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フェニルエチルアミン  2/14

 魔法律。ムヒョロジ。バレンタイン。

「バターを『クリーム状にすり混ぜる』って、大変なのねー。あ、でも、ハンドミキサーがあればすぐなのかな?」
「ハンドミキサーがあっても、くっついたバターを外すのが手間なのは一緒だよ。真冬にバターを混ぜる時は、室温だとなかなか柔らかくならないから、溶かさない程度にレンジで20秒ぐらいチンしちゃうといいと思うな」
「そっかぁ!そうだったんだ!やー、さすがはロージー君ね。今度先生になって、あたしに教えて」
「えぇ~。僕なんか、人に教えられるほどじゃないよ~」
「何言ってるのよ。このガトーショコラ、すごく美味しいよ!洋酒が効いてるし。お店で売ってるのに負けない」
「ホント?」
「うん!」
真顔で褒めてもらえたから、でれでれと顔が緩んだ。
 今日はバレンタインデーだ。街中に、ハートマークのディスプレイとチョコレートの香りが充満する日。甘い物が嫌いな人にとっては辛い日なのかもしれないけど、甘い物が好きでお菓子作りも好きな僕には、とっても楽しみな日。
今日のお客様は、ナナちゃん。昨夜、人生初のお菓子作りに挑戦して、宅配便に気を取られた隙にココアクッキーを炭にしてしまったというナナちゃんは、その宅配便で届いた最高級羅臼昆布(抽選が当たったんだって。すごいよね)を手土産に遊びに来てくれた。
 今年のバレンタインのチョコレートは、遠方の人には郵送でチョコバナナのスティックパイ、直接会える人にはガトーショコラ(ホイップした生クリームを添えて出します)。考えるのも作るのも、とってもワクワクして楽しかった。
バレンタインは、高級メーカーの高価なチョコレート(ものすごく美味しそうだし、実際に食べたら薫り高いのに後味が良くて濃厚なんだろうけど、高い!高いよ!)がこれ見よがしに表通りを占拠して、お財布の中身が厳しい生活をしている身には誘惑を振り切る試練の日でもあるんだけど、やっぱり大好きだ。お歳暮やお中元より堅苦しくない形で、身近な相手に温かい気持ちを伝えられる日だと思う。
 ガトーショコラに篭めた、結構何度も危険な目に合わせてしまっているのにずっと友達でいてくれるナナちゃんへの感謝は、ちゃんと伝わったみたいだ。外は雪がちらつく寒さだけど、くすくすと笑い合うテーブルはぽかぽかと温かい。
 協会に住んでいる人たちには、午前中に届けに行った。エンチューと毒島さんたちには、郵送。ヨイチさんとケンジは、この後事務所に遊びに来るはず。
 だから、今僕が1番気にしている相手は、・・・・・・・ムヒョ。
本命なので、ムヒョだけ、ガトーショコラ+生クリームをたっぷり使った生チョコ、なのだけど、受け取ってくれるかな?ムヒョは、甘い物も一応食べる。でも、僕やナナちゃんほど情熱を注いではいなくて、出されたから食べる、他に食べる物が見当た らない時に場繋ぎに食べる、という感じ。基本的に、ご飯とお肉が好きなんだよね。
 だから、ガトーショコラがある上に生チョコも、て多いかなと思ったんだけど、ムヒョはやっぱり特別だから、他の人と全く同じというのは僕の中で抵抗があって、こうなった。すんなりもらって食べてくれると嬉しいんだけど(お礼の言葉や褒め言葉なんかはあんまり期待してない。ぱくぱく食べてくれたら満足してるってことみたいだし)、「多いナ。いらねェ」なんて言われたら哀しいな。
 と思ってしまうから、朝からずっと一緒にいるのに(協会にも一緒に行きました。提出書類があったんだって)、まだ渡せていない。どうも、タイミングが難しくて。
 ムヒョは鈍感じゃないから、僕が渡したいと思っているのは察しているんだろうけど、基本的にイベント事に興味がない人だから(イベント事が大大大好きなのは僕)、助け舟は期待出来ない。絶対に拒絶して全くつきあってくれない、ほどではなくて思いっきり巻き込んでしまえばつきあってくれるんだけど、面倒だからできれば避けたいと思っているのは、間違いないよね。
まあね、日本人は宗教色が薄いくせにイベント事は好きなお国柄だから、お正月のお雑煮とかお節とか七草粥とか節分の豆撒きとかは、僕が用意したら抵抗せず平然とつきあってくれたんだけど、バレンタインには恋愛色があるから、押すこちらにも気合がいる。お雑煮を拒まれたら「なんで?」という感じがするけど(お餅が嫌いなの?それとも、出身地方のお雑煮じゃないから嫌なの?)、バレンタインチョコは拒む権利があると思うから。
 きっと、たぶん、ほとんど、大丈夫だと思うんだけど、小さな小さな「もしかしたら」は消えないから、2年以上一緒に住んでるけど、やっぱりドキドキするよ。
 うーん、今、渡してしまおうかな?
 本当なら2人きりの時に渡したいんだけど、ナナちゃんが来る前はかえって力が入り過ぎてダメだった。ヨイチさんやケンジが揃ったら騒がしくなるしからかわれそうだけど、ナナちゃんだけなら応援してくれるだろうし。
よし、決めた!今渡すぞ!
 僕は、薬缶を火にかけ、カップを温め、ラッピングしておいた生チョコを取り出して切り分けておいたガトーショコラと一緒にお盆に載せてから、机でジャビンを読みながら居眠りをしてしまっていたムヒョの肩を、そっと揺さぶった。
「ムヒョ。ナナちゃんが来てくれたからお茶をしてるんだよ。ムヒョもお茶しようよ?紅茶はミルクティー?ストレート?」
 んむむむ、と呟きもそもそと目を擦ったムヒョ(かわいい!寝起きのムヒョは本当にかわいい!)は、「ストレート」と呟いたので、僕はナナちゃんに目配せをして、お茶の準備をする。恋話が大好きなナナちゃんは、僕の意図を察したらしく、援護射撃をしてくれた。
「そういえば、チョコレートって、そもそも最初は『恋の薬』として扱われてたらしいけど、コレはただの迷信じゃないみたいね」
「どういうこと?」
「あのね、チョコレートを食べて脳内に分泌される物質と、恋をした時に脳内に分泌される物質は、同じなんだって!だから、チョコレートを食べれば恋に落ちた気分になる、てこと」
「へえー。そうなんだ。僕知らなかった」
「だから、バレンタインデーにチョコレートをプレゼントするっていう風習は日本のお菓子業界の策略だけど、あながち意味のないことでもないのよ」 
  ナナちゃんが、チラリと僕に目配せする。僕は小さく頷く。
今だ!
  そそくさと紅茶をカップに注ぎ、お盆に載せてムヒョに差し出した。
「はい、ムヒョ。紅茶。でね、あのね、ほら、今日はバレンタインでしょ?ガトーショコラは皆と一緒なんだけど、こっちの生チョコはムヒョだけ特別で・・・・・・」
  切れ長の大きな瞳が、「またか」とでも言いたげな色をして
僕を一瞥した。心臓がドキっと高鳴る。
  でも、お盆は拒まれず、ムヒョは、一口紅茶を啜った後、生チョコのリボンを解き始めた。僕は浮かれてにこにこする。
「生クリームたっぷりの生チョコだよ!味見したけど、上手く出来たと思う」
「いいなー。ムヒョさんばっかり。今度あたしにも作ってー」
「いいよ。今度ね」
  なんて話をしていると、包装を解いた生チョコを楊枝に刺したムヒョが、僕を手招きした。何?
「ム・・・・」
  名前を呼ぼうとした口に、生チョコが放り込まれる。口の中に、薫り高いココアと濃厚な生クリームの風味が広がった。
  ふぇっ!?
「お前はよっぽど『そういう気分』が好きみたいだから、俺の分まで食っとけ。俺は、もう満腹だナ」
  一口も食べてないのに「満腹」?
「えっ!?それはどういう・・・・・・?」
  チェシャ猫みたいに口の端を吊り上げてニヤリと笑ったムヒョの言葉の意味がわからなくて僕はパチパチと瞬きをしたが、勘のいいナナちゃんは理解したらしく、慌てて鞄に荷物を仕舞って立ち上がった。
「はいはいはいはい!ゴチソウサマ!チョコでしか『そういう気分』を補給できないあたしはまだ満腹じゃないけど、もうお暇しますよ!家に帰って板チョコでも貪り食べますよ!だから、後はどうぞごゆっくり!」
「ナ、ナナちゃん!?」
 引き止める間も理由を聞く間も無く、ハンガーからコートを引っぺがしたナナちゃんは事務所を駆け出てしまった。
「ムヒョ~。今のどういう意味?ナナちゃん、何で出て行っちゃったの?」
「さぁな?」
 ムヒョは、正解を教えてくれないまま、ヒッヒ♪とご機嫌に笑った。






