の一員として部族のために生きよと教えられてきた。アメストリス国の東の僻地、砂漠の手前の乾いた土地だけが、私の世界だった。
 だが。
 結局、部族の民は私を受け入れなかった。私を疎んじた。イシュヴァラは私を救ってはくれなかった。誰も優しくしてくれなかった。このヒト以外は。
 私は今、このヒトと共にいたかった。撫でて欲しかった。優しくして欲しかった。一度火がついた欲求は留まるところを知らなくて、恥知らずな私はもっともっと、このヒトの優しさが欲しかった。
 けれど、イシュヴァール全体を敵に回す覚悟はまだ無かった。私に優しくしてくれなかったとはいえ、さして余裕も無い貧しい部族は私を養育してくれた。それは、聖職者には孤児を養育する義務があると定めているイシュヴァラの教えに基づく行動だった。
 愛されなかったからといって、私の方からイシュヴァラを捨てることはできそうになかった。
「そんな声出さないでくれ。大丈夫。念のために言っただけだよ。中隊程度なら、私は1人で対峙できるから」
 昏い顔をして俯いた理由を別の意味で解釈したこのヒトは、私を安心させようと明るい声を出した。
 優しいヒト。
 私は、このヒトの優しさが嬉しいくせにそれを上手く伝えられず報いることが出来ない自分を、情けない生き物だと思った。





 このヒトは何も嘘は吐かなかった。
 だから、目的地である小屋よりもだいぶ手前でジープを止めたし、ジープから降りる前に私の枷を解こうとしてくれた。
 だが、私の枷が解かれることはなかった。いや、その必要が無くなったというべきか。
 私の枷を解こうとした彼が小屋に背を向けた瞬間、周囲の岩棚に身を潜めていたイシュヴァールの戦士が2人現れ、叫んだ。砂色の髪をした大柄な男と、黄土色の髪の鰓が張った男。
「悪魔よ!地獄へ還れ!」
 煉獄へ送られたのは、彼らの方だった。
瞬時にジープのサイドミラーで戦士たちの位置を確認したこのヒトは、振り向きもせずに私の枷を解くために構えていた指を擦った。次の瞬間、業火が地を舐める。
轟っ!!
 身を竦めることしか出来なかった私の目の前で、褐色の肌の男たちは炭化し、黒焦げの消し炭となった。
 私は息をするのも忘れてこの光景に見入っていた。急激な温度変化のせいで突風が生じ、髪がかき混ぜられたみたいに乱されたけど、そんなことには構っていられなかった。
 なぜなら、今、左前方で消し炭と化したあの黒い塊は、砂色の髪の男は、私が知っていた人間だったからだ。
 彼は私と同じ孤児院の出身で、私よりいくつか年嵩だった。根っから乱暴な性質だったので戦士になることを自ら志願した。白い肌の私ほどでなくとも、親のいない孤児院出身者の肩身は狭い。だから英雄になって見返してやる、というのが彼の口癖だった。
 私は彼が好きではなかった。乱暴者の彼は男尊女卑が激しく、女である上に白い肌で愛想も無い私の存在が気に入らないらしく、罵られたりこずかれたりすることもしばしばあった。他の子供たちも私をこずいたりしたが、彼が1番ひどかった。彼が戦士となるために孤児院を出ていった時はほっとしたものだ。
 だが、その後戦士を志願した私は彼と再会する羽目になり、訓練と称して必要以上に殴られたことも何度もあった。私が狙撃兵として抜擢され、初仕事でアメストリスの将校を1人仕留めてきた時から人前で殴られることはなくなったが、その分余計に深く恨まれている気がして、私は彼を警戒していた。
 私は彼が嫌いだった。横暴で粗野で私を殴る彼が、大嫌いだった。
 彼は良い人間ではない。それは確かだった。
 だが、私といくつかしか違わない若さでこのように炭の塊にならねばならないほど悪い人間だったのかと問われたならば、私は答えられなかっただろう。焔の錬金術師の力は、およそ、人間が手にするべきではない絶対的な力だった。
 中隊を1人で相手取れると言ったのは、誇張表現でもなんでもなかった・・・・・・
「さて、こちらの情報が漏れていたということは、あの小屋に盗まれた軍需物資が隠してあるという情報自体が怪しいな」
 まだ熱を帯びている地面を一顧だにすることなく、青い軍服のこのヒトは前方の石造りの小屋を見つめていた。そして、また指を擦った。
 PATI!
 小さな火花の発生音とほぼ同時に、小屋の外壁が爆発によって吹き飛ばされた。そして、轟音!
 赤茶けた大地を揺るがすゴォン!という音が小屋から響き、火柱が立った。
「なるほど。私が扉を開けたら爆発する仕組みだったのか。だが、せっかちな愚か者がそれを待ちきれずに、私が背を向けたのを好機と見て取って襲ってきた、というわけか。う~ん、陳腐だ」
 地を舐めた焔の余韻も、転がる屍も、爆発した小屋も、このヒトにとっては驚いたりするには足らないことのようで、発火布の手袋を嵌めた手で腕組みしながら、冷静に状況を分析していた。配給された缶詰に対して不味いと文句を言う時と、全く同じ口調だった。
 私は小娘だった。世界には優しさが足りなくて神は答えてくれないと知っていたはずなのに、ちょっと優しくされるとすぐに甘い夢を見てしまうような、頭の悪い小娘だった。
 だから、このヒトが悪魔と呼ばれるほどの国家錬金術師であるという事実を忘れたフリをしていた。このヒトがただ優しいだけのヒトみたいに錯覚しようとしていた。私は最初から知ってたはずだ。なのに、都合が悪くなったから見ないフリしてた。
 私が見なくても、ココに在る事実なのに。
「あれ?ビックリしちゃったかい?大丈夫、もう終わったよ。さ、帰ろうね」
 声も出ない私に気がついたこのヒトは、振り返って優しく微笑んだ。その笑顔は、私にマンゴーを食べさせてくれたり、怖い夢を見たと訴える私を宥めてくれた時と何ら変わらない笑顔だった。
 きな臭い火薬の匂いとたんぱく質が燃焼する匂いに包まれて、この世で1番美しいモノと恐ろしいモノを内包するこのヒトの瞳はやはり、明るい闇色だった。



 コンクリート打ちっぱなしの床をカツカツと軍靴を鳴らしながら歩く。
 軍が本営として使っているこの建物は、元々はこの町の役場で、内乱勃発と同時に徴発して増改築して使用している。結構マメに掃除されているはずなのだが、吹き付ける風に砂粒が混じるこの土地柄、どうしても小奇麗な印象は受けない(大総統閣下ご帰還の際には印象が変わる可能性もあるけど)。
 水分が足りないんだ。だから、涙も涸れ果てる。
 つらつらとつまらない考え事をしながら、とある将校の部屋の扉をノックした。事前に話を通しておいたので、扉はすんなりと開き、招き入れられる。入室の挨拶の後、私はヒラメ顔の中年男に向って微笑んだ。
「将軍閣下、是非お耳に入れたいお話がございます。閣下の姿を幾度かお見かけした、あの店の件について・・・・・」
 燦々と降り注ぐ陽光を遮って、埃っぽい建物の中で交わされる薄汚い密約。
 ホント、こんなのってよくある、つまらない話。
 



