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にゃんぷらす(後編)

 ぬらりひょんの孫 リクつらハロウィン話。

 誕生日とかホワイトディとかで続き物になっている残念なリクオ様シリーズで、猫耳ハロウィン話です。めちゃくちゃ遅刻していますが…
 前に猫耳ネタをやったのですが、己の猫耳萌えが昇華しきれなかったので、もう一度つららに猫耳を付けてみることにしました。


 そもそも、危ないなとは思っていたのです。
 ただ、それでも、まだ朝にもならない深夜に仕掛けてこられるとは、私の予想外でございました。
 何の話かって?
 ハロウィンの話にございます。
 ご存知ですか、ハロウィンなる異国の祭を。
 バレンタインディをすっかりチョコレート祭と化し、ホワイトディなる派生の祭まで作りだす商魂逞しい日本人は、本義としては収穫への感謝と太陽崇拝と鎮魂の習俗から生じのであろうハロウィンを、カボチャとお菓子と仮装の祭として大々的に宣伝し、その甲斐あって、近年、祭は認知されつつあります。
 奴良屋敷では、リクオ様がお生まれになってまもなく、この祭の存在を知った鯉伴様が導入なさったので、もう10年以上も祝っておりますね。
 ですから、「とりっくおあとりーと」なる言葉の意味は、私とて存じておりましたよ。お菓子を用意せねばならないことも承知しておりましたとも。
 カボチャを使ったお菓子を10月31日の夕食のデザートに出すのが、奴良家の慣習でございます(この場合、乾杯の1杯はいつもと違ってワインです)。
 通常の食事の支度に加えてデザートの用意も必要なので、女衆それぞれがバラバラに自分用のお菓子を手作りすると台所が混雑してしまいます。だから、小妖怪たちに強請られた時用のお菓子は、女衆共同で大袋を数種買って可愛い袋に小分けにして詰め直した代物です。
 ですが、私は、甘い物がお好きなリクオ様に特別のお菓子を渡したくて、毎年、若菜様の許可を得て、リクオ様専用のお菓子を作っておりました。
 今年のお菓子は、パンプキンパフェ。パフェに使用するカボチャとチョコのアイスも、トッピングに使うカボチャクッキーも、10月30日の夜の時点で、用意は出来ておりました。後は、明日、グラスにアイスとチョコとクッキーを詰めてホイップした生クリームで飾れば、出来上がりです。
 このお菓子ならば、この所イベントになると暴走してイロイロとオイタが過ぎるリクオ様がもし何か仕掛けてきても、防げるはずでした。何せ、パフェという完成品になる前の段階でも、アイスやクッキーを渡してしまうことが出来ますから。そうすれば、リクオ様の『イタズラ』を阻止することが出来るに違いない。
 私のその考えは間違っていなかったと思うのですが、些か、浅かったようです。
 私がお育てした可愛い可愛い我らが若君は、天下御免のイタズラ小僧を経て、今や、天下逸品の悪の総大将に成長なさったことを、失念しておりました……





