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「この日が来ることは分かっていた」

 冒険王ビィト。ビィキス。
 予感はあった。もうずっと前から。
 ううん、予感というよりは願望だね。ぼくの望みだった。
 だから今、嬉しくて。そして、少しおかしい。
 唇の隙間から笑い声が漏れてしまう。ああ、最期に笑っていられるなんて思わなかったよ。





 ぼくがずっと謎に思ってきたのは、現代の魔人の在り方。成体で発生するとか、そういう、生き物としてはあまりに不自然なその在り方についての疑問を説明してくれたのは、魔賓館の地下に在ったこの遺跡で。数年来の疑問を解消出来たことも、運に自信のないぼくにしては珍しいラッキーだと思う。もう終る身で新たな知識を得てどうなるというわけでもないのだけれど、残された短い時間に知的好奇心を満たしたいという焔のような欲望に苛まれる心配がなくなったのは、ラッキーなことだ。
 これで、心安らかに逝ける。世界の謎に対する回答であるこの遺跡が墓標となるのも、ちょっとイイ感じだね。
 残念なのは、最期に君を見ていられないこと。でも、それは同時に君が死ななくて済んだということだから、哀しくはない。悔しくもない。
 最後の最後の敵を、神とさえ呼べそうな相手を滅ぼした後でこんなオチがつくなんて、人生はこれだから油断ならない。崩壊し始めた地下から地上へ脱出する唯一の手段であるエレベーターが、地下の遺跡の中枢部から天力か魔力を注ぎ込まないと動かせないなんてね。
 君は全ての力を使い果たして眠り込んでいた(無理もない)。彼女達は満身創痍で意識を失っていた。プロ意識が強くて責任感の強い彼は傷だらけだけど意識を保っていて、この皮肉な仕掛けがわかった時に、中枢部に向かうぼくを止めようとしてくれたけれど、代わろうとさえしてくれたけれど(彼は優しいんだ)、無理な話だった。
 彼では天力が足りない。彼では、エレベーターを動かすのに必要な古代魔人語のコマンドを入力出来ない。
 だから皆を頼むね。必ずエレベーターに乗せて地上につれて帰ってね。
 そう頼んで、痛む足を引きずりながら中枢部へ駆けていったぼくの頬に浮かんでいたのは、笑みで。胸に湧いたのは、恐怖と絶望よりも強い歓喜で。
  「この日が来ることは分かっていた」と呟いた声の浮かれていたことといったら、みっともないぐらいだ。
 でも、本当に、ぼくは、いつか、君のためにこの命を使える日が来ると信じていたんだ。



 
 最後の一滴まで天力を注ぎ込み、古代魔人語でエレベーターを上昇させよと命じる。有限実行の彼は皆をエレベーターに乗せてくれたに違いないから、スクリーンに表示されたエレベーターが上昇していく様子は、ぼくに、胸に穴が空きそうなほどの寂しさと腰が砕けるほどの安堵を与えた。もう立つ力すらなくて、頬に触れる床が冷たい。
 さようなら。さようなら。大好きな君が生きていてくれるのが嬉しい。ぼくはやっぱり弱くて情けなくて、独りで逝くのが怖くて寂しいけれど、君の役に立てたから、やっと自分を嫌いじゃなくなることが出来た。うん、やっぱり嬉しいよ。
 だから、泣いてしまうのは赦してくれるよね?
 ね、ビィト?
「まーた泣いてんのか、キッス?」
 聞き慣れた愛しい声が後から響いて、反射的に振り向いた。振り向いた先には、ぼくの大好きな人がいて。
「ビィトっ!?嘘っ!?幻覚!?」
「本物だよ。寝てたら夢ん中でゼノンに叱られて目が覚めた。で、スレッドから話聞いて、止めようとしたスレッドに拳叩き込んで沈めてきた。あいつらはエレベーターで逃げてるから心配すんな。ま、スレッドには後で謝りゃいいだろ」
「ビィトっ!?」
「この遺跡が全部崩れるまでにはもちょっと時間があるんだ。キッス、諦めんのはまだ早いぜ!」
 その声の力強さ、存在の鮮烈さが、全ての力が尽きたはずのぼくの顔を上げさせる。
 いつだって、君には思い知らされる。君のために死ぬことが出来るのなら、君のために生きることも出来るのだということを。君がいる限り、奇跡が起こり続けるのだということを。
 ぼくが君と一緒に生きていきたいとこんなに望んでいるのだ、ということを!



 ぼくは、涙を拭って立ち上がった。



【おしまい】



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