 
 薄暗いテントのベッドの上で、身動ぎもせずに物みたいに転がっていた。
 ああ、物になれたらいい。心など無かったらよかったのに。
 私は、ベッド脇のサイドテーブル上のマンゴーを見つめて、他のことは何も出来ずに浅い呼吸を繰り返してた。
 仄かに赤味を帯びた溌剌とした黄色のマンゴーは、昨夜と何も変わらなかった。私を取り巻く状況とて、昨夜とさして変わらない。
 ただ、わかっていたはずの事実を思い知らされただけだ。ここが戦場であのヒトが人殺しだという、事実を。
 どう考えれば良いのかわからなかった。
 あのヒトは、軍人。国家錬金術師。焔で人間を焼き尽くす。これまでもそうしてきたし、これからもそうする。私は、イシュヴァラの教えを授けられたイシュヴァールの民。
 順当に考えるならば、私は何としてでもここから逃げ出すべきだろう(実際、最初はそのつもりだったわけだし)。その際にあのヒトを殺すことができたらイシュヴァールの戦士としては満点だ。これまで私を蔑んできた輩も、私を認めないわけにはいかなくなるだろう。
 だがそれは、もうあのヒトに撫でてもらえないということを意味する。優しい声ももう聞けない。この数日で慣れてしまったあの体温も失われる。優しい光を浮かべた明るい闇色の瞳を、もう見つめることができない・・・・・・
 そんなのは、嫌。
 ならば、あのヒトを選んであのヒトについて行けばいいのだろうか?これからも無数のイシュヴァールの民を屠り続けるに違いないあのヒトと、共に行く?
 それもまた、できそうにない。何より、私をここに留めているこの不自然な状況がいつまでも維持できるはずがない。遠からず破綻し、私がイシュヴァールの狙撃兵であった事実が判明すれば、確実に処刑されるだろう。
 わかっている。私は逃げなくてはならない。情報の一端なりを手土産にすれば、部族はまた嫌々ながらも私を許容し・・・・・・・・・・そして、愛してはくれないのだ。決して。
 哀しくなった。
 幼い頃から数え切れないほど、褐色の肌に生まれたかったとイシュヴァラに訴えたけれど、今の私はイシュヴァールの部族に生まれたくなかったと思っていた。部族以外の場所で生まれ育ったならば、私は何の躊躇いも無くあのヒトを選べるのに。ついて行けるのに。
そう思うと、胸の奥が締め付けられた時みたいに痛んだ。
「ただいま。具合良くなったかい?」
 現金なもので、私は何も考えたくないと思って転がっていたくせに、このヒトの足音だけは聞き分けていた。テントの戸を開ける前からそちらに注意を注いでいた。『期待している』のだ。
「・・・・・おかえりなさい。はい、大丈夫です」
 さっきと変わりない明るい闇色の瞳に優しい光を浮かべているに違いないから、だからこそ見るのが辛くて、私は微妙に視線を反らす。期待していたくせに、直視することが出来ない。
「そうか。なら、またマンゴーを剥いてあげるよ。お腹空いてるだろ?」
 白いシーツを見つめ続ける私に歩み寄ったこのヒトは、手袋を外し、私の頭を軽く撫でてサイドテーブルの上のマンゴーを手に取った。数時間前に煉獄を生み出したその手は、やはり温かかった。





「・・・・・・・あの、私やりましょうか?」
 しばらくの間、私は顔を上げずにシーツばかりを見ていたのだが、やがて耐え切れずに言葉を紡いだ。
 顔を上げて見上げると、案の定このヒトの技術は前夜から向上していなくて、掌の上に乗る果実を半分ほど皮を剥くだけでそれなりの時間が経過していた(そして果実はすでに少しいびつだった)。
 私は取り立てて料理が得意というわけではないし、育った孤児院では不浄とされて料理に携わることを赦されなかったが、戦士としての訓練には簡単な調理も含まれていたので、皮を剥いて切ることくらいは出来る。狙撃兵の私は、任務の性質上単独行動が多いし(狙撃兵を希望した理由の一つ)、狙撃地点での待ち時間が長いので、一通りのことは自分独りで出来る。
 少なくとも、異様に不器用なこのヒトよりはマシなはず。
 そう思った私は、自分が虜囚であることをすっかり忘れて呑気な提案をした。
「あ、ホント?やってくれるなら助かるよ。いや、実は私はこういうことに慣れてなくてね」
 後から考えると本当に理解に苦しみそうになるのだけれど、このヒトは私の提案をあっさり受け入れて、信じ難いほどすんなりと枷を外してくれた。手も、足も。
 けれど私も何故かこの状況のおかしさには全く気がつかないで、このヒトが差し出したマンゴー(半分皮を剥きかけ)と薄刃の小さ目のナイフを手にとって剥き始めた。
 昨夜のこのヒトよりずっと素早く上手に(服も汚していない)マンゴーをカットした私は、部屋の隅の水瓶の水でナイフと自分の手を洗った後、皿の上のマンゴーを1切れ摘んだ。
 そして食べようとして、ベッドに腰掛けてニコニコ笑ってこちらを見ているこのヒトに気がついたので、なんとなくこのヒトの口の前にマンゴーを持っていって言った。
「あーん」
 ちょっとビックリした顔をした後、親鳥から餌をもらう雛鳥みたいに素直に口を開けたこのヒトは、ぱくっと食いついた。全く何の躊躇いも無く。
「美味しいですか?」
「美味しいよ」
 首を傾げて問うと返事が返ってきたので、私はひどく満足した。
 私が自分も食べようと皿に指を伸ばそうとした瞬間、このヒトの腕が伸びて私の腰を抱え、私はベッドに腰掛けたこのヒトの膝の上に座らされていた。
「なんで、私に食べさせてくれたのかな?」
「それは、その・・・・・」
 至近距離でこちらを覗き込んできた顔には明らかに面白がっている様子が窺えたので、私はなんだか恥ずかしくなってきて、このヒトの左肩にしがみついて顔を埋めた。思えば、誰かに食べ物を食べさせたりするのは初めてのことだった。
「ん?」
 からかうような面白がる響きが居たたまれなくて、ますます強く肩に顔を押し付けた。もう手枷も足枷も無いというのに、この腕の中から逃れるなんてことはちっとも思いつかなかった。枷から解放された手で、強くしがみついた。
「・・・・あなたに、何かして差し上げたかったんです。してもらうばっかりだったから」
 個人的に誰かに何かをしてあげることは、これまで赦されなかった。誰も私の差し出す物を受け取ろうとはしなかったから。私の手を避けたから。他人が私に触れる理由は、私を殴るため。それ以外にはあり得なかった。このヒトに会うまでは。
「そんなの、気にしなくていいのに」
 このヒトの手が私の髪を梳きだしたので、私はうっとりと目を閉じてその指の感触を味わった。
「私が、そうしたかったんです。お嫌でしたか?」
 最初あれほどに怯えていたこのヒトの手を、先程目の前で焔を生み出したこの手を、今の私は少しも怖くなんかなかった。だって、このヒトは優しいもの。
「全然。嬉しかったよ」
 耳元で囁いたこのヒトが私の前髪を掻きあげるように梳いて、そして指の動きが止まる。
「あれ?この傷痕は?」
 左の額上部の小さな傷痕を見つけられて、私は呼吸が止まった。





