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別れを告げるその言葉をもう何度耳にしただろうかけれど私にはもう

 ドラゴンボール。悟チチ前提で、デンデ。
「では、皆さん最期のお別れを」
 そう告げると、盛大に零れされた涙が周囲の湿度を少し上げる。
 若輩者の身でおこがましいとは思うのだが、この種の儀式を仕切るのは義務だと師に言われて、大恩ある一家の大黒柱であったご婦人の葬儀を取り仕切った。
 子供時代からの友人であるご婦人の長男は、先刻まで溢れる責任感で我慢していた涙を、とうとう堪えきれなくなっていた。彼の妻がそっとその背を撫でる。彼らの長女は、泣き過ぎで痙攣するような息を零していた。いつも陽気だった次男も今日ばかりは俯いたままで、傍らに立つ幼馴染の親友が彼を無言で気遣っている。
 意外だったのは、この世にただ二人のこの民族の純血の男の妻であるという縁で故人と親しかった女性が、泣いていなかったこと。彼女とのつきあいも長いが、子を産んでからだいぶ落ち着いたとはいえ、感情的な部類の女性だとばかり思っていた。だが、何十年経っても外見に衰えを窺えない異邦の王子に寄り添って立つ姿の儚さとは逆に、その瞳は涙に濡れていない。ただ、強い光が在った。
 他の参列者は、皆、口うるさいが世話好きで結局は気のいい故人を慕っていたので、赤い目をして棺を覗き込んでいる。棺の中の故人は花で飾られ化粧を施され、とても若く見えた。(根本的にこの惑星の住人とは美的基準に相違があるので、断言はできないのですが)とても美しく。
 ただ、彼だけがいなかった。
 常に場の中心であったはずの、あの人。世界を救い、人々から愛され、なのにどこか掴みどころのない不思議な人。故人の夫であった、あの人が。
 最期のお別れが終れば、このご婦人は埋葬される。そうなればもう姿を見ることは叶わない。この世 での見納めなのだ。なのに、伴侶であるあの人がいないなんて。
 これはいけない、と周囲の気を探ろうとすると、師と目が合った。師は他の人々と違って泣いてはいなかったが、弟子の母親として関わった人物の死を深く悼んでいるのが読み取れた。その師が、声に出さずに伝えてくる。「探すな」と。
 その意図を読み取れないまでも、意志には従って。やがて、私は棺の蓋に手を掛けた。











 しばらく後の満月の夜、上空の神殿から下界を窺っていると、あの人が、古い友である女性の背にもたれて、妻の墓の上に座っているのを見かけた。常に力に満ち溢れ、誰をも安心させ信じさせた彼らしくない、力無いその姿。
 その姿を見て、ようやく私は知る。
 あの日棺を囲んでいた誰よりも、あの人が妻を悼んでいることを。

 






 この夜、己の無力さをよく知る地球の神は、己が創った月の光を浴びながら、妻を亡くした夫のために祈り、今宵だけその男が英雄ではないことをそっと見逃した。

 

【おしまい】
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