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シャイニングウィザード

 鋼の錬金術師。ロイアイ。
 真昼の街を駆ける真紅のオープンカー(なんでこんなバカバカしい車が存在するのでしょう?)。
 運転席には街一番の色男(何がそんなに楽しいのですか?)。
 バックシートには、山と詰まれた薔薇の花々(子供に指差されてる気がするのは気のせいですか?)。
 カーブする度に花びらが飛んで。飛んで。
 そして、助手席には・・・・・・・・・・・
 ああっ、今すぐ帰宅して愛犬の散歩がてら2キロほど走りカーテンを洗濯してキッチンをピカピカに磨き床にワックスをかけたいっ!
 あんまりな状況にオーバーヒートした私の神経が焼き切れそうになる直前、信号待ちの隙をついて、貴方が問い掛けた。
 胡散臭いくらい爽やかな笑顔で、白い歯を煌かせて。
「リザ、私のこと好きかい?」
 横目でバックミラーを確認した私は、慣れない鮮やかな色のルージュが塗られた唇の端を吊り上げて、笑みに似た形を作る。
「ええ」
 嘘じゃありません。ええ、もちろん好きですよ。
 その膝を左足で踏み、両手でその後頭部を固定して、右膝を叩き込んでその鼻の骨を折って差し上げたいくらいには、好きですとも!ええ!!





 この計画がどの時点から気に入らなかったかと問われたならば、もちろん、一番最初の時点からだと答えます。
 そもそもこの計画は、私に隠して立案・検討・準備され、私が計画について知らされたのは昨日の退出時間間際。しかも、将軍から車を借りてくるなどという狡猾な手段によって、説明された時点ですでに、反論の余地は封じられていました。
 ですから、私は私なりに覚悟を決めたつもりで、今朝、貴方との待ち合わせ場所に赴いたのです。
 今朝の私の格好は、サングラス(眩しいですから)、髪はおろして(貴方のリクエスト)、ルビーのピアス、化粧はいつもより派手に(あなたに無理矢理プレゼントされた口紅が初めて役に立ちました)、手首には腕時計、肩には白のショルダーバック、首には紅地に白の水玉のスカーフ(あなたに無理矢理・・・以下略)、襟元が大きく開いた白地に紅の水玉(大柄)のノースリーブのスリット入りワンピース(あなたに無理矢理・・・以下略)、足元は編み上げたリボンを足首で結ぶタイプの紅いヒールのサンダル(あなたに無理矢理・・・・以下略)。
 普段の私なら決してしない格好・・・・出掛けにブラハがビックリしていた気がするのは、きっと気のせい(そう思いたい)。
 待ち合わせ場所の街灯の下(いつものところ)で貴方を待っていると、やがて、後方からクラクションが聞こえました。振り返ると、貴方がいました。
 ええ、貴方が。
 ラフに着こなしたワインレッドのシャツに、細いストライプの入った黒のジャケットとスラックス。ジャケットの胸元には紅いスカーフ。
 そんな服装で、幌を改造したバックシートに薔薇を山と積んだ真っ赤なオープンカーに乗って、晴れやかな笑顔でこちらに手を振る貴方を見た瞬間・・・・・・・・・これまでの数年間に及ぶ主従関係に終止符を打とうかなという思いがチラリと胸を過ぎったことを、私は否定できません。
「おはよう、ハニー♪待ったかい?」
 無意味に歯をきらめかせたにこやかな貴方の第一声が、コレ。
私は、短い爪にそれでもマニキュアを塗った指を掌に突き立てるようにして拳を握りながらも、なんとかこらえました。
「おはようございます、マスタング大佐。いいえ、ちっとも待っておりません」
 私たちは大通りの人々の視線を独占していました。道行く人が皆、いかにもな格好の私といかにもな格好の貴方を興味津々で見つめています。
 普段より派手な化粧といつもと違う格好とサングラスで私が東方司令部のリザ・ホークアイ中尉であると気づく人間はいないでしょうけれど、顔をそのまま晒している有名人の貴方がロイ・マスタング大佐であることは、皆が気づいています。気づいて、小声でなにやら囁いている人もいます。
 居たたまれなさに身震いしそうな私とは対照的に、今日の空のように晴れ渡った爽快な雰囲気を纏った貴方は、立ち尽くしている私に手を差し伸べました。
「さ、乗りたまえ。特等席だよ。楽しいドライブの始まりだ!」
・・・・・・貴方の手を取った私の掌には、くっきりと爪の跡が刻まれていました。