 少女にしては些かしっかりしている(狙撃手だからね)ワンコの白い指が滑らかに動くのを、うっとりと眺めていた。
 私よりも器用なワンコが皮剥きを代わってくれるというので、枷を外して、喜んで代わってもらった。慣れた様子でナイフを扱うその手つきを見た時に、あ、刃物渡しちゃったよ!もしかして俺ヤバい?とか思ったが、なんとなく止める気になれなくて、そのまま見てた。
 そしたら、どうやらワンコは本格的に私に懐いてくれたらしくて、枷を解かれて刃物を手にして反抗には絶好のチャンスだというのに、そんなこと思いつきもしないらしい。
 あー、ついに信頼によって結ばれた理想的な関係になれたんだなー。このコが俺のだと閃いた勘は、やっぱり正しかったんだなー。
 ワンコを拾ってからの長いようで短かったこの数日間を思い出して、私はしみじみと満足した。
「あーん」
 そんなふうに俺が達成感に浸っていたら、マンゴーをカットし終えたワンコ(私よりずっと手早くて上手い)が、指で摘んだ黄色い1切れを私の口の前に差し出していた。 
 え?
 一瞬とても驚いたけれど、こんなチャンスを逃すことなんて出来ないので、私は慌ててマンゴーに喰らいついた。口の中のマンゴーは、これまで食べたことがあるどんな果実よりも甘い気がした。
「美味しいですか?」
「美味しいよ」
 にっこりと微笑んだ私は、むしろ小首を傾げてこちらを覗きこんでくる君が美味しそうだよ、と胸中で呟く。そして、無防備なワンコの細い腰を攫ってベッドに腰掛けた自分の膝の上に座らせた。何度味わっても飽きない、魅惑の弾力。ワンコは抵抗しない。
「なんで、私に食べさせてくれたのかな?」
「それは、その・・・・・」
 調子に乗ってワンコの顔を覗き込むと、恥ずかしがったワンコは私の左肩に顔を埋めてしまった。うっすらと赤くなった耳。
 ・・・・凶悪なほどの可愛らしさだ。
「ん?」
 構いたくて仕方が無くてちょっと意地悪い声で先を促したら、ワンコは更に恥ずかしがって一層強くしがみついてきて、私の左肩に押し付けたフルフルと頭を振った。
「・・・・あなたに、何かして差し上げたかったんです。してもらうばっかりだったから」
「そんなの、気にしなくていいのに」
 小さな声で囁くように言われた言葉があまりに可愛らしいので、うっかり別回路のスイッチが入りそうになる。ベッドの上で私の膝の上で美脚でシャツ1枚で可愛らしいのだから、それも無理は無い。
 だが、世の男性に称賛されてしかるべき忍耐力の持ち主の私は、こみ上げてきそうな衝動を必死で押し留め、ワンコの髪を梳く。今はダメ。今はダメ。今にも活性化しそうな自分に言い聞かせる。
「私が、そうしたかったんです。お嫌でしたか?」
「全然。嬉しかったよ」
 私に髪を撫でられるのが大好きなワンコは、うっとりと気持ち良さそうに目を閉じていて、私はなんだか段々、このまましちゃっても良いような気がしてくる。
 俺がこのコを好きでこのコも俺を好きなのだから、何の問題も無いような・・・・・・
「あれ?この傷痕は?」
 この時、前髪を掻きあげたこのコの額の左上部(いつもは髪で隠れているところ)に小さな傷痕を見つけなければ、私は本当にしてしまっていたと思う。だが、実際には、私は傷痕を見つけた。
 頭を洗う時は後ろに立つ形だし、顔を洗う時も泡塗れだし、タオルで水気を拭う時も他の場所に気を取られてたから、これまでこんなところに傷痕があっただなんて気がつかなかった。
 私は、逸る自分を抑えようと何の気なしに言葉を紡いだのだが、私の言葉を聞いた瞬間、このコが息を詰めたのがわかった。
 そして、私はこの小さな傷痕が出来た事情を知ることになる。





 あれは、昏い廊下で自分が誰からも必要とされていないことを噛み締めてから、しばらくしてからのことだった。
 その日、聖堂を拭き掃除していた私は、作業中に師父に呼びつけられた。私は、今度は何を叱られるのだろうかと内心怯えながらも、表面上は無表情を保って師父の前に立った。
 私は元々表情が乏しい子供であったし、この頃にはもう、私を罵る相手に反応を見せた方が余計にヒドイ目に合わされるということを学習していて、お面のような無表情で日々を過ごしていた。誰も私の笑顔など望まなかったので、それで支障は無かった。
 だが、叱られるとばかり思い込んでいた私は、師父から意外な言葉を聞かされた。
 師父は、夕方に祖母が私を訪ねてくると告げた。
 私は心底驚いた。
 母親の母親である祖母がどこかにいるということは知っていたが、これまで肉親が会いに来てくれたことは一度も無かった。私は望まれない子供として産まれ生家から捨てられたのだから、それが当たり前なのだと思っていた。
 だが、理屈ではそう考えつつも、孤児院の外で褐色の肌の仲睦まじい親子の姿を見る度に、私は息苦しくなった。当時はわからなかったが、白い肌の私は、親に愛される褐色の肌の子供たちを羨んでいたのだ。
 だから、祖母来訪の報は、私に胸が詰まるほどの期待をさせた。師父の話が終わって聖堂の拭き掃除を再開しながら、私は『おばあ様が私を好きになってくれますように』と祈った。昼食も喉を通らなくなるほどに、祈った。
 夕方になって来客用の部屋に連れて行かれた時、私は興奮し過ぎて訳がわからなくなる一歩手前だった。『おばあ様はどんな人だろう?』『失敗しないようにしなくちゃ。ちゃんと礼儀正しくしなくちゃ』『そうしたら、私のこと好きになってくれるかしら?』『撫でてくれるかしら?』私は、期待ではちきれそうになっていた。
 扉を開けると、来客用の椅子に1人の老婦人が座っていた。プラチナの髪、褐色の肌、赤い目、黄色いサリー。上品そうな顔立ちをして、きちんとした身なりをしていた。
 私は初めて見る近親者を食い入るように見つめ、震える唇を叱咤して「おばあ様」と呼びかけようとした。
 そうしたら、祖母が急に立ち上がり咳き込み始めたので、私は慌てて祖母に駆け寄った。手を、差し伸べた。
 バシッ!
 白くて固い何かが私の額にぶつかり、バランスを崩した私はこけた。
 そして、優しげな面立ちが祭りの時に見た悪鬼のお面のように醜く歪み、老婦人は血走った目になって怒鳴り始めた。
「この悪魔!娘を返せ!お前なんか産まれてこなきゃ良かったんだ!」
 罵倒されることには慣れていた。嫌われることにも。
 だが、これほど激しい憎悪をぶつけられたのは初めてだった。祖母の周りの空気が歪んでいるように思えるほど異様な迫力があって、私は逃げることすらできなかった。
 それから、どれくらい時間が経ったのかよくわからなかったけど、気がついたら、床に転がった私を蹴っていた祖母を師父が羽交い絞めにして取り押さえていて、床には白くて固い小さな物が転がっていた。
 師父に腕を抑えられながらも興奮醒めやらぬ様子の祖母は、額から血を流しながらその白い物を見つめる私を見て高らかに嘲った。
「娘の骨で娘を殺した悪魔を打ってやったよ!見ろ、悪魔が血を流してる!」
・・・そう、私の額に投げつけられた白い物は、私の母の骨だった。私を孕んだために苦しみ、私を産んだために死んだ、母の骨だった。
母の骨が、私を打ったのだった。
後で師父から聞いた話によると、祖母はこの時病に冒されており、既に死期が近かったそうだ。だからこそ、娘を苦しめ死に至らしめた悪魔である私に死ぬ前に一矢報いようとして、私に会いに来たらしい。私を罰するために、私に憎しみを伝えるために。





