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マホウツカイのムスメ

 魔法使いの娘。無山×初音。


「パパッ!!」
 日毎に勢力が減りつつあると言っても衰えるにはまだ早い初秋の太陽が窓の向こうから陽光を投げかける、麗らかよりはだいぶ茹だった午後。フローリングの床に落ちた光は夏の名残を宿しつつも、盛夏の勢いを忘れていて、なのにまだ秋に順応し切れてはいない。夏から秋への移行は、どこか停滞したままで。けれど、温いよりは暑いはずの空気は、扇風機のお陰で適温だ。汗が滲まないとは言えないが、眠れないほどでもない暑さ。怠惰な、暑さ。午睡に相応しいと言うべきか。
けれど、足音も荒く現れた少女が、場の空気を塗り替える。数時間前には整然と片付けられていたリビングは、少女の怒声によって、心地良いだらしなさを痛罵された。ソファーにだらりと(それはもうだらしなく)寝そべっていた男がビクリと大きく震える。
「おや、おかえり」
 よだれを拭って眼を覚ました男の前に立つのは、高校の制服を着た彼の娘だ。
「おかえりじゃないわよ!何てことしてくれたの!」
 ソファの前に立つ娘は、中肉中背で髪は肩より長く、制服をそれなりに今風にだがしかし突飛な印象を与えないぐらいに着こなしている。一見しても二見しても普通の女子高生にしか見えないが、仁王立ちになったその姿には随分と迫力があった。本当に。命のやり取りなど日常茶飯事の凄腕陰陽師が思わず怖気づくほどに。
半身を起こした男はソファの上をジリジリ後ずさった。娘はズズイと詰め寄る。
「あのね、あたしは陰陽師なんて胡散臭い職には就かない、パパの跡は継がない、てずーっと言ってるでしょ!忘れたとは言わせないわよ!なのになんで、他所の流派の弟子と勝負なんかすることになってんの!?今日、対戦相手だって名乗る子が突然現れてあたしがどんなにビックリしたか・・・!」
「だ、だって、お前には才能があるんだし、術も使えるじゃないか。私の跡を任せられるのは、お前しかいないよ」
 怒声を張り上げる娘に対して、父の声は頼りなくか細い。イイ歳の男が女子高生にタジタジになっている。どうにも情けない図であったが、この家でよく展開される図でもあった。
「アレは護身術!見える人間としての、ただの自衛だから!あたしは普通の女子高生なの!」
「えぇ~!?」
 父親が不思議そうな声を上げると、娘の眼力が増した。これ以上下がると扇風機に着物の裾が巻き込まれる、という位置にまで後ずさった父親は、穴を穿ちそうな娘の視線の圧から逃れようと、床に視線を逸らす。途端、娘の足がダン!と大きく床を踏んだ。
「パパーーーッッ!!!」
 あまりに自分勝手で反省の色が無い父親に対して激昂した娘は、顔を真っ赤にして腕を大きく振り上げ。
「ただいまー」
 玄関の開く音と同時に聞こえた母親の声に、動きを止めた。くるりと身を翻して、玄関に駆けてゆく。
「ママ!ママ!聞いてよ、パパがっ!!」
 打たれずに済んだ父親は、しかし、安堵などできなかった。むしろ、娘に叱られていた時より顔色が悪い。娘の説明を聞いて放出された妻の怒りのオーラを、感じ取ってしまったせいだ。
 なにしろ、史上においても稀なほどに強力な『最強の陰陽師』にも唯一絶対勝てない相手が存在していて、その相手とは彼の愛妻に他ならないのだから。
 彼は怯えながら部屋の隅に移動するのだが、それ以上は逃げられない。妻との結婚時の約束は、『都合が悪くなっても逃げないこと』だった。根本的に卑怯な彼は過去数度この約束を破っているが、その数回の逃亡の結果は、ばっちりしっかり記入された離婚届を突きつけられるほどの騒ぎになっている。だから、人格には大きな問題があろうとも、妻子を愛していることだけは間違いない彼には、この場から逃げることができなかった。
 怒りのあまり大魔神と化しているだろう最愛の妻を待つ彼の顔色は、紙のように白い。冷や汗がたらたらと垂れる。




「本当にもう!なんで20年も前に言ったのと同じお説教しなくちゃいけないのよ!?なんでパパはこんなに進歩がないの!?」
「で、でもね、初穂は私と初音の娘だけあってあんなに才能があるんだし・・・・・」
 鈴の木初穂は、たまに感情的になることもあるが、基本的に聡い娘だ。だから、娘の話を聞いた母親が己の過去の経験を思い出して瞬時に沸点に達して夫を叱り出すと、その凄まじい剣幕を眺めているうちに、父を叩く寸前だった激昂を治めてしまった。なんか、醒めた。
 初穂は、物が飛んできたりしそうな圏内からそろりそろりと離脱して安全圏にたどり着くと、壁を背にしてため息を一つ。
母親はあれだけ怒っているが(すごい迫力だ)、なのに絶対、父親を捨てたりはしないのだ。父親の、魔人と称されるほどの強大な力や人として欠落している部分を目の当たりにしようとも、それでも、彼を忌避することはない。
だからだろう、父親は、ここまで徹底的に罵倒されていながらも、どこか嬉しそうだ。親の関心を独り占めしたがる幼子のように、どんな内容であれ妻が構ってくれたら嬉しいのだろう・・・・・・・どうしようもない男だ。
「小弥太、なんでママはパパと結婚なんかしたのかなあ?」
 言外に「こんなどうしようもない男と」というニュアンスをこめて、居間の壁を抜けて突如現れた少年に対して、初穂は問い掛ける。
「知るか」
 人型を取っていながらその実「人間」ではない少年の答えは短くそっけない。だが、幼い頃から家にいるので、この存在の奇妙さにも性格にもすっかり慣れてしまっている自称「普通の女子高生」は、全く怯まず、なおも話しかける。
「事故とか病気とかでママが先に死んじゃったら、パパ、泰山府君の法とか西行法師の反魂の秘法とか使いそうだよね。ママを取り戻すためなら、パパは、どんなヤバい手段でも使っちゃったりして・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・かもな」
 見かけからは想像できないほど年経ている少年に同意された初穂は、脱力してソファに突っ伏した。初穂は、実は、父親に内緒で陰陽師としての修行を行っている。師は、初穂の身を案じた母親だ(己の過去の経験を踏まえて)。初穂としては、護身術レベルの術は習得できたので、そろそろ修行も止め時かと思っていたのだが、・・・・・やはり、いざという時(例えば、父親が、最愛の妻の急逝に耐え切れずに他者の命を犠牲にしてまで甦らせようとしてしまった場合)、人の道を誤った父親を力尽くで止めるためにも、修行を止めるわけにはいかないようだ。
「あたし、『普通』がいいんだけどなあ・・・・・」
「諦めろ」
 少年はあっさりと言い放った。まだまだ止まない夫婦喧嘩(というか、一方的に妻が夫を叱り、夫は怯えている)をBGMにして、初穂は深い深いため息を吐く。
「でも、パパって、あたしとママのことすんごく愛してるし、あたしもママもパパのこと愛してはいるのよねえ・・・・」
 

 
 

 
 肝心の『魔法使い』がいつまで経ってもアレなので、『魔法使いの娘』の苦労はいつまでも尽きない。
 鈴の木家は、今日も賑やかだった。

【おしまい】
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