 ここ数日寝不足が続いていたので、明日のお菓子の準備も終わったことだし、私は早々に寝床に入りました。
 今日も1日働いた身体は睡眠を欲していたらしく、横になって目を閉じると、すぐに眠くなってきます。
 こみ上げてきた眠気に身を任せ意識が消えそうになった時、何やら違和感が走りました。
 ごそごそ。
 戸が開く音はしなかったのですが、布団の隅で、何かが動いている気配がします。
 猫でも迷い込んできたのかしら? それともお涼ちゃん?
「んにゃ?」
 私が、眠りに引き込まれそうになる意識を連れ戻して目を擦ったのと、力強い腕に抱きこまれたのは、同時でした。堅い胸板、熱い体温、香り、全てよく知った感触です。目を開けるまでもなく、私に気づかせずに部屋に忍び込み布団の中にまで潜り込んできた不届き者の正体は、明白でした。
「……何をなさっているんですか、リクオ様?」
「決まってんだろ。夜這いだ、夜這い。旧家の跡取り息子としては、古き良き日本の習俗は実践せんとな」
 耳触りのいい低い声でしれっと言い放った困ったお方は、案の定、我が主にして想い人であるリクオ様でした。吸いこまれそうになる鮮やかな紅の瞳に、妖しい光を湛えていらっしゃいます。
 滴る色気に少しくらっとしましたが、明日も平日なので、ここで流されるわけにはまいりません。私は、力強い腕から逃れるべくもがきました。
「夜這いならば、女には拒否権がありますね。拒否します!」
「つれねぇこと言うなよ、つらら。オレが嫌いか…?」
 リクオ様は、少女めいた顔立ちの昼のお姿であられても、私を片腕に抱えて大立ち回りが出来るほど力持ちなお方。ましてや、体格の優れた夜のお姿なのですから、非力な雪女が抗った所で抜け出せるはずがありません。私がもがけばもがくほど、リクオ様は深く抱きこんできます。
 それに、切なげに目を細めてそんなふうに言われてしまっては、胸がきゅんと疼いて突っぱねる手から力が抜けそうになります………でも。
「もうその手には乗りませんよっ! 昨日も、一昨日も、その前も、3夜続けて共寝したから、私は寝不足なんです! 今夜こそは、1人でぐっすり寝ます!」
 そう、これが1週間ぶりの夜伽であったならば、私は流されてしまっていたことでしょう。ですが、今夜も陥落してしまっては、4夜連続になります。さすがに仕事に支障をきたしそうですし、護衛中に交代で眠ることが出来る私と違って、明日も授業を受けなければならないリクオ様の睡眠不足も心配ですし。
 ここは、大人しく早寝するのが、正しいはずなのです。
 だから私は、腕にぐっと力を入れてリクオ様から離れようとしました。
「家事やらシマの管理やら護衛やらで忙しいってのに、お前の都合を慮ってやらんで悪かった。反省してる。けど、オレも一人寝は寂しいぜ。なぁ、何もしねぇから、一緒に寝かせてくれよ」
「嫌です! リクオ様の『何もしない』なんて全然信じられません!」
 リクオ様は、今時の若者にしては根性のある方なので、ちょっとやそっと抵抗したぐらいでは諦めてくれず、懐柔しようと言葉を重ねてこられます。
 けれど、騙され易い私でも、『何もしない』は何度も聞き過ぎたので、さすがにもう、信用は出来ませんよ!
 この言葉に絆されてしまったら、抱き締められて、服の上から身体を撫で回されてしまうんです。それで私が抗議しても、「ヤらねぇから、ちょっとだけ触らせてくれよ」とか言って耳たぶを噛まれたり口吸いされてしまいます。そちらに気を取られた隙に服の下に手が潜り込み、とろとろに溶かされてしまって、最終的には、力が入らなくなってくったりしている私に、「挿れてもいいよな?」などとおっしゃるのは、もう知っているんですからね!
 本当に、困った方。
「じゃあ、トリッ……」
「とりっくおあとりーとですリクオ様っ!」
 リクオ様の唇から例の言葉が紡がれてしまう前に、私は早口で言い切りました。
 あ、危なかった……。
 昼間、巻さんが部室に置いていた少女マンガ雑誌を読んでおいて、よかったです。その雑誌に、この台詞を言われてお菓子を渡せなかった女の子が、恋人にいかがわしいことをされてしまう漫画があったので、警戒出来ました。ありがとう、巻さん!
