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月を取ってと無邪気に望むような年齢などとうに過ぎたその子供は

 冒険王ビィト。ビィキス。
 昔、彼が3日起きて1日寝る体質だと知った時に、夜に一人ぼっちで起きているのは寂しくないのかと思ったことがあった。彼が育ったのは田舎の村で、ならば夜はどれほどに静かだろう。門を出て森にでも行けば夜行性の動物の気配でも感じるかもしれないが、門を出ることを赦されない幼い頃には皆が寝静まった世界に1人で起きていたはずだ。それは寂しくないの?とても気になった。
 ぼくは考えなしだ。考えてるつもりで、自分なりにいっぱい考えたつもりで、なのに大事なとこで判断を誤る。その夜、夜中にふと目覚めると槍の訓練の小休止中だろう彼が傍らに居て、「起こしちまったか?まだ夜だぞ。寝とけ」と優しく背中を叩いてくれたので、とろとろと意識の表層が蕩けてすっかり注意力が落ちてしまって、かねてからの疑問がつい口をついた。
「夜に1人ぼっちで起きているのは寂しくないの?」と。
 瞼は溶接されたようにピッタリくっついていたから、この時彼がどんな顔をしたのかは知らない。ただ、常に快活な彼なのに返事が来るまで数秒間が空いたのは、よく覚えている。数秒というのは、一瞬息を止めてその後深呼吸を1回するぐらいの時間。
「・・・・・別に。生まれつきだからもう慣れちまってるからな。それに」
「それに?」
 意識の半分以上が溶けて眠りの国に片足を突っ込んでいるぼくは、何も感じずに先を促した。
「それに、月がおれを見てる。どこまで行ったって月がおれを追いかけてくるぜ。だから、全然平気だ」
 彼がどんな顔でこの言葉を言ったのか、考えなしのぼくにはいまだにわからない。

 その夜は新月だった。











 真夜中にふと目覚めて窓を見ると、外は、油絵の具を塗りこめたような胸が詰まる黒。分厚い雲は月光など通さない。遠く空の彼方で美しい銀光を撒いているはずの天体の存在を、嘘のように覆い隠す。
 月はぼくを見ないのだ。
 ぼくはもうあの、蒼い燐光に縁取られ温度のない優しい光に照らされることには耐えられないので、今更この窓の外に月影を望んだりはしない。いずれ死を迎える日(おそらく、そう遠くはないだろう)にも、夜毎姿を変えるあの麗姿に見えることはないのだろうけれど、嘆くつもりはない。今更。
 ただ、彼が寂しくないようにずっと一緒にいてあげてくれと、今宵雲の彼方で満ちているであろう月に祈った(黒雲に阻まれてぼくなどの祈りはきっと誰にもどこにも届かないけれど。それでも)。





【おしまい】
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