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monster &freak

 PAPUWA。アラシヤマとジャン。
 ソレは人間にそっくり でも人間じゃない
 ソレってな~んだ?






 通い慣れた部屋に1歩足を踏み入れた瞬間にこみ上げてきた強烈な違和感に、身体が警戒令を発した。瞬時に感覚が研ぎ澄まされ、筋肉が緊張し、臨戦態勢を取る。戦い慣れた肉体の反応には、無駄が無い。
 発火能力者にとって、能力を発動させる手順は、身に馴染み染み付いている。意識して洗練させることはできるが、方法は最初から知っていた、という点が歩行の習得とよく似ていた。だから、アラシヤマの身体は反射的にこの部屋の異物に向かって火焔を叩き込もうとしたのだが、戦場で培われた判断力が発動手前で力を止める。
「あ~、鋭いね」
 豪奢な椅子に悠々と腰掛けた男は、発火能力発動の気配など感じ取っていただろうに、些かも焦りを見せずに朗らかに手を振った。
「往ね」
 発火を解除したが、アラシヤマの声は鋭い。
 書類を抱えて総帥執務室を訪れたアラシヤマの前に現れたのは、何故か、長髪のカツラを被って赤い総帥服を着用したジャンだった。
ジャン。元、赤の秘石の番人。現、ガンマ団所属の科学者。
赤い服の持ち主である新総帥シンタローとジャンは同じ鋳型で造型されていたが(正確には、ジャンを模してシンタローが創られた)、ジャンにその赤い服は似合っていなかった。それはもう壮絶に。
 同じ顔をしていても、衲に宿る魂が異なる。形の相似は、かえって差異を際立たせた。ジャンとシンタローは全然違う。
 だからこそ、アラシヤマは眉間にぐぐっと皺を寄せた。
 プライドの高いアラシヤマが己の主として認め従うと決めた相手は、シンタローであってジャンではない。シンタローが為す暴虐ならば己に可能な限り耐える覚悟があるが、ジャンとは同じ部屋の空気を吸うのも不愉快だ(アラシヤマはそもそも人見知りで他人と空間を共有するのが苦手だ)。
 惑乱の気を秘めた整った顔を歪めると、ある種の迫力が出る。なのにジャンは気圧されもせず、カツラを外して、へらへらと笑みを浮かべていた。
「シンタローに呼びつけられて、コレ被ってコレ着て座ってろ!て言われてさー」
「そないな経緯なんぞ説明されんでも想像がつきますわ。おおかた、コタロー様のとこでも行きはったんやろ。それより、聞こえへんかったか?わては「往ね」て言うたんどすけど」
「おやおや、ひどい言い方。オレってば嫌われちゃってるのね。でも、今日オレを呼びつけたのも、過去の遺恨に振り回されるのはもう終わり、て宣言したのもお前の飼い主様だと思うけど、忠実な飼い犬はそこんとこ蒸し返そうとしてるわけ?」
 険のある物言いに怯まず返すジャンの、シンタローとは趣の異なる飄々とした様を見ていると、若造にしか見えぬこの男が桁外れの永い永い年月を経てきた老獪な生物であることを思い出す。そして、ますます違いを感じた。シンタローは、この先いくら歳を取ろうともどこか少年めいた部分を失くさないだろうけれど(良い意味でも悪い意味でも)、ジャンは、この先いくら時が経とうとも肉体は若いままだろうに、精神は最初から老いていた。途方もなく。とりかえしもつかないほどに。
「わては犬やない。部下どす。部下は、諫言という手段と価値ののうなった主を弑するチャンスを所有してる生物どす。犬とはちゃうんよ、元秘石の番人?」 
 戦いの中に生きてきたアラシヤマは、退いては攻め込まれる気配を敏感に感じ取って、わざと嘲ってみせた。同じガンマ団所属で青の一族の傍近くに在るのだから味方であるはずなのに(少なくとも敵ではないはずなのに)、空間が緊張を孕んでいる。師曰く、直観を軽んずるべからず。師の教えに忠実なアラシヤマは、この種の皮膚感覚には従うことにしていた。
 だから、不用意に近づいたりしない。目も逸らさない。