 リクオ様は、きっと、私が拒む所まで見越して計画を練って夜這いに訪れたのでしょう。夜の寝床の中ならばお菓子を取り出せずイタズラされるしかなくなるだろう、と考えて。
 でも、今宵のつららは機転が効きましたよ、リクオ様!
 私が先に言いましたから、リクオ様が私にお菓子を渡せないなら帰ってもらうことができるでしょう。そして、女の寝所に忍んできたリクオ様が、お菓子を持っているはずがないのです。
 もう、そう易々と、リクオ様の思い通りにはさせませんからね!
「じゃ、コレをやる」
 珍しくリクオ様の悪巧みを阻止できた私が内心得意になっていると、予想外の台詞が返ってきました。
「え?」
「チョコレートボンボンだ。お前、好きだろ」
 祢々切丸やら大盃やらが出てくる収納力溢れる懐から今宵リクオ様が取り出したのは、黒猫がプリントされた可愛らしい袋に入ったチョコレートでした。 
「まぁ……ありがとうございます」
 少し驚きながらも、行事の際の決まり文句とはいえ主にお菓子をねだったのは私なので、受け取りました。
 冗談というか牽制のつもりで先に口にしただけなので、なんだか申し訳なくなってしまいました。リクオ様は、夜這いとは口ばかりで、明日の宴では2人きりになれないから、先に2人きりで行事を楽しもうと思って訪ねてくださったのかもしれません……邪推してゴメンなさい、リクオ様。
「食えよ、つらら」
「……では、夜も遅いし1つだけ」
 布団の上でお菓子を食べるのはどうかと思いましたが、チョコだから食べかすが散らばったりしませんし、リクオ様のお気持ちを無碍にしたくないので、もそもそと布団の上に座った私は、チョコレートボンボンを口に入れました。
 口の中に入れて噛むと、中から甘くて薫り高いお酒(洋酒に詳しくないので名前はわかりませんが)が溢れてきます。
 さすがリクオ様、お菓子の趣味もよろしいんですね。美味しいです。
「つらら、うまいか?」
 こくこく。
 口に物を入れたまましゃべるわけにはいかないので、頭を振って頷きます。
「なら、もう1個食え。ほら、あーん☆」
 1つきりのつもりでしたが、チョコレートボンボンは美味しかったですし、包み紙を剥いてあーんまでされてしまったので断り切れず、結局、袋に入っていた3つ全部食べてしまいました。
 う~ん、甘党の私でもちょっと口の中が甘過ぎますね。寝る前に、もう1回歯磨きしなくちゃ。
「……ところでつらら、身体がむずむずしたりしないか?」
「言われてみれば……チョコレートボンボンの中のお酒、甘くて美味しいお酒でしたけれど、もしかして、度数がすごく高かったのでしょうか?」
「度数は知らんが、このチョコレートボンボンは、オレが良太猫に命じて作らせた特注品でな」
「ふにゃっ!?」
 私は、弾かれたように布団から飛びのきました。
 だって、『良太猫特製の』と言うからには、私が食べてしまったチョコレートボンボンは、猫化させる成分が入っているはずですもんっ!
 慌てる私とは対照的に、リクオ様は、頬杖を突きながら、ニヤニヤ笑ってこちらを見ています。
 我が主であり、僭越ながらもお育て申し上げた可愛い若君であり、愛しい殿方ではありますが、なんて方なのっ!?
 『良太猫特製の』飴で大変なことになったホワイトディ猫々事件から半年、猫に変わってしまって苦労なさったから反省してくださったとばかり思っていたのに、虎視眈々と機会をうかがってたんですか、リクオ様っ!? 
「にゃにゃんっ!」、
 私は、この困った方を叱らなくてはと思って、声を荒げて名前を呼……べません。
 えっ!? ど、どういうこと!?
 目眩がしそうになりながらも頭を探ってみると……ああ、生えてます猫耳。耳毛がふさふさでふわふわです。お尻もやけにもぞもぞする上に毛の感触がするので、これは、しっぽが生えているんだと思います。
 ホワイトディの時、私は、猫耳としっぽが生えるだけでリクオ様みたいに完全猫化はしなかったのですが、今回は3つも食べちゃったから、完全猫化コースなのかしら? 手に肉球とか出来ちゃうのかしら? 