 不審なほど上機嫌の貴方が運転するオープンカーは、イーストシティを駆け巡ります。博識な貴方は、主要建築物について興味深いエピソードを交えながら、簡単に説明してくださいました。さすが、慣れてらっしゃるだけあってお上手なこと(ガイドでも食べていけますね)。
 貴方は本当に用意周到で、バックシートから飛び散った薔薇(そりゃあ散りますよ)を補給するために2度ほど花屋に立ち寄りました。先程の花屋では、眼鏡をかけた小柄な青年が、非常に何やら言いたそうな顔をして、無言で薔薇の花束をくれました。膝の上に置いている花束の重みが気になる、そんなドライブ真っ最中。
「さっきからなんだか人に見られている気がするのは、君が美しいからかな?」
 風で乱れた髪を片手で撫で付けて、貴方(ジャケットは脱いでます)は何の躊躇いもなく、そんな台詞を口にします。
「まあ、そんな」
 答える私(髪が乱れるのでスカーフで巻いています)は、これ以上ないというほどの棒読み口調です。
「美しい君を見せびらかしてやりたい気もするけど、もうこれぐらいで充分だろう。そろそろ、私一人だけで君の美しさを愛でたいね」
 貴方は、運転の合間を縫って、意味深な流し目をくれました(変なとこ器用ですね)。
「まあ、そんな」
 サングラスに隠れた私の瞳がますます醒めた色になっていくのを自覚しながら、やはり棒読みで返事をします。膝の上の花束を撫でながら。
 私の願いはただ一つです。『今すぐこの車を降りて愛犬の待つ家に帰りたい!』それだけです。
 ですが、カミサマは無情で容易にこの願いを叶えてくれないこともよく知っています。だから、私はただただ時が過ぎるのを待っているのです。
 楽しんでいるご様子の貴方とは対照的に。





「・・・・・リザ、君、もっと真面目にやりなさい」
 アクセルを踏んでスピードを上げながら、貴方はこちらを見ずに小声で言いました。その声に決まりが悪そうな響きが皆無であることが、貴方が大物である由縁でしょうか(私は小物で結構です)。
「まあ、そんな」
 どこまでも棒読みの私の声に、さすがの貴方も私の不機嫌さが気になったらしく、バックミラーを横目で確認すると、ちょっとだけ早口になりました。
「臍を曲げても仕方ないだろう、もう始まっているのだから。というわけで、目標ポイントに至るまでの迎撃は君に一任する。私は運転に専念するからね」
 膝の上の薔薇の花束に指先を突っ込んで(ちゃんと棘を抜いたのね。感心)、こんなヒールのサンダルよりよっぽど慣れている冷たい金属の感触を確認しながら、私もバックミラーに視線を送りました。さっきからずっと見ていて見慣れた、白と青と黒と赤の車。ガラスを全て防弾ガラスに取り替えたと噂の、見た目よりずっと金のかかった車です。
 あれが、今回の標的。悪辣な人身売買組織、薔薇(ローゼン)騎士団(クロイツ)。
「Aye、aye、sir」
 花束の中の銃に触れて微笑む私の後ろで、弾薬を覆い隠している薔薇が芳香を撒いて、また一枚花弁を散らした。





