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死に至る病

 こちらは、シャーマンキングの話で、CPは、葉アンナ←ハオです。
 赦されざる果実を、一齧り。
 世界の果てで、味わう享楽。






 午睡はゆるゆるといまだ火照る膚の上を通り過ぎ、眠りの波の引き際を見定めたあたしは、瞼を開ける。
 朝にあらず、昼にあらざり、夜であり得ぬ、幽冥の時。
 汗の名残が残る裸体に申し訳程度に掛けられた毛布が滑り落ちていくも構わず、ゆらりと身を起こす。
 傍らで眠る黒髪の男の寝息は、深くて静かだ。
「緑の太陽が昇ったね。空が不吉に輝いている」
 気配すら感じさせず、唐突に背後から聞こえた声に、あたしは振り返りもしない。振り返る必要も価値も無い。
 太腿の内側に感じられる粘ついていた液体だったものは、傍らで眠る男の精。暖かく力強く心地よい腕はあたしの腰に巻きついて離さず、この身に散る赤い痕はあたしが彼のモノである印。なにも不安になる必要など無い。
 幻が何を囀ろうと。
「もうすぐ、翼を持った魚達が大空を駆け、鱗を持つ鳥達が深海で流離うよ。海が川に流れ込み、水が燃える。病んだ大地は、とうとう死を迎える。・・・・このままでは」
 傍らの彼と同じ声質の声を持ち、同じ遺伝子を有する別人の幻が、背後で囁く。重さは無く、温度も無く、空気を揺らすでもないが、その幻の声は確かにあたしに聞こえる。彼の眠りが深いのも、こいつの仕業に違いない。
 けれど構わない。所詮は、幻だ。
 黙示録よろしく滅びの予言などを囁く幻の言葉に言霊など宿りはしない。所詮は、戯言だわ。
「蒼ざめた馬に乗る男と寝る趣味は無いわ」
 ぴしゃりと、はねつけるように言った。
 生を選ぶ彼とは違い、幻は死を導く死神。視線をくれてやる価値さえ見出せない。半身を起こしたあたしは、彼の頭を抱えて腿の上に乗せる。意外に柔らかい黒髪に癖がついている様さえ、愛しい。
「ははっ僕は下僕ではないよ。王さ。生と死と輪廻の秘密を知る僕は、いまさら子羊を犠牲に捧げるまでもない」
「趣味が合わないわね。あいにくあたし、唯一神は嫌いなの」
 言外に退出命令を籠めた言葉にも、幻は動じないらしい。
 幻が、己を死神ではなく天の玉座に昇る王だと言うのならば、それはもっと愚かしい。二度も不本意に冥府に追いやられておきながら、どのようなつもりで王だと言うのか。
 わからないの?あんたは世界に拒絶されているのよ。
「何故?」
 ああ、察しが悪い幻だこと。
 あたしは深々とため息をつく。
「セックスが下手そうだからよ」
「あははっ!」
 弾けたような笑い声は、彼に似ていて似ていない。きっと、幼く未熟な彼だからこそ持っている不器用な暖かい部分を、この幻が持ち得ないからね。
 幻の笑い声は乾き完成されている。彼に在る、湿った不完全な部分を幻には見出せない。厚みの感じられない、薄っぺらい声ね。
 あたしの腿に顔をこすり付けるようにして眠り続ける彼の心地よい身体の重みと温度。あたしに向かって空言を紡ぐ幻の不実在。
 なんとまあ、対照的だこと。
 本当に、あたしの男はこの幻と似ていないわね。
「あんな自分勝手で男性至上主義で女を見下している輩が、セックスが上手だなんて思えないわ」
 ちなみに彼は、上手(いつもものすごく気持ちいいもの)。
「勘違いしないで欲しいな。僕は女神の愛し子さ。収穫のために捧げられる若く猛き血と肉と精だ。女神より産まれ、女神と交わり、女神を孕ませ、そしてその滋養となる。愛されるが故に食される贄なる若者だよ」
 所詮幻の言葉だったけど、あたしは意外に納得した。元々陰陽師であり、メディスンマンであるこの幻には、確かに、父性的唯一神信仰よりも母性的地母神信仰の方が近しいことでしょう。
 なら、こいつのアンバランスさは、女神を欠いているのが原因なのかしらね。
 なんて他力本願な。
 女神を求めて縋るつもり?
「女流社会のマザーコンプレックスの弊害をどのようにお考えかしら?」
 でも実際の話、この幻は(あたしにとっては不本意ながらも)彼と血肉を分かち合って産まれてきたわけだけれど、彼と幻が一人分の人間だとしても、まだ足りないモノが大分ある気がする。
 その理由は、『独りで足りる人間などいない』から。
 いい加減認めなさいな。世界は不完全で不恰好であると。人間は完成された存在ではありえないと。
 だから皆、儚い幻想を頼りに寄り集まり支えあって生きてゆくのだと。
幾度輪廻の輪を廻そうとも、この世界に回帰しようとも、それでも『足りる』ことはない。
