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monster &freak

 冒険王ビィト。キッス。
 ソレは人間に似てる でも人間じゃない
 ソレってな~んだ?





 その言葉が口から漏れた瞬間、しまったと思った。ソレは身に馴染んでするりと出てきた言葉だったけれど、勘の鋭い彼は見落とすまい。案の定、常から鋭い目がより一層鋭さを増して、ぼくは一気に居心地悪くなってしまった。
 弁解の言葉を紡ごうかとも思ったけれど、気づいていない彼女らの前でわざわざ弁解を口にするのは場の雰囲気を壊して悪い気がしたし、女性の話の話題転換は素早いのでもう別の話に移ってしまっていて、時期を逸した感がある。だから弁解せずにいたら、彼の視線がぼくに注がれたままなので、居心地の悪さが極地に達して、適当な口実で場を抜けてしまった。
 なんかダメだな、ぼく。
 裏口の近くの柱に寄りかかって、足元に咲く花を見つめる。蒼い空の下で花開いた、小さなレモンイエロー。誰に省みられることもない雑草だけど、凛として媚びない。たくましい。情けないぼくとは大違い。そうやって己のダメさ加減を噛み締める心の片隅で、弁解をせずに済んだという安堵があった。
 「閣下」と呼んだあのヒトに対して、ぼくはまだ己の感情を整理し切れていない。
 最初は、麻痺していた。心は不吉に凪いでいて、強大な魔人の傍にいることも戦う術が封じられていることも、恐怖にはならなかった。反対に、あのヒトはその前まで一緒にいた『人間』よりもずっと、丁重に扱ってくれた。もっとも、元々の種が違い過ぎるから齟齬が生じたり気遣いが見当外れだったりしたし、その溝はいくらか狭まりはしても、結局最後まで存在し続けたのだけれど、それでも、あのヒトがぼくに気持ちを注いでいることぐらいはわかった。
 とても奇妙な話だ。
 もしぼくが知らない人からこんな話を聞いたら一笑に付して終るだろう。だけど、コレはぼくの身の上に生じたことで、紛れもなく事実だった。
 そういえば、こんなことがあった。




 その頃になると黒の地平はそれなりの広さを有していたので、季節は判然としない。暑くはなかったはずだけど(記憶の中でフードを被っているから)。
 その日、あのヒトは、人間と交流を持っていた古代魔人の遺跡の調査書を読んでいた。ぼくはその傍らで読み終えるのを待っていた。
 大人しく調査書を読んでいたあのヒトは、ふいに目を眇めてこう言った。
「キッス君、この記述の意図が少し不明瞭なようだが・・・・・」
 当時はあのヒトにとってただの趣味だと考えていた遺跡の調査だが、その調査こそぼくの生が望まれているたった一つの理由だったから、ぼくは調査や報告に対して真剣だった(機嫌を損ねて撲殺されたくはなかった)。だから、慌てて指摘された箇所を確認する。
 そこは、その集落の長であった魔人の回顧録で、人間から花見について聞いた彼の感想が綴られている箇所だった。
「ええと、閣下、いったいどのように説明不足だったのでしょうか・・・・・?」
 極力刺激しないように注意しながらも、語尾が上がるのは避けられない。忠実に訳したつもりだったので、どうして引っ掛かっているのかがわからなかったのだ。
「『花見』とは『散り行く儚い花を愛でる行為』だとあるが、いかなる理由があって行う行為なのかという説明が、欠けているのではないかな?」
 聞いて、思い知らされた。
 このヒトは、魔人としてはとても例外的な考え方や行動を取っているけれど、それでもやっぱり魔人なのだ、と。
 魔人は普通、人間の風習や心情に興味を覚えないし共感もしない。彼らが人間に対して感じるのは、(刷り込まれているかのように一様に)サディスティックな衝動ばかり(ぼくを見逃してくれた魔人は奇跡的な存在だ)。だから、人間の物の感じ方がよくわからないのだ。
「すいません。あの、『花見』というのは人間社会では普及している習慣なので、うっかりしていました。『花見』を行う理由としては、散り行く儚い花を愛でる、季節の巡り代わりを体感する、日常の憂さを晴らすハレの日が人間には必要である、等があります。『散り行く儚い花を愛でる』という感覚は、花の美しさを純粋に鑑賞するというだけではなく、魔人よりずっと脆弱な人間が、短い期間だけ咲いて脆く散る花に対して己を投影して感情移入することによって生じると、ぼくは考えます」
「なるほど。脆弱な人間は頑健な魔人とは物の見方が異なる、というわけだな。だが、まだ解せんな。感情移入して脆さを厭うならともかく、何故『愛でる』?」
「あの、閣下、魔人の価値観は『強さ』を至上としているのですよね?」
「ああ、もちろんだキッス君」
「でも人間の価値観は個人で異なっていますし、個人の中でもいろんな価値観が錯綜しています。『強さ』を至上とする場合もあり、反対に、『儚さ』に価値を見出す場合もあるのです」
「人間の精神には矛盾が多いな。全く、私には理解し辛いよ」
 魔人は人間を理解しようとしない。彼らは人間のことを、ただ邪魔な虫けらだと思っていて、滅ぼすことしか考えない。人間ならば、虫を愛好したり観察したり研究したり、虫の巣の構造に学んだり虫の作った物を利用したりもするのに。ぼくから見れば魔人の方がよっぽど不思議だ。彼らは異様にシンプルで、自らに疑問を抱いたり世界に問い掛けたりはしない。
 魔人は、人間とは全然違う。
「・・・・・はい、閣下」
 フードを深く被ったぼくは少し俯いた。




