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てふてふが1匹

 ぬらりひょんの孫ss。
 根底にリクつらはありますが、御門院有行の話。

 冬号の感想を書いている最中でしたが、わたしが有行(と園潮)にいかなる期待を寄せていたのか、いや、まだ単行本加筆を見るまでは確定じゃない、としつこく期待しているのかを、語るのも野暮な気がしてきたので、ssにしてみました。
 そして、書き上がったら1月新刊の諸恋ひの設定そのままだった、というあたりが、わたしのどうしようもない所だと思います。
 

 蝶が空を行く。
 ひらりはらりと、風に任せて。
 はらりほろりと、風に抗って。

 蝶が飛んでいる。






 木の葉の刃なんて、どれほどの毒を纏っていようと意味など無かった。
 僕の夜雀は、地獄の闇と風から練り上げた式神。その羽は、世界を昏くして世界を拒む。
 この穢土に蠢く有象無象の衆上の、いつの世も変わらぬ足掻きなどにはもはや飽いていたから、それらの煩わしさを僕に届かせない為に、彼女は翼をはためかせる。完璧な防御。拒絶。隔絶。舞い散る黒羽に阻まれて、弱々しい刃など届かない。
 この昏い羽を飛び越えて何かが現れまいかと期待していた時期もあったけれど、誰も彼もてんで弱っちかったから、僕はもう期待するのも忘れていた。
 期待も未来も無いのなら、壊して遊ぶ以外に楽しみようが無い。無邪気で無慈悲な子供に棒を突っ込まれた蟻の巣みたいに、僕の術により、脆くも崩れる命たち。壊すことは簡単過ぎる。
 抗った末に崩される無力で無様な命を眺めるのは、少し面白かった。その僅かな楽しみの為だけに、この戦場に立ったつもりだったのに。

 場が、転換する。
 空気が、光が、闇が、風が、場に満ちている全ての力が反対向きの螺旋に回り始め、僕の力も収縮の螺旋に飲み込まれ、逆に、奴らの力が増大していく。
 正と負の、生と滅の、聖と邪の渦、全てが反転していた。

「玉章、行けっ!」
 獺の変化は、風来坊を気取った所で熱い男だったらしく、機を見てとって己の体内の畏れを全て焔に変えると、躊躇いも無く隣に立つ者に託した。
「獺祭っ、もらうぞっ!」
 田舎狸の御曹司は、遠慮などせず焔を受け取る。 
 挫折を知ったばかりの若く未熟な御曹司は、けれど、秀麗な顔に帯びた傷の分は賢くなったようで、瞬きも出来ぬ程の刹那に、上階の決戦で何かしらの変化が起こり場全体の力の流れが変わったこと、出会ってまだ間もない獺の変化が己に託した力の意味と使い方を理解出来たようで、己の木の葉に焔を纏わせた。彼らが今、暫定的に大将としているあの半妖の少年が、他者の力を受け入れ重ね合わせて大きな力を得るように、御曹司は、以前とは違って、己に託された力を利用するのではなく、受け入れ、尊重して重ね合わせている。
 故に、焔は、木の葉を損なわずに纏わりつき、畏れを加算していった。燃え盛る木の葉の刃が、轟々と渦巻く。 
 それでも、それだけなら、夜雀を焼き尽くすことは出来ただろうけど、僕には届かないはずだったんだ。不公平な天とやらが僕に授けた才は、我ながら理不尽な程に大きかったから。
 だけどね、鏡が。
 僕を隠し、守り、閉じ込めるこの鏡が、ね。