 あたしたちは欠けた躯を持って産まれ、欠けた心を抱えて涙する。言葉はいつも足りず、躯は全てになりはしない。時は流れ逝き戻らず、エントロピーは増大し続ける。言の葉によって紡がれる魔法が幻想を維持し、脳内麻薬が感情の源である。命は必ず失われ、魂の存する意味など無い。
 それでも続いていく。
 いつか、この星が滅びを迎えるその瞬間まで。
「僕自身に限っては、何も問題は無いね。女神の牙で砕かれ血肉を飲み干された僕は、輪廻の輪を潜り抜けて女神の胎内に還る。産まれ出でし僕が女神を砕き、新たな器に女神を注いで再生するならば、なんら問題はあるまい?使者の神の掲げる二本蛇の杖など、僕に何を及ぼせるものでもないと、小癪な錬金術師どもに教えてやりたいよ」
 『永遠』があり得ると、小癪な陰陽師が呟く。
 けれど、生と死の境すら無い『永遠』など、『始まる』ことすらできない。終わりの無いゲームの価値とは何か?今を愛せない人間が未来を愛せるのか?
 バカバカし過ぎて、一緒に考えてやる気にもなれない。
「なら、二重螺旋の理で繋がれた縁を切りなさいよ」
 真に『永遠』が在ると主張するならば、小賢しい条件付けなどよして。あんたの王国に、彼を巻き込まないで。
 あたしの膝で眠る男は、あたしのモノ。あたしだけのモノ。心も身体も何もかも、視線の一滴から、髪の一筋に至るまで、発する言葉の一音、吐息すらあたしのモノ。
 全て全て全て。あたしが彼のモノであるのと同様に。
「それはできない。僕の魂を受け継いでもらわなくてはならないのだから」
 一目瞭然なこだわりが何に起因するのか、知ることもできるけれど、特に興味は無い。どうせくだらない理由でしょ?知りたくもない。
 そんな無駄なことに割く時間と労力があるならば、あたしは彼とセックスしていたいわ。
「また黒髪に生まれたいってだけじゃないの?あんたの顔、黒髪以外似合わないもの」
 軽く閉じられた彼の唇に、中指をつっこむ。彼の歯の間をねじ込むようにして差し入れ、熱い舌に触れる。彼がこの指を噛み切ったら、あたしはひどく愉快な気分になるだろう。あたしの血と肉が、彼の臓器で栄養として認識され消化され彼を形作る細胞の一部となればいい。それもまた一つのセックスの形かもしれない。
 けれど、優しい彼はあたしの指を噛み切ってくれない。
「まあ、黄色人種は僕の好みだけどね」
「五行思想の住人なら、そうでしょうよ。でも、あたしの胎にはあんたの干渉を受け付ける余地が無いから。羊水に包まれて揺うことが望みなら、他所の優しい女に跪いて頼みなさい」
 どうして、あたしの胎は彼の精を栄養として消化してくれないのだろう。そうできるならば、あたしは他の食物など食さずに彼だけを食べて生きていくのに。食物連鎖の輪の一環を担うより、彼に寄生する方がいいのに。
 ああ、そういえば、彼の体液を食する方法があるわね。
「君は僕の女神だ。君になら、跪いていいよ」
 名案を思いついたあたしは、早速実行することにした。起こさないように気を使って彼の頭を膝から下ろし身を乗り出してうつぶせになると、ちょうど先刻あたしの胎内で暴れていた器官が目の前にくるから、事後処理すら忘れて力つきて眠っている彼の器官を、舐めてきれいにしてあげましょう。
 そして、あたしの胃に白濁したたんぱく質を摂取させてあげましょう。 
 だから、戯言はもうお仕舞い。
「お生憎さま、ミストレスには選ぶ権利があるのよ。あたしの口は今から忙しいの。坊やは母性本能を垂れ流す女に愛を乞うていらっしゃい」
 これで、あたしの言葉は最後。
「葉は必要なので殺してはならないんだが、アンナを愛している僕としては、今ちょっと殺してやりたい気がするな。どうやら愛とは死に至る病であるらしい。時期を待つことを苦痛に感じさせるなんて。僕が早まって時期を待ちきれず滅びてしまったら、君のせいだねアンナ・・・・・・・・・」
 幻がぶつぶつとなにやら呟いていたけれど、放っておいたらそのうちどこかへ行ってしまった。
 それはそうね、あたしの口は返事など返せないもの。幻の好きな言葉遊びはつきあってあげられないわ。
 だってあたし、葉を食べているんだもの。





 ねえ、葉。
 あたしは葉の身を食み、葉はあたしの身を食む。この衝動があたしたちを滅ぼしあたしたちを再生する、死に至る病。でも、再生を信じてあんたを食するけれど、あたしが食べ尽くしてしまわないようにちゃんと気をつけていてね。
 あたしはいつだって飢えているのよ。


 さあ、あたしをあんたでいっぱいにして。



【end】
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