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monster &freak

 魔法律で、七面犬と梅吉です。

 七面犬は、地獄の住人の例に漏れず気配に敏い。
 執行人より供給された煉に満ちている執行時と違って煉を温存している状況では、地獄の住人にも休養の必要がある。七面犬は、先刻から、陽の当たる暖かい窓辺で丸まってうとうとと微睡んでいた。だが、忙しなく廊下を駆ける足音に眠気を祓われる。
 足音の軽さと落ち着きの無さ、何より「人間」にしてはえらく希薄な気配で、眼で確認するまでもなく足音の主はわかった。
 わざわざ人型を取って「執行人の助手」なんて役をこなしているえらく酔狂な雲竜鼠、笹ノ葉梅吉だ。
 必要時以外は人型で過ごすと決めているらしい梅吉が、獣の四本の足ではなく人間の二足歩行で廊下を急ぐ。
 地獄において一般的な価値基準は、「強さ」だ。その基準で考えると、梅吉は、好意を抱くほどの相手ではない。だが、己の嗜好に正直な生き方をしている七面犬は、梅吉をそれなりに気に入っていた。何故なら、個として単独で在るか、「強さ」の序列に組み込まれて確固とした上下関係の中に在るか、その二択が普通である地獄の住人同士が、人界で対等な立場として協力して戦った「戦友」という関係性がやけに面白かったので。
 だから、その時、眠気が飛んだ七面犬が梅吉の跡をつけた理由は、単なる好奇心だ。
 使者としての性質上隠密行動もこなす七面犬には、足音も気配も消して落ち着きの無い雲竜鼠を尾行することなど簡単だ。後を振り返りもしない梅吉は、毛布を抱えて廊下を走り、負傷した執行人たちが療養している部屋に駆け込んだ。七面犬は、そこで少し疑問を感じる。
 現在この部屋で過ごしている者に対しては、1人に1つ寝台が宛がわれ、もちろん毛布も人数分支給されているはずだ。なのに、何故梅吉は毛布を持ってきたのか?
 その疑問は、すぐに氷解した。
 七面犬が扉の隙間から部屋の中を覗くと、部屋の中には、寝台を宛がわれた部屋の住人以外の姿があった。
 煉を消耗して昏々と眠り続ける執行人の枕元の椅子に座り、書を構える姿の凛々しさとは裏腹に小さな執行人の手を固く握って離さないのは、彼の助手だった。豊かな表情を浮かべる蜜茶色の瞳は、今は長い睫毛の奥に閉ざされ、タンポポ色の髪がこっくりこっくりと揺れている。助手は、執行人の手を握りこんだまま眠ってしまっていた。
 寝台の数の問題で、怪我人とはいえ比較的軽症の彼(骨も内臓も煉も無事)は、就寝時には居間のソファを使用することになっている(ちなみに、梅吉は本性に戻って床で寝る。家主は弟子の部屋のベッドを繋げて雑魚寝)。だから、彼は昨夜、最愛の執行人の気配を感じる場所で眠ることができなかった。思い返せば、今朝は少し寝不足の顔をしていたようにも思う。
 「あやつり」の糸すら見抜く七面犬は、とても眼が良い。故に、執行人の手を握って眠る助手が満ち足りた安らかな顔をしていることに、ちゃんと気がついた。梅吉は、彼を起こさないように注意して、持ってきた毛布をそっと掛けてやる。そして、満足気に一つ頷いた。
 そこまで眺めて、七面犬は、また気配も足音も消して廊下を歩き、元の窓辺に戻った。



 ぬくぬくと陽を浴びていると、短い犬の毛はふかふかになる。暖かい善いモノが満ちて、冷たい悪いモノなど消え失せる。
 七面犬は思う。
 この家に集った「人間」は奇妙だ、と。
 七面犬を執行のために喚んだくせに、ほとんど「人間」を辞めて「悪霊」になっていた少女は、結局赦された。命は手遅れだったが、心は救われた。係わった執行人も助手も裁判官も梅吉も彼女を忘れないだろうし、彼女の冥福を祈っているだろう。
 梅吉は、「使者」のくせに「人間」に憧れていて、「強さ」の序列以外の理由で七面犬から好意を抱かれる「戦友」となった。
 執行人の手を握りこんで眠る助手は、「人間」を辞めた少女が消える時も、「使者」である七面犬や梅吉が傷ついた時も、涙を流してくれた。「使者」の身を案じてくれた。無事を喜んでくれた。
 奇妙だ。
 「人間」と「悪霊」と「使者」の間には厳然たる線引きがあるはずなのに、「敵」とはもっと濃く強くはっきりとした言葉であるはずなのに、「赦し」とは春に降る雪よりも儚く稀有なモノであるはずなのに、地獄では誰も他者のために泣いたりなどせぬのに、・・・・・・・・奇妙だ。
 そして、なんて居心地が良いのだろう。
 日当たりのいい窓辺で丸くなった七面犬は、うとうとと微睡む。
 この、奇妙で居心地の良い空間を、情を分けてくれる相手を守るために力を蓄えておくべく、七面犬は眠りにおちた。またしても廊下を忙しなく駆ける梅吉の足音を聞きながら。
 世にどれほど憂いが満ちていようとも、陽は暖かく、足音は耳に心地良かった。




【end】
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