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死に至る病

 NARUTO。サスサク。
 女のコは甘いモノで出来てるなんて信じている男のコの脳は甘ったるい。




 状況を理解できることと、その状況を上手く意図した方向へ導けることとは、全く別のことだ。
 林檎を一つと皮を剥く用の小さなナイフを鞄に入れてここまで来てしまった私は、そのことにやっと気がつく。その扉の呼び鈴を押してしまう前で心底良かったと思うけれど、自分の修行の足りなさを実感させられてしまって。
 なんだかなあ。
 あの時私が用意した林檎を食べなかったことを、私が皮を剥いた林檎をぐちゃぐちゃにしてしまったことを、あなたがとても後悔しているんだってことくらい、私にはわかってた。
 全然、思い込みとか勘違いとかじゃない。あなたはとても素直な男の子なので、顔にきちんと書いてあった。私はそれを読み取っただけ。
 だから状況を再現してやり直したらあなたの気が済むかなと思ったのだけど、あなたの家まで林檎とナイフを持って訪ねるというのは、どうもやり過ぎね。
 私も、まだまだ。



 ここまでやってきてそのまま帰るのも何だか癪だから、近くの公園のベンチに座って林檎を剥いてみる。ベンチの左の方は後ろに植えられた木の影が落ちている。
 今はぽっかり空いた時間の隙間みたいで、この小さな公園には私以外誰もいない。砂場に残ったシャベルがこの公園を利用する他者の存在を示唆するけれど、勤め人が出勤するには遅くて幼子が遊ぶには早いこの時間、この公園は私一人のものだ。他人の目を気にする必要が無くて、ほっとする。
 今日の私はとてもマヌケだから、誰にも見られたくない。これじゃまったくストーカーみたいじゃないの。
 でも、妄想でもなんでもないくらい明らかにあなたは私を好きだけれど。
 そのことに気がついたのはごく最近で、そう考えたらこれまで不可解だったあなたの行動の数々をすんなり納得できた。アレもコレもソレも。
 素直にそういのに言ったら、鼻で笑われてしまった。いのはもっと前からわかってたらしい。「サクラ、あんた修行が足りないんじゃない?」なんて小憎たらしい口調で言うから、私も、いのがもらった差出人不明の誕生日プレゼントは実はシカマルからだったという事実はまだ伏せておくことにする。修行が足りているいののことに私が口を出すなんて僭越だから。
 自分のことをちゃんと把握するのはちょっと難しい。
 当てが外れる場合、誰だって自惚れていたいのに自惚れだって思い知らされるのはイヤだから。
 自惚れが正解だった場合、認識してしまうとそれは逃れられない事実になってしまうから。事実を背負う覚悟のない人間には、望みが叶う事の方が恐ろしい。
 知っている。あなたはとても臆病な男の子。
 私を好きになってしまったくせに、私を欲しいくせに、私を手に入れるのを躊躇っている。
 ・・・・そのくせ、私に嫌われたくないのよね?
 私の差し出した林檎を踏み潰して、なのにぐしゃぐしゃになった林檎を見て一瞬とても傷ついた瞳をした。とても、ズルいと思う。 
 傷つけられたのは私なんじゃないのかな?なのに、私がひどいことをした気分になっちゃった。
 ううん、違う。
 私はあなたにとてもひどいことをしてるんだ。ものすごくひどいことを。
 私はごくごく一方的にあなたの心を要求し、あなたはそれに防戦し続けていたけれど、とうとう敗北してしまった。私は高い塀で守られていたあなたの領地を侵そうとしている。
 私はあなたに拒絶されるところがスタートだったけど、あなたは好意を向けられるところがスタートだったから、私に嫌われたら自分がひどく傷ついてしまうって本能的にわかってるんだわ。
 あなたに辛い傷を負わせることができるようになってしまった私が、怖いのね。きっと。
 


