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こころのかたちひとのかたち

 ネウロ。ネウ弥子。
 腕。
 硬くてしなやかな筋肉がついていて、造形的に美しいとすら言えそうな腕には、これまた長い指がくっついている。手袋の下を見た記憶はあまり多くない(や、別種の形状をしている時のならよーく覚えてるけど)ので、トレードマークだった黒い手袋を剥いで思うさま撫で回すのは存外に愉しかった。悪魔に魅入られた人形師が創り上げたような、非現実的なその手。生きている人間の手には歴史があって(例えば古傷。タコ)、独特の特徴があって(例えばほくろ。爪の形)、生活感に溢れてて手を見ればその人の暮らしぶりがわかるなんていわれてるぐらいで(例えば爪の長さ。指の変形)、手入れをどのくらいどのようにするかによっても違ってきて(例えば甘皮の処理。指の感触)、誰の手もこんなに完璧にはなれないだろう。完璧であるということはどうしようもなく異端だということで、それがますますあいつらしかった。
 指は冷たい。
 触れた者をひやりと醒ます冷たさだ。それがまたいかにもらしくって、私は少し愉快な気分でその指に口づけた。
 もうあんな危険で不可解な形状に変形したりしない指は、振り払うこともせず口づけを受け入れた。



 彼が帰ると言い出したのはあまりに唐突で心の整理など全くつかず(そりゃそうだ。いきなりだもの)私は平静を装おうとして失敗して無様に泣き出しその腕に縋った。行かないで、はおかしな台詞だ。彼は帰るのだから。彼がこの世界においてどこまでも異物であると誰より知っていたのは私なのだから。腹が満ちた今、帰るのは当然の成り行きだった。けれど私は、強引で唐突に始まった彼との関わりがもはや自分を構成する一部になってしまっていて、彼がその部分をもぎ取っていってしまうことを酷いと責めた。酷い、酷いよネウロ。返してよ。だがいかに最凶の魔人とて時を戻すことは叶わない。だから彼は言った。
「では、貴様も我輩から奪えばよい」
 それは凄まじい譲歩の台詞で、しばらく私はぽかんとした。それから、必死に考えて、今から思えばあの気の短い魔人がよくもまあ待ってくれたものだと思うくらい長い時間、必死に必死に考えて、そうして何をもらうかを決めたのだ。
「腕をちょうだい」


 こうして、私の頭を掴んだり口の中に突っ込んだり腕をひっぱったりしてきたこの腕は、私の物となった。心や約束なんていう目に見えない物よりも、この即物的な感じがいかにも私たちらしくって素敵だと思う。だから今宵も、この腕を枕にして眠ろう。そうしたら、腐った百合の匂いが漂う遥かな異界に、夢でなら行けるかもしれないから。彼に奪われてしまった私の心の欠片が、きっと私を導いてくれることだろう。
 あいつに聞かれたら鼻で笑われそうなそんな夢見がちな幻想を抱いて、私は目を閉じた。
 腕は冷たい。



【おしまい】
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