今回の作戦がこれほどにややこしくバカバカしいことになったのには、一応理由があります。
 件のテロリスト薔薇(ローゼン)騎士団(クロイツ)(ご大層な名前ですこと)が、東部の戦災孤児を攫って近隣諸国の裏社会に売りつけ資金源としていたこと、それ故に生かしたまま捕縛して人身売買のルートを吐かせる必要があること、裏社会繋がりで応援が来る前に電光石火で捕えなければならないこと、幹部の3人が常に腰にダイナマイトを巻いていること、アジトにいる攫われた子供たちを盾にされるような戦い方はできないこと。それらが理由。
 以上から考えると、主だったメンバーをアジトからおびき出して、子供たちを救出しつつ、幹部のダイナマイトを封じながら捕縛しなければならない。
普通の指揮官が相手ならば難問だっただろうけれど、薔薇(ローゼン)騎士団(クロイツ)の連中にとって不幸なことに、この東部の指揮官はマスタング大佐です。
 焔の二つ名を与えられた錬金術師にして、東方司令部実質上最高責任者、ロイ・マスタング。
 若くして大佐の地位にまで昇りつめた彼は、戦闘においては自らが前線に出ることを躊躇わない指揮官であり、貴重な戦力でした。かくして、今回の作戦において最も重要な、幹部連中をおびき出す囮役は、彼の役目となったのでした。
 作戦の概要は、以下の通り。
①女好きで有名なマスタング大佐が近々デートで郊外までドライブするという噂を、薔薇騎士団の耳に入れる②マスタング大佐が実際に女性を連れて、目立つようにイーストシティをドライブする③薔薇(ローゼン)騎士団(クロイツ)の連中がマスタング大佐を追いかけて飛び出したのを確認してから、アジトを襲撃して子供たちを救出する④ダイナマイトで自爆されないように注意して、マスタング大佐を追いかけてきた連中を捕まえる。
これ以前の段階で、薔薇騎士団の大佐に対する敵対心を煽るべく組織の下っ端を捕えたり、散々挑発したり、女好きの印象を与えるべく連日連夜デートを行ったりするなどの下準備(前者二つはともかく後者は趣味でしょう)が為され、今日この日、作戦は決行となった。
油断を装うためにデートをするわけだが、その相手の女性に足手まといな素人を使うわけにはいかない。だから射撃技能者であり大佐の護衛官である私が適任である、と説明された時、非常に胡散臭いような気がしたが筋が通っていないでもないので、納得した(そもそも作戦はもう中止できない段階まで来ていた)。
私が何者かが相手にわかると警戒されるかもしれないから、いつもと違う雰囲気に変装してこいと言われたのも、納得できた。以前プレゼントされてまだ袖を通していないこの服を着て来いと言われたのも、了承した(しぶしぶですが)。
ですが・・・・・・・・・・・いくらデートに浮かれて油断している風を装うためとはいえ、バックシートに薔薇満載の真っ赤なスポーツカーというのはやり過ぎだと思います。胡散臭いを通り越して、人として怪しい。変です、変。かなり変(というか変態チック)。
と、言わないけれど朝からずっと思っていた私は、先程花屋でフュリー曹長から『幹部が主だったメンバーを連れて大佐の後をつけてます。よって、これより、ハボック・ブレダ両少尉は部隊を率いて救出作戦に着工します。大佐と中尉も捕縛作戦をスタートしてください』の合図である花束をもらった時、やっと光が差したような気がしました。
道行く子供に指を差されたり、母親がその子供に「しっ!見ちゃダメ!」などと叱りつけているのを聞かされたり、人々に好奇の目で見られるのは、もううんざりです。これなら、豪雨の中を行軍している方がまだ楽です。
私は、確実に溜まった(もうそろそろ満タンですね)ストレスを揉み解すように、眉間の皺を撫でました。
もうちょっと、もうちょっとで、このヒトにこんなバカげた作戦を考えつかせた人身売買組織に鉛弾を叩き込むことができます。ああ、その瞬間が楽しみだこと!
少しだけ私の口元が緩んだ気配を察して、意外に巧みなハンドル捌きの貴方(普段、運転は私の仕事です)が、大きくカーブを切りながら話し掛けてきました。
車(将軍のご趣味を疑います)は、郊外の小さな湖に向かっていました。住宅の密集した街中と違って、この辺りはすでに見通しの良い景色に変わりつつあります。人口密度が低くなったことが、私の気を少し楽にしました(さっき畑仕事中のおばあさんにあんぐり口を開けて凝視されましたけど)。
「リザ、何か楽しいことでもあったかい?」
「いえ、貴方の手腕に感服していただけです。いつもながら、お見事なこと」
 道路脇のラベンダー畑(咽返る薔薇の香のせいで香りはわかりません)に目をやっていた私は、上の空で嫌味を返しました。柔らかい色合いのラベンダーが、初夏の風にさやさやと揺れています。
 さっきから、私は頭の中で、幹部連中を捕えるための罠を仕掛けた目標ポイントまでの距離を測っていました。まだ後30分はかかります。奴らが愚鈍でそれまでに仕掛けてこなかったらよし、そのポイントに至るまでに仕掛けてきたら迎撃するのが私の仕事です。事前に封鎖しておいた道は空いていて、そろそろ襲撃に適した状況になりつつあります。
「はっはっは。誉めても何も出ないよ。だが、君に誉められるのは悪い気はしないね」
 ・・・・貴方がどこまでも上機嫌の理由は、一体なんなのでしょうか?
 この車がそれほどに面白いのでしょうか(私も他人事ならば面白いと思えたかもしれません)?このところ散々デートを断り続けた私に対する嫌がらせでしょうか(ブラハの体調が悪かったんです)?意外と運転が好きだったんでしょうか(そう言えば貴方が運転する車に乗るのは初めてです)?変なクスリでもキメられたのですか(健康にはご注意くださいね)?
 本当に、私はいつになっても、貴方の気持ちがわかりません。
「事実ですから」
 街中とは違うのどかな田園風景を眺めながら、私は一つため息をつきました。
薔薇(ローゼン)騎士団(クロイツ)、早く仕掛けてきてくれないかしら・・・・・