「うちらも行くでっ、魔魅流君!」
「うん、ゆら」
 非才なる人の血を惨めたらしくも執念深く重ね続けて、それでやっと産まれた破軍使いの少女が、己が式神を融合させて神代の戦巫女のような装束を纏った。傍らの青年が放った雷光を吸収して、少女の矢の形状が変わる。
「兄妹の合体技や! 喰らえっ、式神合体『雷上動』っ!」
 放たれた矢は闇を切り裂くように光り、鏡に炸裂する。途端に、走る亀裂。
 力が反転したせいで、僕の術で出来た鏡も薄氷のように脆くなっていた。だから、相乗された陰陽の力に耐え切れず、粉々に砕け散る。
 その破片全てに、渦巻く業火が映り込んで瞬いた。
 それは、観客が居ないのが残念な程に、華麗な光景で。

 以前、『彼』が言ったことは正しかったのかもしれないな。
 いつぞやの月も無い夜、他は皆がらんどうの空っぽのくせに『物語』にだけ深く執着していた『彼』は、「『物語』には相応しい形があって、盤面に全ての駒が出揃うと、己で、勝手に歩を進めちまうんですよ。『物語』自身の意思でね」と訳知り顔で語ったけれど、それはこういうことなんだろうか。僕に戦意が足りないことも含めて、全ての条件が整っているね。
 父の背ばかりを千年も見つめて待ち続けていたあの憐れな半妖の男が敵の刃なぞに掛って逝ってしまったのを感じた時、僕の戦意は大きく削がれた。それまでは、持って生まれた上に磨きをかけたこの強過ぎる力でど派手な術を炸裂させて、水蛭子の弔いにどでかい花火を上げてやろうか、なんて殊勝な気持ちが(珍しくも)あったのにさ。
 この穢土に在る大抵のモノは儚くて、僕が愛着を抱く暇も無く滅びて逝くけれど、あの男だけは長い時間を共有し過ぎたので、さすがの僕だって愛着があったんだよ。あの男の絶望に報いる結末を望むぐらいには。
 僕は、あの男があれほど慕って求めていた父親自身の手で、あの男を屠ってやって欲しかった。その為に、地獄から蘇った父親が、斬った他者の血の分だけ力を増す穢れた刃を手にしているのだと、信じていたんだ。
 なのに、殺してもやらないだなんて。
 殺してももらえなかっただなんて。
 なんてつまらない主だ、1000年も待たせた挙句になんてつまらない結末だ、と思うと、僕の戦意は大きく削がれてしまって、だから、鏡の術も夜雀への指示も、結構おざなりになってしまった。
 『彼』に言わせればきっと、これもまた、『物語』の意思だったのだろう。
 1000年は長過ぎた。飽きっぽい読み手は、主人公の交代を望んでいる。

 
 かくして、攻防一体の術式であった鏡も式神も壊れ、僕は、この身に業火を受けることになったわけだ。
 上階で奴らの大将とやらが頑張っている上に、健気な下僕共も大将に畏れを捧げているらしくて、力の流れの反転は止まない。
 この地の水気は、つい先刻、眼前の少女の兄とやらが支配下に置いたから、この『火』を剋する為の『水』を召ぶことが出来なかった。それどころか、天に近い場所なので、『火』を生する『風』が満ちていて、メラメラと踊るように揺れる焔は天空を駆ける風に煽られて、どんどん勢いを増していく。
 木の葉がこの身を切り裂き、毒を注ぎ、失血と毒で動きが鈍った身体を、焔が灼く。
 表皮が、肉が、骨が、熱を帯び水分を失い、炭化していった。風が煤を散らして、我が身は、どんどん削られ、崩れ、滅び逝く。
 才の対価として痛覚を持たずに産まれてきたので、この期に及んでもやはり、痛みに対してはやっぱり実感を持てなかったけれど、叫び出したい程の喪失感はちゃんと感じ取れた。それに、すごーく熱い。
 
