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仁義無き攻防戦

 鋼の錬金術師、オールキャラ(ロイアイ、エドウィン)。
【ガータートス】
 一種のおまじない。結婚式で、花婿が花嫁のガーターを取り、未婚の男性に向かって投げ、見事ガーターを受け取った未婚男性は、次に結婚できるとされている。





 質実剛健を絵に描いたような花婿の人徳か、空が雲1つ無く晴れ渡る今日の良き日、エドワード・エルリックはひどく真剣だった。無事に結婚の誓いが済んだ教会の出口で、沿道を埋め尽くす参列客の中で埋もれそうになりながらも(彼の背は高くない)、拳を硬く握り締める。
 場数を踏んでいる彼は、ともすれば逸りそうになる鼓動を抑えて、己の状態をちょうどよい臨戦体勢に導こうとしていた。そのやり方は、師に教わっていた。硬く握り過ぎた拳を開き、また握ることを繰り返しながら、呼吸の数を数えることに集中する。そうやって雑念を消し去りながら、躰の隅々まで神経を行き渡らせ、感覚を研ぎ澄ませる。興奮の渦に飲み込まれるのではなく、冷静に対処する余地を残し、だが決して油断せずにその時を待つのだ。
 エドワードが500ほど数えたところで、人々の歓声が上がった。教会の扉が開け放たれ、扉の向こうから喜びに顔を輝かせた新郎新婦がやってくる。
 もうすぐだ。
 エドワードは獲物を見定める狩人の目をして、小さく呟いた。




 素晴らしい秋晴れの空の下、アレックス・ルイ・アームストロングの結婚式は滞りなく進行していた。式には多くの客が招かれていた。軍人が特に多く、その結果、全参列客中で未婚の男性の占める率は、高い。
 つまり、エドワードのライバルが多いということだ。
 だがしかし、エドワードの金の瞳には闘志が燃え上がり、彼は勝負の瞬間を今か今かと待ちわびている。エドワードには、真剣にならねばならない理由があった。
 彼には、幼馴染の恋人がいる。彼女とは長いつきあいで気心も知れており、エドワードが結婚するならば相手は彼女しかいない、と自他共に認める間柄だった。だからこそ、彼は賭けているのだ。
 この、ガータートスに!
 たかがおまじないと笑うなかれ。大総統直属の調査部の極秘調査の結果、昨年この国で結婚式のガータートスを見事キャッチした未婚男性が次に結婚した確率は、97%を超えていた!これは、驚愕の数字である。
 その事実を知っているエドワードは、なぜかいつもいつもタイミングが悪くて邪魔されてしまうプロポーズ(全て未遂。5割の確率で弟、2割が彼女の祖母、残り3割は急な来客が、彼の邪魔をした)を今度こそ成功させるべく、このチャンスに賭けているのだった。
 教会の扉の前で、新郎新婦は参列客に謝辞を述べ、それから花嫁のブーケトスと花婿のガータートスが行われる。おまじないとしては『受け取った者が次の花嫁になれる』というブーケトスの方が遥かに有名だし、そもそも女性はその類のおまじないが好きなので、盛り上がる。だから、その後のガータートスはそこまで注目されない。
 そして、エドワードは身長の面でこそ不利だが、運動神経は並みの軍人には負けないし、何より錬金術という奥の手がある。
彼は自身の勝利を確信していた。
 