 奥手な奴らが行動を開始したのは、それから10分ほどしてからでした。ラベンダー畑を行過ぎて、釣鐘形の愛らしいブルーベルが咲く丘陵に差し掛かった頃、やっと敵が発砲してきたのです。
 人目のあり過ぎるイーストシティで手を出してこなかったのはわかりますし、シティを出てもしばらくは警戒していたのもわかりますが、行動が遅過ぎます。私の部下なら、叱責だけではすみません。
 この事実一つを取ってみても、たまたまコネがあった人身売買以外には取り得の無いテロリストなのだとわかります。
 現に丘陵を行き過ぎて林に入った今も、後ろ向きに膝立ちで座る私の弾にタイヤを撃ちぬかれた青い車が、派手にスピンして減速して行きました。まず、1台。
 確認したところ、腰にダイナマイトを巻きつけた愚か者共は纏めて赤い車に乗ってくれています。だから、彼ら以外は適当に迎撃して構わないのです。防弾仕様に改造した幌の影に身を潜めた体勢のまま、私は次の標的を選ぼうとしました。
 油断無く、花束から取り出した愛銃を構えながら、幌の脇から敵の車をこっそり覗いてみると・・・・・・・白の車の運転手が黒髪だったので、次の標的は白の車に決めます。
「おいおい、私の分も残しておいてくれよ、リザ」
 白の車の運転手と同じ色の髪の貴方が、私の太腿を撫でながらそんなことを言いました。私は、今が運転中でなかったら肘をお見舞いしたいのですが、と胸の奥で呟きながらも、動じずに引鉄を引きます。
「メインディッシュはちゃんと取って置きますよ。ご安心ください」
 満タンになったストレスを弾に篭めるようにして撃つと、絶対に外さないんですよね。コツは、標的に貴方の顔を被せるようにして思い浮かべることです。イメージの中の貴方の眉間に撃ちこむと、弾は必ず吸い込まれるように飛んでいくんです。不思議ですね。
 白い車もまた、派手にスピンして道の脇の木に激突しました。
この迎撃のポイントは、追い詰めすぎてはいけないということです。自暴自棄になった相手にダイナマイトを使われることは避けなければなりません。
 ですから、私は加減して敵を倒していきました。普通ならそんな暇なことをしている余裕など無いのですが、このバカげたスポーツカーは、昨夜、焔の錬金術師の錬金術によって、外装の材質を防弾効果の高い特殊な合金に変えられています。幌も防弾仕様です。だから、こんな悠長なことをする余裕があったのです。
「加速するぞ、リザ!」
 その言葉と同時に後ろ向きで迎撃していた私は正しい姿勢に座り直しました。将軍がかなりの金額を掛けて改造したこの車は、一般車とは段違いのスピードが出せるのです。みるみるうちに、敵の赤い車を引き離していきます。さすがの性能です。屋根の無い車なので、直接当ってくる風に耐えねばならないのが欠点ですが。
 息苦しくなるほどに叩きつけてくる風に耐えると、やがて、左前方に水面を煌かせた湖が見えてきました。今回の作戦の目標ポイントです。仲間を倒されて意地になった赤い車が引き離されつつもちゃんと追ってきていることをバックミラーで確認した私は、ようやく少し気が楽になりました。
 このバカげた茶番も、後もう少しの辛抱です。
 加速した状態のまま湖と並行している道路を走らせながら、貴方は発火布に包まれた左手をゆっくりと上げました。
 そして、連中が湖に差し掛かったタイミングを読んで、指を擦ります!
 PATI!
 白い手袋に包まれた指先から小さな火花が生み出され、瞬時にその火花は貴方の意思通りに飛び、爆発を起こしました。湖の水面のすぐ上で。
 鼓膜を打つ爆音と共に一気に気化した蒸気が周囲に広がり、豪雨のような水滴が地を叩きました。視界が霧と雨に遮られます。うろたえた敵が減速するのを確認した瞬間、火花を生み出すと同時に車を急停車させていた貴方は、ジャケットの胸元からスカーフを引き出し、両手を叩きつけました。
スカーフに描かれていた錬成陣に。
「行け!」
 その声と同時に、この場に充満する水分を凍らせて創られた氷柱が錬成陣から飛び出し、ブレーキを掛けた赤い車目指して飛び、車を地に縫いとめました。運転していた人間達も、同時に。