「完全に猫になったりしねぇから、そこは安心しとけ」
「にゃあう?」
「良太猫は、あれから、せっかく開発したんだから製品化出来るレベルまで持って行こうとして、改良したんだそうだ。今回のは、完成品。猫耳・しっぽ・猫語が丸1日続くが、髭も肉球も生えてこねぇそうだ」
 ……それ、『改良』なのですか?
 とりあえず、良太猫は次に顔を見たら氷漬けにするとして、今対処すべき問題は、私に猫耳としっぽを付けて猫語しかしゃべれなくしただけで満足はなさらないだろうリクオ様の魔の手を、どうやって逃れるかということです。
 この部屋の出入り口は、縁側に通じる障子戸と廊下に通じている襖。隣室に通じている襖もありますが、隣室は物置き状態なので、夜目が効く妖怪でも、駆け込んだら何かにぶつかって、その隙にリクオ様に捕まってしまうと思うから、これは使用不可。
 配置は、大雑把に言うと、縁側・障子・わたし・リクオ様(布団の上)・襖・廊下、という感じです。なので、私は、じりじりと後ずさって唐突に立ち上がり障子に手を伸ばしたのですが。
「逃がすと思ってんのか?」
 突如前方に現れたリクオ様に、伸ばした手を掴まれてしまいました。移動の動きが見えなかったので、これは、鏡花水月を使ったのだと思います……畏れの無駄遣いにも程がありますよ。
「つらら、可愛いぞ。すごく」
「にゃっ」
 腕を引かれて、抱き寄せられました。強引だけれど、ちっとも乱暴ではない仕草で。 
「たくさん啼けよ、つらら…」
「みゃあっ!」
 雪女の耳より感覚が鋭い猫耳に息を吹き込まれたので、私は大きく反応してしまいました。しっぽの毛がピンと立ちます。その上、三夜も続けて丹念に愛でられて敏感になっているせいで、こそばゆいだけではなく、お尻から首筋まで撫で上げられたような官能的な感覚がこみ上げてきました。
「にゃっ!にゃん!」
 私は、リクオ様の腕から逃れようと精一杯もがいたのですが、体格差が大きい上に腕を抱き込む形で抱えられているので、どうにもなりません。
 前髪でも凍らせてその隙に逃げ出して毛倡妓の部屋にでも逃げ込もうかと考えたのですが、猫要素がプラスされたせいで畏れの調節が難しくなっているので、畏れを使った場合、加減出来ずに全身氷漬けにしてしまいそうです。
 全身氷漬けにしてしまったら、妖怪のお姿とは言え風邪が心配なので、解凍しなくてはなりません。私が自ら解凍したら、たぶん、不屈なリクオ様は全く怯まずに続きをなさることでしょう。
 氷漬けにして他者に解凍してもらうならば、リクオ様をお風呂場に運べる誰かに頼まねばなりませんが、猫語で話しかけるのは躊躇います。
 だからもがくことしか出来ないのですが、その程度の抵抗でリクオ様が止まってくださるわけもなくて。
 かぷ。
「ふみゃっ!?」
 猫耳を甘噛みされて、私は仰け反りました。リ、リクオ様、それはダメです……
 かぷ。かぷ。かぷ。
「にゃぁあんっ!」
 敏感な猫耳を責められてしまっては、為す術がありません。背筋にゾクゾクと甘い痺れが走って、おしりがもぞもぞするから、止めてくださいよー! くたくたと力が抜けていって、抵抗どころか、リクオ様の寝間着を掴まないと立っていられなくなっちゃいます!
 なのに、リクオ様は容赦してくださらずに、私の寝間着の帯を解いてしっぽを握ってきました。しっぽも敏感な器官なので、痛くない力加減でつけ根近くを緩急つけて握られると、口に出しては言えない場所が疼いて困ります…
 ああっ、絶体絶命!
「つらら、トリックオアトリート」
「……ふみゅ?」
 ふいに手の動きが止んだので、頭の中が少し蕩けてしまった私はリクオ様を見上げました。もしかして、イタズラはここまでで勘弁してくれるのでしょうか?
 などと、一瞬でも期待した私は、さっき食べたチョコレートボンボンよりも甘かったらしく。
「おやおや、つらら猫はオレに菓子をくれねぇんだな? なら、イタズラされても仕方ねぇよな!」
「にゃんっ!?」
  