 未婚女性の参列客が盛り上がるイベントであるブーケトスは、結局、偶然真上に落ちてきたブーケを見事キャッチしたエリシア・ヒューズが勝者となった。時に適齢期の女性の間で争いになることもあるこのブーケトスは、勝者がまだ幼い少女だったためにひどくなごやかな雰囲気で終了した。
 そんな、微笑ましい空気が漂う中で、ガータートスが始まろうとしていた。にこやかに微笑んだ新郎が新婦の脚からガーターを引き抜き、そして、天高く放る。
 その瞬間を待ちわびていたエドワードは、即座に両手を合わせて円環を象徴して、その手で地を叩いた。一時的にエドワードの足元の地面が隆起し、彼を周囲の誰よりも高い位置に持ち上げる。そして、エドワードは天を舞う白いガーターに手を伸ばした。
「もらったぁ!」
 エドワードの指がガーターのレースに掠ったその瞬間、彼の背後、彼と同じ高さから声がした。
「ごめんっ兄さん!ボクも欲しいんだ!」
 聞こえてきた声はエドワードの唯一の肉親、弟のアルフォンスの声だった。
その声を耳にした瞬間、エドワードは、調査結果を聞いた場にアルフォンスも共にいたことを思い出した。そして、アルフォンスが最近とある女性のことをとても気にしているが、彼女は豪快で活発でさっぱりした性格なので(さらりとカルバリン砲を放つような女性だ)そういう雰囲気に持っていくのが難しいだろうな、ということに思い至る。
 一秒にも満たない間にそこまで考え、アルフォンスが本気で兄を倒そうとしていることを直感したエドワードは、後ろに向き直ろうとする(アルフォンスは正面を向かずに攻撃をかわせるような生易しい敵ではない)。
振り向いたエドワードの視界に入ったアルフォンスは、やはり兄と同じく錬金術で足場を形成していた。そして、エドワードが身構えるより一瞬速く、振り向いたエドワードのわき腹に見事な蹴りを叩き込む。
 台詞は一応謝っていたが、アルフォンスの蹴りに容赦は無かった。エドワードは足場から吹っ飛び、地面に叩き落される。そして、エドワードを蹴り倒してガーターを手にしたアルフォンスは、足場から飛び降りて着地し、不意打ちで蹴りを入れてしまった兄がさすがに気になるのか、兄の方に顔を向けて。
「悪いけどオレも本気なんでっ!」
 アルフォンスが油断したその一瞬に、参列客の中から手が伸びてきて、ガーターを奪った。気配を殺して隙を窺っていた金髪の青年が、ガーターを奪い取りったまま人込みの隙を縫って駆ける。
彼の名は、デニー・ブロッシュ。彼は新郎の部下なので式に招かれていた(そして新郎からこのおまじないの驚くべき成功率を聞かされていた)。
デニーはもう何年もとある年上の女性に恋をしていたが、彼女が年上で職場の上司であることから、なかなか決定的な言葉を口にすることができなかった。失敗した時に、彼だけでなく彼女までもが気まずく辛い思いをすることになる。
 だから、彼はこのおまじないを必要とした。そして、次に結婚できる証となる花嫁のガーターを手中に収めた彼は、やはり上司の結婚式に参列していた愛しの人の元へ走っていき、彼女の手を握って、この場でプロポーズしてしまおうと口を開きかけ。
「甘いな!オレがこの場で1番本気だっ!」
 実戦経験豊富な歴戦の戦士、ジャン・ハボックの拳を鳩尾に喰らって崩れ落ちた。目の前で部下を倒された女性は、慌てて、一撃でノックアウトされたデニーの身体を受け止める。何か憑いてるんじゃ?と仲間から言われるほどに女運の悪いジャンはどこまでも本気で、この拳に容赦は無かった。
 決してモテないタイプではなく、それどころか女受け自体は良いジャンは、なぜか女運が無かった(余りにも気の毒で同僚もからかうのを躊躇うほどに)。女受けは悪くないので彼女不在の期間はそう長くないのだが、つきあいが長く続くこともまた、ない。
 そんな彼がある日、このおまじないの調査結果を耳にした。人前ではバカバカしいと否定するポーズを取ったジャンだったが、実はこっそり決意を固めていた。このおまじないで結婚してやるぞ、と。
 運命の悪戯(及び上司のちょっかい)に女運を翻弄され続けた彼は、かなり本気だった。
「ざけんなっそれはオレんだっ!」
「違うよ!ボクがもらうっ!」
 ガーターを手にしたまま人々を押しのけて逃走しようとしたジャンに、蹴りのダメージから立ち直ったエドワードと、その弟アルフォンスが迫る。エルリック兄弟は錬金術の使い手で強敵だが、この人込みだと使える錬金術は制限されるだろう、広い場所に出た方が不利だ、とそう考えたジャンは、この場で2人を迎え撃つため脚を止めて身構え。
「まだまだだな。どいつもこいつも」
 という声と共に足元で炸裂した爆発のせいで、晴れ渡った空に華麗に舞うことになった。その爆発を起した人物は、両手に錬成陣の描かれた発火布の手袋を嵌めていた。
 その人こそ、調査部に調査を命じた張本人、ロイ・マスタングだった。
 ロイは、ジャンの手から落ちたガーターを拾い上げる。
 彼は、この国最高権力者となり女性からの人気も絶好調の、男盛りという言葉が相応しい男だったが、ただ1人、腹心の副官にして長年つきあってきた恋人にだけは弱かった。彼は何度も何度も数え切れないほど恋人にプロポーズをしていたが、一度としてOKの返事をもらえたことはなかった。ほぼ全て、即答でNOと言われてきた。
 そんな彼なので、調査部を私的な要件で使うほどに、そしてその結果こんなおまじないに本気になるほどに、追い詰められていた。ロイの闇色の瞳は、鋭く眇められて、駆けてくるエルリック兄弟を見据えている。
 殺傷能力の高い焔を操るロイがガーターを腰のポケットにしまったのを見て、エルリック兄弟は、お互いに目線を交わした。
本気になったロイは、人間兵器の名に相応しい。兄弟が1人ずつで挑んで倒せる相手ではない。だから、この場は一時休戦し連携して眼前の強敵を倒し、その後2人でガーターを争うことを、ほんの一瞬の目線だけの会話でお互いに了承した。
 そして、ロイを挟み込む陣形を取ろうとし(この頃には人間兵器たちの争いに巻き込まれることを恐れて、周囲の人間は避難している)、その思惑を読み取ったロイは兄弟を同時に仕留めることで連携の意味を無くそうと、発火布の手袋を嵌めた両手を高らかと掲げ。
「わんっ!」
 その無防備な腰に、いつのまにか近づいていた1頭の黒い犬が体当たりをするかのように飛びつき、そしてガーターを咥えて逃げ去った。一瞬の早業だった。
 犬は、これ以上どうやって呆れたらいいのかわかりません、ていうかもう本当に見捨ててしまおうかしらこの人、という表情でロイを見やっていた女性の元へ駆けて行き、そして、その女性にガーターを差し出した。
「あら?私にくれるの?」
「わん!!」
 そして、その女性は、愛犬の差し出したガーターを受け取った。