「あのさー、さっきロージーが相談してきた話なんだけどさ・・・・・・」
「言うな、ケンジ」
「あれはつまり、現在恋愛中のタマネギは、恋愛で分泌される脳内物質がいっぱい出てるから、わざわざチョコレートを食ってその脳内物質を分泌する必要ない、てことじゃねえの?ナナ姉はそのノロケに当てられた、て話じゃねえの?」
「言うなって」
「で、あいつがやたら気前良くガトーショコラの残りを手土産にするよう指示してたのは、自力でその脳内物質を分泌する当てのないオレらに対するさりげない当てつけか?ナナ姉が気を利かせたのに、すぐにオレらが来たから何気にイラっとしてたのか?」
「いや、一応、俺は自力で分泌してるぞ」
「・・・・・・・・・ま、片思いでも恋は恋だな。うん、確かに。ヘリの旅お疲れさん」
 訳知り顔の小学生に、慰めるように背中をぽんと叩かれて、絶品ガトーショコラを土産に持たされた敏腕調査員は、がくっと項垂れた。
 執行人とその助手はチョコレートの魔力に頼る必要は無いようだが、彼らはまだまだ必要としているようだった。

 


 恋をしている人も、していない人も、とりあえずチョコレートを食べて『そういう気分』になればハッピーバレンタイン・・・・・・かな?
【おしまい】
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