「だから、私、この時にわかったんです。イシュヴァラは、白い肌の子が好きじゃないんだな、て。ちゃんと、わかったんです」
 みっともないことに、私の声は震えていた。
 これまでこの話を人にしたことはなかった。それどころか、誰もこの傷痕に気づかなかった。母の骨で打たれたことを知っているのは、その場に居合わせた師父だけだった。
 誰も私を見なかった。誰も私を知りたがらなかった。誰も私を求めなかった。
 神は、私を救わなかった。
 だから私は、祈ることを止めたのだ。神が祈りを叶えてくれることを、期待しなくなったのだ。
 いつしか、私は前髪で傷痕を隠すようになった。誰かに見つかるからじゃない。自分が見たくなかったからだ。神に捨てられた証拠を正視できるほどの強さはなかった。
 隠してもココに確かに存在するのに。
 今更ながらに、自分が惨めになる。腐った死骸に集る虫けらと同列の存在のように思えてくる。戦士として人の3倍も訓練し、狙撃兵としての腕を認められたはずの今になっても、その思いが消えない。
 私は、唇を噛み締めた。
 と、その時俯いていた私の髪を掻きあげる感触がして、私はのろのろと顔を上げた。
 私の髪を掻きあげたこのヒトは、どこかがひどく痛いような顔をしていた。痛ましげに眉を寄せたその顔は、大人の男のヒトなのに泣きそうな顔に見えた。
「?」
 私が急に様子が変わったこのヒトを不思議そうに見上げていると、額に柔らかい感触がした。左の上の方の額、ちょうど傷痕があるその場所に、このヒトは唇を押し当てていた。
 2度。3度。
 私は息をすることも忘れてキスを受けていた。誰も触れてくれなかった傷痕に触れる優しい唇から、確かに何かが流れ込んできた。母の骨がつけた傷が、傷痕を見る度にジクジクと痛む気がした傷が、今初めて清められ癒されている、そんな気がした。
「リザ」
 優しい貴方は、宝物みたいに私の名前を口にした。私は吸い寄せられるように、その明るい闇色の瞳を見つめた。そこには、確かに、慈しみと愛情があった。
「リザ。可愛いリザ」
 声は甘く、優しく、熱かった。冷え切って凍えていた私の魂を温めるのに充分なほどの熱が篭められていた。
「可愛いリザ。優しいリザ。綺麗なリザ」
 ふいに、闇色の瞳から涙が零れ落ちた。透明な雫は頬を伝い顎を滴り落ちて、私の顔を濡らした。恵みの季節の雨みたいに、ポツポツと降った。雨垂れが落ちる度に、乾いて罅割れていた私の心が信じられないほどの勢いで潤っていくのを感じた。
「大好きだよ。俺のリザ、愛しているよ」
 冷えて乾いて罅割れていたはずの私の奥の深いところから、熱いうねりがこみ上げてきた。これまで感じたことも無いその衝動はあっという間に眼球に到達し、そして、貴方が再び額の傷痕にキスを落としたのを契機にどっと溢れ出した。
そうして私は、私のために泣いてくれた貴方の腕の中で、長い間忘れていた涙をやっと取り戻すことができたのだった。





 いつの間にか泣き疲れたワンコが眠ってしまったので、私はその身体をそっとベッドに横たえた。
 ワンコの寝顔は、これまでに見たことがないほど無防備な、赤ん坊のように安心しきった表情で、このコの心を開くことが出来た自分を誇らしく思った。
 おそらくこのコは、味方が誰もいない場所で誰にも愛されずに生きてきたんだろう。そんな場所で弱さを見せることは出来ないから、がんばり屋のこのコは心を固く凍えさせて押し殺してきたんだろう。
 寂しさに気づくことも出来ない、涙も忘れるような生き方。
 数年前の、滑稽なほどに無力だった黒髪の小僧によく似た生き方。
「でももう、独りじゃない。君には俺がいる。君はカミサマのじゃない、俺のだよ」
 出来る限りの優しさで細い金の髪を梳いて囁いた。怖い夢はもう終わりで、これからはステキな夢を見ればいい。君を愛さなかったイシュヴァラと違い、俺は君を愛してるから。
 柄にも無いほど感傷的で優しい気分に浸っていた私の神経を引っ掻いたのは、かすかに聞こえた車の音だった。
「・・・来たか」
 せっかちな連中め。せっかく珍しいほどにイイ気分だったのに、無粋なことだ。これだから、モテない男は困る。奴らは、タイミングを計るということを知らない。
 不満をたっぷり篭めたため息を一つ漏らして、眠るワンコに頭の上まですっぽりと毛布をかけて覆い隠した後、私はポケットから取り出した白い手袋を嵌めた。
岩棚に囲まれた曲がりくねった細い下り坂の終点に位置するこのテントを襲撃しようとする輩は、必ず、1度はテントに距離的に近づきつつも、ぐるりと遠回りしなければならない。敵が遠回りしている間に、こちらには迎撃のチャンスが与えられる。
そして、錬金術師の私には、岩棚をくり抜いて近道をし敵の背後に出る、という戦法が可能だ。
 さあ、モテない男共、この私とどちらが勝利の女神の愛を勝ち取るか勝負だ(結果は目に見えているがね)!
 私は、眠るワンコを残してテントを出て行った。






 泣き疲れて眠った私が急に目を醒ました理由は明白で、テントの支柱を揺るがすような轟音がしたからだった。
 毛布を跳ね飛ばして瞬時に身を起こし、テントの中を見渡す。寝入る寸前まで私を抱いていてくれたはずの貴方はいなかった。そして、鳴り止まぬ轟音。ということは、貴方は外で交戦中だということ。
 私は素肌に白シャツ1枚で裸足であることなど構っていられずに、サイドテーブルの小さなナイフ(マンゴーを剥くのに使った物)を掴んでテントの戸口から外を覗いた。
 案の定、曲がりくねった道の向こう、左前方に煙が見えた。ここから見える範囲内に人影は無い。私は居ても立ってもいられず、テントを飛び出した。
 貴方が心配だった。貴方が強大な力を持っていて強いことはよく知っていたけれど、小さなナイフ1つしか持たない裸足の私が大した役に立てないことは承知していたけれど、貴方が戦っているのに何もせずに待っているなんてこと、到底出来なかった。いざとなったらこの身を盾にするくらいのことは出来る、その覚悟で駆け出した。
 最初の曲がり角を曲がりきらないうちに再び破裂音が響き、2人の男が爆風に押されるような形でこちらに飛び出してきて倒れこむ。私は脚を止めた。
 奥には油断なく手袋に包まれた手を構えた貴方がいて、その姿を認めた私は短く安堵の息を漏らす。王のように毅然とした立ち姿の貴方の周りには、拭き散らかされる爆煙と焔の余韻と、たんぱく質が燃える嫌な匂いを発しながら蠢く肉塊がいくつかあった。
「リザ、下がってろ!」
 貴方は私の姿を見ても動揺することなく、先程こちらに飛び出してきた2人のうち、左側の白い肌でチョビ髭の男の脚を狙って焔を発生させた。その衝撃と激痛に意識を飛ばした男の手から、銃が落ちる。ほぼ反射的に私はその銃に手を伸ばした。
「・・・・リザ?」
 右前方から聞こえた声に視線を送ると、そこには師父が居た。煤けた砂色の外衣に身を纏った、褐色の肌に赤い目の壮年の男。左眼の下に大きな傷痕がある見慣れた顔立ち。間違いなく、私が育った孤児院の長であった師父だった。
 戦闘中にどこか痛めたらしく、頑健な身体つきの師父は片膝をついていたが、銃を握る手は力を失っておらず、戦意に燃えた赤い目はギラギラと光っていた。私がイシュヴァールの狙撃兵リザであると認識した途端、師父は私に向って叫んだ。
「リザ、あの悪魔を殺せ!」
 右前方に師父、奥に貴方。地面に転がる死体と半死体。風は冷めやらぬ熱を孕んで熱く激しく猛り狂い、赤茶けた大地の上に焔の影は色濃かった。
 私は、この光景をその後幾度も思い出し、そして、いつも必ず同じ結論に達する。