 こうして、憐れなつらら猫は、悪辣非道な主に朝までにゃんにゃん啼かされてしまったのでした。

 




 というわけで、朝からつららはご機嫌斜めだが、ボクの心は秋晴れの空よりも晴れやかだった。
 だって、猫つららがすごく可愛いんだもん!
 目が覚めたら、この腕の中で、白い猫耳(良太猫に色指定した)と白いしっぽが愛らしい恋人が、ふみゅふみゅ寝言言ってるんだよ! しかも全裸(終わった後服を着せなかったから)!
 思春期の少年的には素晴らし過ぎるだろ!?
 思わず力一杯抱きしめたら嫌がられたけど、箍が外れたボクは全然気にならなかった。
 それで、着物だとしっぽがもぞもぞして困るだろうから、と言って、用意しておいたメイド服(昨夜忍び込んだ時に持ち込んで部屋の隅に置いておいた)と、海外の下着サイト(黒田坊が教えてくれた)で購入したしっぽがあっても大丈夫なパンツ(詳細はご想像にお任せします)を着せようとしたら、これまたすごく嫌がられたけど、「着ないなら押し倒してもう1回戦するよ?」と言ったら、眉間に皺を寄せて顔を顰めてしぶしぶながらも、着てくれたんだ! やったぁ!
 前々から思っていたんだけど、ボク、つららがいつもと違う恰好をしてると、すごくドキドキするんだよね。
 旧校舎の事件から数日は、セーラー服のつららを見るとドキドキしてたし(鈍感でお子様だったボクは、そのドキドキを、つららが何かやらかすんじゃないかというヒヤヒヤだと勘違いしてたけど)、セーラー服に慣れた頃に起こった枕返しのイメチェン騒動では、つららだと気づかないながらも可愛さに魅了されてたし、裸エプロンも白バニー服も最高に滾った。
 だから、メイド服を着せてみたかったんだよね~。
 案の定、よく似合うし!
 ボクがつららに着せたメイド服は、正統派なロングのメイド服ではなく、機能性を減らしてでもレースとフリルと萌えを足したタイプだった。襟と襟元のリボンとカフスが白くなっている黒の長袖パフスリーブワンピースで、スカートは膝丈。スカートの中にパニエを装着するから、ふりふりのひらひらである。
 正統派も着せてみたいんだけど、今回は猫耳としっぽというオプションが付いているから、しっぽ装備でも困らない丈をチョイスした。
 といっても、この服装で屋敷内を歩くわけだから、肌見せ要素は無いよ。足元は白のハイソックスを履かせたから、露出度はセーラー服と同程度。セーラー服よりは身体の線がわかるけど、エロいというよりは可愛い衣装だと思う。
 だけどさぁ、好きな娘が目の前でふりふりのスカートを履いていたら、男として気になっちゃうんだよね。
 なので、つい、スカートを捲ろうとしちゃって。
「みゃっ!」
 怒ったつららに猫パンチかまされたけど、ボクは幸せです!





「………あの、なんだか本当にすいません。でも、出来れば、リクオ様のお友達でいてあげてください。無理にとは、申しませんが……」
「なんだよ首無、その言い方は? ボクに何か不満でもあるっていうのか? 夫婦円満が家庭の平和の秘訣。奴良組は1つの家族みたいなものなんだから、総大将であるボクが、嫁にもらう予定の女と仲良くしていて何が悪いって言うんだよ?」
「にゃんっ!にゃにゃんっ!」
 門を潜って玄関にたどり着く前に、猫耳しっぽでメイド服なつららとどうしようもなくネジが外れてしまっているリクオに遭遇した清十字団は、驚きで思考停止したままリクオの部屋に通され、首無に頭を下げられてしまっていた。
 だが、もがいて逃げようとするつららを腕の中に捕まえているリクオは、つららにぺちぺち叩かれても、己の何が悪いのさっぱりわからない様子で、首を傾げている。
 夜の姿で戦う様子を目にしたことがある清十字団は、穏やかで誰とも争ったりせず皆の頼みを引きうけてくれる学校での『良い奴』っぷりは、全くの嘘ではないにしてもリクオの一面でしかないのだともう知っていた。リクオは、意思の強い男なのだ。
 だが、その意思の強さが『ワガママ』に変換されて、ここまで困った形で発動するとは、予想もしていなかった。
 確かに、リクオとつららは、つきあっていなかった時期からイチャイチャしていたし、つきあってからはもっと公然とイチャついている。その上、昼姿であっても、言動は、『つららは自分のものである』ことを前提にしていて何気に俺様感が漂っているし、夜姿だと俺様以外の何者でもない。
 けれども、これまでは、もうちょっとぐらいは、清十字団の目を気にしてくれたはずなのだ。つららが嫌がっているのに猫耳に頬っぺたすりすりしてうっとりしたり、うわ言のように「つらら可愛いよ」と囁き続けたりは、しないはずだった。
 だからフリーズしていたのだが、もう諦めなければならないことは理解していてもまだ恋心をふっきれない島が、一早く復活して抗議を始めた。
「止めろよ、リクオ! 及川さん、嫌がってるだろ!」
 その声ではっと我に返った女子たちも、手を伸ばして助けを求めるつららをこのままにはしておけない、と声を上げる。
「そうだよ! リクオ君、ちょっとやり過ぎだよ!」
「奴良、いい加減にしなよ!」
「つららちゃんの気持ちも考えてあげなよ!」
 主ラブフィルターで「仲良きことは美しき哉」などと言って流してしまった清継以外の面々が声を上げたが、一癖も二癖もある百鬼を束ねている男が、この程度で怯むはずもない。
 ……はずなのだが。
「えっ!? つらら、ボクのこと嫌いになっちゃったの…?」
 リクオは、急に手を離し、力が抜けた様子で俯いて、哀しげな声を出した。
 ついさっきまでリクオから逃れようともがいていたつららは、だがしかし、リクオの哀しげな声にオロオロして逃げられなくなってしまう。つららは、リクオの腕から逃れた瞬間には距離を取ったのに、心配げに耳を伏せてそろそろと近づいてきた。
「みゃ、みゃう」
 つららは、落ち込んだ様子のリクオの前で必死に首を振るが、リクオは顔を上げてくれない。
「もういいよ。つらら、無理させて悪かったね…」
「みゃう!」
 つららは、今、猫語しかしゃべれない。それでも筆談は可能なはずなのだが、動揺したつららの頭にそんな手段は浮かばなかったらしく、リクオを慰めようとして、うなだれる頭を自分の胸に抱え込んでそっと背を撫でてしまう。
「……つらら、ボクのこと好き?」
「にゃんっ!」
 リクオの問いかけに力強く頷いたつららは、次の瞬間、強い力で抱きしめられた。
「だよね!」
 明るい声に驚いたつららが視線を落とすと、リクオが満面の笑みを浮かべているわけで。
「じゃあ、止めなくていいよね!」
「ふみゃっ!?」
 そして、リクオとつららはまた同じ体勢になった。