 腰に巻きつけたダイナマイトを爆発させないためには、導火線を湿らせてしまうという手があります。
 湖の水面近くの爆発で霧と雨を創り出し、霧で視界を遮って減速させ、霧と雨を材料に創った氷柱で減速した車を縫いとめ屋根に穴を開け、開いた屋根から雨が導火線を湿らせる。
 錬金術師である貴方ならではの、華麗な作戦です。
 薔薇(ローゼン)騎士団(クロイツ)の車のずっと後方からこっそり尾行していたファルマン准尉たちが、見る影も無く壊れた赤い車の中の幹部連中を連行していく様を見ながら、念のために迎撃体勢を取っていた銃口をやっと下げた私は、木陰(できるだけこの格好を人目に触れさせたくないんです)で、こっそりため息をつきました。
 フュリー曹長が教えてくれたところによると、ハボック・ブレダ両少尉率いる別働隊も無事任務完了し、アジトに閉じ込められていた攫われた子供たちは無傷で保護できたようです。ファルマン准尉たちが先程私が足止めした青・白・黒の車の乗員も捕縛してくれたので、事件はこれで一件落着です。見事な手腕というべきでしょう。
 だから、私はため息を漏らしたのです。
 薔薇を積んだ真っ赤なスポーツカーの助手席に変装した私を乗せて恋人ごっこを楽しんだりするくせに、貴方は最終的に目的を果たすのです。そんなヒトだから、バカバカしい恋人ごっこに付き合うのにうんざりしつつも、私は貴方から離れられないんです。
 罪なヒト。
 その罪なヒトは、部下たちが薔薇(ローゼン)騎士団(クロイツ)の幹部を無事捕縛したのを見届けて、満足そうな顔でこちらを振り返りました。先程自分自身が降らせた雨のせいで濡れた前髪を掻きあげた顔は、やけに精悍に見えます。
「水も滴るイイ男とイイ女だな。タオルをもらってこなくては・・・おや、リザ、左のサンダルのリボンが」
「え?」
 言われた私は、身体を捻って左の足首を見ようとしました。
「ああいいよ、私が直してあげよう」
 こちらに近づいてきた貴方は、ふいに私の目の前で地面に膝をついてしゃがみこみました。そして、有無を言わせぬ早業で、私の左足をしゃがんだ自分の右膝の上に乗せます。そのまま、いつの間にか解けかけていた左のサンダルの足首のリボンを結び直そうとしました。
「大佐にそんなことをさせるわけにはっ!」
 私は慌てました。
当然です。この場にはたくさんの部下たちがいるのです。いくらこの場所が木陰で多少隠れているにしても、上官を跪かせてその膝にヒールのサンダルを履いた足を乗せている副官、などという構図を目撃されるわけにはいきません!
「命令だよ。大人しくしなさい」
 なのに、そんな私の焦りを理解していないはずがないくせに、貴方はそう言って、サンダルのリボンを結び直すのを止めないのでした。こーいうふうに言い出すと聞かないんですよね。
 ホント、変なとこ凝り性なヒト(手先が不器用なくせに)。