「こりゃ失礼。でも、今後の参考に、お前がなんでオレのことそんなに嫌ってるのか理由を教えてもらえないかな、京美人ちゃん?」
「気色悪い物言いは止め。わては確かに美しいどすけど、あんたはわてのこと美しいやなんてこれっぽっちも思てへんくせに。そういうとこも嫌いやわ、ほんま。でも、一番嫌なんは、わてではお前を滅ぼされへんからや」
 自意識過剰と非難されそうな台詞だが、一応事実ではあったので、ジャンは茶化さなかった。アラシヤマは確かに(人によって好みは多々あれども)美しい容姿をしているし、己の師と青の一族以外の人間を焼き滅ぼすことが出来る力を有している。
 なので、ジャンは、茶化す代わりにあまりの素直さに少し呆れた。頭脳が明晰で、物事の起こりに自分の感情(友達になって欲しいとか)が絡まない場合は勘も鋭いアラシヤマが、策も弄さずにあっさりと己の心情を告げたのが意外だった。
「オレが死なないのがお気に召さないの?」
「そうどす」
 率直に告白することで相手の反応を見るつもりだったアラシヤマは、拍子抜けして毒が去ったジャンの顔を見て判じる。一応害意は無かったらしい、と。
こっそり安堵した。でも、近づきはしない。
「こりゃまたヒドい。オレが死なないのはそう創られたからであって、オレのせいじゃないよ。それに、身体は一応壊せるよ?」
 嘲りの色を帯びていた先刻の笑顔と違い、今度のへらへら笑いはもっと気が抜けていた。あんまり情けない顔なので演技ではないと信じ込みそうになって、なによりその顔は少しシンタローに似ていて、アラシヤマの胸は微かに痛んだ。
 この男を見ていると、嫌な予感がこみ上げてくる。特異能力者特有の第六感か、ずっとずっと先の時間で取り返しのつかないことが起こりそうな気がするのだ。意図(赤の秘石の陰謀か本人の策謀か)があって為したのならば、己の本心を把握できていなかったせいで取り返しのつかないことをしてしまっても、自業自得だ。だが、もし、この、永く永く生きた男に何の意図もなく、在るのはただ想いだけで、想いの深さ故に間違ってしまうのなら、憐れだと思った。
 だから、らしくなく親切に忠告などしてやる気になった。
「阿呆言いな。魂を折れるなら身体を滅ぼす必要性はあらへんけど、魂も命も無傷で続くんやったら身体を壊せても意味あらへんわ。それに、わてはヒドぉない。わては特異能力者で「化物」言われてたけど、昔お師匠はんは、わてら特異能力者は「人間」ではないて言いはったけど、けどな、わてらは「死ぬ生物」どす。だから、どんなに変わった芸持っとったって、やっぱり「人間」どす。でも、あんたは「死なん生物」や。どないに「人間」のふりしたかて、「人間」を学んで真似たかて、あんたは「人間」とはちゃう。違うのは別に悪いことやないけど、違いが在るのをわかってへんのは、悪いことや。だから覚えとき」
 その昔師匠が同じような台詞を言った時にはまだ少年だったアラシヤマはいたく傷ついたのだが、今となっては師匠の意図がわかる。同朋である師匠は、アラシヤマを傷つけるためではなく、自覚して覚悟していれば他者や世界が謗ろうとも無駄に傷つかずに済むと考えて、それでわざわざ告げたのだろう(裏目に出たが)。
 今、アラシヤマにはその意図がはっきりわかった(もしかしたら間違っていて、単に師匠は弟子を弄りたかっただけかもしれないが)。
「・・・・・何ソレ?」
 毒を含んだ言葉ならさらりと受け流しただろうに、アラシヤマのニュアンスがむしろ逆の感情を仄めかしていたので、ジャンは、内陸部の子供がナマコを産まれて初めて食べた時のような顔をした。
「わてはホンマはっ!わてとシンタローはんがちゃんと生きてちゃんと死ねたらそれでその後のことはどうでもええんどすけどなっ!でも、シンタローはんが守りたかったもんがどうにかなってもうてシンタローはんが悲しむんは嫌なんどすっ!」
 ジャンがあまりに驚きを顕にしたので、らしくないことをしたアラシヤマは急激に羞恥がこみ上げてきた。怒鳴りつけたついでに軽く炎を叩き込み、踵を返して総帥執務室から逃げ出す。