「朝から、何度も同じような感じで繰り返しているので、我々も介入する気力がもう沸いてきませんで」
「……なるほど」





「にゃあ……」
 なんとかお風呂には入ったものの、髪を拭いたり布団を敷いたりする気力も尽きた私は、足を崩して座り込んで天井を見上げて、ため息を漏らしました。
 リクオ様は時々ワガママをおっしゃいますし、いつもはワガママを言ってもらえたらむしろ嬉しかったりするのですが、今日はさすがに困りました。
 だって、誰が見ていても全然離してくださらないし、皆に見えないようにしつつも際どい所を触ったりなさるから、気が休まる時が無かったんですもの。
 リクオ様が仮装の衣装に着替える隙に若菜様を頼りにして台所に駆け込んでも、明鏡止水で忍び込んできて、畏れを発動しているから見えないとはいえ皆がいる場所で、いっぱい口吸いされちゃいましたし。
 その後、仮装した清十字団も参加した宴の間もずっと膝の上に乗せられて撫でられてしまったのですが、その時、皆が、こっちを見ないように気を遣ってくれているのがわかって、とても気まずかったです。
 この悪の総大将から逃れるには眠らせるしかないと思って、いつもよりハイペースでお酌をしたら、ここ数日の寝不足もあったわけだし何とか眠ってくれたので、やっと、可愛いけど皆にじろじろ見られて恥ずかしかったメイド服を脱ぐことが出来ました。
 まだ猫耳しっぽ猫語のままですが、さっき良太猫にメールして尋ねたところ、効き目は24時間だそうなので、明日の朝には戻っていることでしょう(もし戻らなかったら、良太猫を氷漬けにしに行きます)。
 さぁ、つらら、後一息だから頑張って! 髪を拭いて、お布団を敷いて、今夜こそぐっすり眠りましょう!
 と、己に気合を入れて座り直したら、目の前に見慣れた秀麗なお顔がありました。
「ふにゃっ!?」
「おいおい。油断し過ぎだぜ、つらら」
 なんてことでしょう! 宴席で眠り出して青に担がれて自室に帰ったはずのリクオ様が、狼の仮装をしたまま、またしても明鏡止水を使って私の部屋に忍び込んでこられるなんて!
 昨夜どころか朝方まで寝かせてもらえなかったから、さすがに今夜は無理ですよリクオ様!
 私は、リクオ様を氷漬けにする覚悟を決めて息を吸い込んだのですが。
「つらら、日曜には映画行こうな」
 と言って、リクオ様が、私が観たいと思っていた映画のチケットを差し出したので、氷漬けにするタイミングを逃してしまいました。
「みゃう?」
「今日、つぅか、昨夜からオレにつきあわせちまって、すまんかったな。お前があんまり可愛いんで、つい、箍が外れちまった。日曜は、オレがお前に合わせる。だから、愛想つかしたりしねぇでくれな?」 
 ……映画は、原作が少女マンガの実写版なので、リクオ様は興味が無いでしょうから、上映期間中に非番と週末が重なることがあれば漫画を貸してくれた巻さんたちを誘ってみて、ダメだったらDVDになった時に観ようかと思っていました。
 リクオ様を私の都合で振り回すなんて側近頭としてあるまじきことですし、監督もキャストも前評判もいいので是非観たいけれど特に劇場視聴にこだわりがあるわけではないので、DVDを借りることになっても、不満は何も無かったはずです。
 だけど、今、私は嬉しいです。すごく、嬉しいです。