 私は、自分でやった方がずっと早いのにな、と思いながら跪いた貴方の旋毛を眺めていました(さっさと終わらせてください)。
「・・・・・大佐、お疲れ様でした」
 不器用なくせに凝り性な貴方が、つま先のあたりから編み上げになっているサンダルの、つま先からリボンを結び直しているのを見ているのが気詰まりな私(部下たちに見つからないかと気が気ではない)は、なんとなく呟きました。
 今日は、なんだかとても疲れたような気がします。
「うん。君もお疲れ様。不安定な足場だったのにあの神業、さすが鷹の眼だ」
 口の上手い貴方からは数え切れないほど誉めていただいたことがありますが、作戦が無事終了した直後に自分の手腕を誉められるのは、また格別です。朝から味わい続けた人々の冷たい視線(もう金輪際こんなことはごめんです)のために冷え切っていた胸が温まったような気がしました。
「お褒めに預かり光栄です。ですが、大佐なくしてこの作戦に成功はありえませんでした。お見事です、焔の錬金術師殿」
 だから、ちょっとだけ・・・・・・油断したのでしょうね、きっと。
「今はすっかり濡れ鼠だがね。まあ、君からの賛辞はありがたく受け取っておくよ。さて、リザ」
「はい?」
「今威力を実感した焔の錬金術師の火力を今夜味わってみないかね?今夜の火力は一味違うぞ。普段と違う装いの君というのも、なかなかそそるね」
 この言葉と同時に、左足のサンダルのリボンを編み上げて足首で結び終わった貴方は、油断していた私の右足の膝裏からお尻まで、濡れた発火布の手袋に包まれた指先で一気に撫で上げたのでした!
 ゾワッ!!
 濡れた手袋を使われたために言い様のない感覚が背筋を走り抜けて、私は無意識に右足を地面から浮かせて、右膝を前に突き出すようにして曲げました。
 思い出してください。私の左足は膝をついてしゃがんだこのヒトの右膝の上に乗っていました。
 その状態で左足に全ての体重を掛け、右膝を前方に向かって突き出すと・・・・!
「ごっ!!」
 私の右膝を鼻に叩き込まれた貴方は、噴水のように鼻血を噴出しながら仰け反りました。
 この状態は、そう、シャイニングウィザード(片足で敵の膝を踏みもう片足で敵の顔に膝蹴りを叩き込む技の名前)!!
 ビックリした私が慌てて貴方の膝から飛び下りると、貴方はゆっくりと後方に仰け反りました。低木の茂みにばすっと埋まります。
 その様子を見た瞬間、今日一日で貯まりに貯まった私のストレスが一気に清算され、私はとても清々しい気分になりました。
 ああ、爽・快・・・・・・!
「マスタング大佐、ホークアイ中尉、帰還の準備完了致しました。ご指示をお願いしま・・・・」
 鼻が折れていないこと、貴方が気絶して鼻血を吹いているだけであることを私が確認していると、木陰にいた私たちを見つけて現れたフュリー曹長が、硬直しました(無理もない)。
「え、ええと、ええと、ええと、・・・・・・・」
 壊れた蓄音機のように同じ言葉ばかりを繰り返してうろたえる彼(シャイニングウィザードをくらって鼻血を出して倒れてる上官を見たくらいでなんですかそれは。情けない)の肩を、私はがしっとつかみました。軍服にマニュキアを塗った爪が食い込むほど力を篭めて。
「フュリー曹長、私は今から、あなたが乗ってきた車で司令部へ帰ります。あなたはこの方を介抱して、目が醒めたら私たちが乗ってきた車で司令部まで帰ってきなさい。上官命令です。返事は?」
 目の高さを合わせてまっすぐに視線を注ぎ込むと、花屋で花束を渡してくれた時よりももっと何かを言いたそうな顔をした彼は、猛禽類に狙われた憐れな小動物のように怯えながら、返事をしてくれました。
「・・・・・・・・・・・・Aye、aye、ma’am」




 だから私は今、用意していた軍服に着替えて、フュリー曹長が運転してきた軍用車を走らせているのです。
 鼻血を垂らして倒れた貴方を思い浮かべると、胸の中に爽やかな風が吹きました。
 そしてこれは、・・・・・・あら、ラベンダーの香り。
開け放った窓から忍び込んだ、先程は感じられなかったラベンダーの芳香に気づいた私は、清々しい解放感と共ににっこりと微笑みました。

  たまになら、ドライブも楽しいものです。ええ、ホントに。


【END】

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