 その数日後、自室で資料を纏めていたぼくがノックされた扉を開けると、そこにはダンゴールではなくあのヒトが立っていたので、心底驚いた。
「か、閣下!?」
 だって、主従関係が明確なあの城では、主君であるあのヒトが部下の自室に訪問するなんてことはなかったからだ。主君は、部下を呼びつければいいのだから。
「いきなりすまないね、キッス君。だが、先日の疑問が氷解したので、君に伝えたくてね」
「そんな、閣下自らお越しくださらなくとも、お呼びくださればすぐに参りましたのに」
 部下が主を戸口に立たせておくわけにもいかない。ぼくは自室に案内し部屋に一つしかない椅子を勧めながらも、必死で脳内に検索を掛けていた。「先日の疑問」ってなんだろう?心当たりがないんだけど。
「先日、私は『花見』の意義を理解し難いと言ったね。『散り行く儚い花を愛でる』心情に共感できないと」
 ああ、その話か。まだ続いていたのかその話(ぼくは終わりだと思っていた)。
 あのヒトは勧められた椅子に座らずに、立ったまま話し始めた。普段誰も入ってこない自室に他者の姿が在ることに違和感を覚えながらも、ぼくは愛想良く相槌を打つ。
「はい、そうですね。閣下はそのようにおっしゃいました」
「だが、よくよく考えてみれば、私の衲にもそのような情動はあるのだよ。そのことに、今気がついたのだ」
「と、おっしゃいますと?」
 一瞬意味が掴めなくて、パチパチと瞬きした。だって、魔人の頂点たる八輝星を目指し日夜己なりの『強さ』を追求しようとしているこのヒトが、『儚さ』に価値を見出せると言われても、ピンとこなかったから。
 ぼくが不思議そうな顔をしているのを楽しげに眺めながら、あのヒトは言った。
「君だよ、キッス君。私にとっての君だ」
「ぼく、ですか?」
「そうだ。私は、君の才が失われるのを惜しんだから、君を保護し才を役立ててもらっている。だから、君の才に対して憧れと言ってもいいほどの純粋な賛美を捧げているのだが、私が君に向ける感情はそれだけではない。私が求めるのは『強さ』であり、君は脆弱で矛盾に満ちた『人間』だ。心も身体も脆く出来ている。だが、私は、君のその儚く繊細な部分を厭ったことは、一度も無いのだ。それどころか、その儚さこそが君の魅力の一つだと感じているのだよ!わかるかねキッス君!?」
「か、閣下?」
 腕をがばっと開くオーバーリアクションで語られた言葉に、ぼくは全然ついていけなかった。ごくたまに賢いと褒められたこともあるぼくだけど、本当は頭が鈍くて、他者に予想外の評価をされた時にはどう振舞うべきかがよくわからない。敵意や悪意をぶつけられたなら逃げ出せばいいんだけど、コレは敵意でも悪意でもない。むしろその逆っぽくて、戸惑う。支配欲や独占欲や加虐趣味の対象とされるのならわかるのだけど、そうじゃない、もっと違うことだよね、コレって(ぼくの勘違いじゃないよね)?
「だがしかし、私は『人間』とは違う。『人間』は儚く散り行く花を眺めるだけしか出来ない無力な生物だが、私は儚い君を保護し存分に開花させ、決して散らせはしない。安心して私に仕えたまえ、キッス君」
「は、はい、閣下。ありがとうございます」
 頭の中が混乱したまま上の空で謝辞を述べると、ひどくご機嫌なあのヒトは部屋から出て行った。本当に、この話だけをしに来たらしい。
 足音が聞こえなくなってからやっと、じわじわとこのやり取りの意味を理解し始めて、ぼくはなんだか少しおかしくなった。あの戦士団に捨て駒にされてた日以来初めて、自然な笑いがこみ上げてくる。
 そのまま、黒の地平の魔人の城の中の自室で、少し笑った。