 仁義無き攻防戦は、こうして幕を閉じた。
 腹を強打されたデニーは痣が出来ていたが、大好きな先輩に介抱してもらっていることがわかるのか、意識を失ったその顔は少し幸せ顔だった。
 華麗に空を舞ったジャンは、「お前、そこまで思いつめてたのか・・・」「なんて不憫な・・・」「強く生きてください・・・」と、憐れみの涙を流す同僚たちに引きずられて病院に運ばれていった。
 犬に負けたロイは、「・・・呑むぞ!やってられるか!今夜はとことん呑むぞ!吐くまで呑むぞ!吐いても呑むぞ!潰れるまで呑んでやる~!!」とわめいて、無理矢理エルリック兄弟をリムジンに同乗させて走り去った。
 この騒動の一部始終を微笑ましく思いながら眺めていた新郎アレックスは、「皆、元気で何よりですな」とにこやかに妻になった女性に対して微笑んだ。
 この騒動の一部始終を顔を引きつらせながら眺めていた新婦は・・・・・・・果たして自分は、こーいう人間関係に耐え切れるのかしら?と一抹の不安を感じながら、愛する夫に顔を向けて、乾いた笑みを浮かべた。
 そして、ガータートスのおまじないによって、生涯、互いを思いやり愛ある暮らしを送ることを確約された、金髪の飼い主と黒い飼い犬は、とても、仲睦まじかった。とても。





 今日は、誠に良き日であった。


【おわり】
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