 
 晴れた空下、公園のベンチで、小さなナイフを使って上手に林檎の皮を剥く私。切れないように繋いで剥くのは、ちょっとコツがいる。
 昔、ママが上手に皮を剥くのを見て自分でもやってみようとしたけれど、上手には出来なかった。すぐにちぎれてしまって長くならないの。
 苛立ってぐずり始めた私に、ママは言ったわ。「サクラも大人になったら上手に出来るわよ」て。
 私は上手く林檎の皮を剥けるようになった。なら、私は大人になったのかな?
 ある意味ではそうかもしれないし、違う意味ではそうでないかもしれない。
 それは、今の私が決められることじゃない。
 でも、私はもう上手に林檎の皮が剥けなかった幼い子供じゃない。それだけはわかってるの。
 世界は変わり続ける。私も変わり続ける。
 あなたはきっと、変わり続ける世界の中で変わり続ける私を手に入れてしまうことを恐れているんだわ。
 あなたは心を一色に染め上げた清い子供でいたかったのね。この、雲一つ無い青い青い空のように。自分の誓いを、幼い日の自分自身を裏切る姿を見たくないのね。
 妥協して怠惰な日々を送る醜い裏切り者の大人になりたくないのね。
 あなたを誘惑する私は、さしずめ求道者を惑わす形を取った悪、といったところ?罪の実を一緒に食べようと唆す魔女?骨も残さず食されてしまうとでも心配しているの?
「・・・望むところだわ」
 呟いた声はとてもとても小さかったので、公園の入り口から駆けて来たあなたには聞こえなかったに違いない。
「サクラ、お前・・・」
「おはよう、サスケくん。今日はとってもいい天気ね。こんな日は外で林檎を食べたくなることもあると思わない?」
「~~っ」
 にっこり笑って言った私に対して、いささか息を切らして駆けて来たあなたは、返す言葉を失った様子で苛立ちと他の幾種類かの感情が混じった微妙な表情になった。
 涼しげな顔立ちの中の凛々しい形のはずの眉が、困ったとでも言いたそうな感じに寄せられていて、少し面白い。
 あなたが何故この公園に来たのかは、わかってる。
 さっき私があなたの家の呼び鈴を押しそうになった時、あなたは家の中にいた(明かりが付いてたもの)。あなたのことだから、扉の前に立つ私の気配を察していたでしょう。私は扉の前まで来て呼び鈴を押さずに去った。あなたはおそらく、私が戻ってくるかもしれないと思ってしばらく待っていた。私は戻ってこなかった。だから、探しに来た。
 そうでしょう?
 あなたは私をうるさがっていて正面から向き合って私を受け止めるのは嫌なくせに、私の気持ちを向けられていないと気がすまない。私が近寄ると拒むくせに、私が離れていくことを許さない。
 傲慢なあなたの、その子供っぽい独占欲を微笑ましく思わないでもないけれど、でも今日の私はいつもほど寛大じゃない。
 ちょっとだけ、ちょっとだけイジワルよ。
「サスケくん、あのね、ちょっとだけお願いがあるの。一つだけ聞きたいことがあるの。答えてもらえる?ダメ?」
「・・・何を聞くつもりだ?」
「時間は取らせないから。難しい質問でもないの。答えはイエスかノーかだけでいいから。お願い、答えてもらえる?」
「・・・・・・・わかった」
 あなたは苦虫を噛み潰したような顔をしていたけれど、私の手の中の剥かれた林檎を見て、しぶしぶといった風に頷いた。
 私がベンチの左をパタパタ叩くと、しばらく戸惑った後、ぶすっとした仏頂面になりながらも30センチほど距離を開けて私の左隣に腰掛けてくれた。これは、あなたとしてはかなりの譲歩。やっぱり、病室でわたしの剥いた林檎を台無しにしてしまった件を気にしてはいたみたいね。
 わたしはなんだかちょっと愉快な気分になって、木洩れ日があなたの顔に落とした影が風に揺れて動く様を見つめていた。
「・・・・さっさと言え。オレは忙しいんだ」
 ムスッとした顔でこちらを見ないままあなたは言った。
「うん。じゃあ・・・・」
 だから私は剥いた林檎を齧って。そして。
 あなたの襟元をひっぱってこっちを向いた顔に唇を重ねた。
「っ!!」
 唇が触れていたのはほんの一瞬。 
 すぐさま口を押さえて立ち上がったあなたは眼を見張ったものすごく驚いた顔をしていた。そして、見る見るうちに顔が真っ赤になる。
「えっあっ・・・サ、サクラっ!」
 動揺のあまりうまく舌がまわらない様子のあなたとは対照的に、私は落ち着いた笑みを浮かべた。
「ね、おいしかった?」
 