 慣れた金属の感触が指先に触れた途端、鍛えた私の身体は銃の扱い方を思い出していて、半ば反射的に射撃体勢を取った。指先が引鉄に掛かる。
 その瞬間、手前の師父は勝ち誇った歪んだ笑みを浮かべ、奥の貴方は優しく微笑んだ。赤い瞳に浮かぶ殺意と、闇色の瞳に浮かぶ優しい光。
 そして、私が瞬時に狙いを絞り引鉄を引くと、その両目のちょうど中間に小さな穴が穿たれ血が迸った。
 その、赤い両目の真ん中に。
 師父は、自分が養育した人間の手によって、抵抗する間もなくたった1発の銃弾で葬られた。
「おいで、リザ」
 身についた反射神経で返り血を避けて後ずさった私は、向こうで私の主が優しく微笑むのを見た。右手の手袋を外して、素手になったその手をこちらに差し伸べていた。
 あれは、私を撫でてくれる優しい手。
 傍らの死骸を物ともせず、銃を持ったまま私は駆け出し、貴方の腕の中に飛び込んだ!
「リザ、ありがとう。良いコだね、リザ」
 私を抱きとめた貴方は、その優しい手で私を撫でてくれた。周りで死に損なった生き物達が呻いているのが聞こえたが、戦闘能力を無くしているのが明白だったので、私はそんな呻き声など気にしない。
 私の耳に聞こえるのは、私の名を呼ぶ優しい貴方の声。
 ただそれだけ。
「お怪我はありませんか?」
 見て取れる場所に怪我の痕跡が無いのを確認したけれど、念のために問う。
「ないよ。リザは大丈夫?」
「はい、私は・・・・・」
 力一杯しがみついた私の髪を撫でながら、貴方は耳元で囁いた。呼気がくすぐったくて、私は少し身を捩る。自分がだらしないほどうっとりした顔をしているだろうことが、よくわかる。
「あ、君は裸足じゃないか!足の裏が傷ついてるだろ!?見せなさい」
 突然、私が裸足だったことに気がついた貴方は、私の前にしゃがみこんで私の足の裏を確認しようとした。
「こ、これくらい平気です」
 慌てた私はなんだか気恥ずかしくなって逃げようとしたのだけれど、貴方が足首を掴んだから逃げることも出来なかった。
 確かに裸足で走ったから足の裏にいくらか傷がついているかもしれないけれど、戦闘訓練を受けていた私は怪我をすることなどしょっちゅうで慣れっこだったし、痛みには強いつもりだった。だから、こんな程度のことでこんなに大げさに反応されてちょっとビックリした。
「俺が平気じゃないからダメ。さ、手当てするよ」
 あっという間に油断してた私を抱き上げた貴方は、にっこりと優しく微笑んだ。
 辺りにはまだ焔が残した熱が残留していて、死体はくすぶる音を立ててまだ燃えていた。死にきれなかった者たちは肉体に大きな損傷を負い、激痛に追い立てられながらも迫り来る死に抵抗していた(だがおそらく無駄な抵抗だ)。赤茶けた大地の上に戦闘の名残は鮮やかで、なのに全ての痛みと死をもたらしたはずの貴方は、頬に少し煤がついているだけだった。
 見る間でもなくこの漂う死臭で明らかなほどに、貴方は死の王だった。そして、私に新しい命を与えた生の王でもあった。
 生と死の王の腕に抱きかかえられた私は、その首にしがみつきながら、胸中で何度も呟いた。
 誰もが皆、己が捨てた物によって捨てられる。私を捨てたイシュヴァラを、今度は私が捨てる。
 私はカミサマより貴方がイイ。
 左眼の下に傷がある男の白濁した赤かった目が恨みがましくこちらを見上げていたが、さして気にならなかった。








 申し訳程度に安物のカーペットが急遽敷かれた廊下を、カツコツと軍靴を鳴らしながら歩く。数日前よりは確かに小奇麗な印象になったが、もちろん、居心地の良さなどはまだまだ感じられない。ここは零れた涙が循環できない、無情な砂の地。
 ノックして入室した扉の奥には、やはりヒラメ顔の中年男。本人にはさして取り得も無いというのに、親族が有力な企業家であったことと妻が旧貴族の家柄であったことと父親が将校であったことを利用して、現在の地位までなんとか昇った無才な男。
 自力で頂上まで昇り詰めたキング・ブラッドレイ閣下と同期だったと聞くが、同年代の傑物に学ぶところは何もなかったらしい。いや、反対に学んだのかな?自分が小物だから金をばら撒く以外に手段など無いって。
 見苦しいヒラメ顔を直視するのに耐えなくて、つらつらとどうでもよいことを考える。
「スワロー少将、先日御下命になられました例の件、滞りなく予定通りに処理させていただきました」
 先日の例の件とは、焔の国家錬金術師たる私が襲撃されたあの事件のこと。あの事件には、イシュヴァールを裏切ったと見せかけて情報を流していた二重スパイが絡んでいた。そう、あのチョビ髭が二重スパイだったんだ。
 チョビ髭の店の褐色の巻き毛の女(名前なんて言ったっけ?)の協力のお蔭で、証拠物件も見つかり、無事押収することもできた。
「マ、マスタング少佐。うむ、君の優秀さには私も感嘆しているよ」
 あのチョビ髭にみすみす情報を流していた阿呆な軍人が、褐色の巻き毛の女に入れ込んでいたこの目の前のヒラメ顔だ。私がワンコと出会うきっかけとなったワンコの狙撃も、この男が情報を漏らしたことがそもそもの原因らしい(ま、この件に関しては結果オーライだけど)。ワンコについて調べていたら、ワンコを養育した孤児院の師父に突き当たり、その師父に情報を漏らしていたチョビ髭のスパイ行為を知ることになった(運命の女神は私のような色男が好きなのさ)。
 後は簡単。
 チョビ髭の店の女を使って証拠を手に入れてこのヒラメ顔に突きつけ、私の要望を叶える代わりに秘密裏にチョビ髭らを始末する密約を結んだわけだ。
「非才なるこの身に余る閣下のお言葉なれど、ありがたく受け取らせていただきます」
「う、うむ」
 この若さで国家錬金術師として頭角を現している私は、もちろん『非才』などではない。『非才』なのはこのヒラメ顔の方だ。謙遜した私の言葉の中の皮肉にも気がつかない愚鈍なヒラメ顔は、最初、お気に入りの褐色の巻き毛の女に未練たらたらだったが、近々大総統閣下来訪という事実を示唆すると、急に態度が変わった。大総統閣下は愚鈍どころか、一種神がかった趣すらある程の慧眼だからね。身辺を綺麗にしておきたいと思うのも無理はない。
 かくして、女を通じて偽の情報を流した私は、予定通りテントを襲撃され、見事返り討ちを果たしたのだった。だから、この男が私の依頼した件を遂行できていれば、コレで話は一件落着。
「時に閣下、私が見つけてまいりました書類の件ですが、・・・・」
 無情の業火を操る能力を持つ私が一歩前に踏み出すと、あからさまに表情を引き攣らせたヒラメ顔は慌てて引出しから大き目の封筒を取り出した。
「あ、ああ、もちろんちゃんと受理して申請しておいたぞ」
 封筒を受け取る。幾種類もの書類が詰まった袋は、しっかりした手応えだった。
「さすが閣下、軍人の模範となるべき方は仕事がお早い。では、こちらは納めさせていただきます。今後とも、何か私が力になれることがございましたら、どうぞお声がけください」
 早く封筒の中身を確かめたい気持ちで一杯になりながら、気もそぞろに挨拶をして私は退室した。
 カツカツコツッカツ!
 あー、足音が踊ってる。