 ああ、なんて鮮烈な。


 憐れな半妖の男は恋しい父親の刃で終わるべきだと思っていた僕は、無駄に長生きして考える時間なぞたっぷりあったから、自分の終わりにだって理想があった。
 陰陽の才と引き換えに人の心や感情やらを実感できぬよう産まれてきてしまった僕に相応しいのは、その薄情を糾弾する灼熱の業火だろう。鮮やかな熱と痛みと喪失の恐怖とやらに、常に僕を覆っている不可視の隔たりを超えて、触れてきて欲しかった。僕は、恋に恋する乙女のように、この業火をこそ待ち焦がれていたのさ。
 なるほど、やっとわかったよ。
 人は、痛い時、失う時、とり返しようが無いと悟る時、このような感覚を味わうのか。このような心地がするのか。
 これが、絶望の味か。
 水蛭子が泣いた理由をやっと理解しながら、けれど僕は水蛭子とは違うので、瞼が炭化した眼窩から溶けかけの眼球が零れるのを感じながらも、微笑んでみせた。唇もやはり焼け爛れていたが歯はまだ健在なので、歪ながらもきっと、笑顔に見えたと思う。
 僕のお気に入りの『彼』が語る美しい『物語』の中では、悪役はこのように滅びるのが美学のはずだったので、ちょっと頑張った。
「ふふふ☆ それでは、皆、ごきげんよう!」
 炭化した舌や喉の代わりに畏れで空気を震わせることで最後までちゃんと発音して、今にもぽっきり折れそうな首を指が欠けちゃった両手で支えながら可愛らしく(というよりは不気味に)小首を傾げてみせて、それで、天才陰陽師御門院有行は、おしまい。
 世に類無き半妖の大妖怪鵺の伝説も、面々と綴られてきた闇の歴史も、屍の山を築き上げる程の悲願も、おしまい。



 


「……おしまいのはずだったのに、とか思ってらっしゃるんでしょう?」
「ダメダメ。そんなのは、ダメですよ。『物語』ってのは、読み手の欲を満たすまで続編を紡いでやらないと。アタシは語り手の欲から生まれましたから、読み手の欲には敏感なんですよ。だから、あなたはまだ終わってはダメです」
「ま、とはいっても、その有様ではさしたることも出来ませんからね。読み手に忘れられぬ程度にちょっかいなぞかけつつ、新たなる幕開けまでは、ゆるりと休んで、力を蓄えるとしましょうよ。ちょうどよく狐の呪いも解けたおかげで、奴良家の三代目は、今宵、華燭の典。花開院の当主も、近々婿をもらうそうです。だから、そのうち、盤上に、新たなる登場人物が出揃いますよ」
「ていうか、自業自得ですって。アタシが唆したとはいえ、肉体が滅びる危機には自動で魂を蝶と化して逃がす、というのはあなたご自身がかけた術ですからね」
「ああ、唆しておいてよかった。魅力的な悪役がいないと、『物語』はつまらなくなっちゃいますからねぇ。晴明殿が戦いの途中から存在を忘れていてくれたおかげで、魔王の小槌も回収できましたし、雄呂血殿の蟲の最後の1匹も、心結心結殿の形代も、ちゃーんと拾っておきましたから、あなたが御復活の暁には、これらを有効活躍してください。……ね、有行殿?」

 顔の半分を包帯で覆い隠したまま、『彼』は嗤う。
 泥濘のように濁った瞳で、けれど楽しくて楽しくて仕方が無い様子で、嗤う。
 嗤う『彼』の見つめる先で、蝶が飛んでいる。

 
 若き魑魅魍魎の主も、破軍使いの花開院新当主も、奥里で微睡む闇の母も知らぬ間に、『物語』は、新しい章に向けて準備を進めていた。

 憂い無く晴れた青い空の下で、蝶が1匹、風に遊んでいる。

<了>


〈後書き〉
 要するに、玉章の成長とか、獺祭が玉章に助力した意味とか、畏れシステムの醍醐味とか、花開院助っ人の活躍とか、単行本加筆された水蛭子への有行の反応とか、有行と園潮の交流の意味とか、魔王の小槌の存在意義とか、そういうのを伏線としてですね……いやいや、これ以上野暮は申しますまい。


 
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