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Sunflower

 魔法律。ムヒョロジ前提で、ロージーと恵比須。
 断言するが、探しに来たわけではない。
 雲の端が焦げ付きそうに赤い夕陽ももはや沈んで、蒼暗い薄闇がひたひたと押し寄せてきた。明り取りの小窓は、もはや用を成さない。分厚い古めかしい本で埋め尽くされた高い書架は、欝蒼と繁る木々のようだった。本の森。森の葉蔭には闇が蟠る。
 資料室の奥の電球は先日寿命を迎えて、いまだ選手交替をしていない。皓々と伸びる無遠慮な電灯の白光は、その一角だけを避けていた。
 その場所に足を踏み入れ見覚えのある蒲公英色を見つけてしまったのは、だから偶然だ。単なる。
 珍しく夕食の時間になっても呼びにこなかった彼(いつもなら、「食事は皆で!」と言って頼まれもしないのに呼びに来るのに)は、図書室の隅の暗がりで膝を抱えて蹲っていた。
 泣いているのか?
 ひやりと一滴の焦りを感じながらそろそろと近づいてみると、泣いても眠ってもいなかった。眼を伏せて憂い顔をしているだけだ。常は陽気にうるさいかパニくって泣いてうるさいかなのであまり意識しないのだが、きれいな顔立ちをしているのだな、とそう思った。
 この世で最も貴い静謐な星のようなアノ人の美しさとは違うけれど、憂い顔の彼は風に揺れる白い花のように美しかった。美しいモノは好きだ。だから、少し優しい気持ちになったのだろう。
「どうした?」
 気がつけば声をかけていた。




「・・・・・・・・なんでもない、です」
「なんでもない、じゃないだろ?さっさと言えよ。食堂が終るまでに行かないと夕飯喰いっぱぐれるぞ」
「・・・・・・・・優しいですね、恵比須さん」
「気持ち悪いこと言ってんなよ、草野」
「ふふ。うん、じゃあ聞いてください。恵比須さんにならわかってもらえそうだし」
「?」
「あのね、さっき、全然知らない人が話してるの聞いちゃったんだ。『天才の助手も、いつか、天才の親友みたいに嫉妬に狂うんじゃねえの?』て、言ってたのを」



 反射的に拳を握った。その見知らぬ愚か者を殴りつけてやりたいような気がした。この、蒲公英色の髪をした天才の助手は、頭が良いわけでないし泣き虫だし迂闊だったりもするが、珍しいほどに『いい奴』なのだ。
 味方になるほど馴れ合ったつもりはないが、共闘した仲であるのも事実。主の敵として対するのならばやっぱり容赦はしないが、何も知らない連中が蔑みや悪意を向けるなら腹が立つ。その程度には気を赦していた。



「おい、そんな何も知らない奴らの言うことなんざ・・・・」
「違うの。僕はエンチューとは全然違うから、そんな見当違いなことを言われても、困るだけで傷ついたりはしないから」
「?」
「嫉妬って、羨ましいってことでしょ?その人が持っているモノとかが欲しくて、そのヒトになりたいと思うことだよね?エンチューは『天才執行人六氷透』が羨ましくて苦しんだはず。だったら、僕は違う」
「?」
「僕は、ヨイチさんとか今井さんとかを羨ましいって思ったりするけど、だから、嫉妬って感情は知ってるけど、ムヒョに対してそういう感情は無いんです。僕はムヒョになりたくない。僕は、ムヒョがいてくれなくちゃ困るもの。・・・・・・・僕、説明下手だね。恵比須さん、僕の言ってることわかります?」
「わかる。俺も、五嶺様がいてくださらないと全ての意味が無くなる」



 共感できたので深く頷くと、草野は頬を緩めてゆるゆると笑った。やはり花のような笑顔だ。
俺の好みとは違うけれど、悪くない感じはした。
直接対峙する前にこいつの上司についてある程度の情報は集めたのだが、どれだけ調べてもこいつを助手に選んだ理由だけは謎だった。こんな役立たずをどうして、と頭を悩ませたものだ。
 でも、今は少しわかるような気がする。
 部屋に花を生けても腹の足しにはならない。だが、ささくれ立った心は潤ったりする。
 ましてや、その花が自分だけを見つめて自分だけを想って咲いてくれるのなら、寒々しい死者の吐息で凍えた心は、どんなに慰められることだろう。



「で、なんでこんなとこで座り込んでんだ?」
「・・・・・僕、その話をしていた人たちにも、今恵比須さんに言ったのと同じ事を言ったんです。でも、僕の説明が悪かったせいだろうけど、わかってもらえなくて。すごく不思議そうな、変なモノ見るような顔されちゃって。だから、そんなにおかしなこと言ったかなあ、て思って・・・・・・でも、もういいや。恵比須さんはわかってくれたから」
「あ、ああ。まあな」
「ムヒョに会いたいな。ムヒョのところに帰りたい。そのために今ココでがんばらなくちゃいけない、てわかってるのに、とても恋しいです。ムヒョは今、どこにいるんだろう?誰かと一緒にいるのなら、僕はその誰かが羨ましい・・・・・・」
「ああ。そうだな」



 顔を上げた草野は涙を零してはいなかった。ただ、寄る辺ない迷子のような顔をしていて、泣かれるよりも困った。心情を露にし過ぎるというのは、時に考え物だ。周囲が居たたまれない。同調しそうな感情を抱えている人間は、特に。
 哀しさや寂しさに溺れてはならないのだ。光放つ存在を追いかけたいと思うのならば、足を止めている暇なんてないはずなのだから。空を飛べない凡人は、二本の足で地を蹴って走って、走って、走って。追いかける時間こそを幸福と呼ぶ。
 だから、まだ膝を抱えて座り込んでいる彼の細い手首を掴んで、暗がりから引っ張り出す。



「恵比須さん?」
「さっさと飯食いに行こうぜ。その後で、ちょっとだけなら、お前の勉強を見てやるからさ」
「はい!」



 夕方の次には夜が来て、夜の次には朝が来る。キレイなピカピカの光が降って来る。
 さあ、立ち上がれ。上を向け。
(俺は俺の)(お前はお前の)光を追いかけに行こうぜ!


【おしまい】

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