 流暢に動く黒い油性マジックが複雑な図形と文字を紙の上に吐き出す。
 ブラウスにジャケット、パンツにブーツという動きやすい軽装でホテルのベッドに腰掛けた私は、サイドテーブルの上で描かれてゆく錬成陣を見つめていた。
 ここは、東部内乱鎮圧軍の本拠地が置かれた町で、唯一のホテル。貴方曰く「どう贔屓目に見ても中の上」であるこのホテルの、それでも1番イイ部屋を占拠して、数日が経過している。
 錬成陣を描き終えた貴方は、青い軍服の胸ポケットから、慎重に、小さな槍のような形の金具と留め金を1対と、小指の爪ほどの小さな石を取り出して陣の上に乗せた。
 濃い黄色を帯びた透明な石は、どこか懐かしさを駆り立てる不思議な深い色をしていた。
 数日前からこのホテルで暮らしていた私は、好奇心を駆り立てられて貴方の手元を覗き込む。
「これ、何ですか?」
「琥珀。太古の女神のため息の結晶だよ」
 錬成陣に描かれた文字を確認している貴方は、顔も上げずに返事した。子供騙しな台詞だと思ったけれど、常人よりも遥かに世の真理に近いところに居る錬金術師である貴方が言った台詞だから、私は冗談として流すことが出来ない。
「ホントに?」
「ホントさ」
 余人が言った台詞ならば一笑に伏すのだけれど、顔を上げてこちらをまっすぐ見つめながら貴方が断言するので、私は信じることにする。
 世界の他の人の認識など存じあげないけれど、少なくとも私にとっての真実として。
 私が納得した様子なのに頷いてから、上着から小さな薄刃のナイフを取り出した貴方は、手袋を嵌めていない左手の指先を切った。指先から滴り落ちた赤い雫が、太古の女神のため息を濡らす。
「!?」
 貴方の血を見て慌てた私が動こうとするのを視線で制して、貴方は手袋に包まれた右手の指先を擦った。
 PATI!
 火花が飛んだ錬成陣は特有の錬成反応の光を放ち、光が消え去った後に錬成陣の上に乗っていたのは、先程よりも赤味を帯びた琥珀がついた1対のピアスだった。
 摘んで灯りに翳した後、貴方は達成感に満ちた笑顔になった。
「できた。さ、付けてあげよう」
 そう言って、私を手招く。
「ピアスですか?でも、私は孔を空けていませんが」
 貴方から与えられることは私の喜びだったが、生憎貧しい孤児院で育ち身を飾ることとは無縁の生き方をしてきた私は、ピアスのための孔など空けてはいなかった。
「こうする」
 私の戸惑いなどさらりと流した貴方は、油性マジックを持って私に近づき、両方の耳たぶに何かを描いた。そして、ピアスを孔の空いていない耳たぶに触れさせ、右手の指を擦る。
 PATI!
 それから、もう片方の耳たぶにも同じようにピアスを当てて、指を擦る。
 PATI!
 耳たぶを指で軽くはじかれた程度の衝撃が、2度。恐る恐る手で触れてみると、私の耳たぶにはピアスがくっついていた。
「痛くなかっただろ?」
「はい」
 1滴の血も流れていないし、痛みも全く無い。私は改めて錬金術というものに驚きを感じつつ、素直に頷いた。貴方は満足そうに頷き、ベッドの脇に置いていた旅行鞄を手にとって立ち上がった。
「さ、じゃあ行こうか」
「・・・・・はい」
 促されてのろのろと立ち上がった私の声は、自分でもわかるほどに昏かった。





