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別れを告げるその言葉をもう何度耳にしただろうかけれど私にはもう

 PAPUWA。アラシヤマ。
 融通が利かないと言ってもいいほどに勤勉で仕事には熱心な男の背中を屋上で見つけて、一応考えていたはずの掛けるつもりだった言葉たちは霧散した。
 本部塔は上階になるほど利用者の階級が上がっていくため、最上階の総帥執務室の真上にある屋上でサボる度胸のある一般兵士などいない。だから、遮蔽物の無い全き青空(そう、あの楽園の空に似た。いや、もっと曇ってるけどな。でもまだマシな)を独り占めするのは、総帥の特権だったはずだが、今日は先客が居た。団を仕切る一族ではないが、幹部である特異能力者。性格に多々難があるのに実力と見た目は良いという、いろんな意味で困った人物。
 アラシヤマ。
 デッサン人形相手に湿っぽい愚痴でも零しているかと思えば、アラシヤマは無言だった。思い返せばいつもそうだ。こいつは、本当に訴えたいことほど口にしないんだ。嫌味と気持ち悪い台詞ならば異様に雄弁なので、感情を言葉にする機能がないわけじゃないだろう。ただ、誰にも告げないだけだ。俺にも。
 なんでお前はそーなんだよッ!?とふい打ちでガンマ砲でも喰らわせてやりたいほどにイラっとしたが(こいつは俺を苛立たせるのが上手過ぎる。何をしても、何をしなくても)、さすがに思い留まる。先刻入った急報は、特選部隊の離脱。特選部隊には、稀有な体質を持ち合わせたこいつの唯一の同朋であり師である人間が所属している。なのに、こいつが一緒に飛行船に乗り込まずにココにいるのは、俺のためだろう。自惚れでもなんでもなく、こいつが俺を選んでいることを、俺は知っている(極々あからさまな事実として)。
 だから、まあ、今日ぐらいはこっちから声を掛けてやるか(妙にムカつくが)、と思って口を開きかけたら、一瞬前まで微動だにしなかった背中が振り向いた。
「・・・・こないなとこで何してはるの?またサボりどすか?秘書さんら泣きますえ?」
 振り向いた白い顔は、いつも通り陰気に前髪で半分覆い隠されていて、表情が読み取り難い。なまじ顔立ちが整っていて黒髪と色の白さの対比が鮮やかだから、どこか人形染みて見える。こいつの感情表現は、うざったいほど大仰過ぎるか押し殺され過ぎているんだ。だから今も、理解できない。
 俺を選んでいることは、どこまででもついてくるつもりだということは、嫌というほど知っている(つか、割と本気でだいぶ嫌だ)。ただ、その気持ちは理解できない。こいつが見せないからだ。
「うっせえよ。お前だってサボりだろが。文句言われる筋合いじゃねえぞ」
「まあ、そうどすな。今日は、わても何も言いまへんわ。新総帥様が期日ギリギリどころか〆切を過ぎてるはずの仕事を山と積んだままでふらふらサボってはっても。ええ、今日は」
「二度言うな。お前はキンタローか。ったく、お前こそ何してんだ?伊達衆一仕事が出来るアラシヤマさんが?」
「褒めてくれはるのは嬉しいどすけど、それは他の奴らのデスクワークスキルが奈落やからやしなあ。そのせいでわてに仕事が集中してくわけやし。ああ、複雑どす」
「人の質問無視かよ、コラ」
 切り込むような鋭い声が出た。そこに含まれた怒気の根源をやっと察したのだろう、陰気な男は少しだけ驚いて、やがてひっそりと瞼を伏せた。長い睫毛が漆黒の瞳に影を落とす。こいつは本当、頭いいし勘だって鋭いくせに、悪意以外の感情を向けられると奇妙に鈍感だ(だから友達できねえんだよ。お前を気にしてる奴なんていっぱいいるのに)。
「・・・・・・・・すんまへん。わて、上手いこと言葉に出来まへんわ。でもまあ、ほんのちょぼっとでも温情かけたろいう気持ちがおありどしたら、ちょっとの間だけ見逃したって」
 言葉と同時に、長い指の先から蝶が飛び出した。赤い、紅い、赫い蝶。一呼吸もない間に、数百の炎の蝶が生み出され、空に旅立つ。青の空を埋め尽くす、幻惑の蝶。命を与えられた炎。その中心に、焙る灼熱を感じさせない儚い風情で佇む人間。白い膚に赫い影が映えて、白昼夢のようだった。
 ひらひらと舞い踊る蝶に囲まれた中から、声がした。
「生まれて初めて、わてを抱き上げてくれたんは、師匠。撫でてくれたんは、ロッド兄はん。隊長はんは肩車してくれはったし、Gはんは手を繋いでくれはった。皆強おて、わての炎に殺されんといてくれた。あん人らがいてくれへんかったら、わてはきっともっと昔に死んどったわ」
「・・・・・ああ」
 歌うように紡がれる声には、欠片ほどの憂いも見当たらなかった。むしろ嬉しそうで、それが少し恐ろしい。だが、この男が歪んでるなんて最初からわかってたことなので、怯んだりはしない。眼を逸らさないで見返すと、目元が少し柔らかくなって頬が引きつったので、あれは微笑したつもりなんだろう(不器用な奴め)。
「昔な、師匠と山ん中で暮らしてた頃、修行に熱入れ過ぎて昼食時間を忘れたりしたら、蒼い蝶が飛んできてん。蝶は、わての指先目掛けてひらひらと飛んでくる。音はせえへん。でも、言いたいことはようわかった。肌に染みて聞こえるんよ。山を降りて、師匠とわて以外の他の誰もあの蝶に触れられへんと知った時は、だいぶ驚いたわ。そんで、ちょぼっと嬉しかったんどす」
「・・・・・で?」
 上空は風が強い。蝶はすぐに舞い散る。どこか遠い空の彼方へ飛んでゆく。あっという間に、屋上は元に戻った。けれど、俺の息は乱れたままだ。白昼夢が鮮やか過ぎて、息が整わない。
 けれど、この種の機微を察しないバランスの悪い男は、さっさと幻想の雰囲気を拭い去って、有能で嫌味っぽい部下の顔に戻った。
「わての話はもうおしまいどす。さあ、天井まで積み上げられた書類の山がわてらを待ってまっせ、一緒に仲良う仕事しまひょ、シンタローは~ん!」
 気持ちの悪い媚びる口調に戻って歩み寄る男の漆黒の瞳の中に、空元気でも哀しみでも寂寥でもなく、絆を信じられる人間のみが持つ強さが在って、確かに感じられて・・・・・・・・・・・・・何か激しくムカついたので、溜めなしでガンマ砲を放って屋上からノーロープバンジーを体験させてやった(まあ、こいつのことだから死なないだろ)。
 ああ、赫の蝶が行き過ぎた空はどこまでも蒼い。











「この、馬鹿弟子め」
 どこかの蒼い空を飛ぶ船の上で、指先に触れた赫の蝶に向かって、左頬に傷の残る男が囁いた。



【おしまい】
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