 その時だって、あのヒトが人間を塵芥のようにしか思わず、たくさんたくさん殺していることを忘れてはいなかった(忘れられるはずない)。だけれど、そんなふうに感じていると気づいてそんなことをわざわざ報告に来たあのヒトに、一片の情も感じないこともまた、できなかった。ぼくが『弱い』から踏み躙ったあの人間たちと違って、あのヒトは、『弱い』ぼくを守ってやると言ってくれたのだ。
 魔人と人間は、心も身体も違う。理解したつもりになっても、齟齬はいつも在る。大きい。
 あのヒトはぼくを完全に理解していたとは言えないだろうし(ぼくに裏切られたのだからね)、ぼくだってあのヒトを理解出来ていなかった(あんなに己を厭っていたなんて知らなかった)。ボロボロになっていたぼくをあのヒトが保護してくれたのは事実だけれど、ぼくの本当の望みは守ってもらうことではなかった。
 だけど。
 だけどね、理解しようとは努力してくれたんだ。ぼくとあのヒトは違うことが多くて、あのヒトは自尊心が強過ぎて、ぼくは隠し事が多くて、うまくはいかなかったけれど。ぼくはあのヒトを裏切ったのだけれど。
 でも、全然何も感じていなかった、なんてことはぼくには言えない。
 そういうのは『人間』に対する裏切りかもしれないとも思うけれど、『人間』を裏切ってあのヒトを裏切ってなのにこんなのじゃ、ぼくは今度こそ決定的に行き場がなくなるのかもしれないけれど、あのヒトはぼくにとって大事な大切な愛しい特別の一番ではなかったのだけれど、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも。
「おーいキッス、メルマーデさんが書斎で呼んでたぞー。大至急だってさ」
 ひょっこりと裏口から顔を出したのは、ビィトだ。ぼくの、大事で大切な愛しい特別の一番の相手。あのヒトを「閣下」と呼んでしまうぼくが、なのに今ココにいる理由の全て。
 急に視界が明るくなった。足元のレモンイエローの花が鮮やかで美しい。空は吸い込まれそうに蒼く、明るい陽光を浴びた池の水面はキラキラと輝いている。
 君の声は快活で、笑顔は温かい。
「本当?教えてくれてありがとう。すぐ行くよ!」
 自然に微笑が浮かんだぼくは、手招きする君に向かって駆け出した。






 少ぅしだけ人間を理解しようとした『魔人』は、少ぅしだけ魔人を理解していた『人間』に裏切られてしまいました。
 ソレが所有欲でも矜持でもなんでも、『守る』と言ってくれたのにね。

【end】

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