 師父たちの襲撃があった日、貴方は、私の足の裏を洗って薬を塗り包帯を巻いてくれた後(包帯を巻くのはそれほど下手ではないんですね)、ベッドの下から、私が最初貴方と出会った日に来ていた服を取り出した。そして、私が服を着ている間に簡単に私物を纏め、襲撃者が全員息絶えたことを確認してから、彼らの物だった車に私と荷物を乗せて、本営が置かれたこの町に入った。
 検問を超えて(私は怯えていたが、貴方が国家錬金術師だと名乗ると憲兵は全く詮索しなかった)町へ入り、貴方は町で唯一のホテルで1番イイ部屋を確保した。そして、荷物の中から数冊の本を私に手渡して読みように命じ、部屋から出て行った。
 それから数日間、貴方はホテルから本営に通い、私は貴方がいない時間、貴方の言いつけ通りに本を読んで過ごした。本は、貴方が帰ってくる度に増えて、軍の構造と歴史と軍紀についての物と、地図と、西部の風俗と年中行事に関する物が多かった。貴方は帰ってくる度に渡した本の内容を私が理解したかどうかを軽くテストして、私が全問正解すると誉めてくれた。貴方に誉められたくて、私はがんばって全ての本の内容を把握した。
 満ち足りた数日間だった。
 貴方は(何時に帰ってくるかわからなかったけれど)私の待つ部屋へ帰ってきてくれたし、枷を外された私は服(貴方が買ってきてくれた)を着て、ホテル内を自由に歩くことも出来た(建物から出ることは禁じられたけど)。自分の素性に関して決して口外しないというルールさえ守れば、貴方は私がホテルの人間と口を聞くことも許可してくれた。
 貴方が仕事で出かけている間は寂しかったけれど、私にはやること(本を読んで覚えること)があったし、貴方が誉めてくれるからやりがいもあった。
 ちょっと時間が不規則になりそうだから、と貴方は私に食事と入浴を1人でするように言いつけたが、寝る時はやっぱり抱き締めて寝てくれた。昼寝をしておいて睡眠時間を確保し、夜は先に寝たフリをして、夜中にこっそりと寝顔を眺める一時が、とても好きだった。
 私は幸福だった。かつて無いほどに。
 だが、そんな日々はもう終わり。私は今、駅のホームで旅行鞄を提げて立っている。汽車が鼻息荒く白煙を撒き散らし、時計は無情にチクタクと時を刻む。
 わかっていた。
 貴方は軍人だし、私は(自分では捨てたつもりだとはいえ)元イシュヴァールの戦士だ。顔は知られていないとはいえ、私は過去に幾人かアメストリスの軍人を殺害している。そんな私をいつまでも手元に置いておくことは、貴方の身の破滅に繋がる。
 理屈では理解できている。でも、それでも・・・・・・・
「いいかい、リザ。中央の駅のホームで、グレイシアという名前の女性が君を待っている。金髪の優しげな美人だ。彼女がヒューズに会わせてくれる。ヒューズは昨日話した通り、俺の悪友だ。奴に、この鞄にしまった封筒を渡しなさい。奴には全ての事情を説明してあるから、奴が君の面倒を見てくれる。君は何も、心配いらない」
 私のジャケットのポケットに汽車の切符を押し込んだ貴方は、今後私がどうすればよいかを説明してくれたけれど、私は黙って俯いたままだ。
 優しい貴方は部族を裏切った私の生活を保障してくれたが、私はどうしても素直に感謝することができない。
 だってそれは、貴方と別れるということだから。
 新しい戸籍を用意して当分の間の食べ物や寝床の面倒を見てくれると貴方は言ったけれど、私はそんなものをもらうよりも貴方の側にいることを赦して欲しかった。食べ物や寝床はどんな汚れ仕事をしてでも自力で確保するから、貴方の側にいたかった。
 でも、貴方はそれを望まないのだ。
 涙の衝動がこみ上げてきた私は、それをやり過ごすために唇を噛み締めた。
「リザ、勘違いするな。君は俺のだ。俺は君を捨てたりしないし、決して手放さない。今、君を側から離すのは、これが2人のために必要だからだ」
「でも、だって・・・・・」
 私の髪を撫でる貴方の手は優しかったが、私はまだ顔を上げられずにいた。「私に必要なのは貴方だけで、他には何もいらないんです」と言いたくて、それが貴方を困らせるに違いないから言うことができなかった。
 発することが出来ない言葉が、胸の奥で澱となって沈殿していく。貴方の側にいられる最後の時間を大切に味わいたいのに、空気が重苦しい。
「俺を信じろ。それとも、・・・信じられないか?」
「いいえ!」
 少し傷ついたような響きを漂わせた貴方の声に、私は慌てて顔を上げて強く否定した。
 いいえ。
 貴方を信じないなんてことは出来ない。カミサマを捨てた私は、貴方だけを信じているのです。
「いいコだ、リザ」
 前髪を掻き分けた貴方があの傷痕にキスしてくれたので、私はそっと目を閉じた。





「明後日、大総統がこのイシュヴァール戦線を視察に訪れる。当然、軍紀も厳しくなる。さすがの私も、君の存在を隠しとおすことは出来なくなる。だから、君を中央に送る。中央には骨折で入院してるヒューズがいる。覚えておけ、ヒューズは私の味方だ」
「はい」
 発車時間にはまだだいぶ間がある。ホームの隅のベンチに腰掛けた貴方は、荷物を傍らに置いて私を膝の上に座らせていた。一度だけ駅の警護をしている憲兵が物言いたげにこちらを見やったが、貴方が視線をやるとすぐに目を反らした。
 外でこんなふうにくっつくのは初めてで少し恥ずかしい気もしたけれど、自分から離れるなんてことは私にはできなかった。
 時が止まればイイ。そうしたら、ずっとこのままでいられる。
「君に渡したこの封筒の中には、君の新しい戸籍と履歴を証明するための書類が入っている。ヒューズに渡したら、万事ちゃんと手配してくれるはずだ。だから君は、ヒューズの指示に従えばいい」
「はい」
 髪を撫でる貴方の手は優しく、耳に響く貴方の声は魅惑的で、明るい闇色はこの世で最も恐ろしく最も美しい色だ。
 ぼんやりと、そう思う。
「君の新しい名前は、リザ・ホークアイ。リザ・ホークアイは東部出身で、昨年テロに遭って建物が倒壊した西部の士官学校に在籍していたことになっている。成績はなかなか優秀。銃器の扱いは抜群。建物の倒壊に巻き込まれて負傷したため、最近まで故郷で療養していた。君は負傷前に単位を全て修得していたので、全快した今、めでたく卒業を認められた。そういう設定だ」
「はい」
 貴方の言葉を頭の隅に書き留める一方で、私は貴方の感触を心に刻み付ける。貴方の匂い、貴方の体温、貴方の気配。独りぼっちになってもちゃんと思い出せるように。
「君は、本人のたっての希望とスワロー少将の強い推薦の結果、イシュヴァール戦線へ配属され、焔の国家錬金術師ロイ・マスタングの補佐官となる。その予定だ」
「は・・・えっ!?」
 頷こうとした私は、驚愕で目を見開き言葉を失う。
 すぐ近くにある貴方の顔は、面白がるみたいに悪戯っぽい表情を浮かべている。
「嫌かね?嫌ならば、違う未来を用意することも出来る」
「嫌なんて、嫌なんてそんなこと・・・!私はもう貴方のお側にいられないかとばかり・・・・」
 喉の奥が詰まって、上手く言葉が出てこない。
 テントで目覚めたあの時、外で爆音が聞こえて貴方が敵と戦っているのだと思ったあの瞬間、私は居ても立ってもいられないほどの衝動に駆られた。
貴方が傷つくのが嫌だった。私の知らないところで貴方が死んでしまったらどうしようかと思って、泣きたいほど不安になった。
 だから、中央に行くのが嫌だった。貴方が私を捨てなくっても、時々会いにきてくれたとしても、貴方が危険な時に私は何の役にも立たない。
 私には何も無い。人脈も人望も財力も無い。私にあるのは、私自身だけだ。この命だけだ。鍛えたこの腕だけだ。
 だから、貴方に捧げたかった。
 ごく勝手な言い分だが、貴方が受け取ってくれるのならば、これまでの私が報われる気がした。私がイシュヴァールの民として生まれ育ち、拒まれ、己の証立てのためにこの腕を磨いたこと、それら全ての理由になるとそう思っていた。
「あのヒラメ顔がちゃんと書類を用意出来ていなければ無理な話だったからね。タイミング的にギリギリだったし、確証が出るまで言えなかった。不安にさせたね、ごめん」
「謝ったりしないでください。私は、私は嬉しいです!」
 私は今後、二度と自分を蔑んだりすることは無いだろう。死骸に集る虫けらと己が価値を比べたりしないだろう。
鏡を見ても、決してどこも痛んだりしない。額の傷痕など気にもならない。貴方が穿ったこの耳たぶの孔を見て、喜びと誇りを感じることはあるだろうけれど。
 私は貴方に望まれた!!
 その誇りは私の骨となり、この身が死して肉が朽ち果てても残る。カミサマに拒まれて天国へ行けなくっても、私はちっとも怖くない。
「君は本当に良い狗だ」
 貴方から誇りを与えられたこの日を、私は生涯忘れない。