 結局、返事はもらえなかった。
 あなたは怒ってるふりをして家に帰っちゃった。でも、本当は驚き過ぎててどうしたらいいのかわからないでいるのよね。バレバレよ。
 私は一人公園のベンチに腰掛けて、しゃくしゃくと剥いた林檎を齧る。蜜が顎を伝う。手首から肘に垂れる。
 林檎の、爽やかな酸味と仄かな甘味と颯々とした甘い香りを味わう。
 私はとてもヒドイ女のコ。
 不意打ちを喰らわせてあなたをノックアウトしようといつも虎視眈々と狙ってる。
 あなたはとてもヒドイ男のコ。
 手に入るはずの私を手に入れないで私の心を奪ったまま去っていこうとしてる。
 そう、私は知っている。
 あなたは去っていくの。ココを出て行くの。帰らないつもりでいるの。
 私にこんなに好きにさせたくせに行ってしまうの。私のこと好きになったくせに帰らないつもりなの。
 だから私は、今日、あなたに病気を伝染しに来たの。放っておいたら死んでしまう、恐ろしい病よ。治療方法は無いの。特効薬は世界中で私一人しか持ってないわ。
 だから、帰ってきてね。
 たとえ出て行ってしまっても必ず私のところへ帰ってきてね。そうしないと、この病があなたを殺すわ。
 病気の名前は、恋の病。
 お医者様でも草津の湯でも治りません。
 特効薬は、甘いキス。
 だから、だから、私のところへいらっしゃい。甘いキスをあげるから。
 優しくて甘い、キスをあげるから。
 


 林檎を齧りながら、顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
 私には、殴って縛り付けてあなたを行かせない力は無い。私があなたよりもずっと力の無い女のコなのが、無性に悔しかった。あなたと互角で殴り合えるほどの男のコだったら、あなたを行かせはしないのに。
 鼻をグズグズ鳴らして泣いた。林檎が甘いのか塩辛いのかわかんなくなるほどに、泣いた。
 やがて、林檎を食べ終わったわたしは、公園の水道で顔と手を洗って鞄を持って、家に帰るために歩き始めた。
 家に帰ろう。ご飯を食べて、たくさん水を飲もう。明日あなたを引き止めて泣くために、ちゃんと準備をしなければならない。
 ああ、お風呂に入ってパックをしなくちゃ。爪の手入れもしなくちゃ。服にアイロンかけなくちゃ。一番可愛く見せなくちゃ。
 あなたが旅立つその時に、私はあなたに会いに行く。
 持てる全てを曝け出して、私はあなたを引き止めるだろう。けど、あなたはそれでも行ってしまうかもしれない。
 だから、恋の病を伝染すわ。あなたが苦しくて仕方がなくなるように、甘いキスを欲しくなるように、あなたの心を病に侵す。
 コレが、女のコの仕事!



 甘ったるくなんてない女のコは、男のコに、罪の実を差し出します。
「甘くて美味しいわ。さあ、どうぞ☆」
 一口齧ればあなたは私の虜!さあ、覚悟は出来た!?


【終】 
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