 リクオ様の貴重なお時間を奪って私につきあわせてしまうなんて申し訳ないはずなのに、リクオ様が私の気持ちを慮ろうとしてくださったことが、そのお心が、嬉しくて仕方が無いのです。
 リクオ様は、奴良組の総大将。リクオ様がいてくださらないと、百鬼は道を見失って惑ってしまいます。
 だから、私はリクオ様だけのものですが、リクオ様は私だけのものにはなりません。この先何百年添うたとしても、決して。
 そのことに不満などありはしません。ですが、ほんの時々、僅かな時間でいいので、独り占め出来たような気にさせて欲しいとは思います。故に、こんなふうに気遣われて私の気持ちに歩み寄っていただけると、申し訳無さよりも嬉しさが優って、胸が苦しくなってしまいます。
 ……やっぱり、どんなに困らせられても大好きです、リクオ様。
 私は、チケットを受け取り、リクオ様の肩に額をくっつけました。
 リクオ様に伝わる言葉がしゃべれないのが、お礼を、喜びを伝える言葉を発せられないのが悔しくて、もどかしくて、広い肩にすりすりします。
「…映画、行こうな?」
「みゃあ」
 すりすり。
「つらら、好きだぜ」
「みゃあ」
 すりすり。
「だから、いいよな?」
「みゃあ」
 すりす……え?
「トリック・オア・トリート!」
「ふみゃっ!?」
 台詞が不穏であったことに気づくより早く、私は押し倒されました。まだ少し濡れている髪が、畳の上に散らばります。
「にゃにゃんっ!?」
「さっき言ったじゃねぇか、『油断し過ぎ』って。オレがなんで仮装も解かずに来たか、ちゃんと考えろよ」
 仮装?
 リクオ様は、上はラフに着崩した白いシャツに、初代がお若い頃使ってらしたという襟巻をひっかけて、下は革のパンツ。そこに獣耳としっぽをつけ、首輪をして、狼男の仮装だとおっしゃっていました。
 ……『狼』ってことは、もしや。
「映画の話も、その日はお前に合わせるつもりなのも、本当だぜ。けどな、ハロウィンの夜はまだ終わってねぇんだよ、子猫ちゃん?」 
 不穏に微笑むリクオ様の意図なんて、尋ねるまでもなく明らかなわけで。
「オレの仮装は、『ただの狼男』の仮装じゃねぇんだ。『悪い狼男』の仮装なんだよ!」
 身を捩って四つん這いになって逃げ出そうとしたら、背中に覆い被さってこられて。
 

   
 
 
 ハロウィンの夜に仮装する理由は、ご存知ですか?
 それは、霊界との門が開く夜だからこそ、悪い魔物が現れて襲ってくるからです。
 悪い魔物に獲物だとバレないように魔物の仲間のふりをして紛れてしまおう、というのが、仮装の本来の意味なのです。
 なのに、妖怪のくせして、現代日本のミーハーな考え方にどっぷり浸かっていた私は、本義をすっかり忘れ果て、猫耳までつけたというのに、悪い狼に対する警戒を怠って、心行くまで食べられてしまいました。
 ああ、腰と膝が痛い……。
 でも、このままやられっぱなしになったりはしませんからね! 猫だって、狼に噛みつくことぐらいは出来るはずなんですから!
 日曜日は、中学生男子が居たたまれなくなるようなお店に連れて行って、恥ずかしい思いをしてもらいますからね、リクオ様!


 
 
 とある屋敷の一室ににゃんにゃん啼き声が響く夜に迂闊な猫がたくらんだイタズラが成功するかどうかは、ジャックオランタンにもわからぬことでございます。
 

【おしまい】
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