荒々しく扉を閉めると、廊下には、うっわ見つかったかどうしてコイツはこーいうタイミングで来るかねあー説教されんだろうなヤだヤだ、とアラシヤマを視界に入れた途端顔に描いたシンタローと、己の隊長から押し付けられたのであろう書類を抱えたマーカーがいた。大方、シンタローがコタローの病室にいたらハーレムたちもやってきて、提出書類があったので特選部隊の事務担当であるマーカー(他に適格者がいないため)と共に自室に戻る羽目になったのだろう。一瞬でその辺りの事情を読み取ったアラシヤマは、扉を出た勢いのまま上背のある身体に抱きついた。
「お師匠はんっ」
 アラシヤマが抱きついた相手は、赤い総帥服を着た「心友」のシンタローではなく、黒い革を纏った師匠のマーカーだった。シンタローが、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になる。ドSでド短気なマーカーはよほどの気まぐれでも起こさない限り抱きついてきた弟子など燃やすのだが、普段懐いてくるアラシヤマを邪険に扱うシンタローがそのくせアラシヤマにすげなくされるとイライラするという現象を瞬時に察したようで、気まぐれを起こした。
 抱きついてきた弟子を優しく抱きとめて、低い声で穏やかに囁く。
「・・・・どうした?」
 ジャンを身代わりに置いて仕事をサボった上司に対して報復したいという己の意を察して協力してくれる師匠の察しの良さ(とドが付くほどのサディスティックさ)に感謝しつつ、アラシヤマは、同じ廊下に立つシンタローの存在を全く無視して少し子供っぽい口調で師匠に訴えた。
「あのな、昔にお師匠はんが教えてくれはったことに、1こ間違いがありますえ?」
 ウルトラ気が短いマーカーは、己で上位者と認めたハーレム以外の相手に否定されるとすぐに気分を害する(そして手を出す)。だが、この時はシンタローを不快がらせたいという気持ちが苛立ちを上回ったので、師の教えに異を唱えた弟子に制裁を加えるのを止めておいた。
 一呼吸置いて、師匠が珍しく弟子の話を最後まで聞いてくれそうな気配(機嫌が悪いと視界に入っただけで理不尽に燃やされる)を読み取ったアラシヤマは、媚びも蔭りの無い希に見る綺麗な微笑みを浮かべながら話を続けた。
「わてらはちゃんと「人間」どす。ちゃんと産まれて生きて死ねる。だから、わてらは大丈夫なんどす」
「・・・・そうか。よかったな」
 マーカーは短気過ぎて人の話を聞かないことが多いが、基本的に頭は悪くないし勘は鋭い。この発言に至った事情を知らないながらもなんとなく、弟子の言いたいことを察する。なので、こちらもまた稀有なことに、蛇を連想させる切れ長の目元の険を少し緩めて、抱きしめている弟子の背を撫でてやった。
「へえ」
 師の肩に頬を当てて目を閉じたアラシヤマは、小さな子供みたいに素直に頷いた。
 美しい師弟愛を見せ付けられたシンタローの左手には、溜めに入ったガンマ砲の輝きが生じ始めている。

 ガンマ団総帥執務室が半壊するまで、後3秒。
 





 「死ぬ生物」も「死なない生物」も、楽園の外でそれなりに楽しく暮らしていました。
 その差異を突きつけられる運命の日までは。


【end】



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