 人気の無い一等車両の指定席に座らせて私が踵を返そうとすると、ワンコは途端に寂しそうな顔をした。
 (不遇な生い立ちのため)表情筋が発達していないワンコだが、赤茶の瞳が潤んだので、私には寂しがっていることがちゃんとわかった。可愛いこのコにこんな顔をさせたまま別れるのは忍びない。私は、なんとかワンコの気持ちを盛り上げようと、にっこりと微笑んでみる。
「君のそのピアス、何を模したつもりかわかるかい?」
 今日錬成したばかりのピアスをつけた耳たぶに、手袋を外している手で触れて囁く。
「マンゴーですか?」
「・・・・・君の瞳の色のつもりだったのだが」
 ロマンティックな口説き文句のつもりだった台詞は、無邪気に即答した君のお蔭で虚しく滑る。
「あ!言われてみれば」
「いや、別にマンゴーでもいいけど・・・」
 雰囲気作りが失敗した私はちょっと落ち込みそうになったが、すぐに気を取り直す。
 イシュヴァールから出たことの無いワンコにアメストリスの一般常識と軍紀を叩き込み、諸手続きを無事に受理させ私の手元へ帰すのには、最低でも1ヶ月はかかる(いかに事務能力に長けたヒューズとて)。
 だからこそ、別れのシーンは美しく演出すべきだろう。ワンコに良い印象で思い出してもらうためにも。
 故に落ち込む暇などないと自分を叱咤して、私はワンコの顎に指をかけて顔を近づける。
 純粋無垢なワンコは、きょとんとしてこちらを見上げている(あー、可愛い)。
「良いコの君にご褒美をあげよう」
 互いの唇が触れる寸前にそう囁いて、私は柔らかい唇に触れた。
 口紅も塗っていない唇を丁寧に舐めた後、無防備に開かれている口内に舌を滑り込ませる。歯並びの良さを確かめるみたいに歯列を撫で、滑らかな舌に触れる。戸惑う舌を絡め、吸い上げ、口蓋を擽るように撫でる頃には、ワンコの全身から力が抜けていた。喉を反らして息苦しそうに喘ぐから、一度唇を解放する。途端に大きく息を吸い込んだワンコの唇の端に優しく口付けてから、もう一度同じ手順を繰り返す。
 それからやっと唇を解放したら、赤茶の瞳が先程とは違うニュアンスを湛えて潤んでいた。
 上出来。
 頭は混乱してるのに身体は欲しがっている状態だというのが如実にわかるその表情は強烈にそそったが、がっつくしか能の無い輩とは違う私はぐっと我慢する(ここがモテるための秘訣だ)。
「帰ってきたら、続きをしてあげよう。だから早く帰っておいで」
 私が囁くと、まだぽーっとした顔のワンコはコクリと頷いた。
 私も、君が帰ってくるのが本当に楽しみだよ!





 発車した汽車が見えなくなるまでホームで見送った後、私はさっさとホテルに帰ろうとした。ワンコがいなくなった以上、もうあの部屋に宿泊する必要も無い。さっさと荷物を纏めて兵舎に移らなければ・・・面倒くさいな。
 この時、片づけが嫌いな私は些かうんざりした気分になっていたが、油断はしていなかった。
 だから、駅の改札を抜けてしばらくしてから、曲がり角の向こうから現れた褐色の巻き毛の女がポケットから出した手に鋼色に煌く刃を認めた瞬間、身構えることができた。そして、ぶつかってきた勢いを反らして、その手首の向きを180度変えて女の腹にぐりっと押し込んだ。
 そしてそのまま、女の口元を手で押さえ、身体を半ば抱きかかえるようにして路地に入る。
 ちょうど良いことに路地の向かいの安アパートでは痴話喧嘩が真っ最中で、ここならば多少の物音がしても気取られる心配はなかった。
 女の口から手を外すと、呻き声が漏れた。煽情的な黒いワンピース姿では腹部から漏れる血がよくわからなかったが、さっきの手応えと腹部を抑える女の手から零れる赤い雫を見ると、傷が内臓に達していることは間違いが無かった。
「あなた、ヒドイわ」
 息をするのも苦しい様子の女が、それでも私から視線を反らさず恨み言を口にした。
「あたしの、こと、愛してるって、言ったくせに、あたしを、捨てるなん、て。人前で、あんな小娘、に、構うなんて・・・・」
 その言葉で、やっと、私はこの女が誰かを思い出した。二重スパイのチョビ髭の店にいた女だ。情報を提供してもらって、スパイ容疑の証拠集めにも協力してもらった女だ。協力要請のために落としてしまったので、この女にご執心のヒラメ顔にやることも出来なくて(嫉妬とかされたら面倒だし)、仕方なく、馴染みの情報屋から聞いた中央の暗黒街に納められるトラックに放り込んだんだっけ。
 今ココにいて私を恨んでいるということは、どうやら脱出して私を追いかけてきたんだな。
 ・・・で、この女の名前は何だったっけ?
 私が名前を思い出そうと脳内手帳を検索していると、毒々しい赤の口紅がよく似合う女は涙を零した。
「なん、とか、言っ、・・てよ。あたし、あ、あなたを、選ん、で、全部、無くしたの、に」
 困ったな。この女の得意な体位は思い出せるのに、名前が思い出せない。
 まあ、別にいいか(この女もう死ぬし)。
「でも、私は君のこともういらないんだ」
 というか、名前も思い出せないし。
 そう告げたら、ひしゃげた粘度細工みたいに醜く顔を歪めた女が最後の力を振り絞って叫ぼうと息を大きく吸い込んだので、私は、女の横を通り過ぎながら腹部のナイフを引き抜いた。女の腹からどっと血が溢れ出すと同時に、女の背後に回った私は、軍靴で腰に蹴りを放った。
 路地に残ったのは、私と、血溜まりと死骸と血で汚れたアーミーナイフ。
 女の血とナイフを筆記具にして、路地のレンガの上に錬成陣を描く。もう描き慣れた、血を拭い死骸を地中深く埋めるための錬成陣を。
 あー、面倒くさい。
 こういうのって、ホントよくある、つまらない話。









 嵐のような口づけは過ぎ去ると夢のようで、でもまだ、私の唇の上に感触が生々しく残っていた。
 唇に指を当てた私は、愛しいご主人様のことを思いながら目を閉じた。
 私のご主人様。貴方は今、何を思っていますか?





 サイドテーブルにぶつかって、せっかく纏めた荷物をホテルの床にぶち撒けてしまった私は、もう面倒だからそのまま放置し(明日片付けるよ、明日)、ベッドに倒れ込んだ。 
 キングサイズのダブルベッドは、1人じゃ広過ぎる。
 早く俺のワンコが帰ってきて一緒に寝れたらいいなあ・・・・・・とか思ってるうちに、押し寄せてきた眠りの波に攫われた。













 と、まあこうして、俺は愛犬と出会い、飼い主とペットとして理想的な関係を築くに至ったわけだ。
 何か間違っていると思うかもしれないが、善悪の話は俺にはよくわからない。
 だって、カミサマは怠け者で、非道を裁いたりしないからね(じゃなかったらこの戦場の有様は何なんだ?)。
 だから大切なのは、愛!
 そして、俺たちはお互いを愛している。
 よって、何も問題は無い。






「愛しています、私のご主人様」
「愛してるよ、俺のリザ」
 
 ね?これでハッピーエンドっ!!





【おわり】
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